表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第1部「1年生編」:第1章 なんちゃってDQNと日本文化研究部
4/165

第3話 コンビニに集う戦士たち

 戦士たちの朝は早い。

 俺は自らの生活リズムを無理やり捻じ曲げて、朝の四時に起床した。眠い。かなり眠い。

 ぼーっとする頭を無理やりたたき起こして色々と朝の身支度を済ませるとマンションの下へとのろのろと降りた。

 するとそこにはもう、制服姿の天美が待っていた。眠たそうな様子はいっさい感じさせず、相変わらず凛とした表情を保っていた。

「おはようございます、海斗くん」

「……おはよう」

 なぜ俺がこんな朝っぱらから早起きしてわざわざコンビニに出向かわなければならないのか。天美がいうにはこれは『日本文化研究部』の立派な活動らしいのだが、俺としては絶対に違うと思う。少なくとも、朝の四時起きでコンビニに行くのは違うと思う。

「もうっ。これから戦場に向かうというのになんですかそのやる気のなさは。覇気がないですよ!」

「ちげーよ。やる気とかその前に眠たいんだよ」

「夜更かしするからです」

「……いや、流石に四時起きは眠いって」

 いつも四時起きの人ならばそうでもないだろうが、急に生活リズムを変えて四時起きをした人間にはキツイ。

「そんなことでどうするのですか。海斗くんにも手伝ってもらわなきゃならないんですよ」

「俺も⁉」

 でもまあ、俺だって好きな作品のコンビニタイアップ企画の時には早起きしたものだ。

 せっかくだし付き合ってやろう。

「昨日だって、あんなにも激しく『おおっ!』と返事してくれたじゃないですか」

「流れに圧し切らられてな」

 つーか今思えば部屋にあげたのはこの俺を強制参加させるためだったような気がする。

「では、さっそく行きましょう」

「はいはい」

 俺は某奇妙な冒険の三部主人公のように「やれやれだぜ」と心の中で呟きつつ、お姫様の後に続く形で近くのコンビニ、もとい戦場を目指した。

 流石に早すぎる為か周囲に人けはまったくない。静かな朝だった。聞こえるのは俺と天美の足音のみである。

「ふふっ」

「なに笑ってるんだよ」

「いえ。今までこういうことを一緒にするような友達っていなかったので、嬉しいんです」

 そりゃ確かにおおっぴらに言えるような趣味じゃないからな。

「一人で楽しむのもいいんですけど、やっぱりこういう話題を共有して一緒に楽しめる友達がいるのってとっても良いことですね」

「そうか」

 実は俺も嬉しかったりする。まあ、元々友達が少ないだけにその嬉しさも大きい。

 やったぜ! やっと高校に入って二人目の友達ができたぜ!

 ………………はあ。虚しい。

 俺たちがコンビニと言う名の戦場に到着したのは五分後だった。元々距離的には近い所にあったのでそれが幸いした。

 そして狭いコンビニの中に明らかにグッズ待ちと思われる黒服が三人。

 安定の黒率である。どうしてこう、オタクと言う人種は黒色の服装を好むのか。

 うん、俺も好きだけどね。黒色。カッコいいよね。あと無難に思えるし。

「……三人か。ま、こんなもんだろ」

「海斗くんが参加した時もこうだったんですか?」

「まあ、俺の時はグッズ待ち五人だったけどな。そんで、一つしかないぬいぐるみ巡ってジャンケンをして負けた」

「そうですか……では私もミンチより酷い事にならないように頑張ります」

「……まあ、頑張れ」

 にしてもなんだろう。まだ開始時間まで一時間もあるのにこの異常な雰囲気は。

 まさか、能力者か⁉

「なにが能力者ですか。恥ずかしいので止めてください」

「地の文を読むなや」

 クリアファイルが店頭に並ぶのは七時からだが、問題は限定グッズだ。

 三人……いや、天美を合わせれば四人。この中で天美は一つしかない限定グッズを手に入れなければならない。

「この店舗は比較的早い時間に商品を出してくれますからね。ですから私以外にいても一人ぐらいだと思っていたのですが……迂闊でした」

 ということは天美と同じようなリサーチをした人間がいるのだろう。

 オタクの情報収集能力とは恐ろしいものだ。いや、恐ろしいのは執念か。

 商品が出るのを待つ天美の表情は真剣そのもので、普段の学園でこんな天美を見たことがないような気がする。そういえばここ最近は学園でも見れない天美のまた違った一面をずっと見ている気がする。まあ、それがコンビニ限定のアニメグッズだというのが悲しいが。まあ、でもたまにはこういうのも悪くはな……いやまてよく思い出せ黒野海斗。

 俺が世界で一番愛しているのは幼女だろう。こんな三次元リアル年増女の違う一面を見れたからなんだというんだ。いかんいかん。危うく紳士の道を踏み外すところだった。

 そうだ。これはあくまでも部活動。部活動の一環だ。

 もう一度、元の俺に戻るように自己暗示をかけよう。

 俺は幼女が大好き。俺は幼女が大好き。俺は幼女が大好き。俺は幼女が大好き。

「俺は幼女が大好き俺は幼女が大好き俺は幼女が大好き……」

「すみません。隣でブツブツと変態発言はやめてくれますか。通報するのは面倒なので」

 どうやら思わず声に出てしまったようだが……つーかここだけとれば俺って完全に変態じゃねーか!

「ご心配なく。そこだけとらなくても十分に変態ですので」

「ああっ! まるでゴミを見るような目でこっちを見てる!」

 金髪碧眼お嬢様に蔑んだ目で見られるというのは一部の人は「踏んでください!」と頼みたくなるようなシチュエーションだが残念ながら俺はそんな変態ではないのでこの場は普通に視線が痛い。

 そうこうしている内に時間だけが過ぎていき、やがて店員の人が店の奥から今回のタイアップ企画の限定グッズを並べ始めたところで――――戦士たちが、動いた。

 普段は運動もあまりしないであろう者たちが一斉に商品に向かって動く!

 手を伸ばす!

 自分以外の者たちの存在に気づいて気まずそうな雰囲気になる!

 そこからはぼそぼそとそれこそ本当に気まずそうに一つしかない限定商品をどうするかで店員さんを巻き込んで協議が始まり、例によってジャンケンによって決めることとなった。

「海斗くん、海斗くんっ!」

 傍観していた俺に慌てたように天美が呼ぶのでしぶしぶその場に向かう。

「海斗くんも参加してくださいっ。少しでも確率は上げておきたいので」

 ああ、なるほど。

 仮に俺が勝ち残ったとしても俺に所有権はないのね。

 まあ別にいいけどさ。

 限定商品であるプラモデルを前に五人の戦士たちが揃った。そこから聖戦――もとい、ジャンケン大会が始まる。

 ここは平等にと五人いっせいにジャンケンを行う。とはいえ、五人もいるとなるとそう簡単には決まらず、しばらくの間あいこが続き、やがて脱落者が現れた。

「そ、そんな……この私が負けるなんて……」

 七回目ぐらいで天美を含む三人が負けて、残るは俺とあと一人だけだ。

 幸か不幸か、天美が俺に参加を促したのは間違いではなかったともいえる。

 その当の天美本人はと言うと、まるでこの世の終わりが訪れたかのような表情のまま店の外で体育座りをしてしょぼくれていた。

「うぅ……楽しみにしてたのに……楽しみにしてたのに……」

 流石にいたたまれない。わざわざ早起きした結果がこれである。

……さっきまであんなに笑顔だったじゃねえか。そんな顔するなよ。

「はぁ……仕方がねえな」

 殆ど運任せだが、ここは出来るだけやれることをやってみよう。

 せめてもの抵抗とばかりにギロリと目の前の相手を睨みつけて戦意を削いだところでジャンケンを始める。これで本当に怯んで負けてくれればいいけど。

 すると、ジャンケン前の一睨みが効いたかどうか解らないがアッサリと勝利してしまった。購入権を得た俺は実費で限定グッズであるプラモデルを購入する。

 店の外に出てみると、ジャンケンの結果を見届けていなかった涙目状態の天美が未だにいじけていた。

「ふふ……もう人類なんてみーんな滅んでしまえばいいのに」

 ダメだこいつ。はやくなんとかしないと。

 ため息をつきつつ、俺は箱の入ったレジ袋を天美にむけた。

「……ほら。欲しかったんだろ」

「ふぇ?」

 俺の顔に視線が向き、その後、俺の手に持っていたレジ袋に視線を向け、その中にある限定グッズを視界に捉えた瞬間にぱあっとその顔に笑顔が咲き誇った。

「きゃ――――! ありがとう海斗くん! ありがとうありがとうありがとう!」

 と、天美はさっきまでのテンションが嘘のようにしてはしゃぎだす。大事そうにプラモデルの箱を抱き込んだかと思ったら今度は勢い余って俺にまで抱きついてくる始末。

「ええい! 離れろ年増! 俺に抱きついていいのは幼女だけだ!」

「ああっ、もう本当に海斗くんがいてくれてよかったです!」

 これだから年増は。なんか良い香りとかが漂ってくるしやけに女の子の体って柔らかいしやたらと形の良い豊満な胸がむぎゅっとおしつけられているしって違あああああああああああああああう!

 違う! 違う違う違う! 俺が大好きなのは幼女の未熟な肢体だ! ぺったんこな胸だ!

 こんなないすばでーな体は断じて俺の好みではない!

 断じてだッッッ!


 ☆


「……疲れた」

 あの後、クリアファイルを確保した天美と俺は一度自宅に戻って、そこからまた学園に登校した。

 正直言ってかなりつかれた。

 幼女でもない女の子に抱きつかれたというのもダメージ大きい。昼休みとなった今でもそのダメージが残っている。今でもあの香りや感触は忘れられな……くない。

 うん、そうだ。俺はあんな年増には微塵も興味はない。あんなのはBBAだBBA。

 ……女の子の体って柔らかいんだな。じゃなああああああああああああい!

「おー、どうした」

 前の席の正人が購買で購入したであろう紙パックのジュースを飲みながら振り返ってきた。

「……いや、なんでも。ちょっと朝、早起きしてさ。眠たいだけだよ」

「だったらいいんだけどな。なんか飯にも手をつけていないから心配しちまったぜ」

 こいつ、見た目はチャライのに何だかんだで良いヤツなんだよな。女の子と触れ合うためとかなんとかいいつつ入った生徒会でもちゃんと仕事をこなしているらしいし。

 あー、そういえばこいつにもいずれ説明しなきゃならんな。この様子だと俺がまだ天美が作った『日本文化研究部』の存在もまだ知らないようだし。

「そりゃ悪かったな。ま、そろそろ俺も昼飯食うわ」

 と、俺がコンビニ弁当を広げようとした瞬間、「海斗くん♪」というここ数日ですっかりと聞きなれてしまった声が耳に入ってきた。

 同時にざわつく教室。

 別の所に視線を向けたままあんぐりと口を開く正人。

 嫌な予感しかしないと思いつつも首がギギギギギとネジが切れたブリキのような音をたてながらゆっくりとその声の方向に動き出した。

 そこにいたのは相変わらずの金髪碧眼美少女、ニコニコ笑顔の天美加奈がそこにいた。

 凄く上機嫌である。そう、凄く。……凄く。

 対する教室中のクラスメイト達はまるで子猫が猛獣へと近づくのを止めようとするかのように小声で「天美さんにげてー」とか、「殺されるぞ……」とか、「なんて命知らずなんだ」とか、「鬼の逆鱗に触れる前にはやくそこから逃げるんだ」とか、散々だった。

 だが今日は各店舗限定一箱のグッズを手に入れてあまりにも上機嫌な天美の耳には入っておらず、そのまま空気も読まずにただ一言。

「一緒にお昼食べませんか?」

 な、なんだって――――――――!

 と、教室中の誰もが思っただろう。

 ……つーか。

(空気読めやこのBBAあああああああああああああああああああああああ!)

 あれじゃん⁉ 俺のイメージが崩壊するとかあるじゃん⁉ そうならないための部活だろ⁉ これじゃ本末転倒じゃん⁉

 だが当の天美本人はまったく空気を読まず、

「あれ、今日はすぐに返事してくれないんですね。昨日だって、あんなにも激しく(返事を)してくれたじゃないですか」

 ぽっと頬を赤らめて言う天美。


 ざわ……ざわ……。


 ざわめく教室!

 驚愕のあまり目を見開くクラスメイトたち!


「お、お前……幼女にしか、興味、なかったんじゃ……くそうっ。俺の知らないところでこんなないすばでーを……!」


 勘違いする親友!

 あらぬ誤解をうける俺!

「では、部室で待ってますね~♪」

 この惨状の根源である天美は上機嫌のまま言いたいことだけいうと教室を出て鼻歌を歌いながら部室へと向かってしまった。

 俺はこの教室の空気に耐えきれなくなってフラフラと部室へと向かうしかなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ