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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS② なんちゃってDQNとお嬢様
40/165

ifストーリー 加奈ルート②

プリズマ☆イリヤ楽しみすぎる。


何気にバトルが「今の週刊少年ジャンプよりも週刊少年ジャンプしてね?」というぐらい熱いから困る。


どの範囲までやるんだろうか。出来ればツヴァイの最終巻までいってほしいけど無理でしょうね。




イリヤ可愛いよイリヤ


「はぁ……」

 私は、教室の窓際の一番後ろの席でため息をつきながら外の景色を眺めていた。彼と知り合ってから二ヶ月が経った。だけど、私は彼の友人止まり。なかなか仲が進展しない。もう夏休みに入っているというのに。今は夏休みに入っているが、今日は登校日なのでこうして学校に来ている。

「はぁぁ……」

 再度、ため息。

 どうすればもう少し、踏み込んだ関係になれるのだろう。分からない。……でも、まあいいかな。って思っている自分がいるのは否定しない。だって、最近は一週間が経つのは早い。それは、それだけ毎日が楽しいということなんだと思う。

「かーなーみんっ」

 と、そんな私に向かって不意打ちのように抱きついてきたのは、牧原恵という少女だった。同じクラスの友人で、私の大切な友達の一人。セミロングの髪に割と整っているスタイル。眩しい太陽のような笑顔に常時ハイテンションな女の子。前まではあまり思わなかったけど、今ではこの子の積極性が羨ましくなる時がある。

「んもう、朝から元気がないぞー?」

「そ、そうですか?」

「そーだよぅ。ここ最近、なんかため息が多いぞー?」

「……そのせいで他の女の子たちのため息も多い」

 恵の言葉に付け加えるように言葉を重ねてきたのは、楠木南帆という、恵と同じ私の大切な友達の一人。小柄な体に普段は表情を見せないクールで可愛らしい顔。お人形さんのような子、というのは周囲の子たちの評価である。

 南帆の言葉に私は周囲を見渡す。私が顔を向けると周囲のクラスメイト達(女子のみ)は「はうぅぅぅ」と言いながらくらくらっときていた。私の方がくらくらっときそうな光景だった。しかも口を開けば、「ああ、お姉さまぁ」「今日もお綺麗ですわぁ」などなど。

「あちゃー。また射止めちゃったかー」

「……相変わらず加奈のカルト的人気は異常」

「別に望んでこうなったわけじゃないんですけど……」

 私たちの通っている学校はお嬢様学校、つまりは女子校である。例えばもし、私が共学の学校に(た、例えば、海斗くんと同じ学校とか……)通っていたとしたら、この現象も頷ける。――もうこれまで生きてきて今更、私は別に可愛くないというつもりはない。自慢ではないが、私はそれなりの容姿をしていることは自覚している。海斗くんと出会った時みたいに、ああいうタチの悪い男の人に話しかけられたことも一度や二度ではないのだから――男の子が私にこういったふにゃっとした視線を送ってくれるのかもしれない。だけどもう一度言うが、ここは女子校である。どうして私の周りの女の子たちはこのような視線を送ってくるのだろう。

「かなみんはこの学校の憧れのお嬢様だからねぇ。もう諦めなって。人生、諦めが肝心だよ?」

「ええ。私も最近はそう思えてくるようになりましたよ」

 少しげんなりとしつつ。それでも私には、まだ諦めたくないことがあるんです、と心の中で付け足した。

 そんな私を、恵と南帆が意味深な目で見つめていたことに、私はまだ気が付いていなかった。


 ☆


 一人暮らしの家に帰ってくると、部屋着に着替えて盛大にため息をつきながらベッドに倒れこんだ。ぼふっ、という小さな音を立てながらベッドが私の体に合わせて凹む。もふもふで気持ちいい。この前の休みに海斗くんと一緒に遊びに出かけて、ゲームセンターでとってもらったイルカのぬいぐるみを抱きかかえる。

(……今日は会えなかったなー)

 メールしてみると、どうやら海斗くんは今日、用事があるらしい。なんでも生徒会の友達に頼まれて雑用をしているのだとか。私も今日から三日間泊りで生徒会役員としての仕事をこなさなければならない。

 海斗くんって、やっぱり優しいな。なんて思ってしまうのはいくらなんでも単純過ぎだろうか。いや、そうじゃなくて。今日は会えないのは……うん、仕方がない。今日会えなくても四日後ぐらいには会えるし。

 なんて考えてみるが、それでも会えないのは寂しい。本当は毎日会いたい。けど、向こうは向こうで用事があるし、学校も違うので仕方がない。……でも確か私たちの学園と一緒に文化祭を行う学校って海斗くんの通っている学校だったような気が。うまくいけば海斗くんに会えるかもしれない。

 そんなことを考えつつ、ぬいぐるみを抱きかかえながら、ベッドの上でごろごろごろごろごろごろごろ……。

「はぅぅ……会いたいですよぅ……」

「誰に?」

「それはもちろん、海斗く……」

 あれ?

 一度、整理してみよう。

 ここは私が今現在一人暮らしをしている家だ。そう、一人暮らし。一人暮らしということはこの家にいるのは私だけということで、私以外の声が聞こえるのはおかしい。「あ、おじゃましてまーす」「……おじゃまします」そう、今ここに恵と南帆がいることはどう考えてもおかしい。

「って、どうして二人がいるのですか!?」

「えへへ。来ちゃった☆」

「来ちゃった☆ じゃないですよ!」

「……来ちゃった?」

「疑問形にされても……」

「えへへ……キちゃった」

「何が!? 何がキたんですかね!?」

「……キチっちゃった」

「南帆、現実にもどってきて!」

 私が目の前の友人二人のボケともなんともいえないような現象の処理を終えると、「さて」と、恵がようやく本題に入ろうとしていた。

「かなみん。最近、様子がどこかおかしかったり妙に付き合いが悪いと思ったら……」

「な、なんのことでしょう?」

 にひっ、といかにも面白がっているような笑みを浮かべると、恵はサラリとそれを言ってのけた。

「さてはお主、男が出来たな!」

「さて、と。そろそろギアスをもう一周しましょうかね」

「……あれはたまに見返したくなる」

「わかりますわかります。この前見たんだーって思っても、なぜかああ、そろそろもう一回見返したいなーって思っちゃうんですよね」

「……でもそのまえに事情聴取をさせてもらう」

「いやああああああああああああああああああああ!」

 なんとかして話題を逸らそうと思ったけど、やっぱり無理だった。いや、ここはまだ諦めるのは早い。この二人に知れれば絶対にからかわれるに決まっている。なんとしても、恵と南帆の進行を止めなければならない。

「っていうか、二人はどうやってここに入ってきたんですか?」

 私は帰ってくると同時に、ちゃんとドアの鍵をかけたはず。帰ってきたばかりだから窓の鍵だって開けてはいない。

「……加奈が家のドアを開けた瞬間に量子テレポートしてきた」

「南帆がそんなことをできるとは。世界はこんなにも簡単だということでもないですね」

 世界はまだまだ奥が深い。

 ……そうじゃなくて。

「……ワームホールを通ってやってきた」

「それはどこの小説版のラスボスですか?」

「実は! この前ここに遊びに来た時に鍵を失敬しておいたのだ!」

「ただの泥棒じゃないですか!」

「嘘だよーん」

「ですよねぇ! でないと困りますよ!」

「答えは! 電柱の陰から鼻息を荒くしてかなみんの部屋をカメラで覗いているかなみんのお兄さんに開けてもらったのでしたー!」

「ちょっと兄さんを探してきます。帰りは証拠隠滅……じゃなくて色々と用があって遅くなるので、鍵をかけておいてくださいね」

「……加奈、その右手に持っている金属バットとその他諸々の怪しげなものが詰まった鞄を持ってどこにいくの?」

「うふふふふ。決まってるじゃないですか。いますぐ近くで覗きを行っている変質者をぶっ殺……対話しにいくんですよ」

「……それは対話? それとも対話(物理)?」

「ご想像にお任せします♪」

 私のしようとしていることは間違ってはいない。なぜなら、ストーカー行為を繰り返し、あまつさえ人の家の鍵を勝手に第三者に渡してしまうような兄ならば物理的な対話を行った方が私のためというものだ。

「ではいってきます」

「いってらっしゃーい」

「……いってらっしゃい」

 二人の友人に見送られ、私は凶器……じゃなかった。マジカルステッキ(※金属バット)で悪い怪物を退治しに向かった。……海斗くんなら、「イ○ヤ可愛いよイリ○」と言っていたことだろう。ええ、私もプリヤは楽しみですとも。

 さて、では私も今から英霊(※変態の英雄)の現象と戦ってくるとしますか。


「お、かなたんどうしたんだ? 今日の下着の色は確か、くr……え、なにその鈍器」

「鈍器じゃありません。凶器マジカルステッキです」

「え? なになに、それで何か夢幻召喚しちゃうの? まてよ。俺のカードを夢幻召喚すれば俺の力が、かなたんの身を包む衣装に……フヒヒ。夢が広がr (ドゴッ)」


 ~しばらくおまちください~


「あ、かなみんお帰り~」

「ただいま帰りました。さっそくですが、私はこの汚らしい赤色を落とすためにシャワーを浴びてきますから」

「いってらっしゃ~い」

 私は、手短にシャワーを浴び終えると、再び自室に戻ってきた。二人をもてなすために紅茶とケーキをテーブルに置いて……あれ。そういえば何をしようとしていたんでしたっけ。まあいいでしょう。とりあえず、今日は二人と何をしましょうかね。

「さてかなみん、このプリクゥゥゥゥゥラァ! に一緒に映っている男の子は誰なんだい!?」

「……かんねんしろい」

「わ、忘れてましたぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!」

 しまった! 私が兄さん……あ、言い間違えた……ストーカーを処理している間にとっくに部屋のがさ入れは終わってたということだったなんて!

「うう……いつ二人が不法侵入してきてもいいように隠してたのに……」

「ああ、そこは私たちが不法侵入してくることが前提なんだね」

「……心外」

 じりじりと、いつの間にか部屋の壁際にまで追い詰められ、二人に完全包囲された私は事の次第を白状しなければならなくなった。なにせ、話さなければ後で恵と南帆に胸をもみもみされてしまう。あれだけはもう体感したくない。

 というわけで、私は洗いざらい全て白状した。

 私と海斗くんの出会いから、今までのことを。

 いくら大切な友達にとはいえ、こういうことを話すのはやっぱり恥ずかしい。私は全てを話し終えると、もう煮るなり焼くなり好きにしろとでもいうかのようにベッドに倒れこんだ。

「ふむう。なるほどなるほど。いや、それにしても」

「……意外」

「意外、ですか?」

 私のきょとんとしたような声に、南帆と恵が頷く。

「ん。だって、かなみんって恋をするとか、そういうことはあんまり考えてないかと思ってたから」

「……てっきりロボットと結婚するのかと」

 南帆と恵の言葉に私は思わずむっ、と唸って反論する。

「失礼ですね。私だって女の子ですよ? 海斗くんと出会う前まではずっとそう考えていました」

「かなみん、女の子がみんなロボットと結婚すると思わないでくれるかな?」

「え?」

「『え?』じゃないからね!?」

 閑話休題。

 そこからは何というか。もっと今までのことを話して話して~! という恵の我儘、兼、脅迫を聞き入れることになってしまい、恥ずかしながらもこの二ヶ月間のことを話すことになった。

 本当に、気が進まない。

 いくら大切な友達でも海斗くんとの思い出を語るのはあまりにも恥ずかしい。しかしそれでも、この二人には知ってもらいたいし、応援してほしいから、私は嫌々ながらも話すことにした。


「それでねそれでね、海斗くんったらそこでいちごパフェを頼むんですよ。可愛いですよねっ。そのあと、お家で一緒にアニメを見たんですけど、見終わった後、海斗くんったら急に寝ちゃって。でもでも、寝顔がとっても可愛いんですっ! 思わずほっぺたをぷにぷに~ってして、写真も撮っちゃいました♪ その後もすやすや~って寝てて、もう可愛くて可愛くて……ああ、もう海斗くんの寝顔可愛すぎますっ。あとあと、海斗くんったら……」


「……ねえ、なほっち」

「……なに」

「……生きてる?」

「……胸焼けしてる」

「……私もだよ」


 この日はじめて、私はこの二人を倒した。


 ☆


「ふぃー、おつかれさん」

「……おう」

 友人である篠原正人から手渡されたスポーツドリンクを受け取って湿った喉を潤すと、中庭の中にあるベンチに腰を下ろした。

 俺は夏休みだというのにわざわざ学校に来ている。というのも、正人から急きょSOSを受け取った俺はこうして生徒会の仕事を手伝いに来てやった次第だ。まあ、正人には普段から色々と感謝している面もあるので、これぐらいは喜んでこなすが。

「結構大変なんだな、生徒会も」

「まあな。特にこの夏休みは地獄だぜ。なにしろ休み明けには文化祭が控えているからな」

 この学園は夏休み明けに文化祭が行われる。規模も大きく、一週間かけて行われるこの一大イベントは、近辺にある商店街やお嬢様学校と協力して行われる。言うなればこれはうちの流川学園と桜乃木坂女学園の合同文化祭なのだ。

(そういえば、加奈のいる学校だったっけ)

 ぼんやりと雲を見ながらそんなことを考える。今日は一緒に遊べなかったな……。まあ、いつもいつも一緒に遊んでいても鬱陶しいとか思われそうだしな。

「あー、これから桜乃木坂女学園の生徒会と打ち合わせなんだよなー」

「おー、そうか。頑張れよ」

「え? 何言ってんの? お前もくるんだよ」

「え? 何言ってんの? 俺はこれから二次元幼女といちゃいちゃするんだよ」

「アーキタイプに用はねえんだよ。さっさとテキパキ働いてくれた黒野海斗に戻って俺に協力してくれよ」

 ……正人には普段から色々と世話になっているし、俺の大切な友人だと思っている。だが二次元幼女といちゃいちゃできる時間を削るのは……、

「……わかったよ。手伝えばいいんだろ」

 二次元幼女といちゃいちゃするのは後でもできる。フヒヒヒ……。しかし、こいつを手伝うのは今しかできない。

「あ、そうそう。今日から泊りで三日間かけて打ち合わせが始まるから覚悟しとけよ」

 どうやら幼女といちゃいちゃできるのは、もっと後らしい。


 ☆


「では恵、南帆、行きましょうか」

「はーい……」

「……準備はできてる」

 なぜか胸焼けしたように元気がない様子の二人と一緒に私は家にしっかりと鍵をかけて出発する。手にはさっき帰ってきたときにつめこんできた宿泊道具。学校に泊まるのはなんだかわくわくする。これも生徒会役員としての特権だと私は考えている。

 生徒会ではないけれど、文化祭実行委員である南帆と恵も一緒に泊まる。友達とお泊り。そう考えてもわくわくする。

 海斗くんに会うことはできないけど、私は私で今日という日を楽しもう。次に海斗くんにあった時のことを考えてどきどきしながら。

 そうすればきっと、次に彼にあった時、笑顔になれるはずだから。


 ☆


 俺は正人に言われた通りに宿泊の準備を終えると、学園に向かって歩き出した。途中で正人とすぐに合流。共に学園に向けて歩き出す。その横顔はどこか楽しそうだ。鼻歌まで歌っている。

「楽しそうだな」

「そりゃあな。なにしろ桜女子とのお泊りだぜ? わくわくしない方がおかしいだろ! そんなやつぁ、DG細胞に侵されているとしか考えられねえ!」

 じゃあ俺は侵されてるな。DG細胞に。

「ああ、是非とも桜女子の生徒とお近づきになりたいなぁ」

 ごめんなさい。既にお近づきなんです。

 ……とは言えないな。

「なれるんじゃねーの? これから打ち合わせなんだろ?」

「打ち合わせ兼、準備ってとこだな。まあでも、会議中はともかく作業中に出会いがあったりするかもしれねえ。胸が熱くなるな」

 俺は別にならないんですけど。相手は幼女でもなんでもないBBAなんだし。

「おっと、そういえば相手方の生徒会役員に幼女がいたような」

「胸が熱くなるな」

 憧れのお嬢様学校の生徒とお近づきになれるかもしれないってのに胸が熱くなれないなんて男じゃないなまったく。そんなやつはタッくんみたいに細胞崩壊の過程を促進させる薬品を体に打ち込まれているとしか思えないね。

「まさかの合法ロリかよ。やべえな。オラ、ワクワクしてきたぞ」

「おおぅ。まさか俺のこの発言を嘘とも何とも疑わないとはな」

「お前のその幼女に関する発言に嘘がないことは既に確認済みだ。紳士スーパーパイロットをなめるなよ」

「その発言だとスーパーパイロット全員がロリコンにされかねないので止めてもらえませんかねぇ!?」

 俺は幼女に関する話題でそれが嘘か否かを見破る能力を持っている。そして俺が正人を調べてみたところさきほどの発言は嘘ではないので、あの女子校には神にも等しき至高の存在がおられることになる。


 俺たちはわくわくと胸を躍らせながら桜乃木坂女子学園へとやってきた。俺たちの学園もなかなかの設備だと思っていたが、桜女子の設備もかなり良質なものが多い。というか綺麗だ。全体的に一片の穢れもない白さが目立つ。

(ここが加奈の通っている学校か)

 そんなことを思いつつ、俺たちは校内を歩く。特にこれといったトラブルもなく生徒会室へとやってきた俺たちはノックをして、立派な扉を開いた。

 室内にはもう大半のメンバーが揃っており、流川学園側と桜乃木坂女子学園側と別れていた。一通り室内を眺めた俺は、ふと、見知った色の髪をみつけた。そしてその綺麗な髪をもつ少女も俺に気づいて――――。


『あっ……』


 時間が、止まったような気がした。

 ふと視界に飛び込んできた天美加奈という少女と俺いがいに、この世界には誰もいないのではないかと一瞬、錯覚してしまった。

 それぐらい、意外だった。

 ここ三日か四日ぐらいは合えないだろうと心の中で思っていた加奈を目にした瞬間、なぜか心臓の鼓動が跳ねたような気がした。

 言ってみれば……嬉しくなった、みたいな。

 でも同時にドキッとしたような、このわけのわからない感覚はなんだろう。

 初めて味わうこの甘ったるいような、ほんわかとしたような、幸せを具現化したような、この感覚。

「か……」

 加奈、と言いそうになって言葉をぐっと飲み込む。ここで不用意に声をかけても加奈や、周りの人の迷惑になるだけだ。もう開始時間も近づいているし、落ち着いてから話そう。ただでさえ俺はもともと部外者で、こんな見た目なんだから。

「…………」

 桜女子むこうの生徒が俺を見て少し警戒したような、それでいて怯えるような反応を見せる。……俺を見てそんな反応を見せないのは加奈……と、その近くにいた少女二人のみ。

 まあ、意図的にこんな格好をしているのでその辺のことは察しているつもりだ。黙って頭を軽く下げると壁際へと移動。

「あ、こいつは俺が頼んで来てもらった助っ人ッス! こういう見た目だけど良いヤツだし、結構働くんでこき使ってやってください!」

 空気を察したのか正人のフォローが入る。流川こちらがわの生徒会は今日一日だけでなく、まえまえからちょくちょく接点はあったので、もう俺のDQN姿はったりはきかない。だが桜女子の方では意味がない。

 ここは黙ってオブジェになっておこう。この綺麗な女子校に置いておくにはいささか……いやかなり不釣り合いなオブジェだが。


 ☆


 驚いた。とても、驚いた。

 私が生徒会役員として生徒会室で今日から三日間のスケジュールを確認していると、急に海斗くんが現れたのだ。

 もう三日か四日ぐらいは会えなかったと覚悟していたから、少し……いやかなり驚いた。同時に、とても嬉しくなった。それに、海斗くんが思わず私の名前を言ってくれそうになって、それでも我慢してくれたことにもちょっと嬉しくなった。

 私の名前を、呼ぼうとしてくれたんだ……。

 こんなちょっとしたことでこんなにも嬉しくなれる私って、やっぱりばかなんだろうか。

 仮にそうだっっとして、ばかでもいい。だって、こんなにも嬉しいのだから。

「ほうほう。あれがかなみんの彼氏さんですか」

「……意外とイケメン」

 にゅっ、と私の両サイドから突然現れたのは恵と南帆。

「そうだよねぇ。意外と顔は良いよねぇ」

 恵と南帆からはとても高評価。……ちょっと複雑。

「二人とも、か、海斗に変なちょっかいかけないでくださいよっ」

「むふふ。だぁーいじょーぶだって。かなみんの彼氏さんをとったりはしないからね☆」

「か、かかかかかかかかか彼氏さんじゃないですよっ!」

「でも恋人さんになりたいんでしょ?」

 恵が放ったその核心をついた一言に、私は思わず頬が赤くなる。

 手持無沙汰になって指をいじいじする。

「う……そ、そうですけど……」

 そんなことを考えながら私は海斗くんの方へと視線を移す。

 ……あぅ。海斗くん、さっきから私を見ないで会長さんの方を見てる。そういえばうちの会長さん、海斗くんの大好きなロリBBAなる人だ。ぽわぽわしたような雰囲気に幼女体系。この学園でもマスコット的な人気を博している。

 ううっ。私も会長さんになりたい。

「可愛い顔してるよねぇ」

「……でもすごくDQN」

「か、海斗くんはああ見えてとっても優しいんですよ!」

『それはさっき飽きるほど効いた』

 なぜだろう。今、「きいた」が「効いた」に聞こえたけど気のせいだろうか。

 それにしても……ううっ。海斗くん、もう少し私のことを見てくれてもいいじゃないですかぁ。

 そんなことを考えていると、恵がにやりといたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「むふふ。かなみんかなみん、私が手伝ってあげるよ?」

「ふぇ?」

「まあ、私に任せときなさいって!」

 恵がその豊満な胸をぽんっ、と叩く。

 そのタイミングで打ち合わせが始まってしまったために、私が彼女がこの先なにをやらかそうとしているのかを聞きそびれた。



次ぐらいで人気投票の結果発表をしたいと思います。


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