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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS③ なんちゃってDQNとゲーマー少女
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ifストーリー 南帆ルート④

今回の話は割と蛇足。

 やっとくっついたか。

 それが、俺と南帆の周囲の評価だったらしい。周囲といっても、この場合はクラスの中だけに限るが。そんなにもじれったかったのかと正人にきけば、「それはもう、見ているこっちがまだかまだかとイライラするぐらいにはな」と返された。

 それは、正人に散々言われたから分かった。分かったのだが……。

「だからって、教室内でべたべたするのはやめてくれ」

「……どうして?」

 俺は自室で、その切実な願いを南帆にぶつけてみたのだが、その当の本人はきょとんとした顔をするだけだ。

 現在、俺と南帆は二人でゲームをしている。二人といっても、俺が進めているのを南帆が見ているだけだが(南帆と対戦をすると勝負にならなくてただの虐殺になる。勿論、俺が虐殺される方だ)。俺が自室の床に座ってゲームをして、後ろから南帆が抱きつくような姿勢になっているわけだが、これを教室内でやられているとかなり恥ずかしい。

 南帆にとっては恥ずかしくないらしいのだが、俺にとってはかなり恥ずかしい。だからやめてくれと言っているのだが、このゲーマー少女は聞く耳を持たない。それどころか「どうして?」と質問を返す始末である。

「……海斗は、私に抱きつかれるの、嫌なの?」

「嫌ってわけじゃないけど……」

 嫌いじゃないから困るんだよ。

 そこんとこ、南帆は少し疎い。今もわけがわからないとでも言いたげに首を傾げている。その後、ごまかすかのように南帆に対戦を挑んでみたのだが、こてんぱんに叩きのめされてしまった。しかも南帆は、俺に抱きついたままという体勢で、だ。

「……恋人らしいことって、なんだろう」

「どうしたんだよ。急に」

 正直、こうやって耳元で囁かれるように話されると緊張し過ぎてゲームどころじゃないんだよな。

「……海斗と恋人さんに、なった、から……恋人らしいこと、って考えると、何も思い浮かばなくて」

 それであの教室内でのべたべたか。まあ、確かにああするのは実に恋人らしいのだろうけども。

「無理することないんじゃないか。俺たちは俺たちなりにゆっくり歩いていけばさ」

「……うん。そうだね」

 頷く南帆。その仕草はとても女の子らしくて色っぽいんだろうけども。

 せめてその間ぐらいは、ゲームの中で俺を蹂躙するのをやめてもらえないだろうか。


 ☆


 文化祭まで、残り三日。学校の中は更に慌ただしさを増してきた。テレビにも特集されるぐらいの規模の文化祭であるので、学校側も特にゴミの問題に関しては力を入れている。文化祭中も、商店街や学校までのルートにあるゴミ拾いを、全学年で文化祭後にはしなくてはならないし、文化祭開催中も風紀委員や文化祭実行委員、生徒会などでローテーションを組んで、ポイ捨ての注意を呼びかけながらゴミ拾いをするらしい。

「……もうすぐ文化祭」

「だな」

 放課後になってもまだ準備は続いている。だが、うちのクラスは委員長と副委員長の渚姉妹の活躍もあってか、計画的に事が進み、スケジュール的にはかなり余裕がある。部活動がある生徒は、そっちの方の準備に参加している。

 帰宅部の俺たちに関しては、そういったこともないので、こうして家でのんびりとしているわけだ。

「……今日の夕飯は、私が作るから」

 今日は、両親が旅行、姉ちゃんはサークル仲間と一緒に泊まり込みするとかなんとかで家にはいない。つまり、まあ、その。家には俺と南帆の二人っきりというわけだ。

「お、おう」

 家で二人っきり。そのことを考えると少し緊張してしまう。

「……むぅ。心配しなくても料理は得意だもん」

 どうやら、俺が南帆の料理の腕を心配していると思われたらしい。不機嫌そうにむすっとした表情をする。こうやって見てみると、南帆はここ最近は特に、表情が豊かになってきたような気がする。

 そんな、得意だという南帆の料理で、今日の食卓は彩られた。いつの間にか練習したのか、俺の好物が多く並んでいる。それだけでなく、栄養バランスもちゃんと考えている。

 味付けも実に俺好みで、かなり美味しい。

「……どう、かな?」

「ん。美味しいよ」

 正直にそう言ってみると、南帆は少し照れたのか、頬を桜色に染める。

「……よかった。たくさん、練習したから」

 ここのところ、南帆は今までにない表情をずっと見せてくれている。それが何だか嬉しくて、同時にむず痒い。

「よ、よく練習したな。うん」

 照れ隠しと言わんばかりにとにかく俺は夢中で食事に没頭した。でないと、この真っ赤な顔を見られてしまう。

「……昔、子供の頃おままごとでやってたことを、今度はちゃんとやりたくて練習した」

 確かに、ずっと子供の頃、こんなことをやったことがある気がする。南帆は基本的に一人でいたから、俺と南帆いがいには誰もいなくて。そして俺が南帆の遊びに付き合っていると、必然とおままごとみたいな女の子がよくやるような遊びになってしまっていた。

 まさかその続きを、今になってやることになるとは思わなかったけど。そのこともあって、尚更まともに南帆の顔も見れなくなって、夢中になって夕食を食べていると。

「……海斗」

「どうした」

 顔を上げた瞬間、口元に、おかずとつまんだ南帆の橋が近づけられた。こ、これは俗にいう、

「……はい、あーん」

 南帆の頬は相変わらず桜色。やはりこいつも照れているな。それなら無理にしなくてもいいのに。

「……こ、これも一度、やってみたかったことだから」

「そ、そっか……」

 ゆっくりと南帆から差し出されたそれを咀嚼して、その間も心臓の鼓動がやけにドキドキドキドキとうるさい。それからは互いに恥ずかしさが限界に達して普通に夕食を済ませた。あまり無理するもんじゃないな。


 夕食を済ませた後は、それぞれの家で風呂を済ませた。さっぱりして自分の部屋で次は何をしようかなと考えていると、不意に、意図的に鍵をしめなかった窓が開き、南帆がもそもそと入り込んできた。薄青の花柄パジャマ姿である。

 いつもの光景のはずなのに、やはりこうして恋人になってみると――――この子のことが好きなんだと自覚していると、南帆のこういった姿を見るたびに心臓が跳ね上がったりするのは仕方がないだろう。

 南帆は、いつもとは違って何故か枕を持参していた。まさか……

「……いっしょに寝てもいい?」

「い、いい、けど……」

 少しは俺が健全な男子高校生だということも気にしてほしい。いやほんとうに。

 とりあえず、まずは寝る前のゲームだ。こうして改めて考えてみると、俺ってば最近(特に南帆とつきあうようになってから)ゲームばかりしている気がする。

 そして南帆はいつものポジションだ。だが、この場合はさっきまでと事情が違う。何しろ南帆はお風呂上りで、シャンプーの香りが漂うし、火照った体が色っぽい。それに後ろから抱きつかれるように(殆ど抱きついているようなものだが)しているので決して大きくはないが、それでも綺麗な形をした、柔らかい胸が無遠慮に押し付けられる。

 こうなってくると、ただでさえそんなに上手くもないゲームの操作が更にガタガタになる。対する南帆は、ゲームの時となると恋人とかそんなの関係なしにこてんぱんにしてくる。ゲームをしている時だけ段違いの集中力だからな。こいつ。

 まるで苦行のような時間が過ぎ去ったあとは、就寝時間だ。

 緊張しながらベットに入ると、南帆がもぞもぞと同じ布団の中に入ってきた。ここから俺はどうすればいいんだぁあああああああああああ! と心の中で叫んでいると、南帆は俺の胸の中に飛び込んでくるかのごとく、抱きついてきた。

「……見ないで」

「な、なにがっ!?」

 胸にかかる南帆の吐息や体温を感じながら、変に裏返った声を出してしまう。

「……恥ずかしい、から……私のかお、今とても赤いから……だから……みないで」

 だったらなんでこんなことをしてきたんだっ!

 そんなツッコミを入れたくもなる。だが、今の俺はただただ「お、おおおおおう」としか答えることしかできなくて。ぎこちないながらも、南帆の小さな体をそっと抱きしめた。

 こんなんじゃ眠れねぇよ……。


 ☆


 次の日は休みだった。

 だから、俺と南帆は一緒に出掛けることにした。いわゆる、デートというやつである。

 南帆は朝早くからもうベッドを抜け出して、自分の家へと戻っていた。そして一緒に出掛ける時に戻ってきたかと思うと、少し大きなバスケットを手に持っていた。

 南帆は昨日のことがあるのか照れながら、俺の服の袖をきゅっと小さく掴んでいる。

 さて、どこに行こう。南帆が喜びそうなところなら……ゲーセンとかに行こうか。いや、でもデートでいきなりゲーセンというのもなぁ……。

 そんなことを考えていると、南帆がくいくいっと袖を引っ張ってきた。

「……公園にいきたい」

「公園?」

「……うん」

 小さく頷く南帆に従って公園へと足を向ける。そこは割と広い土地に、噴水やベンチなどがある、近所では有名なデートスポットである。まさかこんなところに南帆と一緒に来るとは思わなかった。むしろ、俺には縁のないものだと思っていた。

 手を繋ぐ。互いの指を絡めあう。これが恋人繋ぎとかいうやつだろうか。たぶん、そうなんだろう。

 この公園に行くまでにいくつか一緒に服を見て回ったり、小物の売ってある店に入ったり。いかにもデートらしいデートをした。正直、もうかなり疲れた。緊張したという意味で。

 寄り道をしながら来たせいか、公園につく頃にはすっかりお昼になっていた。

「……お昼ごはん、作ってきた」

 見計らったかのようなタイミングで、南帆の持っていたバスケットが開く。そこには、南帆の手作りサンドイッチなどの昼食が入っていた。

 昨日の夕食と同じく、これもまたどれも美味しい。だが、また昨日みたいな「あーん」をしてこないだろうかと少し警戒する。流石に外であれをするのは恥ずかしすぎる。

 それを南帆にきいてみると。

「……したいの?」

 クスッ、と小悪魔的な笑みを浮かべながらそう仰ってきたので慌てて否定した。それはそれでまた拗ねたけど、そんな南帆も可愛いのでよしとする。

 その後はまた恋人繋ぎで街を歩いてまわる。大きな街のゲームセンターでUFOキャッチャーをしたり、プリクラをとったり、どれも初めての体験ばかりで。だけどその初めてを南帆と一緒に過ごすことが出来てとても幸せだった。

 また公園に戻ってきた俺たちは、一緒のベンチに座ってしばらくじっと空を眺めていた。次第に辺りが暗くなってきて、周囲がライトアップされる。

「……夢、だいたい叶った」

 唐突に、南帆が声をもらす。

「夢?」

「……うん。海斗とこうして恋人になって、一緒にデートすること」

「そ、そっか。そりゃ、あー、よかったな」

 辺りが暗くて本当に良かった。こんな真っ赤になっているであろう俺の顔、とても見せられたものじゃない。自然と、南帆と繋いだ手をぎゅっと少し、南帆が痛くならない程度に強く握る。

「……海斗」

 南帆が、俺の方に顔を向けたのが分かった。俺も、南帆に向き合う。


「……キス、して?」


 時が一瞬とまったような錯覚がした。だけど、俺の手は自然と、南帆の小さな肩に手を乗せていた。

「これも、夢の一つ、なのか?」

「……う、うん」

「そ、そっか……」

 南帆の桜色に染まった頬が、この暗い中からでも分かる。俺はそんな南帆の柔らかそうな唇に、そっと、自分の唇を重ねた。この時だけは、とりあえず何も考えられないぐらいにドキドキして、緊張して、それでいて幸せだった。

 時間は一瞬。だけど、永遠にも思えるぐらい長い時間。ゆっくりと南帆から離れた俺は、南帆に問う。

「あと、叶ってない夢は?」

「……それは、」


 ☆






 俺の目の前にいるのは、真っ白のウェディングドレス姿に包まれた、これから妻になる人の姿だった。長い回想にふけっている間は、ずいぶんと長いように思えたけど、どうやらほんの一瞬だったらしい。まるで走馬灯だ。演技悪い。

 ベールをめくりあげて、キスをする。この瞬間、周囲に祝福されながら俺たちは夫婦になった。妻になった人が、笑顔を見せながら俺だけに聞こえるように小さく話しかけてくる。


「……海斗。私の夢、ぜんぶ叶ったよ?」





次から本編です。

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