第39話 生徒会室?
朝食をとって、準備を済ませた後に俺たちは夏休みの生徒会活動を手伝うべく家を出た。合宿(という名の旅行)にわざわざ生徒会メンバーを二人も駆り出してもらったのだから当然のことで。それに俺個人として正人や葉山には何かしてやりたいと思ったからだ。
俺はスマホを取り出してLINEを起動させる。とある人と連絡を取りつつ、学校に向かう。加奈たちはお喋りをしながら楽しそうに登校している。その隙を見計らって背後の電柱の陰へと視線を送る。
そこにはやはりというか、当然というか、富音さんが待機していた。待機という言い方は違うか。ストーキングの方が正しいのかもしれない。どうして俺の周りにはストーカーが多いのか。因みに俺が連絡をとっている人というのは富音さんだ。今の恵の姿を見てほしいと思った俺はこうして協力しているのだが……どうしてかな。富音さんの呼吸が荒いのは。気のせいだろうと思いたい。
「あ、あの……」
「ん。どうした美紗」
「海斗くんは……今日、どうして生徒会のお仕事を手伝いにきたの?」
「そりゃ、まあ。正人や葉山には普段からお世話になっていr『参考までにどんな風にお世話になっているのか教えてっ!』おおう。どうしたいきなり……」
美紗は大人しい子だと思ってたんだけどな。たまに物凄く積極的になるときがあるんだけど。そもそも参考までにっていったい何の参考だ。
「そ、そうだな……まあ、俺と友達でいてくれたり?」
「俺と友達でいてくれたり(意味深)……えへへ」
「あとは……色々と助けてくれたり教えてくれたり?」
「手とり足とり(意味深)?」
俺は以前、正人や葉山と童心に帰って野球をして遊んだ時のことを思い出した。たまには体を動かすのもいいよな、ってことになったのだ。ただ、俺は友達と野球をして遊んだことがあまりなかったから正人が俺と葉山に丁寧に教えてくれたのだ。懐かしいな。ほんとうに少し前の話なのに。
「……ん。まあ、そうだな。まさに手とり足とり、かなり丁寧に教えてくれたよ」
「普段からお世話に……手とり足とり……かなり丁寧……えへへ……うふふふふふ」
美紗の顔がとろけるような笑顔になっていく。しかも顔を赤くしてきゃーきゃー言っているし、朝っぱらから何か良いことでもあったのだろうか。
「親密になった二人はある日家で二人っきりに……近くで感じる体温……近くで感じる吐息……自然と乱れていく呼吸……海斗くんはぶっきらぼうに『今日はもう遅いから……泊ってけよ』って言って、遠慮する正人くんに海斗くんが慌てて『き、今日、色々と教えてくれたお礼だっ』って言って……それでそれで」
なぜだろう。俺の生存本能か何かが働いたせいか美紗の言っていることがまったく聞こえない。
「……朝から寒気がするんだがこれはいったい」
と、俺が突如、美紗の言葉が聞こえなくなってしまった直後に正人が合流した。通学路が途中まで同じな為に自然とこうして合流することになる。
「奇遇だな。俺もだ」
「お前もか……なんなんだろうな。いったい」
俺と正人がいつもの調子で会話していると、美紗がきゃーきゃー言いながら頬を赤らめて俺たちの様子を見ていた。そんな美紗を見た正人が「おお、寒気の正体はこれだったのか……」とがっくりと肩を落とす。何かは知らんが、こいつも朝から大変だなー(棒)
しばらくはこうして一緒に歩いていく。が、途中で正人がピタリと足をとめた。
「………………ちょっとまて。どうしてここに部員が勢ぞろいしてるんだ?」
今更気がついたのか正人は意味深な目で(ホモホモしい視線ではない。念のため)見てくるので俺はありのそのままの事実をお伝えする。
「このBBA共が勝手に人のうちに上がり込んだだけでは飽き足らず、泊って行きやがったからだ」
「よし、お前ちょっとそこに正座しようか」
「なんで」
「うるせえ! なんだよなんだよ! 人の知らないところでハーレムを作っただけじゃ飽き足らず、家にお持ち帰りか! 俺なんかなぁ、俺なんかなぁ! この夏休み、ドSで美少女な先輩にこき使われてヘトヘトなんだぞ! 嬉しいけど! それなのにお前はあれか! この夏休みはずっとひゃっほいしてたのか! うらやまけしからん!」
「誰がお持ち帰りだ! 第一なぁ、俺がハーレムを作るとしたら幼女ハーレムを作るわ! お持ち帰り? 笑わせる! 朝のうちに宿題をやらせてからお外で遊ばせるか一緒にお人形さん遊びをやり、おやつを食べさせたら親御さんが心配しないようにお家に帰らせるに決まっているだろうが! かたなし先輩はな、おやつを食べさせた後にはちゃんと歯も磨かせるんだぞ! すげえだろ!」
「すげえのベクトルが違うんだよ! 血液逆流させるぞ!」
「やってみろよ。そげぶしてやんよ!」
ぎゃーぎゃーと俺と正人が言い争っていると、不意に渚姉妹が近づいてきた。
「あ、あの……篠原くん」
「ん? なんだい美紗さん」
「えっとね……海斗くんは悪くないんです」
どういうことだ? と、正人が俺に視線を送る。ナイスだ美紗。ここで誤解をちゃんと解いておこう。
普段は大人しい美紗が頑張って正人のバカを説得してくれようとしている。俺もここは素直に見守ろう。やがて美紗は上目遣いで、頬を僅かに赤く染めながら、誤解をとく一言を放つ。
「わ、私たちが、泊めてって海斗くんにお願いしたから……」
「よーし、歯ぁ食い縛れ」
なぜだ。
「待て! 美紗の言葉をきいていただろう!? 俺は何も悪くない! このBBA共が悪い!」
「うるせえ! こんな美少女達をはべらせてひとつ屋根の下で一夜を共にしたというのはもうゆ゛る゛さ゛ん゛! あーもう怒った。未来から俺を三人ほど呼んできてやるぅ!」
「それなんてBLACK RX?」
歴代でもトップクラスのチート能力を誇る仮面ラ〇ダーのようなことをしでかす正人を宥めながら、俺たちは夏休みの学園へと向かった。校内には夏休みにも関わらず多くの生徒たちが登校してきていた。
八月に入って活動が本格的になってきたのだろう。
正人の歩調は変わりない。慣れた様子で生徒会室までの道のりを歩く。その横顔は、しんどいしんどいと言っている割に楽しそうで。
俺としては、友達が充実した学園生活を送っているようで少し安心した。
生徒会室は校舎の教務棟三階にある。パッと見は俺たちが普段使用している空き教室とそんなに変わらないその扉。だが、<生徒会室>という黒文字が燦然と輝くプレートがあるだけでどこか別の、異世界の扉のように思えてしまう。だが、正人本人はここに来るまでの歩調となんら変わらぬ様子で、そんな異世界の扉を開けた。
「おはようございまーす、篠原でーす。助っ人連れてきましたー」
少し緊張する。
何しろ、俺が今、とても大切に思っているこの日本文化研究部という場所を作るにあたって、やや乱暴な手段を使用した。その際にはこの生徒会室に赴いて(乗り込んで?)、脅迫まがいのことをしてしまった。
最初に言っておく。俺は生徒会室にかーなーり、入りづらい。
だが、今回はそうも言ってられないし、一人黙々と機械的に作業をするとしよう。
そんなことを思いながら、俺は生徒会室に一歩足を踏み入れると――――、
「うふふふふふ。こうして欲しいのでしょう?」
「ああああああ! はいっ、もっとこの僕にお仕事を押し付けてくださいませええええ!」
そこにいたのは、四つん這いになって背中に大量の文化祭用資材を乗せられてハァハァしている変態先輩(男)と、変態先輩の頭を足で踏みつけて得も言えぬ快感をその表情に表した変態先輩(女)がいた。
あれ? おかしいな。ここ、生徒会室だったよな。あれ?
「あ、先輩方おはようございます」
「あらおはよう篠原くん。今日もご苦労様」
「いえいえ。西嶋先輩のような美少女がいれば、文化祭の準備程度、苦でもありませんよ」
「あらそう。それなら、さっそく来場者用プログラムその他諸々の配布資料の仕上げや看板作り、生徒会の当日スケジュールの調整、文化祭実行委員とのスケジュール合わせ、部活動や各クラスの出し物類のチェック作業をグラウンドのど真ん中でやってもらいましょうか」
「やめてください死んでしまいます」
さっきから四つん這いの変態を踏みつけているロングヘアのBBA先輩は、どうやら西嶋先輩というようだ。つーか、俺が生徒会室に乗り込んだ時には一人しかいなかったからな。こんなドS先輩がいたとは知らなかった。
「おいこら篠原くん! 西嶋さんのことを気安く呼ぶんじゃないと何度も言っているだろう! 西嶋さんのことはご主人様と呼びたまえ!」
「あ、東沢先輩。今日もナイス四つん這いですね!」
「なめてもらっては困る。西嶋さんのドSっぷりがこの程度ではないように、僕の四つん這いもこの程度では……」
「あら。私がいつ、豚に私の名前を口にしていいと許可したのかしら?」
そういうと、西嶋先輩がぐりぃっと更に上履きを四つん這い先輩の頭にめり込ませる。傍から見たら痛そうに見えたが、四つん這い先輩は快感を露わにしている。やべえ。この人マジモンの変態だ。
「あふん! おゆるしくださいご主人様!」
「あらそう。なら許してあげる」
「ああっ! やめてくださいご主人様! 足を収めるなど!」
「あなたは私にどうしてほしいと?」
「さっきと同じように……いや、もっと強くお願いします!」
「さっきと同じように、じゃ何をすればいいのかが具体的にわからないわねぇ……言葉にしてくださる?」
「踏んでくださいご主人様ァァァアアアアアアアアアアアア!」
メキィッ! と、ドS先輩のヒールが陥没せんばかりにドM先輩の頭へとめり込んだ。どうして生徒会室でヒールをはいているのかは触れないでおこう。
あるぇー? おかしいな。俺ってば確か、生徒会室にお手伝いしにきたはずなのに。
なのにどうしてドSとドMな先輩のやり取りを見ているのだろう。おかしいな。
「よーし、じゃあ奥に入ってくれ」
まるでこれも風景の一部とでも言わんばかりに正人は奥へと進んでいく。ああ、お前も色々と苦労してるんだな……。
生徒会室はそれなりに広く、更に奥のスペースが存在していた。そこには大きな長机が一つ。その周囲を囲うようにして椅子があり、席はその大半が埋まっていた。空いているのはあのドS先輩とドM先輩の部分だろう。
「あ、生徒会長。助っ人連れてきましたー」
正人が生徒会長、と呼びかけた人は、ほんわかな雰囲気を体に纏った妖精のような人だった。発育のある、吐き気すら催しそうな豊満な胸に、ふわふわのロングヘア。こんな真夏なのにぽかぽかと日向ぼっこでもしているような、おっとりとした空気をもった人。入学式で見たことがあるな。何て言ったっけ。確か……ああ、そうだ。北宮沙織先輩、だったか。
「あら~、正人くん、おはよう。正人くんのお友達の方々も、おはようございます」
「おはようございます!」
元気にあいさつする正人。俺たちはというと、さっきのSMショックがまだ抜けきっていないせいかややぎこちない挨拶を返す。
「よっ。来てくれたんだな」
ここで、正人いがいにも見知った顔をみつけてほっとする。国沼だ。SMショックの余韻を引きずっている俺からすれば、地獄に仏のような状況だった。
「国沼。助かったよ。生徒会室に入ったと思ったらSMワールドが繰り広げられてたから、キングク〇ムゾンでもくらったのかと」
「はは……ま、まああれだ。時を吹っ飛ばされたわけじゃないから安心してくれ。別に悪い先輩たちじゃないんだ」
国沼がそう思うならそうなんだろ。うん。そう信じよう。さっきあのドS先輩が思いっきりヒールをはいた足でドM先輩の頭を思いっきり踏みつけていたけど、信じよう。
「いや、本当に助かったよ。葉山がさ、文化祭実行委員の方にスカウトされてしまったから、人手が足りなくなってたんだ」
俺が知らない間にそんなことになってたのか。葉山も、この学校に来てちゃんとしたやるべきことが見つかって何よりだ。どうか、俺みたいな事にはならずに交友関係を広げて欲しい。
「ん。あれ、南美先輩は?」
「……ここにいる」
凛とした、けどどこか聞き覚えのある声。そんな声にひかれて視線を移すと、そこには黙々と作業をする一人の少女の姿があった。物静かな、それでいて感情の読み取れない表情をしたその少女は、誰かに似ていた気がした。
南美先輩、というその少女はちらっと俺たちの方に視線を向けると、その視線を俺たちの誰かと固定する。やがて、南美先輩は小さな唇を開くと、
「……まさかとは思ったけど、日本文化研究部って南帆のいるところだったんだね」
「……お姉ちゃん。やっぱり、今日も生徒会に来てたんだ」
『お姉ちゃん!?』
本当に、ただの感謝の気持ちで来たこの夏休みのお手伝いだが、まためんどくさい設定が追加されてしまったようだ。……どうなるんだ、俺の夏休み。




