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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第1部「1年生編」:第1章 なんちゃってDQNと日本文化研究部
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第2話 紅茶は前哨戦

 ついに発足した『日本文化研究部』の部室は実習室などが集中している第二校舎の四階の隅にある空き部屋だった。半ば存在を忘れ去られたその部屋にもとからあった円卓と椅子をおいて俺と天美は向かい合った席に着席した。

「っていうかさ、趣味の話をしたいならわざわざ部活を作る必要はなかったんじゃないか?」

「実は私、部活動というものに憧れていたんです。今まで部活には入ったことなかったから。それに、遠慮せず一緒にお話ができるようなスペースを確保するという目的もありましたが」

「なるほどね。まあ確かに、俺と天美が一緒に楽しく外で趣味(・・)の会話をしているのを見られる危険性を考えればわからないこともないけどな」

 うん。とりあえず部活動をわざわざ作った理由は理解した。

 俺だって部活動という物に多少なりとも憧れは感じていたし、こうやって自分の趣味の話題を共有できる友達が出来たことはすげえ嬉しい……

 ……のだが。

「それで、これからどうするんだ?」

 部員数二名の我が『日本文化研究会』の活動内容は『日本の文化について研究する』である。しかしそれはあくまでも建て前のようなもので、その実態は『一緒にオタク趣味を開放して盛り上がっていこうぜヒャッハ―!』である。

「え?」

「え?」

 きょとんとした天美の顔がそこにはあった。

 うん、こいつまったく考えてねえな。

「……と、とりあえず! まずは部費の確保が先決でしょう」

 この学園は部活動は結構、気軽に設立できるものの、部品を得るにはそれ相応の活動実績を示さなければならない。

 例えば運動部なら大会で良い成績をあげるといった手段がこれに相当する。

 まあ、運動部というだけで部品は貰えるので運動部はそういった心配をする必要はないのだが、問題は文化部である。

 気軽に設立できるがゆえに訳のわからない部が多い文化部の部費獲得はもはや戦争だと聞いている。

「けどよ、この部にそんな部費なんか必要か? そもそも俺たちの趣味について楽しく話そうって目的だろ、そもそも」

「なにいってるんですか。オタク趣味にお金がかかるのはあなたもよくご存知でしょう?」

「うっ」

 まあ、それは確かに言えることだ。家からは毎月わりと貰ってる方だが、アニメのBDを全巻マラソンしようと思えばかなりの費用がかかるし、それ以外にも色々と漫画やラノベやグッズだって欲しい。

「あれ? でも天美って結構良いところのお嬢様って聞いてたけど」

「まあ、確かに私はそんなにお金には困ってませんけど、学校で必要なものはともかくとして個人で購入したガ○プラやロ○ット魂とかを部室に持ち込むのはよくないかなと」

「ああ、なるほど。確かに部費で購入したものならギリギリで合法かもな」

「まあ、関係なく普通に持ってくるんですけどね。ガン○ラとロボ○ト魂」

「おい」

「でも合法的に使えるお金はあったらあったで便利ですし、部で活動するには必要でしょう?」

 活動内容じたいがあやふやだけどな。

「まあ、この際、部費はともかくとしてまずこの部に一番ひつようなのは……」

 天美は部屋を一瞥すると、

「ガ○プラとロボッ○魂を飾るための棚ですね」

「いや、違うだろ」

 こいつ、完全に部室を個人のプライベートスペースにするつもりだ。気を抜けば部屋中にガン○ラとロ○ット魂だらけなんてこともあり得る。

「あのなあ、この部屋はお前の私物じゃないんだぞ」

「……私、家にアニメを観るにちょうどいい感じのHDDつきのテレビと萌えアニメBDを収納するのにピッタリな棚が余ってるんですけど」

「別に良いんじゃないかな、うん。私物にしても」

 そろそろ萌えロリ幼女アニメのBDの収納スペースに困って新しい棚を買おうかと悩んでたところだったんだ。よかったよかった。

「明日にでも家から持ってきますよ」

「ん? でもまて。どうやって運び込むんだ? そんなごちゃごちゃとテレビやら棚やら持ち込んでたら目立つだろう」

「それはもちろん、海斗くんが一睨みして……」

「俺はやらないぞ」

 もう生徒会室でやったようなことをするのはごめんだ。なんか、昔の自分を虐めているようでいたたまれないんだよな……。

「ん。それでは部の備品として業者さんに運び込んでもらいましょう」

「はじめからそうしてくれ。頼むから」

「では明日、それぞれの私物……もとい、部の備品をここにもってきましょう」

「了解」

 と、いうわけで。

 その日は結局すぐに解散し、下校することになった……のだが。

「なんでお前はついてくるんだ?」

「違いますよ。私の家がこちらの方向にあるだけです」

 帰り道。

 幸か不幸か俺は三次元リアル年増女こと天美と共に歩くこととなった。今まで気づかなかったことなのだが、どうやら本当にこちらの道らしい。

「私、一人暮らしをしてて今はマンションに住んでるんです」

「なんだ、お前も一人暮らしだったのか」

「ええ。実家から仕送りが来るんですけど、それで毎月生活してます」

「ああなるほど、だから部費が欲しかったのか」

「まあ、仕送りはありすぎるぐらいなのですが、毎月毎月ガ○プラやロ○ット魂やアニメのBDや漫画やラノベが増えていくとやはり使える費用は多い方がいいですからね。仕送りだって無限じゃありませんし」

「つーか、てっきりデッカイ豪邸に住んでるのかと思ったよ」

「実家はそうですね。でもさっきも言いましたが今は普通にマンション暮らしですよ?」

 そこで天美はふふっと小悪魔的な笑みを浮かべて、

「私の部屋を見たら、きっと海斗くんも驚くと思いますよ」

「? ああ」

 確かに、部屋中ガ○プラやらロ○ット魂やらでいっぱいのこいつの部屋を見たら多少なりとも驚くかもしれない。

 そして俺はいつ分かれるのかなと思いながら天美と共に歩を進めていく。

 歩く。歩く。歩く。歩く。歩く。歩、く。歩……く……。

 気が付けば、俺は自宅マンションの前までやってきていた。

「じゃあな」

 どうやら天美の家は俺よりも学園から遠いらしい。

 そんなことを考えながらマンションの中に入ると、あろうことか天美もついてきた。

「…….なんでついてくるんだ?」

「お気になさらず。どうぞ進んでください」

「?」

 意味がわからない。まあ、いずれ勝手に家に帰るだろうと思いながら俺は階段を上って七階の自分の部屋の前まで移動する。

 だが、天美は未だに俺の背後をついてきていた。どこまでついてくる気だ……。

 そう思った瞬間、俺の部屋の右隣りの部屋の前で天美の足がピタリと止まった。するとポケットから手慣れたてつきで鍵を取り出し、ドアの鍵穴に差し込み、ロックを解除する。

「は?」

 唖然とする俺をよそに、天美は涼しい顔をしながら得意げな笑みを見せた。

「今更気がついたんですね。ここが私の家ですよ?」

「はぁ――――――――――――――――――――⁉」

 俺は近所迷惑とは思いつつも、あまりの事実に絶叫してしまった。


 ☆


「ね? 驚いたでしょ?」

「……ああ、そりゃ驚いたさ。もうこれ以上ないぐらいに驚いたさ」

 あの後、「せっかくですのであがっていってください」と言われ、ショックから立ち直る前にずるずると部屋に案内されたという次第だ。

 そもそも今までなぜ会わなかったのか疑問に思っていたが、どうやら登校時間が少しずれていただけ、だったらしい。俺は余裕をもって家に出ているし、対する天美はそれよりも遅い時間に家を出ているからで、そういえば確かに天美と家電量販店で会った日は俺の後から学園に来ていたと思いだした。

「せっかくでのすので紅茶でも飲みますか?」

「ああ、頼む」

「ではこれを」

 そういって、天美がテーブルの上に置いたのはペットボトルの午○の紅茶だった。

 ……まあ、確かに紅茶だけどさ。

「なにこれ」

「今、コンビニで午後の○茶を買ってそのレシートの番号を公式サイトで入力すると抽選で五〇〇名様に『ロボットパイレーツ』のプラモが当たるんですよ」

「それでさっそく箱買いしてジュースだけが余ったと?」

「察しがいいですね。その通りです」

「察しがいいもなにも俺も似たような状態になってるからな」

 俺も好きな萌えアニメがそんなキャンペーンをやっているのを知ってさっそく箱買いしたからな。

 因みに、天美のいう『ロボットパイレーツ』というのは以前放送していた大ヒットロボットアニメである。こういったヒット作がコンビニとタイアップをするというのは珍しい事ではない。

 特に『ロボットパイレーツ』はラノベ化したりアーケードゲームとして展開したり映画化したりとなにかと話題のある作品である。タイアップしたということはやはりそれだけ人気があるのだろう。

「それで、当選したのか?」

 確か公式サイトでレシートに記入されている番号を入力すればその場で当選しているか否かが解るはずだ。俺は別のアニメのタイアップ時は五箱買ってどうにか目的の品を入手したものだ。

「当然です」

 フフンと得意げに言うと天美はいつの間にか起動していたパソコンを開き、画面を俺に見せてきた。

 そこに映っていたのはどうやら何かのブログのようで、ブログのタイトルは『かなみんのろぼっと日記』と記されてある。

 中の記事を見てみると、記事タイトルに『ロボパイタイアップ戦果報告』と書いてあり、アップされていた画像には当選画面のスクリーンショットが表示されていた。しかも目的のブツを二つも当選している。

「これ、お前のブログ?」

「ええ。一応、それなりに人気があるんですよ」

 すげえドヤ顔だった。

 気を取り直してコメント欄を見てみると信者と思われる方々の「裏山!」「おめでとうございます!」といったコメントが大量に押し寄せていた。アクセス数もえらいことになっている。

「これはすごいな……」

 確かにドヤ顔できるだけのことはある。

「因みに何箱買った?」

「一五箱」

「お前の事を今、心の底から尊敬してるよ」

 俺でも五箱が限界だったのに軽く三倍はある。

「でもそんなにも大量の午後○紅茶をどうやって処理するんだよ」

「地道な努力、でしょうかね」

 フッと天美は儚げな笑みを見せた。切ない。

 俺はこれから過酷な午後の紅○マラソンを繰り広げるであろう天美に脳内で敬礼をおくった。


「――ですがこれはまだほんの序章にすぎません。それは海斗くんだって解っているでしょう?」

 いきなり天美はなにをいっているのだろうと思う人もいるだろう。だが、俺は知っている。

 同じ修羅の道を歩んできた者として。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。とジ○ジョっぽい擬音を迸らせながら、天美は口を開いた。

「所詮、この午○の紅茶のキャンペーンは前哨戦でしかありません。私たちオタクの財布を搾り取る為の企業の仕組んだ前哨戦。本命は次にあります」

 そう。

 コンビニタイアップ企画の恐ろしさはここから始まる。

 所詮、午後の○茶のキャンペーンなんて前哨戦に過ぎず、むしろこの後の本命に備えてキャンペーンをスルーする者たちも少なくはない。

 この後に待ち構えている本命。

 それは、

「明日の朝から開始されるコンビニタイアップ限定グッズとクリアファイルこそが! 私たちの本命なのですッ!」

 と、天美は椅子から立ち上がり、ぐっと拳を握りしめながら力説した。

 本命はどうやら明日から開始されるらしい。

 このコンビニタイアップ企画の本命は、コンビニ限定グッズとクリアファイルにある。

 限定グッズの方はその名の通り、今回のタイアップ企画でしか手に入らない限定グッズ。これは数量が少なく、コンビニ一件につき一つだけのものもあったりする。

 その一件につきたった一つを巡り、オタクたちの戦争が始まるのだ。

 早朝からコンビニに張り込んでスタートダッシュを狙う輩は後を絶たない。

 そしてもう一つのクリアファイル。これは対象商品を二つ買うごとに一枚クリアファイルを貰えるのだが、このクリアファイルもこのタイアップ企画のためだけに書き下ろされた限定品。

 これももちろん、戦争の対象となる。更に『ロボットパイレーツ』は今でも大人気の作品で先日イベチケを巡ってBD購入者たちの大戦争が勃発したのだ。

「この戦争、場所によっては大量のオタクたちがコンビニに大勢おしかけてそれはもう厳しい戦場となります! だが、それでも私はいかねばなりません!」

「おおっ!」

 なんかカッコいい! よくわかんないけどカッコいい!

「あー、その気持ちは解るぜ。俺も一度、参加したことがあるんだが、店舗によっては指定時間外から普通に出してるところもあるからな。そこらの読みとリサーチ力も試されるんだよな」

 おかげで涙をのんだことがある。まあ、あとでオークションで落としたけど。

「甘いですね海斗くん。私は過去の別アニメのタイアップ時の状況を全てリサーチし、既にどのコンビニがどの時間帯に商品を出すかは全て調べています」

「おおっ! すげえ!」

 さすが天美! 俺には出来ない事を平然とやってのける。そこにシビれる! 憧れるゥ!

「と、いうわけで海斗くん。『日本文化研究部』としての活動の一環として同行してくださいね♪」

「おおっ! ……え?」

「ちなみに、明日は四時起きですよ」

「え? え?」

 ……マジで?



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