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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第4章 襲来するお母さんと夏休み
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第37話 夜のファミレスにて

 コンビニに向かうはずだった俺が現在いるのは、近所にあるファミレスだ。時間が時間だからか、人は少ない。そんな店内の片隅で、俺と恵の母親である富音さんは向かい合わせで座っていた。

「あのー……」

「なんでしょう」

「えっと、俺たち明日、生徒会の手伝いに行かなきゃならないんで、出来るだけ早く帰りたいんですけど」

「そうですか」

「はい。そうです」

「…………」

「…………」

 このBBA。マジで人の話聞けよ。早く帰りたいっつってんだろうが。

 俺がそんなことを考えながら、「魔法少女ぷりてぃー☆らぶりん」という女児向けアニメとのタイアップ商品のプリンを食べる。このプリンを一つ注文する毎にそのアニメのキャラが描かれたカードが一枚貰えるのだが、五人のキャラのバージョン違いで全部で10種類ある。主要登場人物が全員小学生なので、この夏休みでフルコンプしてやろうとしているのだが最後の一種類がなかなか出ないのだ。もう百回は食べたな……教えてくれごひ。俺はいつまでこのプリンを食べればいいんだ。らぶりんちゃんは俺に何も言ってはくれない……。

「……あの」

「ふぁい?」

 暇だったので頼んだ五つのプリンを租借していると、唐突に富音さんが口を開いた。いつもの凛とした表情はどこへやら、若干だが恥ずかしそうにこちらを睨んでいる。

「……恵を家に連れ込んで何をしているのですか?」

「は?」

「とぼけないでもらいましょうか。私はちゃんと、この目で見ましたよ。あなた達が恵を家に連れ込んでいくのを」

「連れ込むも何も同意の上なんですけど」

「嘘をつかないでください。恵を誑かしたのはあなたでしょう?」

「あァ!?」

 寝耳に水とはこのことだろう。俺が恵を誑かした? 片腹痛い。

「なんですかこの反応は。こっちは訴える用意だって出来ているんですよ?」

「ちょっと待てコラ。話が飛躍し過ぎだろうが!」

 まずい。このままでは裁判沙汰になりかねん。俺には何もやましいことなどないというのに。

 よし、ここは俺の正直な気持ちを言おう。

「俺は恵を誑かしたりはしてません。幼女でもないあんなBBAには微塵の興味もありませんから!」

「通報しました」

 あれ? そんなバカな。

「……まったく。恵が駄目になった理由が分かった気がしますね」

 ハァ、とため息をつきながら眉間を抑える富音さん。だが俺は、この人に聞きたいことがあった。

「富音さん。一ついいですか?」

「何ですか? 変態」

 おおぅ。なぜ俺は変態と言われなければならないんだ。そもそもなぜ俺は周囲の人たちから変態と言われなければならないのか。

「っていうか、どうしてあんなところにいたんですか?」

「……………………」

 黙秘かこのBBA。

「しかもストーカーみたいに」

「ストーカーとは失礼ですね」

「いや、どう見てもストーカーでしょ。電柱の陰に隠れるのはストーカーか幼女を見守る者ガーディアンと相場が決まってるんです」

「それはどっちもストーカーではないのでしょうか?」

 フッ。分かってないなこのBBAは。どうやらテレビには出ていても世間の常識には疎いらしい。そもそも俺たち幼女を見守る者ガーディアンの聖域(※電柱の陰です)に土足で踏み込んでおいてよくもぬけぬけと。

 富音さんはコーヒーを飲みながら素知らぬ顔だ。

「まるで恵を見守っているみたいでしたが」

「あなたが何を言っているのか全く分かりませんね」

「では質問を変えます」

「一つじゃなかったのですか」

「やれやれ、細かいですね。これだからBBAは」

「はり倒しますよ?」

 姉ちゃんの言っていたことが今になって分かってきた気がした。確かによくよく考えれば……ってなる。だが確証に至るにはまだ足りない。もう少し揺さぶってみるか。

「……つーか、どうして恵を転校させたいんですか?」

「前にも言ったはずです。あの学園に入ってから恵が変わってしまいました。だから一刻も早く連れ戻したいんですよ」

「恵が変わった、ね……でも転校したからと言って元通りになるわけじゃないですし……それに、」

 俺は目の前の相手を、富音さんを見据えて言う。

「その元の恵とやらが本人にとって良いとも限らないじゃないですか」

「……知った風な口を」

 俺の言葉に気を悪くしたように、富音さんが冷たい目で、声で、言う。

 おおっ。怖い怖い。

「中学の頃までの恵は大人しい子でした。本を読んで知識を培い、運動も出来て、成績もトップでした。ですが高校に入ってからは髪を染め、テストの成績だって、赤点ギリギリなんてありえない点数をとるようにもなって……親としては心配するのが当然でしょう?」

「おおぅ。やべぇな。全く反論できないッスわ」

 どうしよう。これ完全に論破されてね? 高校に入ってからのこの変貌っぷり。そりゃ確かに親としては心配になるよね!

「いや、それにしても……あの恵が中学時代は大人しくて読書ばっかしてたっていうのは想像できないな……」

 読書といいつつラノベ読んでましたとか某変身ヒーローの超データファイル読んでましたとかなら分かるけど、この人の言っていることはそういうことでもないのだろう。

「意外ですか?」

「そりゃ、今の恵を見てたらね」

 少なくとも、大人しくしているようなやつじゃないとは思うんだけど。

「私は、恵をずっと一人で育ててきました。惨めな思いをしないように、勉強や運動を促しました。それも全て、これからの人生を生きていく上で不自由しないようにと。それを、こんなところで邪魔されるわけにはいきません」

「促しました、ね……」

 何となく。何となくだけど、恵がどうして中学までは大人しかったのかが少し分かってきた気がする。それに姉ちゃんの言っていたことも、本当にあと少しで理解できるような。

「ん? ちょっと待ってください」

「なんですか」

 優雅にドリンクバーのコーヒーを飲む富音さん。でもここ、ファミレスなんだよな。時間が時間だし、近くだとここしかなかったっていうのも分かるけどミスマッチにも程がある……じゃなくて。

「や、そもそも俺ってどうしてこんなところに連れてこられたんですか?」

 さっきはなんだかんだではぐらかされたけどどうして俺が夜中にBBAとファミレスにいるのか。その理由がまだハッキリしていない。

「……………………」

「そろそろ黙秘は飽きたんだよ。さっさと喋れやBBA。いや、マジで」

 流石にいきなりこんなところにまで連れ出してきたのはバツが悪かったのか富音さんは苦虫を噛み潰したかのような表情をした後、ポツリと言葉を漏らした。

「……このこと、恵には話さないでください」

「は? このこと?」

 俺が首を傾げると富音さんは人目を忍び(今さらファミレスで何を)、顔をやや赤くして恥ずかしそうにしながら。

「……だからっ、今夜、あなたを連れ出したことと……そのっ、あの場所であなたの家を監視していたことは恵には話さないでください」

「…………………………………………あー……」

 あー、なるほど確かにね。うん。姉ちゃんの言いたいことが分かった気がするわ。

 くそっ。それを考えたら俺めちゃくちゃ恥ずかしくね? なにあのシリアス展開を装った引き。これじゃ完全にシリアスどころかシリアルだよ!

「な、なんですか。その『あー』って」

「……富音さん」

 俺はため息をつきながらやれやれだぜと言いたくなる気持ちを必死に抑えて、言った。


「富音さんって、実はとてつもな――――――――く恵のことが大好きでしょ」


「なっ……! そ、そんなわけっ……!」

 図星だったのかどうか知らないが、富音さんが更に顔を赤くして俺の言葉を否定する。いや、否定しようとした。だがその先の言葉は、出なかった。きっと、いくらこの場を凌ぐためのウソとは言え、娘を嫌いだとは、嫌いだと意味するようなことは言えなかったに違いない。

「そうだよなー。本当に嫌いだったらわざわざあんな遠い他人の別荘まで踏み込んでこないだろうし、こうやって夜遅くまでストーカー、もとい、見守るようなことはしないよな。うん」

「か、勝手なことを言わないでもらえますか?」

「恵の話をあんまりきかずに自分の主張を押し付けていたのも、下手に会話をしてしまうとボロが出るか……それとも恵のお願いをホイホイなんでもきいてしまうから」

「か、勝手にゃことを」

「ん? 待てよ。恵は中学の時に部活動に入ってなかったよな。塾に行ってばかりだったって……ああそうか。部活動にいかせると恵と一緒に過ごす時間も少なくなるよな。自分の塾に置いておけば割と頻繁に恵の姿を見ることが出来る。けど、この学校に来てからは塾をやめて部活動に入った。富音さんは有名になったが為に家でも恵と一緒に過ごせる時間も少なくなった。恵が塾に通っていればまだ一緒に過ごせる時間もあったのに、それもなくなった。だから、恵が入部した部活動のある学校から転校させようとしている……こんなところでしょうか」

「……もうやめてください。お願いします」

 ファミレスのテーブルの上に突っ伏す美人。絵に……ならねえな。いくら若々しくて綺麗だと言っても所詮はBBAだ。そもそも美人がファミレスのテーブルの上に突っ伏すってシュール過ぎるわ。

 やがて富音さんはゆらりと顔を上げると、まだ赤身の残る頬を見せながら懇願するような眼で俺を見つめる。

「お願いします。このことは恵には……」

「ん? どうしてですか? 恵のことが大好きなんでしょ? そんなの母親として当然の感情じゃないですか」

「ええそうですとも。私は恵が好きで好きでたまりません。もうこれでもかというぐらいに愛してます。どれぐらい愛しているのかというと毎日寝顔を写真に収めているぐらいに愛していますし、どれだけ忙しくとも恵の洗濯物だけは私の手で洗うぐらいに大好きですよ」

「ただの変態じゃねーか!」

 ついに本性を現しやがったか。

 まったく。どうして俺の周りには変態しかいないのか。もう常識人といったら俺と葉山と国沼ぐらいしかいないじゃないか。しかも部室の中に限定したら俺以外、全員が変態ということになる。

「……ああ、もういい。それで、なんでその気持ちを伝えてやらないんですか」

 さっきの言葉をそのまま言ったら言ったで大変なことになるだろうけど。

「だって……」

 富音さんは目を伏せると言葉を口にするのを躊躇うようにした。何か重大な秘密でもあるのだろうか。まだシリアスルートに行く可能性を否定出来ない。俺は身構えるようにして富音さんの言葉の続きを待つ。やがて富音さんは意を決したように、

「だって……恥ずかしいじゃないですか」

「はい解散。お疲れさまでしたー」

「待ちなさい」

 いつの間に回り込まれたのか、首根っこを掴まれてずるずると元の席に戻される。

 何これ。なんなの恥ずかしいとか。これは確かに恵がお願いしてれば余裕で解決するよ! うっわー。俺マジで恥ずかしいわ。何これ。本当に何なのこの茶番。真剣に悩んで損したよ!

「なんですか。そろそろいい加減この茶番にもつきあってらんないんですよ。さっさと俺は幼女とレッツパーリィしたいんですよ」

 ギャルゲーでな!

「それが本当なら警察に引き渡すところですよ」

「で、なんですか」

「だから……このことは恵には黙っておいてください」

「えー……正直、もうこんな茶番には付き合ってられませんよ」

「おっと偶然にもここに恵の小学生時代の生写真が」

「絶対に秘密は守ります。我が主よ」

 はやく家に帰ってスキャンした後に写真は金庫に保存しておくか。これで俺の幼女フォルダがまた潤うな。やはり赤いランドセルは紳士の夢が詰まった人類の至宝である。フヒヒ……可愛いよぉ。めぐみたん可愛いよぉ。ハァハァ。まったく、小学生は最高だぜ! 重ねて言うならランドセルも最高だぜ!

「まったく……恵が可愛いのは分かりますが、手を出したらタダじゃおきませんからね」

「は? 誰が好きの好んでBBAなんかに手を出すんですか。もう少し頭を使ったらどうです?」

「あァ?」

「ごめんなさい。申し訳ありませんでした」

 怖い。BBA怖い。

 殺気だけで殺されそう。どこの念使いだよ。つーかいい加減、子離れしろよ。

「で、恵の転校は勿論取り消してくれるんですよね?」

「それは無理です」

「どうしてですか。傍に置いておきたいなんて理由なら別に良いじゃないですか」

「それだけが理由じゃありませんよ。恵の成績がわざととはいえ落ちたのは確かですし、それに……」

 富音さんはさっきまでとはうってかわって遠いような眼をする。その眼がいったい何を見ているのか、俺には分からない。

「約束がありますから。恵を幸せにするという約束が」

「約束……?」

 そういえば、さっき一人で育ててきた、って言ってたよな。

「富音さん。失礼を承知でお聞きしますけど、恵の父親は……」

「病気で亡くなりました。恵が小学校を卒業した頃にね。恵を幸せにしてやってくれという約束も、主人とのものです」

 それは不意打ちとも言えるような感覚で。

 ある程度、予想はしていたけれども。

 だけどそれでも、俺もショックを隠しきれなかった。

「聞いた話だと恵は今の学校でとても楽しくやっているようです。ですが、もしかしてそれは強がりなのかもしれないと思う私がいるんですよ」

「…………」

「それに、ただ私に反発しているだけとも思うんです。子供の頃から、厳しくしてきましたから、きっと私も嫌われているでしょうし」

「厳しく?」

「ええ。良い成績をとって、良い大学に進んで、良い企業に就職すれば何も困ることもないでしょう? たからこそ、恵を厳しく教育してきました。それがあの子の為になるからです」

 恵のあのいつもの笑顔は、実は強がりなのではないか。

 そう思う気持ちも分かる。

 恵がただ富音さんに反発したいから今の学校はとても楽しいと言っているのではないか。

 そう思う気持ちもわかる。

 でも、俺はどうしても今までの恵の笑顔と気持ちが、嘘だとは、強がりだとは、ただの反発から来ているのだとは、どうしても思えなかった。

 それを富音さんにも知ってもらいたい。

「……じゃあ富音さん。見てみませんか」

「何を、ですか?」

「今の恵をです」

 きょとんとしたような顔をする富音さん。それもそうだ。言っている言葉の意味が上手く理解できていないのだろう。そりゃ俺だって急にこんなことを言われれば戸惑いもする。

「今の恵を見てみてください。今の恵の笑顔を見てみてください。そのお父さんとの約束が守れていないか、あなた自身の目で確かめてみてください。全てを決めるのは、それからでも良いんじゃないですか?」

 

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