第46話 きっかけ
文化祭に向けた準備は着々と進行していた。クラスだけでなく、学園全体が活気づいてきた。文化祭一週間前にもなると学校の授業がストップし、準備期間にあてられる。
その間は授業が完全にストップする。
なのでその分、授業の進行スピードがアップするのだ。一週間分の穴を埋めなければならない。それなのに文化祭後の四週の土日は補習がある。
とはいえ、この学園はそれなりに偏差値が高いところなので勉強に関しては割と熱心なやつが多い。例えば渚姉妹がそうだ。そういった人たちはこれは当然のことと捉えている。
そもそもなぜ、準備期間が一週間もあるのかというと、この学園の文化祭は高校生が行うものとしてはかなり大規模なものとなっている。テレビも毎年取材に来るし、それだけに中途半端なものは作れない。
学園としても、この文化祭を中途半端なものにするわけにはいかないのだ。
そして、俺たちのクラスはこの文化祭でオバケ屋敷を行う。南帆と恵のクラスはただの展示。上手くローテーションを組めば何とか俺たちの部の方もまわせそうだ。
俺? 俺はもちろん部の裏方にまわりますよ。フルタイムで。クラスの方に参加するのは不可能だし。外をまわろうとしたところで生徒がたくさんいるところでは怯えられるだけだし、そもそも俺の存在が画君のイメージダウンに繋がりそうだし。先生方からも遠まわしに「文化祭当日は休んでもいいんだよ?っ別に減点しないからいいんだよ?」みたいな事を言われた。
まあ、一学期はじめの時点でこんなことを言われていたら、文化祭当日は普通に休んで家に閉じこもってレッツパーリィ(※幼女系のギャルゲーをする)してただろう。
だが、今となってはそういうわけにもいかない。部活動の方に参加しなくちゃならない。
「と、いうわけで、次はコスプレコンテストに参加する人を決めたいと思います」
文化祭まで残り二週間というところで、文化祭の細かい打ち合わせのクラス会議の場。この場では、当日にある学校側が催す、複数あるイベントの参加者を決めることになっていた。各クラスからの何人か出るように募集されている。毎年、こんなギリギリに通達が来るらしい。生徒会や文化祭実行委員が忙しく、どうしてもこういう、「あとは参加者を募るだけ」といったイベントは後回しになるらしい。
クラス実行委員(要は文化祭におけるクラスのリーダー)である国沼がクラス全員にきこえるように言った。俺は窓際の席でぼーっとしていたので気が付けばかなり話が進んでいた。
「誰か、やってみたい人いる?」
国沼は人望があるやつだ。そんなやつの提案だからか、クラスも否定的な意見はあまり出ずに、むしろ「え~、やってみたいけどぉ~、こすぷれってどんなことするのぉ~? ちょっとはずかしぃ~。きゃはっ☆」みたいな意見が溢れていた。
そして案の定、そんな意見が飛び出た。
「は~い質問。コスプレって、どんな格好するの?」
手を挙げたのは国沼とよくつるんでいるグループの女子だった。こういった場ではこういうやつがいると重宝するよな。話が進みやすくて。名前はなんだっけ。そうだ、確か、榎智夏だ。
「えっと、例えばアニメキャラのものとか、そうでなくともドレスとかメイド服みたいなのもOKだそうだ」
国沼が手に持っていた用紙を読み上げる。
それをきいたクラスメイトたちがまたざわざわきゃいきゃいと楽しそうに相談タイムへと移る。
なんでもいいからさっさときめてくれ。誰が何やったっていいだろ別に。
渚姉妹の様子をなんとなく見てみる。姉が妹に執拗に何らかの衣装(断片的に聞こえてくる言葉から察するに水着)を勧めていた。
加奈を見てみる。後姿だけしか見えないものの、明らかに<コスプレ>という言葉に反応していた。絶対に瞳をキラキラと輝かせている。
男子の方はというと、このクラスの女子陣、主に加奈や渚姉妹をはじめとした美少女たちにコスプレして欲しい的な欲望をチラチラ垣間見せている。その欲望、解放しろとか言われてどこぞの怪人から額にメダルを入れられそうだ。
「渚姉妹のコスプレ……ゴクリ」
「メイド姿の美紗さんからご奉仕されたい……」
「メイド姿の美紗さんからご主人様って言われたい……」
「いやいや。ツンデレメイドの美羽さんも捨てがたい」
「そもそも美羽さんでデレるのか?」
「男にデレた美羽さんって見たことがないな」
「だがそれがいい!」
そんな汚い欲望解放せんでいい。しまっとけ、男子共。
「うーん。誰もいないかぁ」
しばらくしてから国沼がそう漏らした。やはりみんな、面白がって話し合うことは喜んでするが、実際に自分がコスプレをするという発想には到達しないらしい。
困ったようにクラスを見渡す国沼。さっきまでは割とスムーズに進行していたらしい会議に暗雲が立ち込めてきた。
「えっと……あー、それじゃ……み、美紗さん。委員長だし、クラスの代表ということでやってみない?」
「えっ……」
さっきの視線の流れで察しはついていたが、そこにいってしまったのか国沼よ。
美紗は困ったようにあたふたとしている。まあ、ただの文化祭のコスプレコンテストならまだしも、この学園の規模のコンテストじゃな……客もかなりの人数が集まるだろうし、恥ずかしがり屋の美紗にはちょっとハードルが高すぎるだろう。
というより、国沼みたに察しのいい、気配りが出来るやつならそんなことぐらいは分かるはずだが。国沼はすぐにはっとした顔となり、自分の悪手にすぐに気付いた。思いのほかに意見が纏まらなくて焦ったのだろうか。
「あ、あの……えと……」
「国沼くん。美紗は当日は部活動の方もありますし、予定的に無理かもしれません。それに、コンテストの後にはペアスタンプラリーもありますし」
戸惑っている美紗を見かねて、美羽がやんわりと断りを入れる。美羽も本気で美紗にコンテストに出てほしかったわけではないのだ。そんなことをすれば美紗が困るのはわかりきっている。美紗の精神的にも大変だということは姉としてちゃんと理解している。ただ美羽は、美紗の水着姿が見たいだけなのだ。美紗の水着姿を独占して撮影して自分だけのものにしたいだけなのだ。そして美紗にペアスタンプラリーの予定があるということはあのBBA、男女のペアという条件をガン無視して自分が美紗と出るつもりなのである。
ちなみにペアスタンプラリーとは、男女合同参加のイベントである。男女一人ずつペアになって、学園の中にあるチェックポイントを二人でまわるだけの……まあ、テレビ向けパフォーマンスの、カップル用のイベントだ。テレビでは仲睦まじい男女のペアが毎年、テレビで放送されている。ただ、基本的にイベントのかけもちはできない(多くの生徒が積極的に参加して欲しいということらしい)のでコンテストに出るとペアスタンプラリーの方には出れなくなる。ちなみにこのペアスタンプラリー、必ずクラスから一組は出さなくてはならない。カップルである必要はないので、何クラスかは毎年、カップルではない男女生徒も出場している。
「あ、そ、そうだね。ごめん。じゃあ、コスプレの方には誰も出ないみたいだから、俺が出るよ」
国沼が苦笑ぎみにそう言うと、クラスの女子たちがざわざわと焦り始めた。どうやら国沼と一緒にペアスタンプラリーに出ようと狙っていたBBAは俺が思っていた以上に多かったらしい。
このままだと国沼と組めなくなると考えたBBA共は再びざわめき始めた。リア充は大変だなぁ(棒)
そんな、のんきなことを考えていられたのは、少しの間だけだった。
「だったらもう、美紗さんが出ればいいんじゃない?」
不意に、そのざわめきを切り裂くように放たれたその言葉。その言葉の主は、榎智夏のものだった。
それをきっかけに行程の声があちこちから上がり始める。
……まずいな。国沼もこうなるとは思わなかったのか、焦りの表情を見せる。
「いや、大丈夫だって。俺が出るから」
「国沼くんが無理して出る必要ないよ」
「そうそう」
「部の方だってずっと出るわけじゃなさそうだし、融通してもらえばいいよね」
残念ながら肯定の意見が多い。まあ確かに、美紗が断ることで自分たちにコンテストに出る役目がまわってきたりだとか、国沼と組めなくなるからだとか、そういった、自分に不利益なことになってしまうのでこのまま美紗にそれを押し付けてしまおうという流れだろう。俺も中学の頃はこんな経験があったなぁ……。誰も引き受けたがらないような係を押し付けられたりしたな……。
だが、これは美紗にとってはまずい。美紗はああいった――――大勢の人の前に出ることが得意ではない。だからこそ、それを克服するために委員長を引き受けたらしいのだが、さすがにコンテストみたいな、学園中だけでなく、大勢のお客さんの前に出るには及んでいない。
まだ完全に決定しているわけではないが……このままだと流されてしまう。当の美紗本人は縮こまってしまっているし、美羽と加奈は反論するも大勢の意見に押し流されてしまっている。
このままだと美紗に決定してしまう。そしてそれが、本人にとってどれだけ負担になるのか。本当は、文研部で行う喫茶店での接客業も……見知らぬ人に対する接客が美紗にとってもいっぱいっぱいなのに。
ああ、もう。仕方がない……。
俺は息を整えて、出来るだけ怖そうな表情をを心がける。そして、机を壊さないようにセーブしつつ、尚且つ、目の前の正人に被害が出ないようにしつつ――――机を蹴り飛ばす。
予想以上に派手な音が教室中に響き渡り、クラスが静まり返る。教室の誰もが、あの榎智夏すらも、今はそのお喋りな口を閉ざして、怯えた目で俺の方を見ていた。
加奈たちは何か言いたげだったが、みんなと同じようにして口を閉ざし、ただじっと俺を見つめていた。そんな空気の中で、俺は不機嫌そうに装って(実際に不機嫌だったのは否定しないが)、ただ一言。
「うっせぇな……」
最後に舌打ち。そしてクラスの中を一通り睨みつけるように眺めまわす。それだけでクラスの中の空気が一変した。会議をする雰囲気を完全にぶち壊した俺は鞄を引っ掴むと、立ち上がり、乱暴に扉を開けると教室を出て行った。
廊下を歩き、部室まで向かう途中。周囲に誰もいないことを確かめてから息を吐き出す。
緊張の糸が完全に切れた。
今までは、噂のおかげで周りの人間は勝手に俺を怖がってくれた。だから、ただ教室にいるだけで、クラスメイトたちは俺を<噂通りの黒野海斗>なんだなと、勝手に認識してくれていた。だが、こうやって<噂通りの黒野海斗>を演じてみたのは初めてだ。
だからなのかは知らないが、ただの一言ぐらいしか言葉を発することが出来なかったが、なんとか上手くいっただろうか。アフターケアの方は正人たちに任せよう。
とりあえず、あのまま会議がお流れになってくれればなんでもいい。雰囲気をぶち壊してしまえば、会議はまた後日、にでもなってくれるだろう。たぶん。仮に会議がまた再開しそうになっても、正人と葉山辺りが何とかしてくれるだろう。その辺の経過は後できいてみるか。
☆
俺こと篠原正人は今まで、いろんな人間と接してきた。だが、その中で自分を誤解されている噂通りの人物を演じて、周囲の人間に更なる誤解を広めてまでほかの女の子を助けるようなことをしたやつは、さっきのなんちゃってDQN以外にはいなかった。
まあ、本人にとっては静かに暮らせればそれでいいそうだし、噂をもっと煽ってくれとむしろ俺に頼むぐらいだし、噂通りの人物をたまに演じておけば喧嘩をふっかけてくるようなバカがいなくなって、静かな生活を手にすることが出来るみたいだから、あまりそっちの方は――――誤解が広まる件に関してはそんなに気にしてなさそうだが。
それはそうと……。
「丸投げかよ……」
「信用されてもらってるって考えればいいんじゃないかな?」
俺の溜息と同時に漏れた言葉に、葉山がこたえる。
信用されていると考えれば、まあ確かに悪くはない。だが、この空気の中で発言する人の身にもなってほしいというものだ。
海斗のやつが<突然不機嫌になってキレたDQN>を演じてくれたおかげで、さきほどまでの美紗さんに役を押し付ける流れから一転。
「……今の見た?」
「……うん。怖いよね」
「……教室じゃおとなしいと思ってたけど、やっぱり噂は本当だったんだよ」
「……空気ぐらい読んでほしいよね」
「……ほんとほんと。みんなで楽しんでいるのに雰囲気壊してさぁ」
みたいな流れになっている。話題の中心は完全にあいつのものとなっており、さっきまでの会議の流れよりも大きな衝撃のある話題へとシフトする。
俺は時計を見る。時間的にはもうすぐ授業が終わる。会議が終わり次第、解散してもいいとのことだし、仕掛けるなら今でもいいだろう。
俺と葉山は立ち上がる。みんなの視線も俺たちに集中する。
「ま、今日のところはとりあえず解散ってことにしね? イベント関連の参加についてはだいたい決まったし、みんなも文化祭の部活動の方で出す模擬店とかの準備とかもあるだろ?」
「今日の会議結果は僕の方から文化祭実行委員の方に伝えておくし、まだ猶予もあるしね。残りは明日に決めよう。国沼くん。それでもいいかな?」
「あ、ああ……。うん。そうだな。残りは明日にしよう。それじゃ、今日はみんなお疲れ様」
国沼の言葉が決定的となり、クラスメイトたちはぞろぞろと解散していく。俺は鞄を持って、加奈さんの方へと向かう。
「それじゃ、あとはよろしく」
「ええ。ありがとうございました」
すれ違いざまの一瞬の会話。そしてその次は、生徒会の仲間である国沼の方へと向かう。
「お前らしくねーな。どうした? お前なら、もう少し上手く事を運べると思ったんだけど」
俺が言っているのは、引っ込み思案な子に大勢の前で衣装を披露するというようなことを勧めることなく、役決めをできるという意味でだ。まあ、この件に関しては国沼を責めても仕方がないし、責めるつもりもない。誰にだってできることとできないことがあるし、国沼だって意図してやったわけじゃない。
「ああ……うん。そうだな。ちょっと、誘惑に負けた、ってところかな。本当に、黒野と美紗さんには悪いことをしたよ。あとで謝っておく」
「いや、まあ、お前だってあんな流れにしたくてそうしたわけじゃないしな。謝られても困るだけだぞ。ただ、姉の方は間違いなく怒るとだけ言っておこう」
「貴重な情報、感謝するよ」
国沼が珍しく落ち込んでいる。
「そうだな。お前のミスを挙げるとすれば、あそこで自分がコンテストに出るなんて言ってしまったことだな」
そうなったら少なくとも、あそこまでの被害にはならなかった。こいつはもう少し、自分がモテるという事実を自覚した方がいい。
「……そうだな。本当に」
前言撤回。こいつ自覚してやがった。
だからこそちょっとおかしい。それを自覚していて、なぜあそこで自分がコンテストに出るなんて言ってしまったのか。そんなことを言い出せば、他の女子が焦りだしたりめんどくさがったりしてああいう展開になることは読めたのに。いや、そもそも最初に美紗さんに勧めたのが間違いだ。
もう少し、ほかに適任がいたはずだ。加奈さんとか加奈さんとか加奈さんとか。あの人、背中だけで「コスプレコンテスト? わたし、気になりますっ!」ということが簡単に読めたぞ。
まてまてまて。そもそもちょっと誘惑に負けたってどういう意味だ? 誘惑? 何の?
☆
私は、美紗と共に部室までの道のりを歩く。部室に近づくにつれて人けは少なくなっていき、静寂が私たち二人を包み込む。加奈は日直らしいので、まだ教室に残って仕事をしている。
「……また、守ってもらっちゃった」
隣を歩く美紗はただしょんぼりとしている。しょんぼりする美紗かわいいハァハァ。私はシャッター音をカットして写真を撮影することのできる自作アプリを起動させて流れるような手つきで盗撮を行う。それは幾度も繰り返され、一切の無駄を省いた洗練された動作。まさに匠の技だと自負している。この辺で自重しておこう。
それにしても、どうしてあの人はここまでして、自分を誤解させてまで美紗を守ってくれたのだろうか。やっぱり、何だかんだいって、その……美紗のことが……好き、なのだろうか。
そのことを考えると、自然と胸が痛む。
思えば、あの人にはいつも助けてもらってばかりだ。テスト順位の対抗意識をきっかけに、親睦会の時にあの人を観察してみると、ぜんぜん噂とは違った人だった。むやみやたらと暴力をふるうわけでもない。暴れるわけでもない。乱暴するわけでもない。むしろ、優しい。中学の時があったからこそ、誰かに優しくしたいと思ったのか、それとも元々の性格だったのかはわからない。
重い荷物を率先して持ってくれたりもしたし、美紗も助けてもらった。美紗のことを助けたことを本人は忘れていたらしいけど、その時のことを実際に話しているうちに、やっぱりイメージとのギャップが大きくなってきた。
そして、あの帰りのバスの中。不意に体制を崩した時に、私は彼に抱きつくような格好になった。その時に私を支えてくれた彼の手は、体は、彼を異性と認識させるには十分な逞しさを備えていた。嫌でも私が女の子なんだと認識してしまう。
その日から、彼のことを考えると心臓の鼓動がはやくなったり、顔が熱くなったりする。そして、海での出来事だ。あの出来事は決定的過ぎた。あのときも、彼は私たちを助けてくれた。
今さっきも……何もできない不甲斐ない私に代わって美紗を助けてくれた。
「私のせいだよね……」
「違いますよ」
美紗が何を言いたいのかはわかる。だが、悪いのは美紗ではない。そもそもなぜ、あの国沼くんは美紗を指名したのだろうか。彼はもう少し、察しがいいと思っていたのだけれど。
「ううん。私がいつまでもこのままだから……海斗くんが誤解されちゃうんだよね……」
「彼の場合、誤解されることを望んでいるので気にしなくていいんじゃないですか」
まあ、彼の正体が「ただのロリコンDQNモドキ」だと知れれば、噂で彼に恐れをなした連中は、噂は嘘だったのか、ならボコボコにしてやろうと、こぞって彼を襲撃するだろう。撃退はどうということもないらしいが、少なくとも平穏な高校生活は送れない。
「でも……でも、私、クラスの人に海斗くんがあんなこと言われるの、いやだよ……」
「それは……」
それは、私だって嫌だ。本当は、彼は優しい人なんだと、良い人なんだと叫びたい。だけど、それをすると彼にも迷惑がかかる。
美紗は目を閉じて、しばらく考え事をしたあと、そっと目を開く。その瞳には、今までにない決意を宿していた。
「お姉ちゃん、私――――コンテスト、出てみる」
「えっ、そ、それは……」
そんなことをしたら、彼が行ったことが無意味になる。自分が周囲に誤解されてまでやったことが無駄になる。でも、この目をした美紗が止まることがないというのは、姉である私が一番よく知っていた。
それに……、
「……大丈夫、ですか? コンテストには大勢のお客さんが見に来ますよ?」
今までの美紗からすれば信じられないことだった。そんな大勢の前で美紗が立つなんて。
美紗にとっては、テストで学年一位をとることよりも大変なことのはずだ。そもそも、クラスの委員長をしているということすら今の私からすれば目覚ましい進歩なのに。
「恥ずかしいし、怖いけど……でも、私も、変わらなきゃって。変わりたいって、思うから……」
そういえば、高校生になったらクラスの委員長をやってみる、って言ってたのも、美紗が初めて彼、海斗くんと出会い、助けてもらった日のことだった。
そして今回も、海斗くんが関係している。
いつだって海斗くんは、美紗が前に進むためのきっかけになってくれた。
だから姉として、私が妹にできることは。
「……頑張ってください。私も応援しますし、いつだって美紗の力になります」
「うん。ありがとう、お姉ちゃん」
そう。
私が姉として出来ることは、妹を応援し、いつだって力になってやることだけなのだ。




