ifストーリー 加奈ルート①:挿絵あり
一番要望の多かった加奈のifストーリー。
ifなので一部設定が変わっております。
もう二人がくっつくところまで行っちゃいますので。
私がその人と出会ったのは、まったくの偶然だった。
たまたま私がそこに通りかかって、たまたま私が男の人に絡まれて、たまたまその人が助けてくれた。
私を助けてくれた人は何も言わずに去って行った。名前も聞き出せないままだった。ただ、その人が私にかけてくれた「大丈夫か?」という優しい声だけが、妙に印象的だった。
彼のことが忘れられなくて、その日は眠れなかった。
次の日から下校する時のルートを変えて、その人を探してみた。その時は「あの時のお礼をするだけ」と自分に言いきかせていたけれど、今思うとその時からすでに彼に惹かれていたのだと思う。
少しドキドキしながら歩いていると、見つけた。
昨日のあの人だ、とすぐに分かった。
お礼を言おうと思ったけど、声をかけられなくてそのまま彼とすれ違ってしまった。
それからはチャレンジの毎日だった。
いつしかそのルートを通ることが普通になっていて、彼とすれ違うことが出来ると内心、とても喜んだ。頻度は五日中、二、三回というところだろうか。その日は決まって嬉しさのあまり家電量販店にいってプラモデルを買った。
家でプラモデルを製作していると、こういう趣味を持つ自分を彼はどう思うだろうと不安になった。ひかれたりしないだろうか。いやでもこれは大好きだし。
考えているといつしか、彼を探すことをためらうようになってきた。
ある日、なんとなくいつも通り、彼と出会った下校ルートを通っていると、また彼とすれ違った。それだけでやっぱり嬉しくなる。声をかけることが出来なくなってもいい。ただその姿を見ることさえできれば満足だった。
だが、その日は彼の様子がどこかおかしかった。
やけに周囲を警戒し、挙動も不審だ。
いつもはドキドキしてそれ以上うごけなかった私だけど、その日だけはなぜか彼の後をつけてみることにした。彼はそわそわしながら早足でどこかに向かっていく。その道順は私もよく利用する道順で、彼はそれと全く同じ道を辿っていた。
もしかすると――――と、ある予測が頭の中で浮かび上がった。しかし、いやまさか。彼に限ってそんな。けど、その予想が当たっていれば私としてはちょっと嬉しい。
どうか、予想が当たっていますように。
そう願いつつ彼のあとをつけていくこと十分。
私はの予想は的中した。
彼が入って行ったのはアニメグッズの専門店だったのだ。
意外に思いつつも、嬉しく思った私は更に彼のあとをつけた。
……まさかロリコンという名の紳士だったとは思わなかった。
いや、確か兄さんに「男はな、みんな潜在的にロリコンなんだよ」とは聞いていましたけど。しかし意外だ。私にロボット大好き趣味があるぐらいに意外だ。
それからどこか彼が近くにいるように思えてきた私は、今度こそ勇気を出してみようと思った。
いつしか、私は彼の姿を見るだけで満足していた。小さな幸せを感じていた。
だけど違う。
私は、あの人にちゃんとお礼を言わなければならない。それから。そこから……。考えていると不思議と頬が熱くなってきた。
気がつくと彼はちょうど、アニメ専門ショップを出たところで、私は慌ててあとを追いかける。
彼は上機嫌で帰り道を歩いており、私は結局、何も話しかけられないままだった。今日を逃せばまたずるずると見ているだけの生活に戻る。
そんなのはもう嫌だ。
私は、勇気を出して一歩。また一歩と踏み出してみた。今まではあれだけ踏み出せなかった一歩が今は簡単に進む。気がつけば彼のすぐそばまで近づいていて。
「あ、あのっ」
声を、かけた。
彼が振り返る。
その顔をこんな距離で、こんなにも近くで見ることが出来て、私の胸の鼓動は更にどきどきと速く、激しく、加速していく。
「せ、先日は助けていただいてありがとうございました。お、お礼に、一緒にお茶でもどうですかっ!」
よくよく考えてみればどこかナンパっぽかったし、なんてことを言ってしまったんだろう。お礼を言うだけでよかったのに。
彼はびっくりしたような表情を見せると、「ああ、あの時の」と私を覚えていてくれたのか、「まあ、俺なんかでいいなら」と、了承してくれた。
心の中で私は思わず飛び上がっていた。舞い上がっていた。
思わず頬が緩み、笑顔になる。
それから私は彼を近所にある、お気に入りの店へと一緒に入った。ここにある紅茶は個人的にすごく好きで、それを飲んでくれた彼も美味しいと言ってくれた。ただそれだけで、とても嬉しかった。
それからしばらくして、私たちは友人と呼べる仲になった。
思えば私は彼の名前すら知らなくて、そこで初めて彼の名前を知ることが出来た。
黒野海斗くん、というらしい。
私は勇気を出して海斗くんと、下の名前で呼んでいる。海斗くんも私のことを加奈と呼んでくれた。まあ、こうして友人として付き合うに当たって分かったことなのだが、彼はかなり鈍い人で。
だから私がこうして勇気を出して「海斗くん」と呼んでいるのに向こうの方は本当の本当に、ただの友人として私を下の名前で呼んでいるだけに過ぎない。
そこに気付いた時には少し溜息が出そうになったが、彼に下の名前で呼ばれるのには嫌な気はしなかった。
それと、私の趣味の方も下の名前を呼ぶときとは比べ物にならないぐらいにかなりの勇気を総動員して明かしてみたが、思いのほかすんなりと受け入れられた。
「海斗くん、今日は何をします?」
私たちは学校が違うために放課後、私が彼を初めて誘ったカフェで待ち合わせてから行動を共にするのだが、開口一番。私がこうやって「何をします?」というのが通例となっていた。
このカフェは私にとっての隠れ家的な存在で、私たち以外の高校生が来たところを見たことがない。落ち着いた雰囲気のお店で、来る客は優しい雰囲気の落ち着いた人が多い。いや、きっとこのお店には来る人をそんな雰囲気にさせてしまうような、不思議な力があるんだと私は密かに考えていた。
因みにこの店、大体何でもある。
別に冗談でも何でもなく、珈琲や紅茶はもちろんのこと、ケーキやパフェなんかもあるし、この前はステーキ定食を頼んでいる人もいた。しかもそれが平然と出てきた。
本当に、不思議なお店だ。
海斗くんはいつも紅茶とショートケーキを頼んでいて、私も同じものを頼んでいる。……最近、カロリーが気になってきたんだけど、ここのお店のケーキと紅茶が美味しいのが悪いのだ。
そうだ。こんど、マスターに低カロリーのケーキでも頼んでみよう。すんなりと出してくれるかもしれない。
「そうだなぁ」
私の問いに対して紅茶を口にしながら海斗くんは、
「昨日は確か、公園でのんびりとしてたし……今日はゲーセンにでも行くか?」
「ゲームセンターですか?」
「ん。ああ。確かつい最近、新しくオープンしたところがあるんだよ。ちょっと行ってみないか?」
「いいですね。行ってみましょう」
昨日みたいに、公園のベンチで二人でのんびりと過ごすのも悪くないけど、ゲームセンターで二人で一緒に遊ぶのも、悪くはない。
そんなわけで、私と海斗くんは二人一緒に、並んでつい先日オープンしたばかりだというゲームセンタに向かった。
☆
俺は、友人である天美加奈という少女と共に街を歩いていた。目指すは最近オープンしたばかりのゲームセンターである。
加奈とは偶然知り合った少女だったのだが、いつかのお礼をしたいと一緒にお茶をしたところから友人関係になった。こんな可愛い美少女と俺ごときが友人関係になれているというだけで恐れ多いのだが、加奈は俺のような人間にも優しく接してくれる。
過去に苛められてから、そんな自分を変えたくてこうして俺はこんな不良みたいな姿をしているが、それゆえに今度はこのことが原因で友達が出来なくなってしまった。
だから、加奈という友人が出来て俺はとてもうれしかった。
趣味は合うし、可愛いし、優しいし。
幼女じゃないのが少し残念だがそれは仕方がない。BBAでも加奈は加奈である。
まあ、実際に幼女とお知り合いになろうものならば吐血は確定だろう。下手をすれば出血多量で死ぬ。
加奈がBBAでよかった、というところだろうか。
二人で歩くこと十数分。
俺たちはゲームセンターへとやってきた。
「オープン記念サービス開催中でーす!」
入口の方では、アルバイトと思わしき女性が案内を行っていた。ゲームセンターに入っていく者たちに一枚の紙を手渡している。俺たちはその様子を眺めながらゲームセンターの中に入ろうとすると、アルバイトの女性が紙を俺たちにも手渡す。
「オープン記念サービス開催中です! UFOキャッチャーかプリクラが一回無料となっております!」
もう何百枚も紙を手渡してきた成果なのか、ニコッと完璧な営業スマイルを向けてくる。
それを俺は受け取ると、加奈と一緒にゲームセンターの中へと足を踏み入れた。
「だ、そうだ。見たところ、UFOキャッチャーかプリクラか、どっちか片方しか無料にならないみたいだけど、どっちにする?」
俺の予測では、たぶんUFOキャッチャーになるだろう。プリクラをとるとなるとあの狭い筐体の中に二人っきりになってしまうし、お嬢様学校にも通っているようなこんな子が俺なんかと一緒にプリクラなんて撮りたいとは思わないだろう。
加奈は確かに良い友人だが、それにも限度というものがあるのだろう。そもそも俺と友人になってくれていること自体が奇跡とした言いようがないのだから。
加奈は少しの間、考えたようなそぶりを見せる。すると頬がほんのりと僅かに赤みを帯びて、思い切ったように口を開いた。
「えっと……じゃあ、プリクラにしましょう」
「ん? いいのか、それで?」
意外、だった。
もしかして俺は、加奈に無理をさせてしまったのか?
「無理しなくてもいいんだぞ?」
「む、無理なんてしてません!」
「いや、でもな。よく考えてみろ。お前、俺なんかと一緒にプリクラ撮りたいか?」
俺の問に加奈は勢いのまま答える。
「と、撮りたいです! 私、海斗くんと一緒にプリクラが撮りたいです……ってうにゃああああああああああああああああああ!?」
まるで喋り過ぎたとでもいうかのように加奈は慌てふためくが、俺にはいつもは割と落ち着いている加奈が見せた、いつもとは違う表情に思わず微笑んでしまった。
「ち、違うんです! いや、でもちがくもなくて……ええっと、だから、その、これは」
顔を真っ赤にしながら慌てる加奈がどこか可愛らしく見えてきて、俺はついに小さく吹き出してしまった。
「な、なんですか。急に吹き出して」
「いや……ただ、いつもとは違う加奈がなんか可愛らしく見えてきたからさ」
思ったそのままの言葉を口にしてみただけなのだが、加奈はその言葉を聞いた瞬間、急に黙りこむようにして口をつぐんだ。気を悪くしちゃったのかな、と思っているとくるり、と俺に背を向けて。
「じ、じゃあ、はやく行きましょう」
と、つかつかと一人で先に歩きだしてしまった。
その声から察するにどうやら気を悪くしたのではないらしい。
俺は軽く苦笑すると、彼女のあとを小走りで追いかけた。
☆
きっと、今鏡で自分の顔を見たら真っ赤だ――――。
そんなことを考えながら、私はただひたすら歩いていた。
むしろ今、この場で歩く以外の選択肢がない。あのまま海斗くんと話していたら更にとんでもないことを口にしてしまいそうだ。
きっと私の生存本能がこの歩くという行動を取らせらのだろう。……あとで銀河機攻隊ザンネン5の第八話を見返そう。そして首スライドや戦闘中の掛け合いにひたすら萌えよう。そうして落ち着こう。うん。ザンネンだっていいじゃない。
ていうか。今、海斗くん、私のこと「可愛い」って言ってくれた?
「か、かわいいって……言ってくれた、よね?」
確かに、今までそういったことが――――誰かから可愛いって言われたことがなかったわけではない。兄さんからはしつこいぐらいに。そして周囲の友達からも、特に初対面の人にはよく言われたりする。
けど、その時は何も感じなかった。……いや、兄さんや友達(女子)から可愛いって言われて何か感じたら私はただの変態さんですけどそうではなくて。異性から可愛いと言われても、今までは何も感じなかった。だけど、海斗くんに可愛いって言われるとどきどきする。
――――たぶん、私は彼のことが好きで。
だから、どきどきするし、嬉しくもなるのだろう。
「……えへへ。可愛いって言われちゃった」
思わず笑顔になる。微笑んでしまう。頬が緩んでしまう。
だけどそれはきっと、とても素敵なことなのだろう。
☆
俺たちは歩を進めていくと、手近な筺体を見つけた。どうやら五台ある内の一台がたまたま空いていたようで、俺たちはちょうどいいとばかりに中に足を踏み入れた。
しかし、俺はプリクラというものを初めて撮るので使い方が分からない。というより、これはそもそも女の子かリア充ぐらいしか使わないだろう。
俺はリア充でもなんでもないただのなんちゃってDQNなぼっちさんなので使い方は分からない。
ここは女の子である加奈に任せよう。機嫌も(なぜか)良いし、これで心おきなく、気持ちよく撮れる。
「えっと、これをこうして……よし、できました」
どうやら設定を終えたらしい加奈は画面の中に収まるために俺に近づいてくる。
「じ、じゃあ、撮りましょうか、海斗くん」
「ん。ああ、そうだな」
画面を見てみるとどこか俺と加奈の距離は不自然だ。近づきつつも、間を保っている。しかも微妙に画面からはみ出てるし……。もっと近づいた方がいいのかな。
「画面からはみ出てるぞ」
「え? あっ。そ、そーですね」
撮影開始までのカウントダウンが始まっている。だが加奈はカチコチとしたままその場に固まっている。
「せっかく撮るんだから、もう少し間を詰めた方がいいんじゃないのか?」
「えっと……そ、そーですけど、こ、心の準備が……」
プリクラを撮るのに心の準備? ただのプリクラなのに、そこまでの準備がいるのだろうか。
だがそうこうしている内にカウントダウンの数字が0までもう間近になっていた。
どうせ撮るならちゃんとした、記念になるようなものを撮りたい。
そう思った俺は加奈の肩に手を置くとぐいっと胸元に引き寄せた。不意をついたせいなのか、それとも想像以上に女の子の体が華奢だったせいなのか、あっけなく加奈はその頭を俺に預けてくる。
そんな加奈からは良い香りが漂ってくるし、不意に触れた肩や腕の感触が温かく、柔らかい。実際に触れてみて、この女の子の体が華奢で、可愛らしいものかが分かってくる。
「ふぁっ……」
カウントが0になり、パシャっという音と共に俺と加奈の撮影は無事、始まった。
出来上がったものを加奈から受け取る。眺めてみると、不意を優しいような、安心したような笑みを浮かべる加奈の顔がやけに印象的である。
だけど、初めて友達と撮ったものがこの手の中にある。それだけで俺は嬉しかった。
その後は、オープンしたばかりのお店であるせいなのか混雑してきてあまり遊べそうになかったので変えることにした。
加奈は「ま、ままままままままままた明日でしゅ!」と、顔を真っ赤にしながら、意味不明な供述をして走り去って行った。
「……変な奴だな」
また明日。
そんなこと、こっちから頼みたいぐらいだ。




