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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第2章 秀才姉妹と一泊二日の親睦会
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第21話 親睦会二日目~ファーストコンタクト~

 私、渚美紗が海斗くんを見かけたのは春休み終盤の頃でした。

 その頃、私とお姉ちゃんは高校生になるということで両親から塾に通ってみたらどうだろうという提案を受けて、今、テレビでも全国的に有名な大規模の塾の体験授業に行ってみることにしたその日でした。

 その塾は駅前にある大きなビルの中にあるそうで、入ってみるとなるほど確かに。ホテルのロビーのような場所には私たちと同じぐらいの年頃の人たちが沢山いました。私の隣にはお姉ちゃんも一緒です。

「凄い人の数ですね」

「そ、そうだね……」

 いくら事前にテストでこの授業に参加できる生徒を絞ったとはいえ、この春休み限定の体験授業は効率化を図るために春休み特別予習・復習カリキュラムを元々この塾に通っている生徒たちと一緒に受けるそうですから、人が多いのも当然でしょう。

 ところでさっきから周囲の人たちからの視線を感じます。

 ふと周囲に気を配ってみると……どうやら私とお姉ちゃんをチラチラと盗み見ている人がちらほら……っていうか沢山。その気配にはお姉ちゃんも気がついたのか、私のことを慈愛の目で見つめると同時に言いました。

「みんな、美紗が可愛いから見ているのですよ」

 そうなのでしょうか。私にはよく分かりません。そもそも私は地味な子だし、そんなに可愛いとも思えない。お姉ちゃんは姉妹なだけに私と似ているけれど、だけど私にはお姉ちゃんのほうがより一層、輝いて見える。そんなお姉ちゃんがそばにいるとなれば私の存在なんて霞むというものです。

「ああ、あの女の子、とっても可愛いですねぇ。どこ中出身なのでしょうか。ちょっとお話を……あっ、でもでも、一番は美紗ですよっ! 心配しないでくださいねっ!」

 そんな心配してないんだけどな……。

 相変わらず今日もお姉ちゃんは平常運行いつもどおりです。

 と、その時。

 私は周囲の人たちからの視線を浴びつつ、小さな違和感を見つけました。というのも、周囲の人たちは私たちのことをチラチラと見ているのに、ありがたいことに一人だけ、そんな私たちに目もくれない人がいたのです。

 周囲が周囲、みんな私たちのことを見ていたので一人だけそうでなかった男の子が逆に私の目線からは目だっていたし、それになにより、その男の子の頭は茶髪でした。辺りは真面目に勉強をするような人たちばかりだったのですが、そういった人たちは髪を染めたりすることは少ないと思います。だからこそ、こんな人ごみの中でも茶色に染めた髪は目立つのです。

 それだけじゃなくて顔はかっこいい……部類に入るのでしょうけど、ちょっと怖い。どうやら携帯音楽プレーヤーを聴いているみたいで、耳にはイヤフォンが。今回のこの場には中学の制服着用義務がなされているのですが、黒い学生服の下には黒いタンクトップ。学生ボタンは全開。これでリーゼントだったなら私の中の<ふりょー>というイメージにピッタリになるような人です。

 ……ちょっと怖いな。

 そんなことを思いつつ、私とお姉ちゃんは一緒に講義室へと入って行きました。


 ☆


 授業が始まる前にこの塾の創設者、牧原富音まきはらとみねさんが一番手前に立ち、保護者向けの手短な挨拶を始めました。富音さんは今、テレビにも引っ張りだこの有名人です。

 なんでも、十年前にこの塾を創設してからすぐにその能力で塾を大きくしていったすーぱーうーまんらしく、その教育能力は高い上にこの塾で教えた生徒が成績をグングン伸ばして有名大学への進学者を多く輩出しているらしいのです。

 富音さんは長い黒髪にツリ目、スタイルも良くておまけに美人。もう今年で三十八になるそうだがまだまだ二十代でも十分に通じる若さだ、といったまさにテレビ受けしそうな容姿をしていました。綺麗だなぁ。

 それにしても黒髪ロングにツリ目、こういうところはお姉ちゃんにそっくりだ。やっぱり綺麗な女の子には共通点があるものなんですね。

 挨拶は手短で、それでいて保護者に伝えるべきところは全て伝えており、なおかつ解りやすい。たった五分の挨拶でこの女性のすーぱーうーまんっぷりを実感したところで授業が始まりました。

 ふと辺りを見ているとさきほど見た覚えのある茶髪の男の子が見えました。

 あの怖い人です。

 そもそもどうしてあんな怖い人がここにいるのだろうと思ったのですが、そういえば応募テストに受かってこの場にいるのだから頭は良いのかもしれません。それに何だかんだで携帯型音楽プレーヤーはしまって、真面目に授業を受けています。

 なんだかチグハグな人です。

 まるで、ふりょーになりたて、みたいな。


 ☆


 授業そのものは結果的にいえばとてもハイレベルでした。ついていくのが大変だったけど、学校で習った部分も深く理解することが出来ましたし、かなり効率的な授業だったといえます。まあ、当てられたときにはドキッとしましたけど何とか答えることが出来ましたし。

 さすが噂の<姫塾>。ああ、ちなみにこの姫塾というのは通りなだとか通称だとかそんなことではなく、普通に、正式名称が姫塾です。どうしてこんな名前なのかは解りませんが、まあ富音さんは確かにお姫様にピッタリな美しさですし、それを考えれば違和感はさほど感じません。

「それにしても」

 と、一時間目の終わりの休み時間。お姉ちゃんが周囲を見渡しながら言いました。しかしそれでいて可愛い女子中学生探しも怠りません。流石です。

「どうしたの? お姉ちゃん」

「気に入りませんね」

「ふぇ? わ、私、何かお姉ちゃんを怒らせるようなことしちゃった?」

「ああ、いえ。そういうことじゃなくてですね」

 お姉ちゃんが苦笑する。

「周囲にいるこの塾の生徒たちですよ」

「?」

 私はお姉ちゃんの言っている意味が解らなかった。

「いかにも『この塾に通っている僕は君たちとは違う人間だ』などという中二病をこじらせているような腹の立つ態度が気に入らないのです」

 この塾に通うにはまず入塾テストというものがあって、それはとても難しいらしい。……だからそれに通ってこの塾に通うってことはとても凄いことらしい。言ってみれば、とても難しい試験を通って有名難関大に進むみたいな感じだろうか、と私は推測しました。

 ただまあ、確かに。

 この塾は生徒のレベルに合わせてクラス分けがされており、一番上のクラスの生徒たちはテレビでも『厳しい試験を潜り抜けた選ばれし子供たち』などと大げさに特集していた記憶があります。

 テレビというものはどこか誇張というか、少し大げさに表現するときがあるというイメージがあるし、実際に最高クラスのテストや授業レベルはそうとう難しく、高度であるのでテレビの表現もあながち間違いではありません。

 今ではこの塾の高ランクに所属しているだけで一種のステータスと認識する子もいるぐらいなので、そういったプライドの高い子がいてもおかしくはないでしょう。

 ただ、お姉ちゃんは気に入らなかった様子で。

「さっきだって、私たちと同じ体験授業の生徒を侮蔑のこもった目で見ていたエリート野郎がいましたよ。一瞬、ビームラリアットを叩きつけてやろうかと思いました」

 お姉ちゃん、怖いです。

「実際、この塾に通っている生徒はそういった生徒がいることでも有名ですからね。勘違いエリート意識をもった屑共が」

「すごく怒ってるね、お姉ちゃん……」

「もちろんです。さきほど講師に当てれた美紗がとてもとても難しい問題をスラスラと答えて褒められた時に、美紗を忌々しげな眼で睨みつけていたことは今でも鮮明に覚えています」

「そ、そうだったの……?」

「ええ。自分でも解らなかった問題を体験授業生徒の美紗に答えられて悔しいのでしょう。ハッ。ざまあみろ、ですよ。あの金持ちお坊ちゃんたちが」

 何気に話してもいない相手の家庭環境を一目で見抜くお姉ちゃんは凄いと思います。

「流石は私の美紗です。あぁ、可愛い。可愛いですよ美紗。怖かったですね。お姉ちゃんが慰めてあげますよ。さあ、私のこの胸に飛び込んで来てください」

 どうしよう。まさかこのタイミングでくるとは思いませんでした。なので私はいつもの手を使うことにします。

「ごめんねお姉ちゃん、私、今からお気に入りのBL小説を読まなくちゃならないんだ。それでねそれでね、じっくりたっぷりとカップリングを……」

 うふふふ。うふふふ腐腐腐腐腐。


 ☆


 今日のカリキュラムが全て終わるころ。

 外は夕焼けに包まれていました。今日は何度か当てられたりして緊張したけれど、なんとか上手く答えることが出来て一安心です。

 ……意識していると、確かに問題を答えるたびに忌々しいとでも言いたげな視線が私に突き刺さっていたのですが、それも今日で終わりです。

 しかし、今日はとても参考になりました。特に最後。牧原富音さんの授業は圧巻の一言でした。

 この場にいる生徒たちのレベルを把握しているのか、全員が理解出来るぐらいの説明の巧さ、適切な授業スピード。おかげで前々まで自信がなかった部分を完全に理解することができるようになりましたし、これは確かに入塾希望者が増えるというものです。

 ただ、やはりある程度のレベルに達している子ではないと難しいんじゃないかな、とは思いましたが。その為の入塾テストなんでしょう。

 とにかく今日は有意義でしたが、とても疲れました。何しろ心なしか私の当てられる回数が若干、他の子よりも多いし、それに当たる問題が全部、難しいものばかりだったのです。それに加えてそれに回答するたびにお姉ちゃん風にいうとお坊ちゃんさんの視線が痛かったですし。

 授業に疲れた私はしばらく講義室の外にあった自動販売機などがある休憩スペースで休み、休憩が終わると辺りにはもう人けも殆どありませんでした。

「ごめんね、お姉ちゃん。私の休憩につき合わせちゃって」

「いえ。大丈夫ですよ。美紗は気にしなくていいのです」

 やっぱりお姉ちゃんは優しい。こんな私なんかにも優しくしてくれる。

 それに運動だって出来るし、可愛いし。やっぱりお姉ちゃんは私の憧れだ。

「美紗が休憩してくれているおかげで、私はこうして美紗を愛でることが出来るのですから」

 ……できれば、お姉ちゃんにはちゃんと私の憧れのお姉ちゃんでいてほしいんだけどなぁ。

「そ、そろそろ帰ろっか」

「そうですね」

 身の危険を感じた私はそろそろ帰ることにしました。二人で休憩スペースから立ち上がります。するとその時になって、お姉ちゃんがふと鞄の中を確認して異変に気づきました。

「あっ」

「どうしたの?」

「すみません。講義室に忘れ物をしてしまいました。取りに行ってきますね」

「私も一緒にいくよ?」

 講義室は上の階にあるので大した手間ではありません。ですがお姉ちゃんは首を横に振って、

「大丈夫です。美紗はもう少しここで休んでいてください」

 と、今日の授業で疲れてしまった私に気をつかってか私にもう少し休むように促してくれます。私はせっかくなのでお言葉に甘えてお姉ちゃんが忘れ物をとってくる少しの間だけ休憩を続けることにしました。心なしか、お姉ちゃんの歩くスピードもやや遅いです。

 私は息を吐き出して、もう一度、休憩スペースで休みます。確かにここの授業は有意義なものでしたが、少し疲れます。私にはこの塾に通うにはやや荷が重いような気がしてきました。さすがにBL小説で乗り切れるほどあまいものではなかったようです。

 私がそうして休んでいると、ふと人の気配を感じました。ああ、私たち以外にもまだ残っていた人がいたんですね。

 そんなのんきなことを考えていた私に、誰かが声をかけてきました。

「ねぇ、ちょっといいかなぁ」

 粘りつくような声に私は失礼ながら(今思えばまったく失礼でもなんでもなかったのですが)気持ち悪い、と思いました。不気味、とも。

「は、はい……?」

「君、なかなか賢いね」

 顔をあげます。そこにいたのはさきほどお姉ちゃんが言っていて、更に私に痛々しい視線を向けていた生徒でした。確か、この塾でも最高クラスに在籍している生徒で、見た目からしてもやたらとプライドの高そうなお坊ちゃんでした。

 来ている制服は地元でも有名な進学校のものです。

 その後ろにも同じ制服を着た生徒が二人。

「え、あ、いや……そんなこと、ないです……」

 いきなり何を言ってくるのだろう、この人たちは。

 そもそも私は男の子は少し苦手なのです。なのでここは疲れた体にムチをうって、私は立ち去ることにしました。席を立ちます。すると、三人の男子生徒たちが取り囲んできました。まるで私をこの場から逃がさないかのように。

「えっと……」

「賢いのはいいんだけどさぁ、ほら、君のせいで僕たち、発表のチャンスを逃しちゃったんだよねぇ」

 その言葉を聞いて思い出します。

 確かこの塾のランク分けはテストの成績+授業中の発表時に加点される点数で決まるということを。それはどうやら今日の授業でも有効だったようで、現在のクラスをキープしたい彼らにとって今日のことは癇に障ったのでしょう。

 何しろ最高クラスは日々、生徒たちの激しい点取り合戦だそうですから。それに一度落ちたとなればこの人たちの持つステータスも失うことにもなりますし、それに今日一日の態度を考えるにどうやらこの人たちはこの塾の最高クラスに所属していることをかなり自慢してきた様子です。

「あ、あのっ……ご、ごめんなさい……」

「ごめんで済めば僕たちもこんなことしなくてすむんだよねぇ」

「あーあ、もし今のクラスから落ちちゃったらどうしてくれるんだろうなぁ」

 気が付けば。

 私は壁際まで追い詰められていました。

 そして。

 目の前の男子生徒が、ニヤリと歪な笑みを浮かべました。

「じゃあちょっと俺たちに勉強を教えてよ」

「……えっ?」

 いうや否や、私の手を強引に掴み取る男子生徒。私は思わず拒絶しようとしますが、やっぱり相手は男子。私なんかの力では振りほどけません。

「あのっ、離してください……」

「だーかーらぁ。ちょっとそこで一緒にお勉強会を開くだけだからさぁ」

「おー、この子、近くで見ても結構可愛いじゃん」

「これはお勉強のし甲斐があるねぇ」

「センセー来たらまずくね?」

「あぁ、大丈夫大丈夫。ここの階に教師がいないのはもう確認済みだ」

 そういう男子生徒の顔はニヤニヤと不気味な、それでいて気持ち悪い笑みを浮かべていました。

 私はこれからどうなるんだろう。この人たちに何をされるんだろう。そんな考えたくもない考えが、頭の中を過ります。

「嫌っ……離して、ください……っ」

「ったく、このっ……!」

 痺れを切らしたのか、目の前の男子生徒は空いたほうの手を強引に私の胸ぐらへと――――、


 パシャッ。


 その時。

 シャッター音が、人けのない休憩スペースに響き渡りました。体を僅かに硬直させた生徒たちは慌てて振り返ります。そこにいたのは、私が朝、見かけたふりょーさんでした。

 茶髪の髪。

 ガッシリとした体格。

 右手にはカメラモードにしていたスマートフォンが。

 次いで再び連続でのシャッター音。

「おー。よく撮れてるなー、これ。さすがスマホ。画質もそこそこ良いじゃん」

「な……おまっ、お前っ! なに撮ってるんだよ!」

 叫びのようなその声にふりょーさんは答えます。

「ん? 女子中学生がエリート様に強姦されてるトコ」

 それを聞いて、一気に目の前の男子生徒の顔が青ざめた。彼らの通っている学校のことを考えれば、この事実を公表されるのはまずいのでしょう。


「じゃっ、そーゆーことで」


 踵を返すと、そのままふりょーさんは私たちに背を向けて階段の方へと歩き出して行きました。

 私たちを放置して。

 …………え?

「………………………………いや、待てよッ!」

 まさかここで立ち去るとは思わず。

 私も目の前の男子生徒たちもしばらく沈黙していましたが、ここでようやく動き出します。だが既に距離はやや開きつつあって、三人の内の一人が走りだしました。自分たちのこの行為を収めたスマホを取りあげる為なのでしょう。

 その瞬間、無防備に背中をさらしたふりょーさんに私が危ない、と声を出そうとしたその時。

 突如、そのふりょーさんは背後から振り向きざまにカウンターの回し蹴りを追いかけてきた男子生徒に叩きこみました。

 ゴドンッ! と鈍い音が室内に響いたかと思うと、まるで糸が切れた人形のようにドサリと男子生徒Aが倒れ、その場に崩れ落ちました。

「おーっ、決まった決まった。やってみるもんだな、ラ○ダーキック。いや、ここはワン、ツー、スリー、とカウントしてからの方がよかったか」

 そんなことをブツブツと呟くふりょーさん。その視線の向こうには完全にノックアウトされた男子生徒Aの姿がありました。

「まあ、証拠画像を収めたスマホを取りに来ることは容易に想像できたし、カウンターキックこれぐらいはちょろいか。それを考えると天の道を往き、総てを司る人はマジで凄いな。うん」

 そして、今度は出て行こうとはせずに私たちの方に顔を向ける。

「おば……じゃなくてお姉ちゃんが言っていた。男がやってはいけないことが二つある。女の子を泣かせることと、食べ物を粗末にすることだってな」

 そんな、日曜の朝八時あたりの番組で聞いたことあるような気がするふりょーさんのパクリ名言を耳にして、私は初めて気がつきました。

 泣いたのです。

 この時の私は、泣いていたのです。

 あまりにも怖くて、知らない間に泣いていたのです。

 そこでようやく、自分の頬に冷たい何かが流れ落ちていることに、気がつきました。

 それを確認したかのようにふりょーさんは視線を私に向けると、今度は残った二人の男子生徒たちを睨みつけます。

「あのさぁ。親からの強いられ勉強のストレスでついついそんな行動に走っちゃうのは何となく理解できるけどよ、ストレスを解消したいなら方法は色々とあるだろ。別に気の弱そうな女の子を見つけてテキトーな理由つけてんなことしなくても、さ」

「ッ……!」

「ストレス溜まってるなら吐き出しゃいいじゃん。『親は裕福な生活を送りながら、くだらない思想を俺たち子供にぶつけている。俺達は、そのしわ寄せでこんな生活を……強いられているんだッ!』って集中線入りで言ってみるとか、幼女アニメ見て癒されるとか、色々とあるだろ」

 いや、無いんじゃないでしょうか。

 と、今ならこうして言えますが。

 その時の私は、とにかく怖くて。怖くて。怖くて。

 ただそこで怯えていることしかできませんでした。

「あーやだやだ。お前らみたいなのを見ていると中学時代のことを思い出して寒気がするぜ。ああ、もう。何であの時の俺はあいつらを殴り飛ばしてやれなかったんだろう。いや、春休みの内に闇討ちしたけどさ」

「知、るかッ! オイお前っ! とにかくそのスマホをこっちによこせ!」

「えー。やだよ。だってこれ、高校進学祝、兼、修行完了記念で姉ちゃんに買ってもらったやつだもん」

「~~~~ッ! オイッ! さっさとやつのスマホを奪ってこい! あれをばら撒かれたらやばいぞ!」

 私を取り押さえている男子生徒はもう一人の男子生徒に支持を出すと、男子生徒Bはふりょーさんに駆け出して行きました。しかも手には手近にあった休憩室のパイプ椅子があります。それを振りかぶって、思いっきりふりょーさんに殴りかかって行きました。

「はぁ。めんどくせー」

 言うと。

 ふりょーさんはだるそうにしながらも、自身に向かってくる敵に対して、右足一閃。

「あがっ!?」

 弾丸のように放たれた右足は簡単に、いともアッサリと、それでいて鋭く、男子生徒Bの顔を蹴り飛ばしました。

「さて、と」

 二人目を蹴散らしたふりょーさんは、私を拘束している男子生徒Cが茫然としている間にスマホをいじいじと何らかの操作をして、私たちに画面を見せます。

 そこにはさきほどの画像がありました。私の顔は特定ができないように加工されていて、そして、さきほどの三人の男子生徒の顔はくっきりと映っていました。

「さっさとその子を離せ。でないとこの画像を匿名掲示板と教育委員会の方にばら撒く」

 この男子生徒Cにとってもはや選択肢は無いに等しく、忌々しげな顔をしながら私の拘束を解きます。私はたまらなくなって、怖くなって、慌ててふりょーさんの方に駆け寄りました。

「は、離したぞ……さっさとその画像を消せよ!」

「あー、はいはい。解りましたよ、っと」


 ピッ。


 ――――画像を送信・・・・・しました・・・・


「おっと手が滑った(ゲス顔)」

 ………………………………………………………………悪魔だ。

 更に青ざめた表情をする男子生徒C。そこでふりょーさんが踏み込み、右拳を男子生徒Cの顔面へと、炸裂させました。ゴドッというこれまた鈍い音が響き、壁に叩きつけられた男子生徒Cはずるずると床に崩れ落ち、


「……な、な、んで……」

「いや、なんかお前の顔がムカつくから」

「……理不、尽……」


 気がつけば。

 私たちの周りには気絶した男子生徒が三人。

 私はようやく終わったんだと思うと気が抜けて、その場に崩れ落ちそうになりましたが、そのところをふりょーさんに受け止めてもらいました。

「あ、ありがとう、ございます……」

「ああ、いや。別に……」

 どうしてでしょう。先ほどまであんなにも自信たっぷりに悪魔っぷりを披露していたのにいきなりもごもごとしています。

 ……もしかして、女の子と話すのが苦手なのでしょうか、このふりょーさんは。

「ほ、本当に、ありがとうございます。私、怖くて……それで……」

「気にしなくていいよ、本当に。姉ちゃんからああいうクズを見かけたら容赦なく叩きのめして、この世界で生きていくのが苦痛で苦痛で仕方がないぐらいの社会的ダメージを与えろって言われてるから」

 どうやら悪魔を育てたのは魔王のようです。

「な、何か、えっと、お礼を……」

「あー、いいからいいからそういうのは。姉ちゃん待たせてるし。っと、帰り、送ろうか?」

「え、あ、その、だ、だいじょうぶ、です。お姉ちゃんが、一緒なので……」

 ちょうど、と言っていいのか解りませんが、そのタイミングで「美紗ー」という私を呼ぶ声が聞こえてきました。それを聞いたふりょーさんは頷くと、言います。

「ん。わかった。それじゃあ、気をつけて帰れよ。いくらBBAとはいえ、さっきみたいな事があるかもしれないからな」

「は、はいっ……」

 サラリとBBAなんて言われちゃいましたが、今の私はどこかおかしかったのです。どくんどくんと心臓がうるさいですし、顔も赤いし、ココロが何だか落ち着きません。

「えっと、お、お名前をっ、教えて、くれませんか……?」

 それが、その時の私に出せる最大限の勇気、でした。

 ふりょーさんはくるりと振り返り、ほほ笑むと、


「あっ、ごめん。俺、助けた女の子に名前は名乗るなって姉ちゃんに言われてるから」


「……はい?」

 思わず聞き返してしまいました。

 ん? え? どうしてですか?

「いや、何か姉ちゃんがさぁ、『困っている女の子を助けるのは男の子として当然のことだけど、助けた女の子に名前は教えちゃだめだよっ』って言われててさ。意味がわかんねぇよな。まあ、別に困ることはないんだけど」

 どうやら。

 どうやら、そのお姉ちゃんなる存在が、私の勇気を叩きつぶしてしまったみたいです。

「じゃ、そーゆーことだから」

 そう言って、ふりょーさん、後に知ることになる名前――――海斗くんは階段の方へと歩を進めて、夕焼けの中に消えて行きました。


「かいちゃーん、遅かったねぇ!」

「あ、姉ちゃん」

「あぁん、もうお姉ちゃん寂しかったんだぞー! 慰めろー!」

「やめろって姉ちゃん! こんなところで――――!」

「そーだかいちゃん、うっかり女の子を助けた時に名前を名乗ったりしてない? してないよね!? かいちゃんはお姉ちゃんだけのものなんだからうっかりフラグを立てちゃうようなことはダメだぞ☆」

「あー、もう。俺がフラグを立てるのは幼女だけだって! つーか立てたい! ぎぶみー幼女!」

「うん、相変わらずの変態さんでお姉ちゃん安心したよ!」


 ☆


「おまたせしました、美紗……ん、なんですかこの虫けら共は。どうしてこんなところでその醜い顔を公開してるんです?」

「えっと……それには色々と事情があって……」

「はっ! ま、まさか美紗、この粗大ゴミ共に囲まれて壁際まで追い込まれて、強引に手を掴まれたりしたんですか!?」

「私、時々お姉ちゃんが怖くなる時があるよ」

「美紗、どういうことですか!? 詳しく話を聞かせてください!」

「う、うん……えっとね、さっき――――」


 私を助けてくれた、ちょっと変わった人がいるんだよ。



仮面ライダーカ○トはキャラがみんな個性的で面白かったと思います(小並感)


仮面ラ○ダーカブト=教育番組、兼、料理番組



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