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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS③ なんちゃってDQNとゲーマー少女
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ifストーリー 南帆ルート③

 南帆がうちにこなくなってから、一週間が過ぎた。それは、我が家としては正常で、俺の部屋なら南帆がいないことなんて当たり前なのに、なぜか部屋が広くなったように感じた。

 何かが足りない。

 そんな、奇妙な感覚を振り払い、文化祭までの日々を送る。

 同じクラスで、隣の席なのに俺は南帆と必要最低限の会話しかかわさなかった。クラスの連中にはその様子が物珍しく映っているらしい。

 俺には事情を聴けないのか、こそこそと裏で正人に質問が殺到していた。

「まったく、勘弁してほしいぜ。さっさと仲直りしろよな」

「うるせえな……」

 あの日、正人にいろいろと言われたりはした。あとついでに殴られた。だが、頭では理解できてもやっぱり心は考えてしまう。

 やっぱり南帆には、素晴らしい相手が相応しいのではないか。俺なんかでは、南帆に釣り合わないし、迷惑がかかるのではないか。

 ああ、だめだ。考えれば考えるほど、泥沼だ。

 マイナスのことしか考えられない。


 放課後になっても、大半の生徒は準備に勤しんでいる。帰ろうとしていたところを正人につかまって、作業をしている空き教室に届けてほしいという書類をもっていくことになった。

 これを済ませてさっさと帰ろう。

 なんかもう、最近はすぐに疲れる。考え事をしているせいだろうか。わからん。わからんから……帰って、寝よう。

 うん。それが一番だ。

 空き教室までの道のりを、寄り道もせずに真っ直ぐ向かう。数分ほどでたどり着いたその場所に入る。中は窓が開け放たれているせいか、爽やかな風が室内を満たしていた。

 どうやら、この部屋で作業をしているほとんどの人がでばらっているようで、中はとても静かだ。たまにカタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。

 誰かがパソコンを操作して作業をしているのだろう。そう思って、足を踏み入れる。が、そこにいたのは、一組の男女。南帆と、あの日……南帆を呼び出したやつだ。

 南帆がパソコンで作業をして、そいつは一緒に画面を覗き込みながらなにやら会話をしている。

 この瞬間に、俺は親友にはめられたという考えに至った。

 あの野郎……今度、一人で本屋さんの女性店員のレジに幼女雑誌を持っていかせる罰ゲームをくらわせてやる。

 それにしても……ああ、ちくしょう。やっぱり、普通にお似合いじゃねぇか。本当に、俺なんかが、出る幕のないぐらいに。

 いや、とにかく今は現状の打破だ。

「……失礼します。書類を持ってきました」

 俺は努めて冷静さを装いつつ、教室の中へと足を踏み入れる。そして手近なテーブルへと向かうと、書類の束を置く。南帆と目があった。

 でも、見ていないことにした。

 その方が、いい。

 見ていると、なんだか心の中がもやもやする。

 酷く自分が惨めに思えてくる。

 南帆の、何か言いたげな、不安げな視線を無視して、そのまま俺は教室を後にした。

 考えれば考えるほどに嫌になってくる。いや、そもそもどうして俺はこんな気持ちになっているんだ。どうしてだ。南帆が誰かと付き合ったからなんだ。俺には何も関係ないだろ。何も。

 そう。何も、関係、ないんだ。


 ☆


 文化祭まで残り一週間を切った。南帆とは相変わらず、話さないままだ。日に日に南帆の顔から元気がなくなってきた気がしたが、きっと気のせいだろう。……そうに決まっている。

 その日はクラスの作業に参加しても何となく、身が入らなくなってきた。放課後になるとすぐに教室を出て行って、中庭へと向かった。時に理由はない。ただ、適当にフラフラと歩いていたらそこに行きついただけだ。

 別にこの場所で休もうというわけではない。ならばまっすぐに帰宅すればいいのだが、何となく、この場所にいきついてしまったのだ。

(……やっぱり、帰ろう)

 どうしてこんなところに来てしまったのかは自分でも、分からない。本当に、何となくだった。

 そう思って、足を校門の方へと向けると、ふと、校舎の陰から現れた、この一年ですっかり見慣れた、女の子と目線があった。

「…………あ」

 南帆だ。俺と目線が合うと、小さく声をもらす。

「…………っ」

 俺は思わず、南帆に背を向けて歩き出してしまった。どこに向かっている。どこにだ――――どこかへだ。

「……かい、と……」

 南帆は、今までとは違って、直接的に俺に無視されたと分かると――――今まで聞いたこともないような、そんな、声で。俺の名前を、呟いた。背を向ける直前に見えた南帆の悲しげな表情が、今にも涙を流してしまいそうな表情が、見えて、しまった。

 俺は何かを振り切るように。これでよかったんだと自分に言い聞かせるように、南帆に背を向けて歩き出した。

 自分が酷く惨めで、馬鹿で、醜く感じた。

 分かっている。

 俺はただ、拗ねているだけだ。嫉妬しているだけだ。あの男に。

 この一年で、南帆の隣にいることが違和感のないものになっていた。だから、これがずっと続くんだって思ってた。だけど、心の奥底ではずっと感じていた。

 こんな俺なんかが、南帆の傍にいてもいいのだろうか。こんな俺が南帆の傍にいれば、いつか南帆を傷つけてしまうのではないか。俺がそばにいるばっかりに、南帆はいわれのない中傷を受けてしまうのではないか。やっぱり俺は、南帆の隣にいるには相応しくないのではないか。

 そこに、あの男が現れた。

 そいつは南帆のような可愛い子に、俺にはもったいないぐらいの可愛い女の子の隣にいるのはぴったりで。

 何もない自分に目を背けてきたことを、直視させられた。

 歩いていると先日、思い出したばかりの昔の記憶を頭に浮かべてしまう。

 何てことはない。ただの子供の時の約束だった。


「……これから大きくなっても、大人になっても、ずっと……ずっと、わたしと一緒にいてくれる?」


 ただ、それだけだった。


「……かいとくんと一緒にいると、わたし、楽しいよ?」


 それだけのことだった。


「……ずっと、一緒にいようね」


 それだけの、ことの、はずだった。


 俺の方はすっかりと忘れていたけど、あいつはずっと覚えていたんだ。

 南帆はちゃんと覚えてくれていたのに、馬鹿な俺はすっかり忘れていた。それがさらに自分の無能さを浮き彫りにしてしまう。

 正人の言葉を思い出す。


「お前は、南帆ちゃんの隣にはイケメンで人柄もいい、将来有望なやつがいてやればそれで南帆ちゃんが幸せになるって考えてるんだろうけどな。それは違うぞ。たとえお前がどれだけバカで、アホで、まぬけで、ロリコンだったとしても、南帆ちゃんはお前の隣にいればそれだけで幸せだったんだよ」


 俺だって、そうだ。俺だって、ただあいつの傍にいればそれで幸せだったんだ。

 そもそも俺がしたかったのは、あいつを傷つけることじゃない。ましてや――――さっきみたいな、あんな、表情カオをさせたかったわけじゃない。

 俺は、ただ……あいつが、幸せになってくれれば。

 ただ、それだけでよかったんだ。

 何故あの女の子にそんなことを願うのか。あの子に、南帆に抱いているこの感情はなんなのか。ここ最近で考える時間は山ほどあった。だから答えも、もう出ている。


「……よう」

 気がつくと、目の前に正人がいた。偶然か。いや、違うだろう。こいつのことだから、待ち構えていたに違いない。

「なんだよ」

「まあ、さっき南帆ちゃんとすれ違ってな。酷い表情カオだったぜ。可愛い顔が台無しだ」

 だから、と正人は言う。

「まあ、その、なんだ。はやく追いかけてやれよ」

 返答はする必要はなかった。あいつにはそんなことしなくても俺の気持ちは伝わると思ったし、何より、気が付けば既に走り出していて、返答をする暇もなかった。

 全力ダッシュする俺を何事だと振り返る生徒がいたが、そんなこと知るか。どうだっていい。今は一秒でも早く、あいつのところへと向かいたかった。

「あの、すみません」

 ――――が、そんな俺を呼び止めた声が一つだけ。

 あの日、南帆を呼び出した男子生徒だった。そいつは間近で見てもかっこいい、文句なしの男だった。

 全力ダッシュをしていた足を止める。確かに俺には誇れるところが何もない。だけどせめて、この男の前だけでは、逃げたくはなかった。

「……なんの、用だ……」

「南帆さんに告白して、フラれました」

 それは、唐突な言葉だった。

 そいつは俺の驚いたような顔を見ると苦笑して。

「これでもかなり本気だったんですけどね。ずっと昔から好きだった人がいるから、って」

「そ、そうか」

「だからこそ。……次に南帆さんにあんな寂しい表情をさせたら僕は君を……絶対に許しません」

 そいつは、ただただ真剣に、その言葉を俺に刻むように呟いた。

「……わかってるよ」

 それだけ告げると、俺はまた走り出した。

 ただただ、走った。

 そして、追いついた。


 子供の頃。出会った頃の南帆は、一人でいることが多かった。ただ一人でいることが多くて、そんな女の子が俺は気になっていた。

 だからある日、勇気を出して、その小さな背中に近づいた。

「あ、あの」

「……なに?」

「えっと……その……ぼ、僕と……友達、になってよ」


 今の南帆はあの頃の背中とは違う。

 そして俺も、あの頃とは違う。


「南帆」

 呼びかけた声にこたえて南帆が、振り返る。その頬には涙の後があって……こんな表情カオをさせてしまったことを、改めて実感する。頬をはたかれた気分だ。

「……かい、と……」

「好きだ」

 踏ん切りがつかなくなってしまう前に、畳み掛けるようにその言葉を口にした。その言葉は自分でも驚くぐらいに自然に出た。

「……えっ、え?」

 南帆は突然、なんのことだか分からないとでも言うかのように驚きを露わにする。

「好きだ。ずっと前から。ずっと好きだった。お前が、あの男に呼び出されて……告白された日から、ずっと、そいつに嫉妬するぐらいにお前が好きだ」

 俺はただ、がむしゃらに口にした。思いの限りを口にした。言葉にした。

「俺が南帆と一緒にいると、南帆が何かに巻き込まれたり、中傷されたりするのが怖かった。だから、俺なんかよりも、あいつと……お前を幸せにしてくれるようなやつと一緒にいる方が南帆の為なんだって、ずっとそう考えてた。いや、考えようとしてた。でも、ダメだった。やっぱり俺はお前のことは諦められなくて、ここ最近もずっとお前のことばっかり考えてた。だから……えーっと、つ、つまり、お前が好きだ!。だから、お、俺と、つきあってくれ」

 言いたいことがありすぎて、もう何がなんだか分からなくなった。恥ずかしくなったというのもある。

 この心臓の鼓動は走ってきただけじゃないだろう。

 そして南帆は。頬に涙を流しながら、でもその涙はきっと、さっき流していたものとは違っていて。


「……………………はい」


 その、たった一言で。

 俺たちは、結ばれた。





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