第33話 花火
先日、仮面ライダーキバをレンタルし全巻視聴。
まさか仮面ライダーを見て涙を流す日がこようとは思わなかった……。
音也さんマジかっけーわ……。
うだうだとしながらも何とか元の場所にたどり着いた俺は、きゃいきゃいと楽しそうにはしゃぐメンバーを横目に腰を下ろした。美羽と美紗の様子を見てみると、さきほどの一件を気にした様子もなく、楽しそうに遊んでいるように見える。心なしか、美羽がぼーっとしているのは気のせいだろう。
それにしてもこの海に来てから次々とBBAが入れ替わりながら俺の幼女を愛でる時間を邪魔しているように見えなくもない。
美少女(ただしBBA)と一緒に過ごす夏休み……。駄目だ。吐き気がする。この命、神にかえしたくなってくる。
「何しているのですか、海斗くん」
「あ? 見ればわかるだろ。まいはにーと一緒にデートしてるんだよ。はぁはぁ。みかちゃん、かぁいいよ」
「もうっ。せっかく海に来たんですから、もうちょっと一緒に遊びましょうよ!」
そう言って、加奈は無理やり俺の腕をつかむとぐいぐいと海に向かって引っ張っていく。だが俺は「荷物番はどうするんだよ!」という切り札を使うと、いつの間にかこの場に現れていた徹さんが「荷物なら俺が見とくから、楽しんで来ーい」と言う。
「あれ? なんで兄さんがここにいるんです?」
「はっはっは! 何とかウェイクアップし、宿命の鎖から解き放たれたんだよ!」
ようは自力で鎖を何とかしたらしい。マジで人間か、あの人は。
俺は抵抗を諦め、加奈と共に海へと入る。夏の海は思っていたよりも冷たく、そのひんやりとした冷たさが体全体に染みわたる。突っ込むようにして海の中へと入った為に発生した水しぶきが口の中へと侵入し、塩辛い味が舌を刺激する。
「ふふっ。たまには、三次元の海もいいでしょ?」
にっこりと微笑みながら言ってくる加奈に対して俺はやや冷や汗をかきながら、こう思った。
……やべぇ。二次元の海の方がいい。
海で遊ぶと疲れるし、塩辛いし、濡れるし、最悪だ。
だが二次元の海はどうだ。女の子は可愛い。景色は綺麗だし、二次元美少女とのイベントシーンもある。まさに理想の青春とも言うべきものが、そこにはつまっている。
「まったく、海斗くんはほんっっっっっっっっとーに味気ない人ですね。もう少しは現実を楽しんだらどうです?」
「現実……BBAが一人、BBAが二人、BBAが三に」
ん、と言おうとしたところで「ああ、やっぱりもういいです!」と遮られる。俺なりに現実に目を向けようとしたんだけどな。
目の前の景色には楽しそうにはしゃぐ女子陣と男子陣が見える。砂浜で眺めていた時よりも、その距離は近い。あの頃……中学の時の俺が望んでも届かなかったような景色が、もうすぐ目の前にある……ような気がした。
「はぁ。海斗くん、そんな風にしていると……えっと、」
加奈は言おうかどうか迷うような素振りを僅かに見せると、やがて少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながらおずおずと上目づかいで小さく、
「……ぷんぷん、ですよ?」
「は? 何いってんのお前?」
シ――――ンと、辺りが静まり返ったような気がした。いや勿論、実際にその場が静かになったわけではない。あいつらは変わらずはしゃぎ続けているし、波の音もする。だが俺と加奈の二人の世界は今、明らかにシーンとなった。
なんだ。世界でも発動したのか。いや、その場合は「シーン」ではなく、「ドォォォ――――ン」だろうか。いやまて。この凍りついたように世界が停止したような感覚。さてはクロックアップフリーズだな?
とにかく俺は、ただただ覚めた目で加奈を見ていた。対する加奈といえば凍りついたような顔をし、その次にかぁぁぁと自分の言ったことを自覚すると「わすれてください……」と言いながらぶくぶくと下に潜っていった。
やっぱあれだな。姉ちゃんが言っても超可愛いだけだけど、加奈が言っても普通に可愛いだけだな。やっぱだめだ。これだからBBAは。
「って、どーしてそんな目で見るんですかぁ!」
あ、浮上してきた。
「せっかく人が勇気を出して言ったのに、海斗くんのばかばかばかばかばか!」
ぽかぽかぽかと叩いてくる加奈であったが、ぶっちゃけ姉ちゃんによって鍛えられた俺からすれば痛くもかゆくもないわけで。
「はっ。バカが。そんなことやられても痛くもかゆくもな……」
「えいっ(むぎゅっ)」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!」
こ、こいつ! あろうことか駄肉をいきなり、真正面からおしつけてきやがった! ああ、くそっ。このむにゅりという柔らかくて弾力のある感触にはほとほと寒気がする! 姉ちゃんならまだ我慢できたんだよ。でもどいつもこいつも「これならどうだ!」と言わんばかりに駄肉を押しつけてきやがって。毎回毎回、ダメージを負うこっちの身にもなってみろ!
腕だけならまだいい。だが、だが! いきなり真正面いっぱいに駄肉を押しつけられるとダメージの量が半端ではない。まずい。下手をすればこの駄肉の圧に耐え切れなくなって吐き気がしてしまうかもしれん。正人が「や、野郎……! あのナイスばでぃーを無遠慮に押し付けられやがってうらやまけしからん」と言っているので是非とも変わってやりたい。駄肉が! 駄肉がぁああああああああ!
「あ、あの……わ、私だって、その……けっこう、今日はがんばってみたつもりなんですよ……?」
真正面から抱きついておきながら恥ずかしそうにうつむいていた加奈であったが、ここで初めて俺の顔を見る。そしてそんな加奈の眼前には――――、
「頼むからさっさと離れてくれ。駄肉の感触が辛い」
「……そこまで嫌がられると逆にショックですね」
はぁ、とため息をつくと、するりと離れる加奈。
「まったく、海斗くんは相変わらずのロリコンという名の紳士っぷりですね」
「なにそれ。最高のほめ言葉なんですけど」
やっべ。俺、あの学園のアイドル様から最高のほめ言葉を頂けちゃったよ。
そんなこともあり、海での時間は楽しく過ぎて行った。
俺としてはみかちゃんといちゃいちゃし足りなかったのだが、まあたまにはこんなのもいいかな、と思った。
☆
海から帰ってくると今度は皆でバーベキューをした。なんといってもバーベキューも合宿の定番とも言えるメニューである。テンプレと言われればそれまでだが、こういった場所に来たからにはテンプレ通りも悪くはない。むしろ、無駄に捻るよりもストレートで楽しい。
「あー、そういえばこの夏休みが明けたら文化祭があるんだよなぁ」
正人は串に刺さった肉をばくばくと食べながらぼんやりとした様子で呟く。生徒会役員は夏休み中も文化祭に向けての準備で学園に登校しているらしいので、この長期休暇は多忙だ。ゴール地点である文化祭までふんばれるか不安なのだろう。
何しろ毎年、流川学園の文化祭はかなり盛り上がっている。俺も去年、来たことがあったが凄い盛り上がりようだった。何しろ周辺の商店街からもスポンサーが出たりしているし、毎年アイドルやら芸人やらのスペシャルゲストが来ることでその盛り上がりに拍車をかけている。
「ははっ。そーいや、そーだったな」
「良助よ。現実から目をそらすでない。俺たちはこの合宿から帰ったら再びあの地獄の日々に逆戻りなのだからな」
「大丈夫だって。僕も手伝うからさ」
葉山は生徒会メンバーではないにも関わらず、どうやら正人と国沼に付き合って生徒会に顔を出して準備を手伝っているらしい。つくづく好い奴だ。こういう葉山みたいなやつって、何もかもが完璧で顔だけじゃなく心までイケメンなんだな。欠点なんて無いじゃないか。
それにしても、こうしているとなんか罪悪感があるな。この合宿に参加している男子メンバーの中で俺だけが生徒会の仕事を手伝ってないのだから。そりゃ、俺は元々、生徒会ではないし、手伝う必要もないのだが……うーん。でも罪悪感があるんだよなぁ。
「ほー。もうそんな時期か。懐かしいなぁ」
「ん? そーいえば、とおるくんも流川学園出身だっけ?」
姉ちゃんの質問に徹さんが頷く。
「まぁな。そもそも、俺が加奈に流川学園に通うようにすすめたんだ……って、久々に学園のこと思い出すと懐かしくなってきたなー。よーし正人、俺にもちょっと生徒会の準備を手伝わせてくれよ。これでも元生徒会だからな!」
そう言って胸をはる徹さん。だが、元生徒会役員が現・妹専門のストーカーだと正直、心境としては微妙だろう。それらをすべて飲み込んだ上で正人は徹さんの申し出に飛びついた。
「マジっスか! いやぁ、人手が足りなくて困ってたんスよ~! 助かります!」
「だろ? そうだと思ったんだよ。俺らの時もそうだったからな。いやぁ、夏休みは本当に地獄だったぜ……」
くっ。まさか、徹さんも参戦してくるとは思わなかった。これではますます罪悪感が増してしまうではないか。……あー、でもそうだな。正人にはなんだかんだで日ごろから世話になっているし(あとで正人の知り合いの妹の写真の新作がないか後できいてみよう)……いやでも待てよ。俺が参加すれば生徒会メンバーを怖がらせるだけじゃね? 部を作る時もちょうど、脅迫まがいのことをしたばっかだし。
と、俺が悩んでいると、立ち上がった加奈がぱんっと両手を合わせて、
「では、私たち日本文化研究会も生徒会活動を手伝いましょう」
「お、マジですか!?」
加奈の突然の提案にキラキラと目を輝かせる正人。……どれだけキツイんだよ、生徒会。まあ、規模が規模だから大変なのは当たり前か。
「いや……でも、いいのか? 葉山が手伝ってくれてて言うのもあれだけど、本来ならしなくてもいいんだぞ? 別に俺たちに気を使う必要はないんだし」
遠慮がちにそう言ったのは国沼だ。そりゃそうだろうと言わんばかりに予めこういった意見が出ることを見越していた加奈は更に付け加える。
「あくまでも、夏休みの間だけです。それと、手伝うのは都合が合う日だけ、という条件ならどうでしょう?」
どうせ手伝えるだけ手伝う気まんまんだろうが、こうして表向きにでも手伝う側のハードルを少し下げておけば相手に要求をのませやすいことは確かであり、更に言うなら国沼も建前として反対意見を言っただけだろう。あちらにはその気はないだろうが、強制した、という事実が出来てはややこしくなる。
少し考えると、国沼は「そういうことなら」と微笑んだ。
「あの……それは、私も参加してもよろしいのでしょうか?」
遠慮がちに手を挙げたのは美羽である。次いで、美紗も。
「ん? あれ? お前ら姉妹は部員じゃなかったっけ?」
「ち、違いますよ。正式な入部届けは出してませんし」
「はいはーい! じゃあ今から書こー!」
そういって恵が取り出したのは入部届けの用紙である。しかも二枚。なぜこんなものを持ってきていたのかはきくだけ無駄だと悟った渚姉妹はかきかきと用紙に必要な記入事項を埋めていく。
渚姉妹が無駄だと悟ったことを、俺はあえて聞いてみる。
「なぁ恵、どうして今、この場に、このタイミングで、あんな都合のいいものが出てきたんだ?」
「えー? いやぁ、必要になるかなぁ、と思ってポケットに入れておいたんだー」
「昼間の一件といい、お前はマジで超能力者かよ」
「超能力者? だとしたら私、ア○ノウンに狙われちゃうね! ということは私、いずれア○トになっちゃうよ、やったね!」
なぜこいつは、怪人に狙われることを喜んでいるのだろう。
「おっとこうしている場合じゃねぇ。ちょっとあかつき号に乗ってくる!」
「乗らんでいい乗らんでいい」
「えー、なになにかいくん。そんなにもかいくんはアギ〇になりたくないの? かっこいいじゃん。ア〇ト」
「いや、確かにかっこいいけどさ。あの角のスライドギミックは俺の少年心に火をつけたけどさ。それでもなりたくないよ。記憶喪失になりたくないし。どうせなるなら天の道を往き、総てを司る人がいいよ」
因みに俺はア〇トでもギ〇スでもなくG3-X派である。不器用な人が装着するやつ。ケルベロスがかっこいい。コンバットナイフがあるのも最高だ。
「どうして?」
「クロックアップして小学校に忍び込んで……フヒヒ」
「うん。それだけで何をやらかそうとしているのかだいたい分かった。とりあえずかいくんは選ばれし者にはなれないから安心してね!」
「いや待てよ。オンドゥル星の王子になって『タイム』のカードを使えば効率よく幼稚園や小学校を覗き放題……」
「もうダメだこいつ!(社会的な意味で)」
夕食を終え、後片付けも終えてしまったところで今日は特にすることがなくなってしまった。というよりも、元々俺たちの部に合宿なんか必要ないわけで。それはつまり元からこの合宿ですることがなかったということでもあり、この暇はむしろ予定通りとも言えた。
まったりとした暇な時間がリビングに流れる。だがそんな暇な時間を切り裂くようにして、姉ちゃんがごそごそと鞄から取り出してきたのは、
「じゃじゃーん! せっかくだから花火しよ! 花火っ!」
ああ、家を出る前に色々と詰め込んでいたと思ったら花火を入れてたのか。
「お、いいですね」
「夏といえばやっぱ花火だよな~!」
さっそく反応する国沼と正人。それに続いて皆も面白そうに姉ちゃんの周りに集まってきた。因みに俺もその一人である。
片付けが終わったところでまた外へと出る。いつの間にか水を用意するなど花火の為の準備を済ませてしまった姉ちゃんがさっそく買ってきた花火の内の一本に火をつける。するとライトグリーンの綺麗な色の光の花が咲いた。
「ねぇねぇ、見てかいちゃん! 綺麗だよ~!」
「ん。そうだな」
というわけで、俺たちもさっそく点火。
それぞれの手の花火から綺麗な光が燃え上がる。
「じゃじゃーん! 二刀流だー!」
恵に至っては花火を両手に持っており、「すたーばーすとすとりーむ!」と楽しそうにはしゃぎながらそれらを振り回していた。お前は小学生か。いや、でも気持ちは分からんでもない。
「……何故か花火を見ると無性に振り回したくなる」
「あー、それ、私もなんとなくわかります。私も小さいころは兄さんとああして遊んでた記憶があります」
どうやら仲間がこっちにもいたようだ。
「何だ、お前らも同じような経験があるのか?」
俺は加奈と南帆の間に立つ。
加奈の花火が赤、俺の花火が黄、南帆の花火が緑である。歌は気にするな。例え出番が少なくても、俺は好きだぜ、トラクロー。コンドルさんと組めば最強だ! ……最強なんだよ。
「……昔、小学生の妹達とああやって一緒によく遊んでた」
ああやって、の部分で恵と姉ちゃんの方を見る。「私は、人の音楽を守るために戦う!」「ウェイクアップフィーバー!」確かに小学生は可愛いし、神聖な存在だけど、小学生と同レベルと言われてるぞ。それでいいのか、恵と姉ちゃんよ。
「へぇー。南帆に妹がいたのか。それって……」
「……因みに妹達といっても学園都市製の方ではない」
先手をうたれた。つーかどうせなら最後まで言わせろよ。打ち止めたん可愛いよ!
くそっ。俺も学園都市で一位になってベクトル操作して羽を生やせば幼女が寄ってくるかな。木原神拳なら出来そうなんだけどな。
「海斗くんにもああいった経験があるのですか?」
「ん。そりゃな。男なら誰だってあるだろ」
なんか花火って綺麗なだけじゃなくて、振り回すと光が尾を引いてかっこいいんだよな。ありゃ少年なら誰だって振り回してみるだろ、とりあえず。
「私も、振り回してみたりしましたねー。ピンク色のやつがνガ〇ダムのビームサーベルっぽくて逆シャアごっこしてました」
「いや、お前のはなんか違う気がする」
しみじみと語ってるけど、花火の思い出で普通の女子高生の口から「逆シャア」は絶対でないぞ。
「確か兄が赤い総帥役をしてくれました。ノリノリで――――」
――フフフ……ハハハハッ!
――おにいさま、どうしてわらっているのですか?
――俺の勝ちだな! 今計算してみたが、夏祭りにかなたんとはしゃぎすぎてお小遣いが今月大ピンチだ! 俺の頑張りすぎだ!
「――――と言って泣きながら笑ってました」
「……加奈、いったいどれだけ使わせたの?」
「違いますよ。小学生の頃、私はお手伝いして貯めた自分のお小遣いで何か買おうと、硬化を握りしめてわくわくして夏祭りに行ったのに兄さんが――――」
――かなたん。ハァハァ。可愛いよ。その浴衣最高に似合ってるよ! 今日はなんでも買ってあげるからね! フヒヒヒ……おっといけねぇ。鼻血が出やがった。だがカメラだけは手放さねぇ(カシャカシャカシャカシャカシャッ)
――おにいさま。きょうはわたしがおてつだいして貯めたおこづかいでおかいものしたいです。
――大丈夫だよ! お兄様がぜんぶ買ってあげましゅからね! あ、おっちゃーん! りんご飴くっださーいな!
――おにいさま、かなが、じぶんで買いたい。わたしも、おかいものしたい。
――大丈夫だよ! おにいたまが全部買ってあげましゅからね! はい、どーぞかなたん! あ、そこの射的ですぐにおにんぎょうさんとってくるからね!
――おにいさま、わたしも……
――ヒャ――――ッハァ! どけリア充共が! てめぇらには夏祭りの射的の楽しい思い出も景品もくれてやるわけにはいかねぇ! ターゲットはあのダンディなくまさんか……ククッ。未だこの俺の銃弾から逃げ切れた獲物はいねぇ……覚悟しな。俺の世界一プリティでラブリーできゃわいいきゃわいい妹の為だ(グリグリ)。
――おにいさま、かなも……かなもしゃてきやりたいよぅ。
――ダンディなくまさんよ。兄の判決を言い渡す……死だッ!
――かなもやりたい。かなもはんけついいわたしたい。
――俺のボタン……じゃなかった……ダンディくまさんんんんんんんんんんんんんんんん!
――だめだこいつ。はやくなんとかしないと。
「――――と、言うわけで。結局、小学生の頃の私はまったく夏祭りでお買い物をすることがありませんでした」
「なるほどよくわかった。ちょっと徹さんのところにいってくる」
さて、と。ロリっ子な加奈たんの写真が今でも残っていないか聞いてくるか。いや、絶対に残っている。俺は徹さんの変態的な部分に関しては信頼している。変態シスコンである徹さんがロリっ子加奈たんの画像を今でも残していると、俺は信じているッッッ!
やべーな。今手持ちに五万しか入ってねぇよ。ロリっ子加奈たんの写真だと足りないかな。
花火を早々に打ち切ってさぁ今からロリっ子写真の交渉に向かおうとしたところでぐいっと南帆に服を掴まれれた。
「……どこに行く気?」
「ひとつなぎの大秘宝を求めに」
「……変態」
「フハハハハハ! どうとでも言え! 幼女の写真の為ならどんな汚名だって喜んで被ろう!」
「それ、当の本人がいる目の前で言わないでくれます?」
気が付けば加奈がげんなりとした目で俺を見ていた。はて。当の本人?
「バカかお前? ロリっ子加奈たんとお前は完全に別物だ」
「いやいやいや。仮に兄さんが写真をまだ持っていたとしても、それは正真正銘、私ですから」
「違うッッッ! ロリっ子加奈たんと俺の目の前にいるBBAは別物だッッッッッ!」
「凄い気迫ですね。そんなに認めたくありませんか」
「当然だ。お前のロリ時代とあらばさぞかし可愛いに違いない」
「か、可愛い……」
「……加奈、気づいて。褒められているのは幼女時代の自分。今じゃない」
「だが! だとしても! 俺は目の前のBBAとロリっ子加奈たんが同一人物だとは思いたくない! いうなればそれは遊園地のマスコットキャラクターには中の人がいると子供にぶっちゃけているのと同じことなんだよ! 純粋な夢を壊そうとしているのと同じなんだよ!」
「純粋な夢という時点で疑問符がつきますね」
「……欲望にまみれた夢」
「夢とは欲望そのものだ。そう、夢とは……」
「……めんどくさいからごちゃごちゃ言わないで」
いやー。それにしても意外と南帆の握力ってやばいわ。どうしよう。マジで逃れられない。
それにしてもさっきから背中に当たっている冷たくてゴツゴツとしたものはなんだろうね。心なしか銃口に似た感触がするんだけど、気のせいだよね! いくらエアガンでもあれ、至近距離だと超痛いぜ!
と、言うわけでここはおとなしくホールドアップ。
「……そんなにも加奈が小学生の頃の欲しいの?」
「欲しい。喉から手が出るぐらいに欲しい」
「……私だって、小学生の頃の写真ぐらい持ってるのに……ばか」
「詳しく聞かせてくださいお願いします(ゴリィッ)」
まあ。何ということでしょう。ホールドアップ状態から一転。額を地面に擦り付けての土下座へと早変わりしました。これも土下座の匠の技量があってこそですね。
「お願いしますお願いします。幼女時代の写真をこの哀れななんちゃってDQNめに恵んではくれないでしょうか」
「……まさかそこまで必死になるとは思わなかった」
やや引いている南帆は少し考え込むと、
「……じゃあ、渡す代わりに条件がある」
「なんでございましょうか!」
そこで少し黙ると、すぐに南帆は勇気を振り絞るかのようにして、その言葉を言った。実際には、ほとんど表情は変わっておらず、せいぜい頬が赤くなったことぐらいだろうか。
「……ひ、一つだけ、私の言うことをなんでも言うことをきいてもらう」
「逆にきくが……それだけ?」
「…………(コクリ)」
無言で頷く南帆であったが、ぶっちゃけたところ俺はやや拍子抜けしていた。条件というからには何かめんどくさそうな事を押し付けられそうだと覚悟していたのだが、これぐらいなら楽勝だ。何しろ、どうせたった一つ、お願いをきけばいいのだから。
「よーしわかった。じゃあ約束な!」
「……約束。絶対」
ゆびきりの為に小指を差し出す。南帆はそれを見てぴくっと、ほんの僅かに躊躇いのようなものを見せたが、ちゃんと応じてくれた。互いの小指を絡ませあってゆびきりをする。南帆の手は思いのほか小さく、しかしそれでも柔らかくて、温かかった。
「……ち、ちょっと花火とってくる」
急に顔を赤くした南帆はそのままとてててと花火セットの方へと向かうが、わざわざ傍に置いてある別の花火セットは何のためにあるのやら。
「か~い~と~く~ん~?」
はっ! 殺気ッ!
「新手のスタンド使いか!?」
「違います」
そこにいたのは新手のスタンド使いでもなんでもなく、ジト目の加奈だった。
「まったく。海斗くん、人が目の前にいる時に女の子といちゃいちゃするのはやめてください」
こいつには地面に額をこすりつけて土下座をするのがいちゃいちゃしているように見えるのだろうか。しかも全然わかってないなこいつ。俺がいちゃいちゃするのは幼女だけだ。
「ああ、もう。どうして海斗くんはあっちこっちフラグを立ててはイベントを起こすんですか」
「失敬な。一つたりとて起こしたことなんかねぇよ」
俺だって幼女とのイベントが起きるのなら喜んで飛び込んでいくよ! でもそんなこと一度たりとて起きたことないわ!
「幼女の写真に釣られてほいほいと……まったく、本当に海斗くんは変態さんですね」
「ふっ。言ってろ。俺は自分の行動が間違っているとはこれっっっっっっぽっちも思っちゃいない!」
「せめて自覚しておいてほしかったのですが……人間として」
「俺は幼女の写真のためならこの命を捧げる覚悟すらある!」
「捧げるならせめてもう少し人のためになることに捧げてくれませんか!?」
ため息をつきながら、加奈は花火セットに手を伸ばし、二本取り出すと、そのうちの一本を俺に差し出してきた。
「どうぞ」
「ん」
火をつける。すると、再び激しい音を立てながら火が燃え上がった。その閃光が俺たち二人の周囲を僅かに照らしだす。頭の中にしっかりとロリっ子かなたんとなほたんの写真のことを考えながら、俺はぼんやりと花火を眺めていた。加奈もしゃがみこんで、同じようにしてぼんやりと花火を眺めている。加奈が手に持っている閃光が彼女の綺麗な金色の髪に輝きを与えており、その姿は幻想的な一つの風景として完成していた。
しばらく俺たちは無言で自分の花火を眺めて、やがて加奈がゆっくりと口を開いた。
「海斗くん」
「なんだ」
「私、この合宿に来れてよかったです」
「そうか。そりゃよかった」
「来る途中に車内でみんなと一緒におしゃべりしたり、着いてからもみんなと一緒にお買いものしたり、一緒に料理したり、一緒に海で遊んだり、一緒に花火したり。こんな経験、今まであまりなかったので……凄く楽しかったです」
「お前なら、こういうことは何度でも経験してそうなんだけどな」
俺がそう言うと、加奈はやや悲しそうな表情を見せる。
「いえ。私、今までこうして対等……っていうか、本当の意味での友達っていうか……こうして自然な形で一緒にいてくれた友達って、あまりいませんでしたから。ほら、私って、学園でもそうですけどみんなあまり近寄ってきてくれないんですよね」
確かに。どちらかというと、周りが勝手に加奈を担ぎあげているというか、勝手に高嶺の花認定してしまって近寄りがたくなってしまっている。会話程度ならこなしているものの、どいつもこいつも遠慮がちというか自分から加奈を遠ざけているような雰囲気はある。
「そこに悪意はないってことは分かってるんです。でも、私としてはみんなと同じように、普通の友達が欲しかったんです。こうしてみんなと一緒に、普通に合宿……っていうか旅行したり、その……す、好きな人と一緒に花火したり」
「そっか。お前も、色々と大変なんだな」
「はい……って、え? あれ?」
加奈は「それだけ?」とでも言いたそうな目でこちらを見てくるが……大変なんだなぁ。で終わっては何かまずかったか。
「海斗くん」
「なんだよ」
「私、こうしてみんなと一緒に、普通に合宿に来て、その……す、す、す……好きな人、と一緒に花火したりして、とても楽しかったです!」
「そうだな。俺も……まあ、その、なんだ。楽しかったよ」
なぜ二回も言ったんだろう……。それに「あれ? 今、とても自然な流れでスルーされませんでした?」と言っている。スルー、か。まあ、あえて好きな人発言はスルーさせてもらったが……加奈もどうやらかなり油断しているようだな。
まさかこの合宿に参加しているメンバーの中にこいつの好きな人がいたとは……あぶねぇあぶねぇ。俺の見事なスルースキルで加奈の失言をフォローしてやったぜ。
「海斗くん!」
「だからなんだよ」
「私、好きな人と一緒に花火ができて、とても嬉しいです!」
なぜこいつは自分の失言をむしかえすのか。
「加奈。どうしてお前はさっきから好きな人の話をむしかえすんだよ。せっかく俺がお前がうっかり口を滑らせた失言をスルーしてやっているのに」
「いやいやいや。そこはスルーしないでくださいよ!?」
「ん? ということはつまり……」
「そ、そうです! えっと……いくら海斗くんが鈍感さんだと言ってもこれで……」
つまりこれは失言ではない。ということは、これは加奈からの合図? 導き出される結論は……、
「お前の恋が上手くいくように俺にサポートしろってことだな!? よしわかった。俺に任せろ!」
「違ぁああああああああああああああああああああああああああう!」
「照れんなって。で、お前が好きなのは誰なんだ? 今、一緒に花火をしているやつの中にいるんだよな。正人? 葉山? 国沼? ……まさか大穴で徹さんか!?」
「全然違いますよ! かすりもしてないですよ! ああ、もうどうしてこんなことに……とにかく忘れてください! それは海斗くんの勘違いですからね!?」
「そんなこと言われても……こんな爆弾発言忘れようにも忘れられな……」
「家を探せばまだ私の小学生時代の写真がたくさん残っているかもしれませんね」
「ちょっと鈍器で頭殴ってくる」
それでも駄目なら銀髪シスターを庇って光の羽を頭で受けるか、世界の破壊者になるか、チェックメイトフォーのルークに挑んでボコボコにされれば記憶喪失になれるかもしれない。
ついにバトライド・ウォーをようやく購入。
個人的にウィザードとWが使いやすい。
カブトのライダーキックの仕様にも感動した。




