第28話 星空の下で
別荘が見えてくると美羽はぱっと手を離した。
「お、おやすみなしゃいっ」
と言うと、たたたっと別荘に向かって一人で駆け出した。BBAから解放された俺はまだほんのりと美羽の柔らかな体温を腕に感じつつ、ゆっくりと歩きながら別荘に戻った。
罰ゲームから戻ってくると、今度は俺たち男子組の入浴時間となった。とはいえ、浴室はそう一度に入ることのできるものではないので分けて入ることになるが。正人が期待していた「きゃー! なんでアンタがここにいるのよエッチばかへんたいー!」的なお風呂でばったりイベントもなく、入浴時間も無事に消化した。
だが、入る前に正人が土下座をして「頼むから……頼むから入浴だけは別にしてください!」という懇願をしてきたので、別にどっちでもいい俺はそれを承諾し、国沼も同じく承諾。ただ葉山だけは少し残念そうにしていて、早く皆と馴染もうと努力しているんだなと思った俺は胸を痛めた。
夜は昼間の移動の疲れもあってかそんなに騒ぐこともなく、すぐに就寝することにした。まあ、その為に準備していたのだし、異論はない。
今回は一つの部屋の中、敷布団をひいて皆で寝ることにした。正人が「電気、消すぞー」と声をかけるとその直後、室内が暗闇に包まれる。窓の外からは満点の星空が覗いており、その輝きは幼女の笑顔のように綺麗だった。つまり、とても美しいということだ。
「みんな、起きてるか?」
正人が言ったその一言に、俺は答える。
「まだ電気を消してから一分も経ってねーぞ」
「いや、こういうのお約束じゃん? つーか言ってみただけだ」
「ははっ。あるある。俺もつい最近あったテニス部の合宿ん時にこういう同室に質問したやつがいたよ」
「いいよねぇ。こういうの」
と、言ったのは葉山だ。その声はどこかうっとりしていて、
「僕は修学旅行の時、寝たふりをしながらその質問の後に繰り広げられるボーイズトークを聴くのが毎晩の楽しみだったよ」
「へぇー」
ということは、葉山と同じ部屋で寝ていたやつの話は相当に面白かったのだろう。それは俺もちょっと聞いてみたかったな。
『…………』
何故か正人と国沼が黙りこくっていた。奇妙な沈黙が部屋の中を埋め尽くす。すると、正人が気を取り直したかのように、明るい声で再び話題を作った。
「そ、そういえばさ、こういう時って好きな女子の話題に移るのが定番だよなっ!」
そういう現象があるということは俺も学習している。俺も寝たふりをしながら同室の奴らの話を聞いていた。ついでに、俺の悪口も言われたから涙目になった記憶があるけど。
「つーわけだ国沼、さっさと白状しやがれ!」
「ははっ、弱ったなぁ」
正人のパスに国沼は気楽な声を出して困ったようにしている。が、その声には明確な拒絶の色が見て取れた。俺ですら気づくのだから、その意思には当然のことながら正人も気づいているので、すぐに退いた。その際に小声で「ったく、そんなんだから……」という声が聞こえた、ような気がした。
「んじゃあ葉山、お前、好きな女子とかいねーの?」
今度は葉山にふる。しかしその正人の質問はどこか「頼む! 頼むから、少しでもいいから! 女子を! 好きでいてくれ……!」とでも言いたそうな思いがこもっていた。そんな正人の決死の(?)質問に葉山はうーんと一唸りすると、結論を導き出す。
「僕は悩むけどやっぱり、海斗くん×正人く『なぁ海斗! お前は好きな女子とかいねーのかぁあああああああああ!?』でもやっぱり正人くんが攻めるのも捨てがた『さぁ海斗! 早くッ! 言えよッ! なぁ! 早くッ!』あぁ、やっぱりオリジナルが二人いると妄想がはかど『頼む……頼むよぉ。はやくこの幻想をぶち殺してくれよぉ……。ううっ。ぐす……』」
葉山の一言は、正人の大ボリュームの声によって遮られた。それにしても葉山は何を言ったのだろう。俺と正人の名前を言っていたような気がしたのだが、気のせいだろうか。それにしても後半の正人はどうして涙声なのか。
「俺の好きな人ねぇ」
正人の言葉を聞いて、俺は改めて考える。ここ最近の自分と向き合って、今まで考えたこともなかったような事を、考えてみることにした。
気が付けば、部屋中がシン……と静まり返っていた。シンといっても番組を乗っ取られた悲劇のアスカさんの方ではない。俺は火事場の馬鹿力を発揮したとしても種割れ演出がないしな。
だがこの静けさが妙に気になる。特に国沼からは何やら真剣な空気を肌で感じるし、葉山もドキドキしながら見守っているといった様子だ。正人は「母さん……俺、クラスメイトに汚されちまったよ……」とわけのわからないことを涙声で言いながら枕を濡らしている。
兎にも角にも、奇妙な空気が部屋を覆い尽くしていた。
そんな空気を感じながら俺は考える。ここ最近、俺の中に生まれた気持ち。素直で、純粋な、好きという感情を。気持ちを。
迷ったのは一瞬。だがその一瞬の間に俺は無数ともいえる選択肢の中で迷い、迷いぬき、そして一つの結果を口にする。その子の名前は自然と言葉に出てきた。
「俺は……」
言葉を、紡ぐ。
「俺は忍ちゃんが好きだぜ。良いよなぁ。金髪と幼女の組み合わせ。やっぱり忍ちゃんはロリ奴隷形態が最高だと思うよ、俺は。あぁ、でも会長も悩むんだよなぁ。もうあんなロリロリな会長のいる学園で俺も過ごしてみたいよ畜生! どうして俺は碧〇学園の生徒じゃないんだ! あ、キーくんは俺の敵です。忍ちゃんも会長も捨てがたい。しかし某ファミレスの先輩も最高だし、まほまほもチョーイイね! が、ひ〇たちゃんも捨てがたい。まったく、小学生は最高だな。くそっ。どうして俺はバスケをしていなかったんだ! もしかしたら小学生のコーチとして呼ばれるかもしれないのに! いや待てよ。今からでも遅くはない。この合宿から帰ったらすぐにバスケを練習しなければ! フヒヒ……」
「うん。一瞬でも期待した俺がバカだった!」
心なしか、正人がとてもつもなく爽やかな笑顔でそう言っていたような気がした。
最近、俺がロウ〇ゅーぶ! を見て思ったことを言っただけなんだけどな。
「ははっ。黒野は面白いなぁ」と、国沼。
「分かってはいたけど、僕は少し、だった残念かな……」と葉山。
部屋の空気は一気に軽くなった。だが俺は少し、国沼のほっとしたような雰囲気が気にはなったが、どうにもそれを問いただすような空気でもなかったし、そうする意味もないような気がしたのでやめた。
それからは終始、特に意味のないような雑談が続いていたが、すぐにそれも収束して部屋は寝息で埋め尽くされた。だが俺はどうにも眠ることが出来ず、気が付けば布団から起き上がり、部屋を抜け出していた。
☆
何となく、俺は外に出てみた。窓から見える星空が印象的だったからだ。罰ゲームのせいで外に出て行ったのも含めると二度目にもなるが、相変わらず空は綺麗だった。最近、なろう主人公の名前にソラが増えてきたことには関係ないだろう。たぶん。今時、敵幹部怪人の名前にもソラが来るぐらいだしね。仕方ないね。
そんなことを考えながら別荘から出ると、バルコニーに誰かいるのが見えた。その人物は床に身を丸めるかのように膝を抱えて座っていた。が、俺が近づくと足音で察したのか顔を上げて、弱々しい笑みを向けてくる。
「あ、かいくん……起きてたんだ」
「……おう」
――――なんだ、お前もこの幼女の笑顔にすら匹敵するほどの星空を眺めに来たのか?
と、言おうとしたけどやめた。恵の弱々しい、疲れたかのような笑みを見ていると、そんなことを言おうとした口も自然と塞がって、代わりに「お前もか?」という気の利かない一言しか出なかった。
「うん。ちょっと、眠れなくて」
「そっか」
ここまではいつもの会話……のはずだ。だが今日は違う気がする。妙な空気が、俺と恵の間には漂っていた。その空気の正体が分からなくてもどかしい。
恵はすぐそこにいるのに。まるで、恵が自分と俺との間に見えない壁を作っているかのように、それ以上、進むことが出来ない。ついATフィールドかとツッコミを入れたくなる。その壁を壊して恵の心に問いただしくな……いや待て。人のATフィールドが消失するとオレンジジュースになるって姉ちゃんが言っていた。
恵みの隣に腰をおろし、しばらくは無言で星空を眺めていた。いや、それぐらいしかすることがなかった、とも言える。沈黙が続く。どれぐらい時間が経ったのかは分からない。ふと、俺は隣に座る恵の横顔を見てみた。
その瞳は星空へと吸い込まれるように見入っている。いや、違う。今は何かを忘れるかのようにして無理やり見入ろうとしている、といった感じだろうか。
だからなのかは分からないが、俺の口からは自然と、こんな言葉が出た。
「無理すんなよ」
自分でもどうしてこんな言葉が出たのかは分からない。けど、俺の目から見ても明らかに恵はどこかおかしい。さっきまで、皆と一緒にいた時は普通、いつも通りに見えたものの、今は無理をしているようにしか見えない。
一体、何に対して無理をしているのかは分からない。だが、恵の方から話してくれない限り今の俺にはこの一言をかけるだけで精いっぱいだった。
そんな俺の一言に対して恵は、はっと驚いたかのような顔をすると、また、弱々しく微笑んだ。
「あはは……。そう見えちゃう?」
「何となくな」
「そっか」
また無言が続くのだろうか。そう思った矢先、恵がまた口を開いた。
「……なんでも、ないよ」
その言葉の割に、恵はまるで何かを必死に押さえつけているように見える。嫌でも、そう見えてしまう。
――だったらなんでもありそうにすんな。丸わかりなんだよ、馬鹿が。
思わずそう、心の中で愚痴ってしまう。いつもの恵らしくない。こんなにも弱った恵を見るのは初めてだ。いったい、何がこの子をそうまでさせているのだろうか。今の俺にはまったくといっていいほど、それが分からなかった。
「ほんとに、何でもないの……ただ、ママと喧嘩しちゃってるだけだから」
「母親と喧嘩してそこまで落ち込むとは、お前は随分とマザコンだったみたいだな」
「そうかもね」
――誤魔化すなよ。母親と喧嘩しただけで、そこまで追いつめられるわけないだろうが。
これが言えたらどれだけ楽だろう。いや、実際、言ってしまえばいいのだ。言えば全てが前に進む。だが、目の前の弱っていながらも自分で闘おうとしている恵を見ていると、そう言ってしまうのがとても無粋なものに思えた。
「……実はね、ママと喧嘩したのって、これが初めてなんだ」
「そうなのか?」
「うん。私、ずっとママの言う通りにしてきたから」
恵は相変わらず星空を見上げていた。だがその瞳は星空ではなく、どこか別のところを見ているような気がした。
「……いや違うかな。喧嘩っていうより、私が一方的に我儘を言っているだけ。独り相撲ってやつかも」
その言葉だけで、恵の母親の対応が嫌でも読めてしまう。
「私、今までママに対して不満がなかったわけじゃないよ。ちょっとした反抗はしてみたつもりだったけど、全部スルーされちゃってたね。まあ、私がまだまだ子供なだけなんだけど」
「そりゃまあ、俺たちはまだ子供だからな」
俺の何気ない一言に恵は軽く笑みを見せる。
「ふふっ。そうだね。でも、何ていうのかな。心のどこかではママの言っていることは正しいんだ、って思ってたから結局はずっとママに従ってきた。ママの言うとおりにしてきた。けどそんな自分に疲れてきちゃってさ。高校に入ってからは反抗の度合いを上げてみたんだ」
恵の言葉に怪訝な顔をする。何だかんだでこいつはそこまで悪いことはやっていないような気がする。
「例えば、高校デビューっていうか、髪を染めてイメチェンしたり、明るいキャラを作ったり、わざと悪い点数とっちゃったり?」
「しょぼっ!」
ああ、そうか! こいつやけにできる子なのにどうして赤点ギリギリの点数とったのかと思ったらわざとだったのかよ! 勉強見てやって損した!
「ママって特に成績にうるさいからね~。だから色んな意味で驚くだろうな~なんて思ってたよ。うん」
「そりゃあ驚いただろうな!」
「……まあ、結局それが仇になったんだけどね。今はかーなーり、後悔してる」
顔を埋める恵。どうやら自分の行いが、どれだけ子供っぽいかを痛感しているのだろう。そんなことをしても意味はなく、結果的にいえば自分を苦しめるだけだったのに。
だが、きっと何でもいいからなにかをしたかったのだろう。子供っぽいと気づいていても、なにかをしたかった。少しでも母親に、自分を見てもらうために。
「つーか、お前のそのキャラって作り物だったんだな」
「そうだよ? 前にも言ったじゃん。だって私、元々はかなり地味な子だったんだから」
「ふーん」
考えられないな。今の恵を見ていると。
「髪だって黒かったし、長かったし。メガネかけて本ばっかり読んでたし。ああ、今はコンタクトだよ?」
「本当に、全然違うな」
そこから今の恵にエクストリームするには何があったんだよ。
「私ね、あの時、同じ場所にいたんだ」
と、気がつけばすぐ間の前に恵の顔があった。かなり近い。少し近づけば互いに触れてしまいそうなぐらいに。その瞳はもう星空を見ておらず、俺の目を見ている。
「……あの時?」
「うん。かいくんが、美紗ちゃんを助けたところ」
「お前、あの塾の生徒だったのか?」
「まぁね。これでも、塾内テストじゃずっと一番だったんだから」
「お前、マジで勉強会の時の時間を俺に返せよ……」
あの塾でずっと一番だったなら学園の定期テストなんか余裕で一位をとれるだろうに。
「やだよ。だってあの勉強会、とっても楽しかったんだもん」
そう言って、恵は微笑んでくれた。それはさっきまでの弱々しい笑みではなく、心の底からの、太陽のように輝いた笑顔だった。
「それは、かいくんだって同じでしょ?」
「…………まあな」
それは否定しない。あの時間は、勉強だというのにとても楽しかった。できるならまた皆でやりたいとも密かに思っている。そういうことを考えていると次のテストが楽しみになることがあった。
夏休み前の期末テストは合宿があったので色々とバタバタとして勉強会は出来なかったが、二学期はじめにあるテストの勉強会は出来たらいいなとは思っている。
そして俺は、そろそろ踏み込んでみることにした。
「なあ、恵」
「……なぁに?」
空気だけで察したのか、恵も会話を遮ろうとしない。
「お前、母親と何があったんだよ」
恵は今、悩んでいる。
そして、今までずっと言うことを聞くことしかなかった母親と懸命に闘っている。初めて、ハッキリと抗おうとしている。それぐらい今回、母親との間に起こった問題は恵にとって重要なことで、どうしても何とかしたいということだ。
「…………ん。そうだね……もう少し、待ってくれるかな」
帰ってきたのは、拒絶の答え。
「もう少し、ママと話してみたいんだ。今まで、あんまり話そうとしなかったから。だからもう少しママと話して、私のこと、解ってもらおうと思う」
「……そうか」
俺が応えると、恵は急に照れたように笑った。
「あはは。実際さ、そんなにシリアスなことじゃないんだよ。傍から見ればそこまで重くもなんともない話しなんだ。でも、私にとっては大問題っていうかさ……だから、その……」
間が開き、そして。
「私がどうしても無理だって思ったら、本当に助けがほしかったら、その時はさ。……かいくんを頼ってもいいかな?」
「当たり前だろ」
その返事はごくごく自然に、当たり前のように出てきた。だが
「いや待て。俺よりもまだ他の奴らの方が頼りがいがある気がするのだが……」
「そーいう問題じゃないの」
恵は苦笑しつつ、ゆっくりと身を寄せてきた。そして、座った状態のまま俺にもたれかかってくる。
「……ちょっとだけ、こうさせて」
「別にいいけど」
身動きもとれず、特にすることもなかった俺はしばらくの間、ただぼーっと星を眺めていた。肩には恵の温もりが感じられる。これがしかしこういった状況においてもこれが幼女ならばどれだけ良かったことかと考えてしまうのは健全な男子高校生として仕方がないといえるだろう。
どれだけ時間が経ったのか分らなくなった頃、すぐ近くで静かな寝息が聞こえてきた。見てみると、恵はどうやら寝てしまったらしい。こんな体勢でよく眠れるな……。だが恵の安心しきったような寝顔を見ていると不思議とそんな疑問はどうでもよくなった。
因みに恵はタンクトップにショートパンツという、これが寝巻きなのかラフな格好をしている。特にこの角度だと意外と大きい駄肉(※胸です)の谷間が見えてしまう。しかも肩にかかっている紐のようなものが片方ずり落ちているのでかなり危うい。
「まったく。俺がロリ紳士だからよかったようなものの、そんな無防備だと襲われるぞ」
俺は自分でも驚くほど微塵もそんな感情は抱かなかったが。なにこれ。俺の幼女に対する愛すごくね?
だがこのままにもしておけないので仕方がなく、俺は恵を抱えて(俗にいうお姫様だっこというやつだ)また中に戻ることにした。
扉を開けるのに手間取ったものの、何とか室内に戻ることに成功。さて、ここからが厄介だぞ。何とかして恵を部屋まで運び入れなければならない。だがここで少しでも間違えると俺は明日から『無防備な女子をお姫様だっこして女子部屋に潜入しようとした変態』になってしまう。
それだけは絶対に嫌だ。俺はロリ紳士の栄光を捨ててまでそんな変態に成り下がりたくない。しかもそれがBBAを部屋に返しに行ったことで受ける汚名というのならばなおさら嫌だ。
と、俺がそんなことを考えながら部屋を移動すると、リビングのところで足が止まる。ついでに、視線もある一点に釘付けになり、冷汗もダラダラと滝のように流れ落ちてきた。
「…………」
「…………」
目があう。その人物は、サラサラとした黒色のロングヘアがとても奇麗な子だった。そしてその表情は驚きに染まって、あたふたとしているのが分かる。
「……み、美紗?」
「え、えっと、あの……」
そりゃね! いきなり外から女子をお姫様だっこして戻ってきたら誰だって驚くよね!
「ご、ごめんなさいっ」
はっとしたかのようにソファから立ち上がった美紗を慌てて引き留める。
「だぁー! 待て待て待て! 誤解だ誤解!」
「ふぇ……ご、誤解?」
「そう! 誤解!」
さぁ落ち着け。ここは俺がロリ紳士として入れるかどうかの瀬戸際だ。対応を誤るなよ。
「美紗。聞いてくれ、これは――――」
「かいくぅ~ん……」
おおっとぉ。恵さん? どうして腕を絡ませてくるのかな? それもよりにも寄って俺の首に。これじゃあまるで俺達がヘンナカンケイみたいじゃないか☆
「えと……」
「ち、違うんだ美紗! これは恵が勝手に――――」
と、とにかく恵を下すことから始めよう。このままずっと抱きかかえていたら腕が疲れるし誤解は解けない。
「離れちゃやだ……」
あれれ~? どうしてこのタイミングで抱きつく力が上がってるのかな~?
「違うんだぁああああああああああああああああああ!」
やばい! このままだと誤解される! 幼女と変な関係を誤解されるなら大歓迎だが、いくらなんでもBBAとはまずい。第一、恵にも失礼だ。
「えっと……よくわからないけど……とりあず、座る?」
この状況下においても何と無く状況を察してくれた美紗が、俺には女神のように見えた。
他の奴らだと確実に何かされるからな。
「ああ。そうだな」
とりあえず平静を装う俺がまず始めたのは、誤解を解くところからだった。




