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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第4章 襲来するお母さんと夏休み
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第44話 話し合い

レッドフレームを購入していないのにカレトヴルッフをつい二つ買ってしまいました……三つ目購入を現在、検討中。

 目が覚めると、聞こえてくるのは夏休み特有の蝉たちの鳴き声。上半身を起こすと、やけにひんやりと、そして硬い感触に首をかしげると、俺たちが床で寝ていたことを思い出す。昨日、コミケという名の戦場から帰ってきた俺たちはフラフラで、交代で風呂に入って夕食を食べる前に眠りに入ってしまったのだ。

 周りを見渡してみれば、加奈たちが同じように床で眠っていた。パジャマ姿で眠っていると……いかに無防備化が分かる。パジャマが少しはだけてるし。

 それにしても昨日は疲れたなぁ。とにかく移動が大変だった。人間、ただ乗り物を使って移動しているだけでも疲れるのは本当に分からない。

 それから久しぶりに台所に立った俺は朝食の支度を始める。そうしていると他のBBA共も起きてきて、あわてて支度をはじめようとする。しかし、その頃にもなると既に用意も済んでいて、そのままみんなで朝食が始まる。姉ちゃんはここのところ部活で忙しいらしく(何に忙しいのかは考えない方がいいだろう)、あまり家にいないのでこのメンバーで食卓を囲むことが多い。

「にしても、かいくんってどうしてこんなにも料理上手なの?」

 もきゅもきゅと鯖焼きを口に入れながら言う。天の道を往き総てを司る人も言っていたぞ。女の子が食べ物を口に入れながら喋るものじゃないって。

「元は一人暮らしだしな。それに、小学生のとき姉ちゃんに調理実習で作ったクッキーをあげたら美味しい美味しいって言ってくれたからな。つい嬉しくて料理の練習を始めたらこうなった」

「海斗くん、昔からシスコンだったんですね」

「おいおい。俺はシスコンじゃねーよ。ただ姉ちゃんが大好きなだけだ」

「……それをシスコンと言う」

 俺は原因不明の冷たい視線に晒されながら朝食をとった。

 夏休みも残り三週間ほど。宿題は既に片付いているが、それよりももっと厄介な問題があった。

 あの親子の茶番劇をなんとか片付けなければならない。

 あー、なんだろうこの感じ。両想いのカップルの痴話喧嘩を何とかしなくちゃいけない感じ。

 めんどくせー……とにかくめんどくせー……。しかも事情を知らないBBA共がシリアスな雰囲気をしている分たちが悪い。さっきから渚姉妹や加奈や南帆が不安げな視線を送ってくる。

 今日は文研部の文化祭準備を行う日だ。うちは人数が少ない分、夏休みの間に少しずつでも進めておかなければならない。

 俺たちは朝の支度を済ませた後、部室へと赴いた。さっそく加奈が作成した行動予定表をもとにスケジュールを逆算。役割分担をしながら、生徒会の手伝いも計算に入れてさっそく行動を開始した。

 俺たちの『日本文化研究部』が生徒会に提出している活動内容は日本の文化を研究することである。だが現実は活動内容に偏りが出過ぎているので、それをごまかす為に文化祭の展示用に日本の文化を研究した(と見せかけた)レポートをでっちあげなければならない。それをやるのは俺の役目で、それ以外には荷物持ちなどもしなければならない。今日は文化祭で俺たちの部が出店する喫茶店で出すメニューの試作である。その為の材料を買いに近くの商店街までBBAたちと共に出かけているのだ。とはいえ、俺が堂々と学校近くの商店街をうろつくわけにはいかない。死にがちな設定だが、俺がロリコンという名の紳士であることは周囲に知られてはならないのだ。

 もしDQN共にばれれば俺だけではなく周囲の人間にも迷惑がかかるし、一般校の生徒にばれてもまずい。どっちにしろ噂でばれる。そんなわけで、俺はこのクソ暑い日にマスクを装着し、帽子を被っているのだ。

「だ、大丈夫? 海斗くん」

「ああ……何とかな」

「大丈夫ですよ美紗。この男は無駄に頑丈ですから」

「どれくらい?」

「エター〇ルのパンチを生身で受けても平気なぐらいです」

 そんなもん無理に決まってるだろ。あいつのパンチ力いったい何tあると思ってるんだ。それを生身で受けても平気な翔〇郎さんマジハーフボイルド。そのとき、不思議なことが起こっているとしか思えないぜ。

 メニューとして採用できるものの条件として手軽に作れて美味しいもの。特に前者は重要だ。俺たちの部は人数が少ないが為にそう凝ったものは作ることが出来ない。売上金はそのまま部費になるので部費を確保するという意味ではそれなりにお客さんを引き込む必要がある。よって、後者の味のレベルもそれなりのものを求められる。

 出来るだけ材料費を抑えつつ、それなりの味を確保しなければならないというのは大変だ。とはいえ、うちの部員ならあまりその部分は期待していいだろう。問題は材料費だ。

 流川学園は部活動に関する規定は緩い。生徒会に申請して通ってしまえば、部を作るにあたって顧問の先生を立てる必要はない。それぐらい緩い。そういった緩さであるが為に全ての部に部費がいきわたるわけではない。加奈がこの部を作った理由のうち、「部費があれば部費でガ〇プラが買えるぜひゃっはー」もある。だがその肝心の部費はまだ今年設立されたばかりのうちの部にあるわけがなく。

 つまり、材料費も完全に実費なのだ。俺たちの場合、趣味にかかる費用は多い。だから出来るだけ実費では出したくない。

 材料選びからメニュー作りまで、その一つ一つの作業に無駄は許されないのだ。

 まことに遺憾ながら普段は不審者を微塵も感じさせないのにも関わらず、俺は現状、不審者と化しながら商店街を歩く。この商店街はうちの学校の文化祭のスポンサーになってくれているからどうか知らないが、流川学園生なら学生証を出せば割引をしてくれる店が多い。

 その割引をしてくれる店を事前にリサーチしてくれた加奈が作成したリストを元に、皆は次々と食材を選んでいく。俺、いる意味はあるのだろうか。

 食材を選ぶといったん部室に戻る。その後、必要なもの以外の食材を冷蔵庫に入れて事前に予約しておいた調理実習室に移動して試作開始。

「そういえばかなみん」

「どうしましたか恵」

「前々から思ってたんだけど、部室にある冷蔵庫とかどうしたの?」

「ああ、兄さんが頼んでもないのに買って持ってきました」

 さすが徹さん! ここ最近は姉ちゃんと揃って忙しいらしいけど……考えるのはよそう。嫌な考えしか浮かばない。

「どうやら私たちの部の出し物の情報を自前のルートで入手してたみたいで。とりあえず強制FFRして投げ捨てておきました」

「それどこの激情態?」

 メニューはとりあえず一人一食考える方向に決まった。うーむ。俺は何にしようか。と、考え込んでいるうちに俺以外のやつらはさっそく作り始めているし。とにかく俺も適当に何か作ってみるか。

 部の名前が<日本文化研究会>なので和食だけに絞るか……と考えたけど、それだけだと俺たちの技量的にレパートリーが少なくなるし、手軽に作れるという点では和食だけに絞らない方が良いだろう。

 サンドイッチやおにぎりが手軽と言えば手軽だが。ああ、和食といえばお茶漬けがあったな。

 試食メニューが完成したところでテーブルに並べる。和食どころか洋食も混じっているのは気にしないでおこう。

「はい、海斗くん。あーんですよ」

「……海斗。私のもたべて」

 BBA二人からの同時攻撃!

 まあ、試食をしなければいけないので拒む必要はないが。しかし、サンドイッチにおにぎりの同時攻撃とは勘弁してもらいたい。

 にこにこ笑顔の加奈のサンドイッチを口に含み、咀嚼したあとは相変わらず無表情、しかしほんのりと頬が赤くなっている南帆のおにぎりを口に含む。恥ずかしいならすんなや。

「美味しいですか?」

「……美味しい?」

「ん。美味しい。まあ、流石だな」

 ただこれが別々だったらなぁ。どうしておにぎりとサンドイッチを同時に食べなければならないのか。味が混ざるんだよ。

「あ、あの、海斗くん」

「わ、私たちのもどうぞ」

 今度は渚姉妹が同時にそれぞれの試作メニューを差し出してくる。美紗は卵焼き。美羽はオムレツ。卵と卵ですか。そーですか。いや、さっきのおにぎりとサンドイッチの同時攻撃よりはマシか。

「どうかな?」

「どうですか?」

「じゅうぶん美味しいぞ。問題ないんじゃないか」

 俺の言葉に姉妹は互いの顔を見合わせて笑顔になる。こうして見てみると、美羽も柔らかくなってきたなぁ。最初は敵視されていたのに。いつの間にかこう、打ち解けていった感じがする。親睦会の時に話が出来たからかな。

「おおっと、かいくん。私を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

「忘れてねーよ」

 この流れだとお前が最後に来るとは予想がついてたし。そういえば富音さんとの一件はさっさと片付けておこうかな。あの人もたぶん、今の様子を観察しているはずだし、ここ数日の恵の様子を見ればそろそろ気づいてもいいはずだ。確かに亡くなった旦那さんのことがあるから恵のことを想うのは分かるけど、だけど自分の考えた幸せを恵に押し付けるのは……駄目だろう、と、思う……。まあ、人の家庭環境に俺が口を出すべきじゃないし、そもそも俺が何とかするというのもおかしな話なのだが。俺が出来るのはあくまでもお膳立てまで。

「どしたの? かいくん」

「え?」

「や、さっきからぼーっとしてたからさ」

「ああ、いや。何でもない。気にすんな」

「そう?」

 それで納得したのか恵はふんふんと鼻歌を歌いながらいそいそと試作メニューを皿に移した。

「じゃじゃーん! 私が作ったのは、お好み焼きでーす!」

「まあ、作ってた様子は丸見えだから知ってたけどな」

「それは言わないお約束だよ!」

「お約束って敵が主人公の変身を棒立ちして待ってくれるみたいな?」

「甘いねかいくん。最近の変身エフェクトには当たり判定がついてるからそれで敵の攻撃を防げるんだよ! 歌は気にしないでね!」

 こいつと話していると本題からどんどんずれていくと感じるのはなぜだろう。

 恵は箸でお好み焼きを一口サイズに切り分けると、やはりというか何というか、やっぱり箸でつまんだそれを俺の口元へと差し出してくる。

「はい、あーんっ」

「はいはい……」

 されるがままに一口サイズのお好み焼きを咀嚼。同時に来るであろうと覚悟した殺気をひしひしと感じて冷や汗を流す。富音さん、あんた仕事大丈夫なのかよ。

「かいくんかいくん」

「なんだ」

「美味しい?」

「ああ。美味しいよ」

「やったぁっ!」

 そうやって、ぴょんぴょん跳ねながら喜ばないでくれますかね。さっきからお前の母親からの殺気が凄いんですけど。俺は念能力を習得していないから念攻撃に対しては無防備なんだぞ! 殺気だけで死んじゃうぞ!

 とりあえず今日の試作でメニューはいくつか出来たけど、まだ数的に少し足りない。もう少しレパートリーを考える方向で今日の試作会は幕を閉じた。


 ☆


 俺は先に加奈たちを帰らせ、校舎を出ると、そのままとあるこじんまりとした喫茶店へと赴いた。ここはまだ俺と加奈が知り合って間もない頃、話し合いか何かで訪れた店だ。ここは普段からあまり人を見ないし、ましてやうちの高校でここを知っているのは俺と加奈ぐらいだろう。また今度、部員みんなでここを訪れてみるのも悪くないのかもしれない。

 この人の少なさを見ると思わず売上を心配してしまう。

 店内に入ってきょろきょろと中を見渡してみると、俺が呼び出した人物が静かに紅茶をすすっているのが見えた。富音さんだ。

「おまたせしました」

「まったく(恵にあーんしてもらいやがってぶっ殺す)遅い(恵にあーんしてもらいやがってぶっ殺す)です(恵にあーんしてもらいやがってぶっ殺す)よ(恵にあーんしてもらいやがってぶっ殺す)」

「俺、今の富音さんが何を考えているのかが手に取るように分かりますよ……」

 せめて本音を隠そうとしてくれよ。ぶっ殺すって怖いんだよ。本当に。

「で、何ですか急に呼び出したりして」

 富音さんはやや不満そうにしながらも紅茶を優雅に啜る。さっそく本題に入ろう。

「いやー。俺が言いたいのは、恵の転校を取り消してくれないかなってことなんですけど」

「…………その話なら、お断りですが」

 と、言う富音さん。だが、今回はそれを言うまでに少しの間があった。まだチャンスはある、と思うことにしよう。

「富音さんはどうして、恵を転校させたいんでしたっけ」

「だから言っているでしょう。恵の幸せの為です。中学の頃とは違って、あの子はあの学園に入学してから髪を染めたり、赤点ギリギリの点数をとるようになってしまいました。ですから環境を変えて、あの子がもっと勉強に集中できるようなところに転校させたいんです。そうすることがあの子にとっても幸せなんです」

「富音さんが恵の幸せを想ってそうしたのは分かります。確かに勉強して良い大学に進ませることは何も間違ってないですし、その方が苦労しないかもしれません。ですけど、それって今の学園にいても出来ないことですか? そもそも、やってることが少し極端過ぎることぐらい富音さんなら分かりますよね?」

「……………………」

「本来なら親子で話し合うべきことなんですよ、こういうのは。俺がこうしてわざわざ富音さんと話し合うのも本当は違いますよね。どうして恵とちゃんと話してやらないんですか」

「だって……仕方がないじゃないですか」

 富音さんは何か言い訳があるのか、目を伏せる。

「だって……だって……!」

 まるで何かを我慢しているような富音さんは訴えるように俺の眼を見る。

「だって、恵とまともに話し合ったら何でもかんでもホイホイ言うことをきいちゃうじゃないですか!」

「ですよねぇ!」

 そういうオチだって初めから分かってたよ!

「富音さん。一つ質問してもいいですか?」

「……なんでしょう」

「ここ最近の恵を見てどうでしたか」

 富音さんは見守ってストーキングしていたから、ずっと見てみたはずだ。中学の頃の、ずっと富音さんの言うことをきいていた恵と、今の恵の姿を。

「富音さんから見て、今の恵はそんなにも不幸ですか。そんなにも、幸せに見えませんか」

「それは……」

 今まで富音さんは娘に甘い自分を律するために恵に冷たく当たってきた。旦那さんとの約束を果たすために。だが、それ故に富音さんはちゃんと恵を見ることが出来なかった。だったら、ちゃんと自分の娘と向き合う機会を与えてやればいい。そうすればきっと。

「俺が知っている恵は、いつも笑顔で、場を賑わせてくれるような、そんな……女の子です」

「ちょっと待てお前いま恵をBBAって言おうとしただろ」

 はて。何のことやら。

 口癖って怖いね!

「と、とにかく。富音さんは恵と向き合ってください。ちゃんと向き合ってから、転校させるかどうかを決めてください」

「ちゃんと、向き合う……」

「そうです。ですから、富音さんはまず恵と向き合い、触れ合って『詳細はよっっっっっ!!!!!!!』すごいですね。その反応。こっちは目では追えても体の反射が追いつきませんでしたよ」

 触れ合ってという言葉にそこまで反応するか。

「まあ、ここまで言っておいてなんですが、ここから先、親子同士の会話には俺が首突っ込むのも野暮ですので、ここからは自分の力で何とかしてください」

「だから詳細はよっ! はよおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 うぜえ。せっかくの喫茶店の雰囲気を壊すんじゃねーよ。

「そうですね。富音さん、いつなら予定開けられます? 最近は色々と忙しいでしょう?」

「そんな道理、私の無理で抉じ開ける!」

「開けんでいい開けんでいい」

 無理すんなBBA。

「とにかく、恵と話し合う機会をこっちでもうけますから、あとは自分の力で何とかしてください」

 さて、次は娘の方を何とかしなくちゃならないな。


 ☆


 後日、また生徒会の手伝いに参加して作業をする途中、隙を見てこっそり恵に声をかけることに成功した。その時に新しく追加したいメニューがあるからという理由で恵を俺の家に誘う。この時、加奈たちは事情を説明して部室で待機していてもらう。

 予めこの家にその人がいるということを分かっている俺よりもいち早く、リビングに案内した瞬間に恵はその人の存在を察知した。

「……かいくん、どういうこと」

「俺が思うに、お前ら親子に足りないのは対話の為の時間だ」

「もう散々、話し合ったよ」

 そんな恵の言葉に俺は首を横に振る。

「いや、まだ本来の意味で話し合えてはいない。だって、富音さんはずっとお前と向き合っていなかったんだから」

「どういう意味?」

「今にわかるさ」

 あの人が、どれだけ変態的かということがな!

「……かいくんがなんとかしてくれるんじゃなかったの」

「あ、それについては謝るわ。やっぱあれだな。慣れないことはするもんじゃないな」

「やけにアッサリしてるね!」

「でも一応、舞台は作ってやっただろ。ほら」

 そう言うと、俺はこの時の為に恵の為に買ってきたエプロンを手渡す。これはこれでどんなものが恵に似合うのかと少し悩んだものだ。

「えっと、これ……」

「それ別に返さなくていいからな。お前の為に買ってきたやつなんだから」

 あとで返されても困るしな。

「わ、私のために? えっと、あ、ありがと……かいくん」

 どう反応すればいいのか分からない様子の恵は顔を赤くして、でも富音さんの方を見て困ったような、俺に対して怒ったような、そんな複雑な顔をした。

 そしてここまでくれば、さすがの俺にもわかる。

 富音さんが今、殺気を俺に向けているということに。


(お前を殺す……!)


 今度はやたらとシンプルだなおい。それどこのアフターコロニーのテロリストだよ。

 なに、一話から量産機と一緒に海に沈められたいの? それとも死神からパーツを盗みたいの?

「とにかく、お前は対話でもしてこい。せっさんもちゃんと映画で地球外生命体と対話を成功させてメタル化してただろ。見習え」

「メタル化までは見習いたくないんだけど……でも……」

 恵は不安げな目を俺に向ける。一瞬のことだが、俺は目の前の少女と見つめ合うことになった。

「ふぇっ……」

 恵はまたもや顔を赤くして、でも何か決心をしたように。

「か、かいくん……」

 距離が近い。互いの吐息や体温が感じられるぐらいの距離だ。この距離だと恵の赤い顔がよく分かる。表情はどこかトロンとしてて、どこか凄く緊張しているようにも見える。

 とりあえず俺は恵をリビングへと押し込んだ。富音さんには、ちゃんと『本当の自分を曝け出してください』と念入りにお願いしてある。それをお願いした時に「フヒヒ……」みたいな声が聞こえたのはきっと気のせいだろう。うん。

 そうとも知らずに恵はリビングへと足を運ぶ。まあ、何かを決心したなら何よりだ。ここからは大変だろうなー(棒)

 さあ、ショータイムだ。


「きゃ――――――――――――――――!」


 何やら恵の悲鳴のようなものが聞こえた気がするけどきっと幻聴だろう。

 俺は恵を生け贄に捧げリリースして、トラップカード、対話(物理)を発動するぜ!


 ☆


「かいくん酷いよ……」

「いや、お前の変態的な母親のことまでは知らねえよ……」

 後日。

 恵と二人きりで、加奈と初めて会った時に使った喫茶店に訪れた。

「まさか……ママが……うぅ……」

 ご苦労、お察しいたします。でもまあ、誤解がとけて何よりじゃないですかー(棒)

「確かにお前の母親はただの変態だが、とりあえずハッピーエンドでよかったじゃないか」

「ハッピー……エン……ド……?」

 gdgdエンドの間違いとか言っちゃだめ。

「で、転校の件はどうした?」

「上目使いでお願いしたら撤回してくれたよ……」

 ああ、易々とその光景が目に浮かぶ。


『ママ……私、転校したくないな(はぁと)』

『ひゃんっ! あぁんもう、仕方がないですね~! ハァハァ。ですからもう一回、今のもう一回オナシャス!』


 みたいな感じだろう。たぶん。

 うわぁ。これだけ騒がせた割には物凄く適当な終わらせ方だな。マジ引くわー。俺の気苦労っていったい……割と深刻に悩んだ時間を返せよ、マジで。そもそも俺と扱いが違うだろ。俺が恵の転校を撤回するように頼んだら『無理です(キリッ)』だったのに恵が色仕掛けで頼めば一発かよ。ざけんな。

「うん。合ってる。もうそのまんまだよ」

 お前はエスパーか。

「ああ、やっぱりまともに話し合ったらお前が勝つんだな……」

「みたいだねぇ……」

 遠い目をするんじゃない。気持ちはわかるけど。

 それにしても、どうして俺の周りには変態しかいないのか。

「でも……ありがとね。かいくん」

 恵は照れているのか、俺に視線を合わせようとはせず、窓の外を眺めながら言う。

「もしずっとあのままだったらさ。いくらド変態なママとはいってもこう……嫌っているままだったし、パパとの約束も知らないままだったし……ママとも、仲良くできなかっただろうし……」

「今の流れで言われると『ママとも仲良く(意味深)』にしかきこえないんだけど」

「そこはきこえなくていいから」

 だろうな。

 でも、今すぐ仲良くというのは無理だろう(何しろあの母親だし)。また意見が対立することもあるだろう。けど、そのたびにちゃんと話し合いが出来れば、きっとちゃんとした親子としてやっていけるはずだ。

 ……何故だろう。富音さんだと不安しかないや。

「あ、あのさ。ママも、今度はちゃんと今の私を見て考えてくれるみたい。自分の考えだけじゃなくて、私のこともよく見て、考えてみるって」

「へぇ。そりゃよかったじゃん」

「うん……ただ、だからって『ちゃんと今の恵を見ますからねハァハァ。フヒヒヒ……生着替えハァハァ』とかいって着替えを覗こうとしたりお風呂に一緒に入ってこようとするのは遠慮してもらいたいかな……」

 和解(?)したことでリミッターが外れたか。あの変態め。

「ま、まあ、あれだ。とりあえずあの人も恵の幸せを考えているということは信じてやれ」

「それは信じるけどやり方というものがあってね……」

 どうやら今の状況はそれはそれで苦労しているようだ。

 そろそろ話題でも変えるか。とはいっても、さほど変わらんが。

「そういえばさ、文化祭のメニューのことなんだけど」

 あの日、この親子を話し合わせる時についでに文化祭のうちの部の喫茶店で出すメニューを頼んでおいたはずだ。会話をするきっかけにでもと思ったが。

「ああ……うん……あのね、えっと……」

 この話題を出した途端、もじもじと恵は恥ずかしそうに両手の指をいじいじする。

「ま、ママが……一緒にメニューを考えてくれたんだ……」

「へぇー。どんなの?」

「に、肉じゃが……」

「……早急に白飯をメニューに追加する必要がありそうだな」

 無理だろう……手間的に無理だろう……。いや、数量限定であらかじめいくつか作っておけばなんとかいけるか。いっそのこと数量限定の肉じゃが定食として出せば……。

「手間とか時間的に無理かもって言ったんだけど、『恵の為ならクロッ〇アップもしてみせます』とかわけのわからないことを言い出して止めるにとめられず」

「そこは止めろよ。そもそも生身のくせしてタキオン粒子で時間の流れを操作するとか人外じゃねーか」

 何なのあの人。肉じゃが作りにおいても頂点に立つ女なの? 神に代わって剣を振るうの?

「あ、えっと……かいくん」

「ん。なに」

 話をきいているだけで疲れてきたよ。あの人、どうしてここまで人のライフを削ってくるんだろう。バーンデッキ好きそう。

「パパはね、ママに私を幸せにしてって約束したんだって」

「知ってる」

「だ、だからね、その、パパとの約束を果たすためにも……その、か、かいくんが……かいくんが……」

 恵はきゅっと目を閉じて、顔を今までにないぐらいに真っ赤にして。

 それでも俺の方を向いて、言う。恵はなぜか緊張していて、心臓の鼓動もバクバクいってそうだ。それぐらい顔が赤くて、緊張しているのがはた目からもわかる。そして恵は、自分のその白い指と指をまるで何かに祈るように結びながら、そう言った。


「かいくんが……私を幸せにしてくれる?」


 空気が、空間が、一瞬、静止したような感覚が訪れた。

 恵はその言葉を言った後、かぁーっともともと赤かった頬を更に赤くする。どれだけ緊張しているんだ。いつもの恵からは考えられん。

 俺はジュースを口を含み、一つの疑問を口にする。

「逆に聞くけどさ、恵は今は幸せじゃないのか?」

「ふぇっ?」

 虚を突かれたように恵が口を開ける。

「あ、いや、そ、そんなことはないよっ。今って、とっても楽しいし、幸せだよ……」

「そっか」

「で、でも、私が言いたいのはその幸せじゃなくて……」

「じゃあ、大丈夫だろ。富音さんはお前をちゃんと幸せにしてる。約束は守れてるよ」

「そ、そーじゃなくて……」

 ガクッと恵はあきらめたかのように肩を落とした。何をあきらめたのか知らないが……恵も大変だなぁ。

 入る前よりもなぜか若干、気落ちした恵と店を出る。外はもう夕方のようだ。夕日に照らされた道を一緒に歩いていく。もうすぐ夏休みも終わる。夏休みが明ければ二学期で、すぐ文化祭が訪れる。

 正直、楽しみだ。今までこんな気持ちで二学期を迎えることが出来たことなんて、小学校以来なかっただろう。いや、小学校のときいじょうだと断言できる。

 だがそんな俺の晴れやかな心とは裏腹に、隣をとぼとぼと歩く恵は落ち込んでいる。

「はぅぅ~……本当に手ごわいなぁ……」

「何が」

「……かいくんには教えてあげない」

「? そっか」


 さて、残りの夏休みをこいつらとどうやって過ごそうか。


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