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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS② なんちゃってDQNとお嬢様
43/165

ifストーリー 加奈ルート④

加奈ルート最終話です。


もうこの二人は末永く爆発しろ。

 夏休みも終了に迫った日曜日。

 俺は駅前の広場へとやってきていた。文化系の部活のやつらはどうやらこの夏休み中もわざわざ学校に来て文化祭の準備をしているようだが、どこの部活動にも所属していない俺にとっては関係ない。そもそもクラスの方だって俺がいてもろくに手伝えないのだ。

 更にぶっちゃけて言うならば、俺にとっては文化祭の準備よりもデートの方が大事なわけで。

 駅前の広場の中央に位置する場所にある噴水の前で待っていた俺は、小走りで駆け寄ってくる少女の姿を見つけた。

「ごめんなさい海斗くん。待ちました?」

「いや。俺も今来たところだ」

 定番とも言える返しではあるが、本当のところは一時間前に来てました。はい。

「そんなに急がなくてもよかったのに。まだ集合時間まで少しあったしな」

「はやく海斗くんと会いたかったんですよ」

 そう言ってニコッと微笑みかけてくれる加奈たんマジ天使。シフォンワンピースに身を包んだ加奈は息を整えるともう一度その笑顔をむけてくれる。

「その服、似合ってるぞ」

「嬉しいです。これでもけっこう悩みましたから」

「えっと……うん。あれだ。今日も可愛いな」

 俺が照れくさくなりながらも本音を口にすると、加奈は幸せそうな笑顔になって笑ってくれた。

「えへへ。ありがとです♪」

 制服もいいけど私服もいいなぁ。なんて思うのはやっぱりあれか。バカ過ぎるか。でも可愛いのだから仕方がない。

「そ、それじゃあ、とりあえず歩くか」

「そうですね」

 あの日。加奈に告白した日から夏休みが終わるのはあっという間だった。あれから何度もデートをしたし、一緒に海を見に行ったりした。加奈は水着姿も似合っていて。可愛くて。

 ……それだけに周りの悪い虫の視線を払うのにやや苦労したけど。

 それに水着みたいな露出の多い格好をしていると、どうしてもあの告白の夜のことを思い出し、その時に触れていた加奈の体の柔らかくて温かい感触が鮮明に蘇ってしまう。

 俺たちのデートはとりあえず、辺りを適当にぶらぶらするところから始まる。日曜日の駅前ともなるとそれはやっぱりカップルだらけで、俺たちもその風景の一部に溶け込めているのかどうか最初は心配になっていたけど、今となってはそんな心配をすることもない。

「もし、私たちが同じ学校で、もし同じ文科系の部活に入っていたら、今頃はきっと学校で文化祭の準備に追われてたんでしょうね」

「そうだな。それも、八月ぐらいまでは遊んで八月に入ってから焦りだすぜきっと」

「そうかもしれませんね」

 くすっと笑う加奈であったが、その次に、でもきっと楽しそう、とも言う。

 俺だってそう思う。でももしもそうだったとしたら多分、俺たちは今こうして一緒に歩いてなかったかもしれないけど。

「今日は夜まで一緒ですよね?」

「ん。そうだな」

 というのも、今日は前々から約束していた花火大会が開催される日だ。いつもは暗くなるころには家まで送って行くけど、今日は違う。

「嬉しいです。夜まで海斗くんと一緒っ♪」

 ご機嫌になったお姫様がそう言って腕に抱きついてくる。こうしていると尚更カップルっぽい。前まではこうしていると色々と柔らかい感触がアレでドキドキしっぱなしだったけど、今は胸のむにゅむにゅとした感触にも何とか慣れてきた。

 こうして抱きつかれてみると実感するけど結構大きいんだよな、加奈って……。

「あ、でも一度、浴衣に着替えに戻らなくちゃいけませんからずっと一緒じゃないですね」

「そ、そーだな!」

 やばい。可愛い。可愛すぎるだろ。こんな子が俺の彼女になってくれているなんて本当に夢みたいだ。

 いや、そもそもこんなにも幸せでいいのか俺。

「海斗くん、顔が赤いですよ?」

 きょとんとしたまま、加奈が俺の顔を覗き込んでくる。その無垢な表情があまりにも可愛い。

「そりゃ、お前が可愛すぎするせいだよ」

「……んっ。あ、相変わらず不意打ちですね」

 今度は加奈が顔を赤くしてぷいっとそっぽを向く。その様子を見てなんだかちょっとだけど仕返しが出来たと思った俺は僅かに笑みを見せると、加奈と一緒に歩を進めていった。

 いつも適当に歩いて回るのが俺たちのデートの定番ではあるが、もう一つのお約束ともいえるものがある。

 それは。

「海斗くん! これ、またこんど一緒に家で見ましょうっ」

「ん。そうだな」

 アニメグッズ専門店である。店内に入った瞬間、明らかに店中の人が加奈に目を奪われるのが分かった。ホントに、これだけ可愛いと悪い虫がつかないか心配だ。しばらく二人で店内を歩いて回っている途中で加奈が見つけたのは一度、劇場公開されたロボットアニメの円盤ブルーレイである。

 加奈がやけにテンションを上げながらキラキラとした目でパッケージを眺めている。

「はうう……。やっぱり重装備型には夢が詰まってますね! それにこの大型荷電粒子砲! 一発撃つごとに必要な冷却が必要なんですけど、銃口から熱で煙があがるシーンを見るだけで悶えて悶えて……ああ、しかもこの重装甲。たまりませんね! 機動力のなさをカバーする為に足に隠し腕をつけたり、バックパックに備え付けられたミサイルや両手のガトリング砲まで! この前、海斗くんと一緒に劇場に見に行った時もずっとハァハァしてたんですよ!」

「お、おう……そうだな。うん。一緒に見よう」

 最近になってようやく分かってきたことだが、浮気相手として気をつけておかなければいけないのはこの「ロボット」であった。浮気されないように気をつけよう。

「はぁはぁ。近接特化型も最高ですね! バスターソードを振り回すこのシーンの作画は圧巻の一言でした……」

 ……本当に、浮気されないように気をつけよう。

「海斗くん」

 気がつくと、加奈が俺の顔を再び覗き込んでいた。更にさきほどとは違い、小悪魔的な表情がまたいつもとは違った魅力を引き出しており、思わずどきっと心臓の鼓動が跳ねる。

「な、なんだよ」

「ふふっ。心配ですか? 私がこっちに浮気しないか」

「んなことねーよ」

 思わず強がってしまったものの、ぶっちゃけ物凄く心配です。加奈は更に小悪魔っぷりを全開にしてクスッと微笑んだ。

「心配しなくても、私は海斗くんだけの物ですよ?」

 そう言って腕により強く抱きついてくる加奈はやっぱり世界一可愛くて。思わず顔が赤くなってしまう。

 ……周りの「リア充爆発しろ」的な視線が痛い。うん。まあ、少し前までは俺もお前らと同じだったからな。ここは見逃してやる。しかし俺の腕に当たってる加奈の胸に視線がいっているやつは死ね。

 つーかおいそこ、スパイダーメモリを買うんじゃない。確かにスパイダードーパ〇トさんはリア充撲滅の為に貢献した功労者だけどな。

 まあ、アニメグッズ専門店でいちゃつくのもちょっとアレなんで、今日のところはさっさと店を出た。

 次に向かったのは俺たちが初めて一緒にお茶をしたカフェだ。場所が場所だけに思い入れも強く、デートのたびに必ず立ち寄っている。一緒に紅茶を飲んでいると、初めてここでお茶をした時を思い出す。

 あの時と違うのは、ケーキを「あーん」して食べさせっこさせているということだろうか。俺の差し出したケーキと、加奈の差し出したケーキが互いの口へと運ばれていく。

「んっ。美味しい……です」

 はにかむ加奈の表情に思わず見とれてしまう。やっぱり加奈の笑顔は可愛い。彼氏補正が入っているかもしれないが、それでも自信を持って言える。

「海斗くん」

「ん。なんだ」

 そろそろ加奈の攻撃にも色々と慣れてきたぞ、と思った矢先のことだった。加奈はいたずらっぽい笑みを見せると、まるで俺の耳から脳までに染み込ませるような甘い声で言った。

「……今度は、口移しで食べさせてもらえます?」

「そ、それはまた今度。できれば家で二人っきりの時に」

「ふふっ。じゃあ、そうします」

 やべえよ。加奈さんやべえ。破壊力ありすぎだろ。

 今度はまたこの店に居づらくなったので、出て別の場所に向かうことに。しかし、こうして色んなところをぶらぶらしているおかげか日が暮れてきたので、今度は加奈の家に向かうことにした。

 夜の花火大会に向けて浴衣に着替えなければいけないらしい。

 加奈の家までやってきた俺はとりあえず外で待たせてもらうとしよう。そう思って門の前で待っていると、加奈が手を引っ張ってくる。

「海斗くんも一緒に来てください」

「え? いや、俺は」

「大丈夫ですよ。今日は誰も家にいませんから」

 それはどういう意味だと思う間もなくずるずると引きずられていく。そんなこんなで結局、ここ最近、何度かお邪魔した加奈の部屋に引きずり込まれてしまった。更にあろうことは加奈はいきなり服を脱ぎだそうとしてので慌ててそれを止める。

「いや、流石にこれはまずいだろ!」

「私は海斗くんになら見られてもいいですけど」

「よくないからね!? 俺の精神衛生上、ぜんぜんよくないからね!?」

 平然と着替えを始めようとした加奈から逃れてリビングに退避する。

 危ない。理性が崩壊しかけてしまっていた。下着もチラッと見えたし……白い肌やへそが服の下からゆっくりと顔を出す様はそれはもう危なかった。

 しばらくして、部屋から加奈が出てきた。ドキドキしながら待っていた俺は、その姿に目を奪われる。同時に、息を呑む。

「えっと、海斗くん……」

「は、はいっ!?」

 何しろ、加奈は浴衣を着るというよりも上から羽織るだけというか。とにかく帯を締めていないので色々と見えそうになっていてとにかく大変なことになっていた。はだけた浴衣から白くてむちむちとした太ももが見える。思わず喉をならしてしまった。

「一人じゃ帯を締めることが出来ないので……手伝ってくれますか?」

 気が付けばすぐ目の前に来ていた加奈が上目使いで懇願してくる。同時に白い谷間もかなり危ない所まで見えてしまいそうになって、慌てて目を逸らす。言われるがままに帯を手に取って、加奈の浴衣に巻いていく。もう手順は加奈の声に従ってやっていたが、既に自分が何をしているのかも分からなくなってきた。ただ覚えている色っぽいうなじと、着せる時に浴衣がずりおちてしまったことで見えた綺麗なすべすべとした肩。

「あっ……」

「ど、どうした!?」

「ん。いえ。ちょっとくすぐったくて」

「わ、悪い!」

「大丈夫です。それに、ちょっと当たってるだけですから」

 どこに!? とは聞ける余裕もなく。そのまま作業は続行した。

 永遠にも感じられるぐらい長い時間だった。

「ありがとうございます。海斗くん」

 そういって加奈が振り向き、笑顔を見せる。思わずその姿に見入ってしまう。

 花柄の浴衣がよく似合っていて、鮮やかで、綺麗で。とにかく言葉で表せないぐらい綺麗で。

「あの……ど、どうですか?」

「え!? あ、うん。似合ってる……ぞ」

「……ありがと。嬉しいです」

 俯きながらそんなことを言う加奈が可愛くて、思わず抱きしめてしまった。最初は加奈も「きゃっ」と言って少し驚いていたが、すぐに受け入れてくれる。この華奢な体を抱くたびにいつも不安になる。同時に、守ってあげたいとも思う。そうだ。俺が守っていかなければならない。

 柔らかい感触に包まれながら、俺たちは自然とほほ笑み合っていた。そのまま頬にキスをして、手をつないで一緒に家を出る。

 家で時間を取りすぎた為か、既に外は暗くなっていて、時間的にも花火大会が始まる頃合いだった。

「今から行っても間に合いそうにないですね」

「だな」

 でもどうせ、行っても人ごみが凄いだろうなとは思う。それを考えると、こうやって夜道を加奈と一緒に歩くのも悪くはない。遠回りしようという加奈の提案で、俺たちは本来のコースとは別の道を歩く。

「あっ、見てください海斗くん」

「おお……」

 夜道に光が見える。そこは、ライトアップされた結婚式場だった。白いお城のような外見の建物は夜の闇の中でも映えている。その光景につい見入ってしまうと、花火が打ち上がった音が聞こえてきた。そのまま、夜空に光の花が咲く。

『あっ』

 やっぱり間に合わなかった。二人で向かい合って苦笑する。しかし、ここからでも花火はよく見える。周囲に人はいないことだし、目の前にはライトアップされた綺麗な結婚式場もあるし、これはこれでロマンチックなのかもしれない。

「綺麗ですね」

「ん。そうだな」

 加奈の方が綺麗だよ。

 とは流石に言えない。流石にそれは照れ臭すぎる。

 けど、やっぱり俺にはそれを行動でしか示せなくて。それは向こうも察してくれたのか、俺が何を伝えたいのかをきいてくれるということなのかは分からないが、俺たちは自然と花火よりも互いを見つめていて、自然と唇を重ねた。

「んっ……」

 唇から加奈の温もりが伝わってくる。柔らかい唇の感触を感じながら、俺たちは互いに身を重ねる。両手を加奈を包み込むために使って、加奈も両手を俺を包み込むために使う。

 夜空に輝く光の花と光のお城の前で。

 俺たちは互いの存在を感じあった。


 ☆


「よーっす海斗」

「ん。おお」

 文化祭当日。

 昼時ということもあり、校内は賑わいを見せている。その中で、生徒会である正人は仕事中、偶然俺を見つけたのか声をかけてくる。流川学園の校門前で待ち合わせをしていたのだが……まさか正人が先に見つけてくれるとは複雑だ。

「どうしたんだよこんなところで無暗に通行人を威嚇して」

「してねえよ。ただ待ち合わせをしていただけだ」

「待ち合わせ? 誰とだよ」

 と、正人が疑問を投げかけてきたときだった。

「海斗くーんっ!」

 いつものデートの待ち合わせの時のように息を弾ませてきた加奈が駆け寄ってきた。そのまま俺の腕に抱きついてくる。

「えへへ。ごめんなさい。待ちました?」

「いや、今来たとこ」

 いつものやり取り。その様子を見た正人が口をパクパクとさせている。

「お、おまっ、ちょっ、なんで桜乃木坂女子のお嬢様と……」

「ま、そういうことだ。じゃあな」

 俺は我が親友に手を振って、世界一可愛い彼女と一緒に文化祭の雑踏の中へと消えた。

 歩いていると、生徒たちが俺たちの様子を見てぎょっとしているが……まあ今更だ。気にする必要もない。

「そういえば、ミスコンに出るんだっけ」

「正確にはクラス対抗コスプレミスコンですけどね」

「加奈はどんなコスプレをするんだ?」

「私はメイドさんです。どうせならナイト・オブ・ラ〇ンズのコスプレがよかったんですけど」

「あれは色々と目のやり場に困るからやめてくれ」

「あ、そうそう。メイドさんと言っても私は海斗くんだけのメイドさんですからね?」

「こういう場所でそういうことを言うのはやめてくれ」

 本当に。思わず抱きしめたくなるから。

 それが分かっているのか加奈はくすっ、と小悪魔的な笑みを浮かべる。……もしかしたら加奈はSなのかもしれない。


 コスプレのミスコンは大盛況で、投票も盛り上がった。参加していた生徒はどの子も可愛かったけど、中でも加奈が圧倒的だった。彼氏補正かもしれないが、やはり加奈がこの中で一番可愛い。

 結局というか、やはりというか。

 一位となった加奈は、大勢の人の前に立ってコメントをすることになっている。メイド服のままマイクを持ってステージに立つ。

「投票してくださった方々、ありがとうございました。とっても嬉しいです」

 加奈の美声が学園中に響き渡る。最終日とも会って盛り上がりは最高潮に達していて、多くの人々がこの声を聴いている。そんな中、加奈は次に「でも」と言葉を続けた。

「ごめんなさい。私のご主人様はこの世界で一人だけなんです」

 ざわっと会場が揺れる。

 そりゃそうか。加奈は何と言っても学園のアイドルだったわけだし(なぜ俺たちの学園ならばともかく、女子校の中でもアイドル的存在というのは謎だ)、そんな子がいきなりこんなことを言い出せばざわつくのは仕方がない。

「ううん。ご主人様っていうか、大切な人、なんですけど」

 更に会場がざわつく。そんな様子に動じずに、加奈は笑顔で続ける。

「この場をお借りして、今の私の想いをストレートに言わせてください」

 この時。

 会場の片隅でその光景を見守っていた俺と、ステージの上に立っている加奈との目が合ったような気がした。……違う。気がした、ではなく、目が合ったのだ。それこそ、見えない運命の赤い糸が俺たち二人を引き合わせたかのように。

 加奈は俺に向かって微笑むと、その言葉を想いという形にして口にする。


「海斗くん、大好き――――――――――――っ!」



加奈ルート、これにて終了。

本編では見られない別世界の二人のお話でした。

この世界の二人は末永く幸せになったことでしょう。爆発しろ。



結婚式場の前でキスというのは先日僕が見かけたバカップルの行動がヒントになりました。

あいつらマジで夜の結婚式場の目の前でキスしてやがりましたからね。


リア充マジで爆発しろッッッ!!!!!!!



そして、次から本編です。


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