四月② 篠原正人の観察
さて、昨日の尾行で黒野海斗とかいうDQNがロリコンという名の紳士ということが発覚したわけだが。
どうしようか。何だか面白そうなやつではありそうなんだけども。いったん、この件は保留だな。
俺だってそこそこの刺激を学園生活には求めている。それこそ、きっかけさえあればすぐにでもかかわるぐらいには。
でも、そのきっかけがそんなすぐに訪れるのかと言われればそう簡単に訪れることは少ないだろう。そんなことをぼーっと考えながら、俺はトコトコと入学式翌日の放課後の校舎を歩く。窓の外を見下ろせばがやがやと俺と同じ新入生たちがさっそく部活動の見学を行っている。この時間帯、帰宅部もしくは今日は見学を止めておこう組は既に帰っているだろう。こんな中途半端な時間に校舎に残っているのは俺みたいな、ぼけーっとぶらぶら校舎内を散歩しているやつだけだろう。
昨日のうちにさっさと仲良くなっておいたリア充グループからは遊びに誘われたが何となく理由をつけて断ってしまった。昨日の、黒野海斗のインパクトが強すぎた。
さあ、ここに今までの人生を平々凡々に過ごしてきた篠原正人が暇を持て余してますよ! カモン! 刺激のきっかけカモン!
……アホらし。
そんなくだらないことを考えていると、トントンと軽く肩を叩かれたような気がした。もしかしてこのバカげた脳内の言葉を思わず口に出してしまっていたとかだろうか。
ぎょっとして振り向いてみると、そこにいたのは、美少女だった。
端的な表現になってしまったが、これでも頑張って表現したのだ。何しろその美しさに脳内変換が追いつかなくてただただ「可愛い」などという単調な表現しか思い浮かばなかったのだから。
さらさらと流れるような銀髪のセミロングの髪。整った顔立ちに女の子らしい華奢な体。雪のように透き通った白い肌。とにかく可愛い。可愛い可愛い可愛い。可愛いがゲシュタルト崩壊しそうだ。
「え、あ……」
思わず言葉を失ってしまった。何この人。めちゃくちゃ可愛い。
「……ちょっと、いい?」
「はいっ!」
昨日話したリア充グループにも可愛い子はいた。けど、目の前のこの子はそんなレベルじゃない。あの入学初日から噂だった天美加奈や楠木南帆、渚姉妹に匹敵する。俺としては、あの磨けば光る子である牧原恵ちゃんもこのメンツに入るな。こんな子たちを独り占めできるやつがいたら是非とも殴ってやりたい。リア充くたばれ! と。
「……君、一年生だよね。今、時間ある?」
「はいっ!」
うまく頭が回らない。さっきと同じ言葉しか言えない。
「……生徒会に、興味ない?」
「はいっ!」
「……そう。よかった」
はい?
あれ?
俺は今、なんて言った?
「……じゃあ、ついてきて。生徒会室に案内してあげる」
「は、は……い?」
わけのわからぬまま、俺は自分で自分をコントロール出来なかったばかりに生徒会室へと向かうことになった。道中、ようやく冷静さを取り戻していく。俺は何をしているんだろう。いや、でもこれはもしかすると良いきっかけなのかもしれない。
そこそこ刺激的な学園生活を送るための、きっかけにな。
――――結果的に、そこそこどころじゃない刺激だったでござる。
「はぁぁぁぁぁぁあん! もっと! もっと僕を罵ってくださいご主人様ぁぁああああああああああ!」
「黙って働いてくれないかしら? あなたがその汚物にも勝る汚らわしい声を発するだけで不愉快になるんだけど」
その割にはぞくぞくぞくぅ! としてそうな表情なのはどうしてでしょう。
生徒会室に一歩踏み入れればあらなんということでしょう変態的な先輩が四つん這いでPCに向かってカタカタ何かお仕事をしながら、背中に美少女先輩(一応言っておくが、銀髪可愛い先輩じゃないぞ)を乗せている。
なにこれ怖い。
「……気にしないで。いつものこと」
美少女先輩は目の前のショッキングな光景をスルーした。
そして奥の部屋へと入っていく。またさっきのお二人みたいな先輩がいるのかなぁとビクビクしながら入ってみると、そこにいたのは――――天使だった。
豊満な胸に、ふわふわのロングヘア。包容力のありそうな、常に日向ぼっこしてそうなぽわぽわとした雰囲気を出している小柄な先輩。そんなぽわぽわ先輩は俺に向かってにこやかな笑顔を向ける。
「こんにちは」
「あ、こ、こんにちは」
「南美ちゃん、そこの子は?」
「……新入生です。会長」
そ、そうだ。この人、生徒会長じゃないか。入学式でも挨拶してた……ってそういえば黒野海斗のせいで頭の中が真っ白なんだよな。美少女ウォッチングして乗り切ったが……その内容もあまり覚えてなかったし。
「新入生だったんだ。どうぞ、座って?」
「は、はい……」
俺はすすめられた、適当な位置に腰掛ける。緊張するな。こんなにもレベルの高い美少女が三人も。あのドSっぽそうなロングヘア先輩も可愛い人だったしな。
「名前は?」
「し、篠原正人です」
「正人くんね。正人くんは、生徒会に興味があるの?」
どうしよう。ここで断ったらどうして来たんだってことになるし……まあ、でも。せっかくの高校初日にこんなことがあったんだ。試しに生徒会に入ってみるのも面白いかもしれない。
「はいっ」
「あらぁ。じゃあ、さっそく入ってもらうことになるけど、それでもいい?」
「はいっ!」
よーし、ここまで来たからにはなるようになれだ。頑張るぞ!
「……じゃあ、さっそく仕事をあなたに頼む」
南美先輩 (というらしい)が俺の方を見る。そういえばこの人の名字ってなんだろう。まあ、また後で聞けばいいか。
「……この生徒会にはもう一人、三年生の先輩がいるんだけど、あの二人を見ればわかるけどその人の負担が大きい」
「あの二人のまとめ役立ったもんね。大変だよね」
俺はドS先輩とドM先輩を見る。
その二人のまとめ役。……胃が痛くなってきた。
「……だから、その負担を軽減するためにも今、生徒会は人手が欲しい。そこで、あなたには新入生の中から生徒会に参加してくれる人を見つけてきてほしい」
「ちなみに、そのまとめ役の苦労人先輩は?」
「……最近は会長から休むように厳命されてる」
「仕事とか一番、頑張ってくれてたもんね~。もうそろそろ休ませてあげなくちゃ」
「……ストレスで胃がマッハらしい」
名も顔も知らぬ苦労人先輩に、黙とう。いや、死んでないんだろうけどさ。
「ごめんね。こんなこと新入生にいきなり頼むことじゃないんだけど、うちの生徒会は出来るだけ人が多い方がなにかと助かるし、何にせよ人は集めたいから……」
ううっ。ぽわぽわ先輩にそんなしょんぼりとした顔をされると罪悪感が……!
「だ、大丈夫ですよ! 頑張りますっ!」
とは言ったものの、俺にアテなどないのだが……どうしよう。
「……安心して」
そんなことを考えていると、あの銀髪美人先輩が相変わらずの無表情まま、告げる。
「……あまり、期待はしてないから」
あ、そッスか。
☆
生徒会室を出た俺には行くアテなどなかった。そもそも俺は昨日、この学園に入学したばかりの新入生だ。友人と呼べる者は誰一人いない。それをこれから作っていかなければならない。それは生徒会のあの二人も分かっているだろう。あの二人は頭が良さそうだし。
つまり、俺はそんなにも期待されていないということだ。
そんなこと、あの銀髪先輩に言われるまでもないということだ。
とはいえ、生徒会に入ることはなし崩し的に決まってしまった。仕事はちゃんとするべきだ。それに、中学の時には生徒会に入っていなかったし、高校生になってまた中学の頃とは違う体験をしてみるのも悪くはない。
俺は自分に気合を入れるという意味で頬を軽く叩く。よーし、この際だ。生徒会に入るやつをひっぱり出してきて、あの銀髪美人先輩を驚かせてやる。
……まあ、相変わらずアテはないんですけどね。
次の日から通常授業が始まった。休み時間の間、俺はクラスの奴と交友、もとい、コネクションを広げたり深めたりしている際にじっくりと観察を行う。生徒会に入ってくれそうな人間を見極めているのだ。
大部分の人間はまだ部活動は決めていない。ということはつまり、「部活動に入っているから生徒会は止めておく」と断られる可能性の少ない今、この時期が勝負ということだ。
新しい生活を始めるにあたって浮いているやつらを狙うのが良いだろう。
現在、俺が交友関係を広げているのはこのクラス一のリア充グループである。男子女子が入り乱れているこのグループと仲良くなっておけば、少なくともこのクラスを起点とした情報が入ってくるはずだ。ただ、こういったグループとの繋がりを維持するにはある程度の付き合いというものが求められる。それが中学に入って俺が学んだことの一つだ。
そうしている間にあっという間に放課後が訪れた。
この一日、クラスの人間と接してみて生徒会に入ってくれそうなのは……国沼良助とかいうやつぐらいか(他にも渚美羽、渚美紗の姉妹という手もあるが、まだ女子にはそんなに深く話しかけてないから断定は出来ない)。とはいえ、話を聞いていた限りではじっくりと考えてみるって感じだったしな。今の段階できいても望みは薄いだろう。まあせいぜい、俺の情報源として機能してくれることを期待しよう。
このクラスであと話しかけていないのはあと一人。
(黒野海斗、か……)
さて、どうするか。
あいつが妙な高校デビューを起こして紳士なんちゃってDQNになってしまったのかはまた色々と探っていくとして……あれを生徒会に誘うのかどうか。本来なら迷うこともなく誘うという選択肢を排除するべきなんだろうが……あいつがロリコンという名の紳士であることを考慮すると、生徒会に馴染むような気がする。
ちょっと話しかけてみるか。それに個人的に、あいつには興味がある。
いや待て焦るなよ俺。慎重に、慎重に。コネの広げ方と同様、こういった人間関係に慎重になっておくことに越したことはない。それも、危ない(?)橋を渡るとなれば尚更だ。
まずは。
☆
放課後。俺は黒野海斗のあとをつけてみた。
情報収集を趣味とする俺の好奇心が疼いたというのが大きな理由である。不良が捨てられた犬を雨の日に傘をさしていくとか、そういう話はきいたことがあるけど不良が紳士アニメ好きなどという事例は聞いたことがない。好奇心、半端ないです。
黒野海斗は授業が終わると黙ってスタスタとクラスから出ていく。その時に普段は大人しい、地味ぃ~な部類の、いかにもオタクというやつらがビクビクしながら黒野海斗が出ていくまでをやり過ごしていた。怯えていたのは黒野海斗の視線がそいつらに向けられていたからだろう。
その後、黒野海斗はどこに寄るというわけでもなく黙々と歩いていた。方向的には俺の家の方角と同じだ。
「はぁ……」
さっきからちょいちょいため息をついているのは俺ではない。黒野海斗である。何を落ち込んでいるのか。もしかして、あの地味なオタク系のやつに怯えられたのがそんなにも気に病むことなのだろうか。
人通りの多い所になってくると、チラホラと違う学校の生徒が目につくようになってきた。その中には、かなりガラの悪い、正真正銘のDQNもいる。その他にはうちの学校の近くにあるお嬢様学校の制服も目に入る。
相変わらず落ち込んでいた黒野海斗はフラフラと歩き続けていた。パッと見はそこらのDQNと変わらない。そんな黒野海斗の前からゲラゲラと下品な笑い声をあげながら三人組のDQNが近づいてきた。うちの学園の生徒じゃない。制服のくたびれ具合からして、別の学校の二、三年生といったところだろうか。
黒野海斗はフラフラとしながらも目の前から来た三人組のDQNから避ける為に端に寄った。だが、目の前から来る三人組のDQNは黒野海斗に目をつけるとニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべた。
……こりゃまずい。
声をかけて危険を教えてやるべきか。俺が迷っているうちに三人組は行動を開始した。フラフラと歩く、黒野海斗へと近づくと明らかにわざと自分の肩を黒野海斗にぶつける。
「あ、ごめんなさい」
意外とすんなりと謝る黒野海斗。だが相手はそれで済ます気ははなからない。
そこからはよくあるベッタベタな当たり屋のパターンだった。
はァ? お前なにしてくれんの? 先輩に対する礼儀が足りてねぇんじゃねーの? うんたらかんたら。俺には、あそこに飛び込んでいく勇気なんてない。腕力は平均よりちょい上ぐらいだし、喧嘩慣れしているわけでもないのだ。
そのまま、黒野海斗は路地裏へとずるずると連れて行かれた。大方、休み明けが始まって、進路に対するストレス解消のためのはけ口にでもされるべくサンドバッグになるのだろう。
……お気のどくさま。合掌。
とりあえず、通報ぐらいはしてやるかと思いスマホを取り出す。が、その瞬間に路地裏から悲鳴がきこえてきた。黒野海斗ではない。この下品な声はあの三人組の物だろう。
気になってそーっと路地裏を覗いてみると、三人組のうちの一人がノックアウトされたのか、地面に倒れて気絶していた。何が起こったんだ?
「……あのさぁ」
俺だけでなく、三人組(今は二人組)の男たちが唖然としていると、黒野海斗がめんどくさそうに言い放つ。
「俺、お前らみたいなのに対してあんまり良い思い出がないんだよな。だからさ、遠慮なく叩き潰すから。いいよな? 答えは聞いてないけど」
お前はどこのイマジンだ。
と、脳内ツッコミを入れることが出来たのも一瞬。
黒野海斗は二人目の顔面に容赦なく拳を叩きこむと、三人目にはアイアンクロー……かと思ったらそのまま壁に頭を叩きつける。うわぁ、痛そう。
顔面に拳を叩きこまれた二人目は地面に倒れつつ、「ご、ごめんなさい……」と掠れた声で謝罪していた。だが、黒野海斗はその頭を容赦なく足で踏みつけ、その後もグリグリと地面にねじ込むように踏み続けた。
「あのさぁ、アンタはそうやって謝ったら済むかもしれないし、将来アンタが社会人になって良い思い出風に『あの頃はやんちゃしてた』とかほざくんだろうけどさ、実際にその時に殴られた方はやんちゃされてた、じゃ済まないんだよな。痛いんだよ。とっても。そこんとこ理解してくれる? なぁ」
鬼だな……。いや、それはそうと。
俺には黒野海斗のその言葉が、そこに無様に倒れている三人組ではなく、そこにいない誰かに向けているように聞こえた。
☆
その後、一週間ほど黒野海斗の観察を続けてみた。この観察が続いているのはなんというか……俺は、黒野海斗という人間に興味を持ち始めたのかもしれない。日を追うごとに黒野海斗は喧嘩をふっかけられる回数が増えてきた。この辺りの腕に覚えのあるDQNさんがこぞって噂の負け知らずの連勝ルーキーに興味を持ったのだろう。それと同時に、我がクラスの天美加奈というお嬢様の登校時、ぞろぞろとこぞって生徒が見物に来る光景も名物となっていた。そして渚姉妹に我がクラスの委員長が決定した頃には、1ターンキルした人数が五十人を突破していた。
だが、どいつもこいつも例外なく一撃で敗れ去っていった。つえー。海斗さんマジパネェッスわ。
しかし驚くのは喧嘩(と呼べるのかどうか怪しい。どちらかというと虐殺の方が正しい)したあとには決まってアニメ関連グッズのおいてある店に直行しているのだ。どうやら喧嘩の後は幼女に癒されたいらしい。
この一週間ほど観察して理解したのは、黒野海斗はかーなーり、強いということと、ロリコンという名の変態紳士だということだ。ああ、それと、黒野海斗は少し鈍感らしい。どういうわけか知らないが、渚美紗さんがお前のことチラチラ見てるの気づかなかったのか。クラスの連中は意図的に黒野海斗を意識しないようにしているのでその視線の動きは俺と渚美羽さんぐらいしか気づいてないが、あの目は怯えているとかそんなんじゃなくて明らかに……。あんな可愛い子に好かれるような要素なんてどこにあるんだ。ありゃ人の皮をかぶった変態紳士にして鬼だぞ。もしかして美紗さんはワイルド系が好きなのか?
この時の俺の頭には生徒会のことなんか吹き飛んでいて、とにかく黒野海斗の観察に取り組んでいた。黒野海斗は相変わらずロリコンで、鬼で、そしてぼっちだった。
そんなある日、事件が起きた。
(これで祝、百人目か……)
その日は、黒野海斗がどこかの廃工場で百人目のバカを叩きのめした時だった。ぞろぞろと伏兵、というやつが出てきたのだ。どうやら弱り切ったところを狙おうという魂胆らしい。バカだなぁ。あいつ、全く疲れてないぞ。また一撃で叩きのめされるだけだって。
「おい、誰だお前」
「げっ」
……どうやら伏兵さんは俺の近くにも潜んでいたようです。というより、黒野海斗の背後に回り込もうと動いていたら俺を見つけた感じか。どうやら俺は黒野海斗の仲間認定されたらしく、ぞろぞろとDQNさんたちが集まってきた。
ちょっ、違うって。俺はただ観察してただけだって! 無関係ですよー!
だがそんな言葉をこの場にいるDQNがきいてくれるわけでもなく。気が付けば俺は壁際に追い込まれていて、俺を取り囲む包囲網が完成していた。
一人が鉄パイプを手にしているその腕を振り上げ、振り下ろす。ちょっとそれ、いつの時代のヤンキーですかぁー!
「うおっ……!」
目を閉じる。痛みは……こなかった。そっと目を閉じると、俺の目の前には男の背中があった。誰のだ。決まっている。あの変態紳士のだ。
「おい」
その声が――――俺にかけられているものと理解するのに少しかかった。
「は、はいっ!?」
「大丈夫か」
「お、おうっ!」
「なら、いい」
やだ……なにこれかっこいい。
黒野海斗は左腕で受け止めていた鉄パイプを振り払うと鋭い蹴りを相手に叩き込む。その後は、俺は呆然と立ち尽くしているだけでよかった。黒野海斗は襲いかかってくる伏兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、ものの数分のうちに伏兵を全滅させてしまった。
そこに残ったのはバカ共の屍と俺と、変態紳士ことなんちゃってDQNのみ。
黒野海斗は俺まで処刑するとは思えない。処刑するとしたら自分の身を犠牲にしてまで(というほどダメージは受けてない。どんな体してるんだこいつ)俺を助けるわけないからな。
一瞬だけ訪れる沈黙。破ったのは、なんちゃってDQNの方だった。
「……気をつけて帰れよ」
それだけ言うと、黒野海斗はスタスタと歩き出した。きっとまた、アニメグッズの専門ショップにでもいくのだろう。俺はしばらくその場にいてその背中を見送った。
☆
次の日。
俺は思い切って、アニメグッズ専門ショップでニヤニヤしている黒野海斗に思い切って声をかけてみた。最初、声をかけてみると、ビクゥッ! と声をかけた俺もびっくりするぐらいに驚いた。
「お、お前は……」
どうやら俺のことを覚えておいてくれたらしい。よかった。口封じされるかと思った。
「よ、よお。昨日は、ありがとな」
「……ああ」
おおう警戒している警戒している。だが、こいつがなんちゃってDQN、ロリコンにして幼女アニメオタクだということは既に調べはついている!
「こ、このアニメ面白いよな。俺も見てるんだ」
ちなみに事実である。俺はあらゆるグループに溶け込んで、情報を集める努力は惜しまない。オタク系グループからも好印象を抱かれるようにアニメだって毎クールチェックしているのだ。
ただ、この理屈が黒野海斗にも通じるのかどうか。
「そ、そうなのか!?」
……ちょろいなこいつ。
その日を境に俺は黒野海斗と交友を持つに至った。実際に関わってみると、意外と面白い奴だというのが正直な感想だ。こいつと一緒にいる時はあまり退屈しない。
俺は基本的に、交友関係は情報を集めるためのコネクションとしか思わなかった。だが、こいつだけは……違う気がした。
そんな友達に向かって俺は、質問してみる。
「なあ、海斗」
「ん?」
「生徒会に、入ってみないか?」
こいつと一緒にあの生徒会で活動出来たら、きっと楽しいだろう。そんな予感がした。いや、これは確信だ。
「いや、遠慮しとくわ」
「……ああ、そう」
結局、国沼くんが生徒会に入ってくれました。
次は南帆のifストーリーです。




