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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第3章 襲来するお姉ちゃんと夏休み
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第27話 夜道に二人で

最近、ついにDXウィザードライバーを購入。


リング集めの魔力ゆうわくに日々抗っています。

ベルトを買うと更に別のアイテムを集めたくなる不思議。でもこのままだと貯金が底をついちゃう!



ライダーベルト、恐ろしい子……!

 買い出し組が戻ってくると、さっそく調理が行われた。今回作るのはやはり合宿の定番のカレーだそうだ。なんというか、最近カレーばっかり食べているような気がする。俺は大したことがないものの、腕の怪我もあって調理には不参加だった。

 夕食を順調に消化し、後片付けも終わった後に、今日はもうみんな疲れているだろうということで休むことにした。まずは女子勢がお風呂に入り、その間、おれたち男子勢は就寝準備に勤しむこととなった。

「はぁ。せっかくあんな美少女達と合宿に来て、どうしてむさ苦しい男と一緒に寝なくちゃならんのかねぇ」

 それはこっちのセリフだ。どうせなら俺も幼女と一緒に寝たかった。

「まぁまぁ、そう固いこというなよ。いいじゃんか、修学旅行みたいで楽しいぜ、俺は」

「そうだよ。僕もみんなと一緒に寝るのは楽しみだなぁ」

 と、国沼と葉山の二人のイケメンコンビが爽やかな会話を繰り広げる中、

「おおーっと? 一気にリビングで寝たくなってきましたよ?」

 なぜか正人が布団を持ち出してドアの方へと後ずさる。いったい何をしているんだこいつは。

「そーいえば、修学旅行といえばよく休憩時間とかにトランプをやったもんだな」

 微妙な空気を感じ取ったのかすぐさまフォローに回る国沼。気を利かせることもできるとかどんだけスペック高いんだよこいつ。

「あ、そうそう。それでトランプで負けたやつとかが罰ゲームにジュースを買いに行ったりとかな」

 この国沼のフォローをキャッチした正人がすぐに話に乗ってくる。なんだかんだで自分でも空気が微妙になりつつあったのを感じ取っていたらしい。

「ふーん。修学旅行ってそんなことをやれるんだな」

「って黒野、お前もよくやっただろ?」


「…………いや、俺、中学の時は苛められてたから……」


『…………』

 重くなる空気。沈黙に包まれる室内。

 ついつい出てしまった俺の中学時代の悲しい思い出に、再び場の空気が微妙、いや、さらに悪化してしまった。

「は、葉山はどうだったんだ?」

 勤めて明るい声を出す国沼。対する葉山は、


「……僕、周りの皆から避けられてたから……」


『……………………』

 再び沈黙が、室内を支配した。

 しばらくゆっくりとした時間が流れる。そんな中、正人がゆっくりと口を開いた。


「じ、人生ゲームでもやるか」


 ☆


 流石にあの状況で「みんなでトランプしようぜ!」とは言い出しにくかったのか、結局は人生ゲームをすることになった。とりあえず、とはいえ、面白みに欠けるということで罰ゲームはつけることになった。この近くに自動販売機が一つだけあるらしいので、負けた者は人数分のジュースを買いに行くことになった。

 その結果。

「熱い……」

 人生ゲームに敗北した俺はトボトボと暗い道路の上を歩いていた。アスファルトから伝わる熱気がじりじりと体を蝕んでいく。道路沿いの自動販売機にはすぐに辿り着いた。が、そこには先客がいた。

「美羽?」

「ん。ああ、あなたですか」

 ガコン、という何かが落下したような音が聞こえてくる。どうやら向こうも自動販売機に用があったらしい。

「こんな暗い夜道で何やってんだ」

「少し飲み物を買いに来ただけですよ」

「罰ゲームで?」

「罰ゲーム? 何のことですか?」

 きょとん、と美羽が首をかしげる。その時に黒いロングヘアがサラリと揺れた。

「いや、俺は人生ゲームに負けた罰ゲームでジュースを買いに来たんだよ」

「人生ゲームとは珍しいですね。あれは時間がかかるものですし、私の周りはトランプやウノのような手軽に決着をつけることのできるゲームでしてましたよ」

「やめろ。古傷を抉るな」

「?」

 思い出すとまた涙が出そうになった。

 あの頃は人けのない場所を探して校内を彷徨っていたっけか。

 過去の黒歴史に涙をのんでいると夜風が頬を撫でた。それはまるで俺を慰めてくれているようで少しだけ元気が出た。

「相変わらず、おかしな人ですね」

 そういって、クスリと微笑む美羽。だがそこではっと何かに気が付いたかのようにすると、物凄い勢いで首を横に振った。

「どうした」

「べ、別になんでもありません!」

 そういって、まるでごまかすかのように百円玉を自動販売機に入れようとしたので、そこから割り込んで俺が百円玉を投入。ジトッとした目で睨まれた。

「別に割り込んで自分の分を買おうってわけじゃねーよ」

「ではどうして」

「奢るっつってんだよ」

 意外ですね、とでも言われてしまいそうな顔をされた。

「意外ですね」

「悪かったな、意外で。BBAにジュース奢ってやる金ぐらいあるっての」

 まあ、相手が幼女であるならばジュースどころかお洋服でも何でもいくらでも奢ってあげるけどね。フヒッ。

「……なんか、凄い気持ち悪い笑みを浮かべているのですが」

「気のせいだ」

 失敬な。俺は常日頃から幼女に嫌われないように紳士に相応しい表情を心掛けているのに。それを気持ち悪い笑みとは何だ。

「で、何を買うんだ」

「べ、別に奢ってもらわなくてもかまいません。これぐらい自分で払います」

 律儀なのか、美羽は財布から取り出した百円玉を押し付けてこようとする。と、その時にふと財布に視線がいった。猫のキャラクターの顔の財布で、首から下げるような紐がついている。ネックポーチというやつだろうか。

 これこそ本当に意外だった。なんだか俺の考える渚美羽という少女のイメージとは違う。そんな俺の視線を察したのかぷいっと気恥ずかしそうに視線を逸らす。

「な、なんですか。悪いですか? 私がこういう財布をもっていては」

「いや、意外だなと思って」

「良いじゃないですか。気に入ってるんですよ」

 別に気に入ってるならそれはそれでいいと思うけど。

「とりあえず、さっさとボタンを押してくれないか? どうせ、他の皆の分も買って帰らなきゃならないんだろうが。あいつらを待たせてもいいのか?」

「…………」

 渋々といった様子でボタンを押す美羽。その後も百円を投入し続け、その後は結局、美羽の持つ財布から百円玉が出ることはなかった。そして、俺も人数分のジュースを購入して美羽の分も含めて持ってきた手提げ袋に入れて歩き出す。

「礼は言いませんよ」

「礼が欲しくてしたわけじゃねぇよ」

 姉ちゃんから、「女の子にはお金を出させちゃだめだよっ!」としつこいぐらいに言われてるからな。これぐらいは普通だ。

「……ありがとうございます」

 言うんかい。

「か、勘違いしないでくださいよ! これはあなたに借りを作りたくなかったからです!」

「あっそ」

 別にどうでもいいけど。

 しばらく、夜道を二人で歩く。風呂上がりの為か、美羽からはシャンプーの香りがした。その香りに反応して美羽を見てみると、肩から除く柔らかそうな白い肌が視界に入る。首から下げているネックポーチ型の財布がその柔肌に僅かに食い込んでいる。そんな俺の視線を感じてか美羽がこちらに振り向く。

「なんですか?」

「いや、その財布」

 歩くたびに揺れるその財布を指差す。

「そういう財布を持つの、美羽のイメージとは違ったからさ」

「ん。……よく、言われます」

 拗ねたように美羽は財布をちょこんと指先でつまむ。その仕草はまるで昔を思い出すかのように、愛おしげにその財布を優しく撫でる。何か思い出もあるのだろうか。

「これは、子供の頃に美紗がくれたものです」

「今も子供じゃん」

「いや、そういう意味じゃなくてですね」

 げんなりとしたように美羽がこちらを見てきた。

 いやいやいや。まだ俺ら高校生じゃん? 普通に子供じゃん?

「幼稚園の頃、っていう意味ですよ」

「詳しく聞かせてもらおうか。できれば画像もあるとありがたい」

「あなたって本当に、雰囲気というものを容赦なくぶち壊してきますよね」

 仕方がないよ。幼女だもん。

「美羽と美紗の幼女時代……萌えるな。さぞかし可愛かったんだろうな。想像するだけでワクワクしてきたぜおい」

「な、何をじろじろ見ているのですか! へ、変な視線を向けないでくださいっ!」

「は? BBAに変な視線を向けるわけないだろうが。自惚れんな」

「…………(ビキッ)」

 さて、そろそろ土下座する頃合いかな? やれやれ。最近は土下座の腕も上がってきてまいっちゃうぜ。俺も、もう立派な土下座が超上手い人ゲザーだな。

 見せてやろう。土下座が超上手い人ゲザーの力をッッッ!


 ~しばらくお待ちください~


「で、話を戻していいですか?」

「……どうぞ」

 まさかタキオン粒子を操って俺が土下座をするよりも早く制裁を加えてくるとは思わなかった。

 今時、暴力系ヒロインは流行らないとだけ忠告しておこう。

「昔、一度だけ美紗と喧嘩したことがあるんです」

「あんまり想像できないな、それは」

 今の美羽の美紗に対する態度を考えればありえないと断言できる。むしろこいつ、美紗と喧嘩しようものなら絶望しきってしまいそうな勢いだろ。

「今となっては考えられませんけどね。もし今、美紗から嫌われようものなら私はこの命を差し出してでも許しを請う所存です」

 想像の遥か斜め上だった。絶望通り越してファントム生んじゃいそうだぞこいつ。

「その時、仲直りをする際に美紗から貰ったんです」

「大切な思い出、っていうやつか?」

「……ええ。大切な。大切な、思い出です」

 そう言うとそっと瞼を閉じる。おそらく思い出しているのだろう。その時の思い出を。いくらロリコンという名の紳士という俺でもその思い出とやらの回想を邪魔することはできない。

 だって、その思い出の中では美紗は幼女なんだろ? 美羽のイメージが俺にも伝わってくるかもしれないからな! 起きろ、奇跡! その時、不思議なことが起こってくれ!

 そんな俺の決死の祈りはそっちのけで美羽はそっと瞼を開ける。

「あの頃の美紗は……」

 その瞳は、その頃の思い出を大切にしていることが伺えた。……やばい。なぜか罪悪感が半端ない。そんな純粋な瞳をしないで! その思い出の幼女の部分にしか興味を示さなかった俺の罪悪感が半端ないんですけど!?

 そんな俺の意に反して、美羽は桜色の唇を開いた。


「あの頃の美紗は、と――――ってもきゃわいいのですよぉ! いや、正確にはあの頃の美紗『も』ですけどね! 涙目になったあの時の美紗の表情! 今思い出しても萌えて萌えて仕方がありません! しかも顔を真っ赤にしながら可愛らしくもじもじとしながらこのお財布をちびちびと差し出してくるんですよ!? あぁん、もう、最高です。可愛すぎます。ぷりてぃーすぎますよ! ハァハァ。美紗、可愛いですよ美紗ぁ……。くぅっ。今でもごく稀に美紗をいじめて涙目にしてみたいという願望に駆られるのですがそんな内なる自分を抑えるのに必死なんですよね!」


 やべぇ。罪悪感が一瞬のうちに消し飛んだ。

 これが美羽クオリティーか。つくづく、恐ろしいやつだ。

 帰った後、美紗にはそれとなく忠告しておいてやろう。敵は身内にいるってな。

「まぁ確かに美紗が可愛いのはわかるが、そういきなり変貌するお前が怖いよ、俺は」

「……む。やっぱりあなたも美紗を狙っているのですね」

「いや、別に狙ってないけど……あなた『も』?」

 俺が怪訝な反応を返すとあきれ返ったかのようにして美羽が言う。

「当然のことですが美紗は学内でかなり人気があるんですよ。知らないのですか」

 というか、正人曰く、加奈を初めとしてこの合宿に参加している女子勢は学内でもトップクラスの人気を誇るらしい。元々、加奈は学園のアイドル的な立場だったし、狙っている男子も多いのだろう。

「他人事のように言っているが、お前だってじゅうぶん可愛いじゃねぇか」

「か、かわっ!?」

 何気なしにそんなことを言ってみると、美羽は急に頬を赤く染めてから俺から視線を逸らす。何だ、そんなに変なことでも言ったのか、俺は。

「……たまにそういうこと言うから、あなたは嫌いです」

「あっそ。嫌うなら勝手に嫌ってくれて結構だ」

 別にBBAから嫌われても困ることは何一つない。

 なぜならこの世には「幼女>>>越えられない壁>>>>>BBA」という絶対の法則が存在しているからだ。

「そ、その……」

 先ほどまでの変態的な言葉はどこへやら。急に歯切れを悪くした美羽はこちらをチラチラと伺い、思い出の財布とやらをちまちまといじりながら、言う。

「あ、あなたは、ど、どんな髪型に興味がありますか?」

「は? 急に何言ってんのお前」

「さ、参考ですよ参考!」

 何の参考だ。

「だ、男子にも、女の子の髪型に好みはあるじゃないですか。それで、えっと、その、く、クラスの子に相談されたんですよ! 好きな人に振り向いてもらうにはどんな髪型がいいのかなって!」

「じゃあその女子に言っとけ。髪型一つでその女子の価値を決めちまうような男子と付き合うなってな」

「一瞬、少しだけ良いセリフと思いましたけど、幼女かそうでないかで女子の価値を決めているあなたには死んでも言われたくないセリフですね」

「は? 幼女以外の世の中の女子は全て無価値だろ?」

 なにを言っているんだこのBBAは。

 突然、当然のことをジトッとした目で言ってくる美羽。その時、すぐ近くにある茂みの方から音が聞こえてきた。辺りは真っ暗で、真夜中である。雰囲気もあるせいかわからないが、美羽が「ひゃうっ」と肩を震わせて俺の背中に隠れてきた。

「な、ななななななんな、なんですか?」

 柔肌の感触が服越しにも伝わってくる。シャンプーの香りも、息遣いもすべて間近にある。

 ……やべえ。自分でも驚くほど、どうでもいいと感じてしまうのだが。

「ううっ……」

 さっきまでの勢いはどこへやら。美羽は完全におびえ切った様子で俺の背に隠れている。動こうにもこの体勢では動けないので俺はぼーっとしながらその茂みから聞こえてくる音の正体を見定めた。

「…………」

「ううっ。怖いよぉ……」

 喉かわいたな。ジュース、飲もうかな。

 そんなことを考えていた瞬間、一陣の風が吹いた。同時に茂みが揺れる。その時に聞こえてくる音は紛れもなく、さきほど聞こえてきた音と同じものだった。

「…………」

「…………」

 つまり、美羽がこんなにも怯えていた音の正体はただの風だったわけだ。

 解決解決。

「それで、そろそろ離してくれねーか?」

「…………」

 俺の問いかけに答えず、美羽はきゅっと背中に隠れて服の端をつまんでいた。そこで俺は、一つの可能性に思い当たる。

「え、もしかしてお前、怖がりなの?」

「ち、ちがいましゅっ!」

 あっ。噛んだ。

「そ、そのっ。えっと……こ、こわくなんかないもんっ!」

 キャラが定まっていない件については触れないでおこう。

「そうか。じゃあ、先にいくな」

 さーて、帰ってからはギャルゲーやるぞー。

 そんな思いを胸に秘めながら俺はスタスタと先に歩いていく。が、その後を美羽はつかつかと追いかけてくる。試しに歩くスピードを上げる。すると美羽の歩くスピードも上がる。

 俺はふと止まり、くるりと背後を振り返った。

「……素直に認めろよ」

「う、うるしゃいでしゅよっ!」

 噛み噛みじゃねーかよ、おい。

 だがそうこう言っている場合ではないのか、顔を真っ赤にしながら俺の服を小さく掴むと、上目遣いのまま、美羽は小さく呟いた。

「お、おいていかないで……おねがい……」

 えぇー。

「おばけ……出そうでやだ……」

「お前、よくここまで一人で来れたな」

「さ、さっきまでは平気だったんですよ! でも……今の風で……こわくなって……」

 ぎゅううっと俺の服をつかむ力が強くなった。あんまり強く掴むなよ。服が伸びる。めんどくさいな。

「……おねがい……いっしょにかえって……?」

 あーあ、これが幼女だったらな。一緒に帰るどころか一緒のお布団に入ってねんねしちゃうのに。

 現実には絶望しかないのだなと再確認しつつ、このままだといっこうに進めないので俺はため息をつくと美羽の提案を受け入れることにした。

「わかった。わかったからさっさとその手を離せ」

「ふぇ……やだよぅ……」

「あ゛?」

 やべぇ。殺意が沸いてきた。だから服が伸びるだろうか。びろんびろんになったらどうしてくれるんだよおい。

「じゃあせめて別のところにしてくれ。服はやめろ」

「うん……」

 そういって美羽は手をつないできた。柔らかで、それでいて暖かな感触が手から伝わってくる。それだけでなく美羽は俺の左腕に抱きつくようにしてきたので、仕方がなくそのまま二人で歩き出す。腕に当たっている柔らかな感触は加奈よりも控えめだった。

「ぜ、絶対に離れないでくださいよ!」

「あーはいはい」

 なぜBBAと夜中に密着しなければならないのか。まあ、駄肉(※胸です)が慎ましいので許してやらんこともないが。いや、やっぱ駄目だ。だってBBAだもん。

「つーかお前、本当になんで一人で来ちゃったの?」

「いえ……恵が『みうみうって意外とオバケとか暗いとことか苦手そうだよね~』って言ったんです。そして私が……」


 ――そ、そんなことありません! 夜道だって平気ですよ! はっ。そもそもオバケなんてものがいるわけないじゃないですか。あまり私を侮らないほうがいいですよ。なんでしたら今すぐにでもみんなの分の飲み物を、道路沿いの自動販売機まで買いに行くことだってできますよ!


「……と、つい見栄をはってしまって」

「完全に自業自得じゃねーか!」

 なんてことだ。そんなアホの美羽の為に俺はこうして駄肉を押し付けられているのか。最悪だ。天は俺を見放したっていうのか。今すぐにでもこの駄肉地獄から解放してほしい。

「うぅ……今思えば本当に愚かでした」

「まったくだ」

 それに加えて、俺が言いたいのは他にもあるわけで。

「つーかさ、お前、そんなに怖いならなんで俺に連絡の一つもよこさねぇんだよ」

「べ、別にわざわざ呼ぶほどのことではないじゃないですか」

「わざわざ呼ぶほどのことだろ。いくらBBAでも夜道に一人は危ないだろ。お前、美紗と同じように絡まれやすそうな見た目してるだろ」

「絡まれやすそうな見た目って……それって、情けないという意味ですか」

「は? 可愛いっていう意味に決まってるだろ」

 何言ってんだこいつ。普通、DQNが女子に絡んでくる理由のトップに来るのが「あの子かわいくね?」である。よく小説とかでも咬ませ役のDQNが「ねえちゃん可愛いねぇ。ちょっと俺たちとお茶しない?」みたいな小物臭しかしないようなセリフを言っているのを知らないのだろうかこのアホは。

「そ、それって……」

 急にかぁっと顔を赤くした美羽は俯きながら、なおかつ腕に抱きつきながら、ぼそぼそと何かを言おうとしていた。距離感のせいか、それとも辺りに俺たち以外に人がいないせいか、その声もやけにハッキリと聞こえてくる。

 抱きついてくる美羽の体はより一層ぎゅっとしてくる。つーか本当に暑い。よくもまあ、こんな暑い中で人に抱きつけるもんだ。

「あ、あなたの目から見ても……私は、可愛いですか?」

 美羽はまるで勇気を振り絞ったかのように、上目遣いでその一言を口にした。頬がこれでもかというぐらいに赤い。綺麗な瞳や桜色の柔らかそうな唇が視界に入る。

「可愛いんじゃねーの? クラスのやつらも結構、可愛い可愛い言ってるしな」

 でも幼女じゃないんだよなぁ! くそっ! くそくそくそっ! そこだけが唯一の欠点だ畜生!

 時間とはなんて残酷なんだ! いくら可愛くてもBBAじゃ、幼女じゃないならどうしようもないじゃないかッッッ!

「……そ、そうですか」

「そうだけど?」

 まったくもって、非常に残念だ。

 タイムマシンがほしい。いや、タイムリープでもいい。そうだ、試しに家に帰ってみたら電子レンジを携帯で遠隔操作出来るように改造してみよう。もしかしたら過去にメールを送れるかもしれない。そうときまればブラウン管も用意しなきゃならないな。過去にメールを送って幼女時代の美羽や美紗の写メを……って待てよ。容量が規定値を越えてしまうかもしれない。いや、そもそもその時代に写メの機能はあったのか?

 くそっ! 越えてぇ! 世界線を超越えてぇ! え? 仮に電話レンジの開発に成功してもDメールのせいで未来がディストピア? 幼女のためなら仕方がない。必要な犠牲だ。諦めろ。

 いや待てよ。電ラ○ナーを見つければ……まだ希望はある。俺が最後の希望だ!

 と、俺が一人で壮大なる計画を思案していると、美羽の手がぎゅっと俺の手を繋ぐ。離れないようにしているかのようにぎゅっとさっきよりもやや強くその手を握ってくる。

「じ、じゃあ……ちゃんと……ちゃんと、私のことを最後まで送ってくださいね?」

「?」

 思考を途中で中断してきょとんとした顔で美羽を見る。対する美羽は俺と目が合った瞬間にぼんっ、とさきほどまで少しもとに戻りつつあった顔をまたも赤くしながらぷいっと逃げるようにして視線をそらしてきた。

「そ、そのっ! へ、変な人に絡まれるのは……いやですし、おばけが……怖いですし……と、とにかく! こうなったからには最後までちゃんと送り届けてくださいっ!」

「言わなくてもそうしてるだろ……つーか、いつまでくっついてる気だ。暑いし、歩きにくいし」

「こ、これは! えっと……あ、あなたを逃がさないようにするためです!」

「んなことしなくても逃げねぇっつーの」

 そんなことしたら姉ちゃんに殺されるし、BBAとはいえども夜道に女子一人というような真似も出来ないしな。

「い、いいんです。これで……」

 何かをごまかすようにして顔を俺の腕に埋める美羽。

 そんな美羽の、普段ではなかなか見れないような一面を見て俺は、こう思った。


 ……歩きにくい。どうせなら幼女がよかった。


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