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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS① ある日の休日
25/165

オタク通りに行こう/後編

 我が文研部の面々はアニメグッズ専門ショップを出ると、今度はオタク通りなる道をぶらぶらと歩く。俺は両サイドと後ろをBBAに拘束された状態なので内心では冷や汗が半端ない。いや、マジで。

 こいつらがいつ、俺の命を取ろうとするのかが気がかりでならない。BBAとはそういう生き物らしいからな。姉ちゃんによると。BBA、怖いです。

 それに通行人の視線も痛い。

 最初は加奈たちの外っ面に騙されて振り向いたりするのだが、その後に拘束されている俺を妬ましい視線で見てくる。勘弁してください。

「むっふっふー。モテモテだねぇ、かいくん」

「BBAにモテても嬉かねぇよ。どうせなら幼女にモテたい」

「相変わらずブレませんね」

「……この状況でもブレない芯の強さは評価に値する」

 何様だお前は。

 と、後ろから俺の服を引っ張りながら歩く南帆に心の中でツッコミを入れつつ。

 文研部一行は傍の模型専門店の前をすれ違った。

 加奈が消えた。

「かなみんの霊圧が……消えた?」

 いや、消えてないからな?

 だがいつの間にか俺の隣から加奈の姿が消えており、模型専門店に入ってみると案の定、加奈がいた。周りの客は基本的に男ばかりでその中で明らかに加奈が浮いていた。

 言ってしまえば、蛾の中に混じった蝶のような感じだ。

 ため息をつきながら俺はショップの中に入り、それに恵と南帆も続く。

 当の加奈本人はというと、展示ブースのショーケースのガラスの前にべったりと張り付いており、爛々と目を輝かせながら中に展示されているプラモデルを見ている。どうやら飾られているのは加奈と南帆御用達アニメ、ロボパイのプラモデルのようだった。

「ふむふむ。なるほど。中々の腕前ですねこれは……ニコイチでダブルソードを再現しつつのフルアーマーですか。まさか私の脳内妄想と同じ装備を再現している人がいるとは思いませんでしたよ。この人とは良いお友達になれそうです」

 ブツブツと独り言をいっている加奈。

「たまにあるんですよねぇ。再現するには複数買いしなきゃいけないようなキットが。ホルスタービットの中にライフルビットを収納してある某キットなんか完全に再現する為には五箱も買わなきゃならないんですよ」

「で、揃えたの?」

「ふふん。そんなの当たり前じゃないですか。ついでに最終決戦用装備まで自作しましたよ」

 と、得意げに仰っているお嬢様。

 でも冷静になってよく考えてみて欲しいそんなにいばれることじゃないんだよな、それ。

「ん。でもこの作品を見ていたらまた何か作りたくなってきましたね。ついでにいくつかキットを買っていきましょうか」

「あっそ。じゃあそこで待ってるから自分の買いたいもんを買って、」

「ではいきましょうか、海斗くん」

「っておい!?」

 まさかの強制連行である。

 俺は他の二人。南帆と恵にSOS信号を送ろうとアイコンタクトを送る。

 頼む、助けてくれ!


「おー、まさか仮面ラ〇ダーWのプラモがあるなんて思わなかったよ。おやっ! こっちにはタイバニもあるじゃんっ!」

「……すみません。このプラモください」

「ん。どしたのなほっち。なぁに? そのプラモ」

「……この初回限定生産分キットにはエクバのボーナス特典用コードがついてる」

「おおー、ぬかりないねぇ」


 くそっ、ダメだあいつら! 使えねぇ!

「ふふっ。逃がしませんよ、海斗くん」

「もうどうにでもなーれ」

 俺は諦め、BBAに身を委ねながら、プラモデルの山の中に身を埋めた。

 隣ではニコニコと笑顔の加奈が俺の腕に抱きつくようにしながらぐいぐいと模型店の中を移動する。しかもさっきからむにゅむにゅと腕に丸い二つの柔らかい何かが当たり続けている。

 何て罰ゲームだろう。これは。

 どうせ当たるなら幼女のぺったんこのまな板の絶壁がよかった。

「これと、これと……それとあれも……」

 そんな俺の心情を知ってか知らずか、加奈はさっきからバカバカとカゴにプラモの箱を突っ込んでいる。見てみると同じキットが二箱や三箱入っていたりするものもあった。

「むむっ。RG運命ですか。これは買いですね。オンラインで光の翼も予約しましたし」

 加奈が手に取ったのは有名ロボットアニメのプラモである。

 特にこのシリーズは最近で出したばかりで種類も少ないのだが、可動域が広くて塗装なしでも映えるし結構、高評価だったはずだ。

「これは買いですね」

 店内用のカゴにプラモを次々とぶち込んでいく金髪碧眼のお嬢様。

 学園の奴らは(というか大半の男のやつらは)こんなBBAのどこが良いのだろうか。ああ、いや。そういえば学園では猫かぶっているんだっけか。

「海斗くんは何か買わないのですか?」

「ん。まあ、プラモはたまに作るけど好きな機体ぐらいだからなぁ。そんなにしょっちゅう作るってわけじゃない」

「積みプラでもしてるんですか?」

「いや、今はしてない。この前ようやく消化したところだ」

「それはよかったです」

 ふふっと笑みを浮かべる加奈。何がそんなに嬉しいのか。あれか、俺が必至こいて積みプラ消化したのをあざ笑っているのだろうか。このBBAめ。

「じゃあ、今日はまた一つ買ってみましょうか」

「ええー……」

 ようやく消化したばかりなのに。

「良いじゃないですか。なんでしたら……その、部活の時でいいですから……い、一緒に作りましょう?」

「んー。でも学園に持ってくるのって手間なんだよな」

 何しろこっちは見つからないようにプラモを持ち込まなきゃいけないわけでして。そうなってくると早朝に学園に足を運ばなければならないのだ。加奈はそれを普通にやってるけど。

「なら、私が海斗くんの分まで持っていきますよ?」

「いや、流石にそれは気が引けるわ。いくらBBAとはいっても女の子にそんなことさせるのはなんか嫌だ」

「……そ、そーですか…………よかった。一応、おんなのことしては見てくれていたんですね……」

「? 当たり前だろ。お前はどこからどう見ても女子だろう」

「そうですよね。ふふっ」

 いきなり機嫌がよくなる加奈。愛しのロボットのプラモに囲まれているからだろうか。

「まあ、せっかくだし何か一つ選んでみるか」

 せっかく来たんだし、試しに買ってみるのもいいだろう。そもそもプラモ自体そんなに嫌いじゃないし、むしろたまに作るぐらいだし。

「でも、俺って基本的にプラモを買って、箱を眺めていたらそれで当分は満足しちゃうんだよな」

「あー、わかります。私も買ってしばらくは放置しちゃいますね。……っていうか、ただ単に他のキットを作ってるだけなんですけど」

「何かあれだよな。箱って、パッケージ絵もそうなんだけど意外と情報量が多いんだよな。機体の解説とかキットの完成図とかポージングとか。そういうのを見ているだけで満足っていうか」

「そしていざ買ってみて箱を開けると説明書にある解説とかポージングの部分だけ眺めてそれでもう満足して箱を閉じちゃいますね」

 そしてしばらく放置してから作ってみる、と。俺の場合は大体こんな感じである。

 ようは、箱を眺めているだけで満足しちゃうんだよな。

 そんな会話を適度に挟みつつ、俺と加奈は購入するプラモを決めるために周囲の棚を漁り始めるが、いかんせん、最近のプラモはどれも出来が良い上にかっこいいからどれを買えばいいのか悩んでしまう。

「んー。もういいや。加奈のオススメにするわ」

「わ、私のオススメ、ですか?」

「ああ。ここは専門家に任せるとするよ」

「わ、私のオススメ!? ……ええっと、ええっと、」

 俺がオススメを聞いた途端に加奈が突然あたふたと慌てふためいたようにして周囲のプラモの山を漁り始めた。何がそんなにあいつを駆り立てるのか。それともあれだろうか。プラモの山に囲まれてついに自分を抑えきられなくなったのだろうか。

 そして数分後。

「こ、これなんてどうでしょう」

 加奈が手渡したのはロボパイシリーズの内の一つである。ただ、俺はこの作品を知らないので話はよく分からないものの、うん。まあ機体そのものは俺好みだ。

「え、えっとですね。それは、お金持ちのお嬢様と一般庶民の主人公の身分差の恋愛もテーマにしているという……そういった作品なんですけども……」

 もじもじと両手をいじる加奈。しかも目線をこっちに合わせようとしないし、さっきから恥ずかしそうにしながら頬をほんのりと赤く染めている。

「ふーん。お金持ちのお嬢様と一般庶民の恋ねぇ」

「え、ええ。お嬢様が庶民の主人公に命を助けられて、そこからお嬢様が主人公に惚れちゃうんです」

「へぇ。割とラブコメ要素も入ってるんだな」

「そ、そうなんです。だから海斗くんもきっと楽しめると思うので、一度見てみてください」

「ん。わかった。見てみるよ。今度レンタルしてみる」

「え、えっと……」

 まだ加奈が何か言いたそうにしている。だが未だ恥ずかしそうに目線を逸らしたままなので真意を読み取れない。

「わ、私、その作品が好きで、だからえっと……BD-BOXも持ってて……だから、えっと、」

「えっ、貸してくれるのか?」

 そりゃありがたい。レンタルするにも金がかかるからな。幼女アニメグッズを買うためにも節約はしないといけないし。

「じゃなくて……」

 って、違うのか。

「そのぉ……こ、ここっ、今度!」

「!?」

 突然、大声を出す加奈に驚く。よく見るとさっきよりもかなり顔が赤くなっている。まるで、ありったけの勇気を振り絞っているような、そんな感じだ。

「こ、今度、私の家で一緒に見ませんか?」

「? べ、別にいいけど」

「ほ、本当ですか!?」

「あ、ああ」

 別に断る理由もないし、いちいち貸し借りするのも面倒くさいしな。家は隣だけど。

 そうだ、南帆と恵を誘って文研部のメンバーで上映会をしてみるのも面白いかもしれないな。

「約束ですよ?」

「? おう」

 俺が頷くと、ぱあっと笑顔になった加奈は心底嬉しそうな顔をしてはにかんだ。

「……ふふっ。約束ですよっ♪」

「だから分かったって」

 あれか。俺はそんなにも嘘をつくような人間だと思われているのか。失敬な。俺は幼女に対しては嘘を全くつかないぞ。


 ☆


 俺たちは模型専門店を出ると、再びぶらぶら状態へと戻る。それにしてもさっきから加奈がご機嫌なのだがどうかしたのだろうか。その美貌がまき散らす笑顔にさきほどから数々の通行人たちがノックアウトされているのだが、こいつらはバカか。

 ただBBAが微笑んでるだけじゃねぇか。

「じゃー次はあれやろっ! あれっ!」

 今度はやけにテンションを高くした恵が目標に向かって駆け出していく。慌ててそれを追いかけるが、追いついた時に恵はじぃぃぃぃっと、ガチャガチャの前に立って筐体を睨み付けていた。

 見てみるとそれは最近放送している某魔法使い特撮ヒーローの変身アイテムのガチャガチャである。

「むむむ……一回、三百円かぁ……値段的にはこんなもんかなぁ」

「ん。お前、そういうのやる派か。普通にセット販売しているのを買った方が場合によっては安いんじゃないのか」

「甘いねかいくん。確かにもうセットで販売されているのも収録されているけれど、中にはセット販売されてない、このガチャガチャでしか手に入らないアイテムだってあるんだよ」

「お、おおぅ。そうか……」

「ふっふっふっ。地元のガチャガチャは既に大きいお友達やテンバイヤーのせいで全滅だからねぇ。ここで絶対捕るんだぁ……」

 やばい。こいつ、目がマジだ。

 ここで殺る気だ。

「見たところまだ全然減ってないみたいだしね」

 そう言うと恵は財布を取り出すとその中から百円玉を三枚取り出した。そしてそれぞれの百円玉を人差し指と中指の間に一枚、中指と薬指の間に一枚、薬指と小指の間に一枚ずつ挟みこみ、黒のフレームに水色ラインが入ったの長方形の入れ物にある、三つの溝に百円玉を入れて入れ物を傾ける。

 どこかで見たことがあるような、特にどこぞのベルトに似たような形をしているがそこはまあスルーしよう。百円玉を投下。そしてつまみを捻る。その時、キキキン! という音が聞こえてきたのは気にしないでおこう。

「へんしんっ!」

「せんでいい」

 そういえばあのメダルで変身するドライバー、電車の方と一緒にスーパーベストシリーズでまた出るんだってな。ついでにメダルのセットも。絶対買うわ。

「うにゅっ。外れかぁ……」

 出てきたのはどうやらダブりらしい。まあ、このガチャの大半が既に普通にセット販売されているもので、限定アイテムとやらはその中のほんの僅かである。

 これは長期戦を覚悟した方がよさそうだ。

「むぅぅぅ……次っ!」

 今度は百円玉を右手でコイントスのように空高く弾き飛ばし、左手でキャッチ。そのままいつの間にか通常のガチャガチャに戻った一つしかない溝に突っ込んでつまみを回す。

「へんし……」

「だからせんでいいって」

 なんだかんだで結構5103のバースも好きなんだよな。カッターウィングをようやく使ってくれた時は燃えたな。誤射からずいぶん成長したもんだと感慨深かったよ。

「うぎゃー! またダブりだよぅ」

「そんなもんだろ、ガチャガチャって」

 そんで、後になって普通に単体で買った方が安かったって後悔するんだよな。たまに運が良かったりするとその逆もあるんだけどさ。だがこのパターンはどう見ても後悔するパターンだよな。ここは第三者として止めてやらねば。

「おーい恵、そろそろ止めておいた方がいいぞ」

「皆まで言わないで! これは私とこの畜生の戦いなんだよっ!」

 まるで親の仇とでも言わんばかりにガチャガチャを睨み付ける恵。なんだこいつは。親をガチャガチャに殺されたのか。

「つってもそのままじゃ破産しそうな勢いだし」

「大丈夫っ! 私、こう見えてけっこーお金もってるからっ!」

 そう言い残すと恵はガチャガチャとの一対一の戦いを始めた。

 十分後。

「かいくん! 両替おねがいっ!」

「お前な……そんな睨み付けながら諭吉さんを差し出すなよ。それに人にものを頼むときにはそれ相応の態度ってもんがあるだろーが」

「プリーズ。プリーズ」

「お前よくもそれで人に物を頼めるな!?」

「かいくん、私に力を貸せぇええええええええええええええ!」

「エラーだこの野郎!」

「もうっ。そんな出た目で威力が変わる運任せの必殺技で一が出てしょぼい攻撃しか撃てなかった時みたいな顔しないでよ」

「してねーよ! それにアレだからな、気合によっては一の時だって結構強くなるんだぞ!」

「とにかく早く私の諭吉さんをメダルに変えてきてよ」

「あー、はいはい。分かりましたよ」

「私が時間を稼ぐ! だからかいくんは先に行って!」

「おうっ! すまない、すぐに戻……ってお前はただガチャるだけだろうがああああああああああああああああああああ!」

「てへっ☆」

「てへっ、じゃねぇよ……」

 俺はもうそろそろ抵抗を諦めて、トボトボと両替をしに歩き出した。

「かいくん、愛してるよっ♪」

「さいですか」

 随分と安っぽい愛だことで。

 どうやら加奈と南帆はゲームショップできゃっきゃうふふとロボゲーを見ながらロボゲー談義をおっぱじめている。

 もう女に夢も希望も無くなるな。イメージの中だけど女子の話題といえば流行のファッションがどうとかあのアイドルがどうとかドラマがどうとかそんな話のイメージだったんだけどな。

 だがどうだろう。目の前で繰り広げられているのは、

「むむっ。この機体の再現度は凄いですね。まさかこの原作モーションを再現してくれているとは」

「……こっちはミサイルの一つ一つの細かい所まで再現されている」

「はぅぅ。これは萌えますねぇ。うふふふ。この射撃に特化した重厚なフォルム。萌えますねぇ。萌えますねぇ。うふふふふふふふふふふふふ」

 ……ゴツイロボットに目を輝かせながら、尚且つ萌えを見出している。

 違う。なんか違うだろこれは。夢もキボーもありゃしない。

 まあ、こっちは最初っからBBAに無駄な幻想は抱いていないからいいんだけどさ。

 というわけで、俺はさっさと両替を済ませると我がままお姫様の元へと直行。一万円分の百円玉を手渡すと再びガチャに一心不乱に勤しむ恵。

「で、出ないよぅ……」

 我がままお姫様、涙目である。

「うぅ、かいくん慰めてぇ」

「えー」

 何でBBAをいちいち慰めなきゃならないんだ。俺は幼女を慰めたいものだ。とはいえ、幼女になでなではできない。何しろYESロリータ、NOタッチというのが俺のポリシーだからな。幼女とは神聖な生き物である。

 幼女に手を触れて幼女を汚すわけにはいかないので俺は泣く泣く遠くからカメラでその御姿を撮ったり、ビデオカメラを回して動画に残すのだ。幼女に手を出す奴はただの屑。これ、重要。

「なでなでしてよぅ」

「はいはい」

 幼女にはなでなで出来ないが、まあBBAならいいか。それにこのまま拒否し続けてもさっきみたいにだらだら延々と不毛な言い合いラリーが続くので、こっちから折れてやることにする。

「やったぁ! かいくんのなでなでだー!」

「えらい元気だな、お前」

 さっきの涙目とは何だったのか。

「ではでは。どーぞ」

 いそいそと自分の頭を差し出してくる恵。栗色のセミロングの頭にぽんっ、と手を乗せる。

 恵の頭はもふもふしてて、髪もサラサラだった。心地よい感触が手を包み込む。

「なでなでして、なでなでっ」

「ん。こうか」

 適当にわしゃわしゃと頭をなでてやる。こんなもんでいいのかな。

「………………………………ふにゃぁ」

「ど、どうした。痛かったか?」

「そ、そーじゃなくて……えへへ。な、なんか実際にされてみると、けっこー恥ずかしいねっ!」

 あははは、と気楽に笑う恵。顔が赤いのは気のせいか。つーか、お前が言い出したことだろうに。

「……も、もういっかい、やってくれない……かな?」

 恵が恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも上目使いで頼んでくる。別にこれぐらいどうということでもないのに、もじもじとしながら言ってくるので、もう一度、頭の上に手を置いて、なでなで再開。

「なでなで、なでなで♪」

 いつの間にか勝手な効果音をつける始末。つーかさっさとガチャれよ。

 というわけでガチャ再開。

「とりゃりゃりゃりゃりゃ――――!」

 片っ端からガチャっていく恵。

 そこから五分後。

「当たり、キタ――――――――――――――――!」

 ようやくお目当てのアイテムを全て引き当てた恵は感極まった余り宇宙をテーマにした某特撮ヒーローの決めポーズをしつつ。

「やったよかいくんっ! ついに、ついに引き当てたよぉ!」

「だあ――――! わかった! わかったから抱きつくな暑苦しい!」

 因みに、ダブったおもちゃは全てスタッフが持ち帰りました。


 ☆


 再び、ぶらぶら再開。

 今度はゲームセンターに入った。

 まあ、ここに入ったからには誰かさんが暴れるのは明白なわけで。

「……さあ、狩りの時間ランチタイムだ」

「おいまてこのゲーセン荒らし」

 せめてたまには自重してほしい所である。

 しかし興奮している、もとい、狩りに飢えて腹を空かせているこのキマイラを止められるかと言われればそうでもなく。さて、こいつの暴走を止めるにはどうすればいいかと思案していたところ。

「……でも今日は、みんなで来たからみんなと一緒に遊ぶ」

 ええ子や……。

 さっきから自分の欲望のために突っ走る約二名のBBAにも見習わせてあげたい。その約二名のBBAに視線を向ける。

「…………」

「…………」

 視線を逸らしやがったぞこいつら。

「ん。じゃあ、どれで遊ぶ?」

「……あれ」

 と、南帆が指差したのはレースゲームである。ファミリー向けのライトなやつで、コース上に設置されたランダムボックスを取ると、ランダムで様々なアイテムを獲得することができる。その獲得したアイテムで他のプレイヤーを妨害したりすることが出来るというものだ。

 四人対戦が可能で、丁度、今は誰も使っていないので席が空いている。

「……こういうの、友達とやったことなかったから」

「おし。じゃあ、さっそくやるか」

 というわけで、さっそくカートのシートを模したゲーム機に座る俺たち。

 キャラクター選択を終えると、レースが始まった。

 ははっ。何かいいなこういうの。俺もこういうのって、こんなにも多くの友達とやったことがなかったからなんか新鮮だな。

 そんなことを考えながら、俺はアクセルを踏む。キャラクターが駆るカートがスタートダッシュを決めると、最初のコーナーでアイテムゲット。

 さて、楽しみますか!


「……遅い」

 俺のキャラクターが背後からぶつけられた甲羅でクラッシュ。

「ていっ」

 俺のキャラクターが前から襲いかかってきた甲羅でクラッシュ。

「とりゃー!」

 俺のキャラクターが無敵状態のカートに轢かれてクラッシュ。

 あっという間に最下位に転落する俺。

「…………(ブチッ)」


 よろしい。ならば戦争だ。


「このBBA共がぁああああああああああああああああ! なめんじゃねーぞゴルァ!」


 ☆


「負けた……」

 あの後も、俺だけをピンポイントに狙い撃ちした妨害攻撃の嵐に耐え切れず、最下位のままだった。

 酷い。こんなのただのリンチだ。

「はー、楽しかった!」

「次は何にします?」

「……じゃあ、あれは?」

 傷心気味の俺をスルーしつつ、女子たちはシューティングゲームの方へと向かっていく。

 どうやら二人プレイの物らしい。ボックスの中に入って二人で襲いかかるゾンビを撃ちぬく、という形式らしいのだが、更にそれだけでなくシチュエーションによってボックス自体が少し揺れたりするらしい。

「……海斗、一緒にやろ?」

「ん? 俺?」

「…………(コクリ)」

 頷く南帆。なんだ、てっきり加奈か恵とするもんだと思っていたのに。

加奈と恵おまえらはしなくていいのか?」

「今回は南帆に譲ることにします」

「私たちはもう、今日は今日で良い思いしちゃったからねぇ。だからここはなほっちに譲ろう!」

「……ありがと」

「? そ、そうか」

 良い思いって何のことだろう。まあ、確かに今日は楽しかったけど、別にこの二人だけというわけではあるまいに。

「……いこ」

「ん。わかった」

 南帆に袖を引っ張られて俺たちはボックスの中に入り込む。

 ここは男が払うものだと姉ちゃんの教えを守り、百円を二枚入れる。

 画面にいかにもホラー系だとでも言わんばかりのタイトルが映し出される。コントローラーは大砲型。

 チュートリアルが終了し、さっそく本プレイ。

「……んっ」

 南帆はやったことがないタイプのゲームなのか苦戦しつつも次々と襲いかかるゾンビを撃破していく。しかしこのボックス、少し手狭である。必然的に隣のプレイヤーと体を密着させなければならないので俺と南帆も当然のことながらそうなっている。

「むっ。ちょっと難しいな」

 この砲台型コントローラーも操作に若干の癖があってやや扱いにくい。

「……そ、そう、だね」

「ん? どうかしたのか」

「……なんでも、ない」

 にしても今日の南帆は少しおかしい。不調だろうか。いくら操作性に難があるとはいえ、他のゲームでも見れるキレというものがない。まるで緊張しているかのように動きが硬い。いや、それでも十分に高スコアを現在進行形で叩き出しているんだけどさ。

 ステージが変わり、イベントが発生。船を模したボックスが触れる。

 しかし、そこまで激しい振動ではなく、本当に少し揺れる程度だ。だがこれだけ密着している状態だと危ないかもしれない。

 と、不意にバランスを崩した南帆が倒れこんできたので慌てて片手で抱きとめる。小柄な南帆にはちょっと振動が大きかったのか。いや、ちょっとぼんやりしていたというのもあるか。

「……あ」

 手狭なボックスの中でということもあるし、何しろ今はバランスを崩した南帆を抱きとめているので顔の距離が近い。この暗がりでも急に南帆の顔がかぁぁぁっと赤くなっているのが分かった。そんなにゲームで不覚をとったことが恥ずかしいのか。どこまでもゲームに真剣なやつだな。

「大丈夫か?」

「……え……あぅ…だいじょうぶ……」

「ん。それならいいけどさ」

 イベントが終わり、ゲーム再開。南帆を抱きとめている片手を離し、

「……ま、まって」

「ん? どうかしたか」

「……このままで、続き、やる」

 このまま? 片手で南帆を抱きとめている状態で?

「いや、それはキツイんだけど。流石にこの大砲コントローラーを片手で扱うのは難しいぞ。すぐにゲームオーバーになってもいいなら別にいいけど」

「……ん。大丈夫。それでもいい」

「いいのか?」

「……だめ?」

 上目使いで懇願してくる南帆。まあ、別にゲームオーバーになってもいいというのなら別にいいけど。

「わかったよ。ただし、最終ステージまで行くなんていう期待はするなよ」

「……わかってる」

 その時。

 基本的にいつもクールな表情を保ったままの南帆が、笑った。穏やかな笑みを浮かべながら、その後、再びゲームに身を投じた。


 ☆


 結局あの後、すぐにゲームオーバーになって、ゲームセンターを出る。

 時間的にはもうすぐ午後四時になりそうだった。「帰りの時間のこともありますし、今日はこの辺りにしておきましょうか」という加奈の一言で俺たちは再び、一時間半の電車の旅で地元に帰還。

「やー、今日は楽しかったねぇ」

「……楽しかった」

「ふふっ。また皆で来ましょうね」

「そーだな」

 確かに、今日は色々とあったし、それに一緒なのは三人ともBBAだけども……まあ、何ていうか。

 楽しかった。

 こんな風に友達と一緒に遠くで買い物したり、はしゃいだり、ゲーセンで遊んだりするようなことが今までなかったから、楽しかった。凄く。

「……また、皆で来れればいいな」

 俺は自室に戻ってからふと、そんなことを呟いた。

 そしていつの間にかメールが来ていたことに気づいて開く。




 差出人:姉ちゃん

 件名:可愛い可愛いかいちゃんへ


 近い内に家にいくからねっ!

 かいちゃんの部屋にお邪魔しちゃうから、綺麗にしてなきゃダメだゾ♡


 愛しのお姉ちゃんより♡




「…………………………………………え゛っ」


 どうやら。

 どうやら、親睦会が終わった後は、とてつもなく厄介なことになるらしい。


次から本編です

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