第20話 親睦会二日目~やればできる子やらない子~
「幼女っ♪ 幼女っ♪ 幼女っ♪」
我ながら犯罪者ギリギリの言葉をつぶやきつつ。俺は気分良く寮へと向けて歩いていた。隣には美羽も同行している。俺の幼女センサーによれば現在、寮内では食事中の無垢なマイエンジェルたちがいるはずだ。それをこの目に焼き付けなければ。
「……なんとなくわかってはいたのですが……」
隣を歩く美羽が疲れたような目で俺を見てくる。
「あ? なんだよ」
「あなた、もしかして変態ですか?」
「誰が変態だ。ロリ紳士といえ。ロリ紳士と」
近頃の若者は紳士と変態の区別がつかないから困る。
ロリ紳士と変態とではガ○ダムMk-Ⅱエゥーゴカラーとガン○ムMk-Ⅱティターンズカラーぐらい違う。
「ロリ紳士」
「おい。誰がロリ紳士と変態をエクストリームさせろといった」
そもそも俺のどこが変態だというのだ。俺はただ幼女を愛しているだけだ。これだからBBAは嫌なんだ。こうなったら紳士の力を見せてやる。波紋使っちゃうぞ。
「まったく……どうして加奈たちはこんな変態と一緒に……」
「だから俺は変態じゃねーよ!」
「明らかに変態じゃないですか!」
駄目だ。こいつとは分かり合えない。
こんなんじゃ来るべき対話なんて到底無理だぜ。
対話をしたかったらせっさんとダブルオークア○タでも持ってくるんだな。
ここはとりあえず話題を変えよう。
「それで? もう大丈夫なのかよ。辛いもの、苦手なんだろ?」
「え? あ、はい」
「そうか」
会話終了。
いかんせん、いくら同じ班になったとはいえそんなに話したこともないので話題がない。
そうこうしているうちに食堂までたどり着いた。道中、先生から別の班の分もと段ボール箱に詰められた新しい水を持ってくるように頼まれたので(頼まれたのは俺ではない。美羽である)、ここに置いてあったそれを手に取りつつ、俺は目の前でマイエンジェルたちが食事を繰り広げている光景を必死に脳内に焼き付けていた。
俺は今日のこの日を一生、忘れない。
かぁいいよ。幼女かぁいいよおおおおおおおおおおおおおおお!
ハァハァ。どうして俺のエンジェルたちはこんなにも美しいのだろう。あの純粋無垢な瞳。幼い表情。あの完璧にして未成熟なボディバランス。おっとあの子、あの露出はやべえ。そんな白い太ももを見せられたらお兄ちゃんフットーしてしまうじゃないかぐへへへへ。
おいおい。最近の小学生はやたらと刺激的だな。スカートが少し短いんじゃねえのか? お兄ちゃん心配だな。悪い奴が狙ってくるかもしれない。…………見え……見え……見えそうで……見えない……! くそっ! 焦らしプレイか! やってくれるねぇ。ぐへへへへへへへへ。じゅるり。おっといけねえ。よだれがでちまったぜ。デュフフフフフ。
「あっ。葉山くんが黒野海斗の使ったお箸を眺めながら息を荒げていますよ」
「アッ――――――――――――――――!」
俺は叫ぶとタ○オン粒子を使って自分の周りの時間の流れを操作し、つまりはクロ○クアップ状態で自身の身を守るための防衛行動に移る! のだが、よくよく考えればここは食堂で葉山がいるわけがない。
冷静になりすぎて普通、ア○セルフォームとク○ックアップって戦えるわけないよな、なんてことまで考えたぐらいだ。
「って……なんで俺はこんなにも動揺したんだ……」
なぜか背筋の悪寒が止まらなかった。
「つーか、何だ今の。意味のわからんことを急に言うな」
「あのですね。目の前で小学生たちに対して息を荒げて今にも襲いかかりそうな雰囲気の不審者がいたらそりゃ是が非でも止めますよ」
「……いやまて。だからといってそれを言えばなぜ俺が止まると思ったんだ?」
「篠原くんがいざという時にこれを言えばやつは止まる、と教えてくれたので」
なぜかは分からないがとりあえずバ○ターライフルの残りのカートリッジを数えておこう。どこぞの奴隷を撃ち殺さなければならないようだから。
それにしてもさっきの悪寒はいったいなんだったんだろう。
「まあいい。とりあえず、さっさと戻るぞ」
「水ぐらい自分で持ちますよ。私が頼まれたんですから」
「あ? いくらBBAでも女にこんな重いもん運ばせるわけにはいかねーだろ」
実際、二リットルペットボトルいっぱいに入った水、が複数個詰められている段ボール箱は女子が持つには負担が大きい。まあ、俺にとっては軽いもんだけど。
「……ありがとうございます」
不本意、とでもいいたげにしながら美羽は礼を言った。
「礼を言うほどのもんでもねーよ」
だって幼女の神聖なお姿をこの目に焼き付けることができたしな。すでにこの光景は脳内にインプットした。完全に記録した。フフフフフ。フゥーハハハハハァ!
「……優しいんですね……」
「は?」
「い、いえ。別に」
さっさと戻るとするか。まだ昼飯をちゃんと食べていないことだし。
☆
正直に言わせてもらうと、私は現在ピンチに陥っていた。
とはいってもこのピンチは自分から意図的に招いたものであり、自業自得としか言いようがない。
うーん。どうしよう。
「……恵。犯人って?」
「え? えーっと、犯人は犯人だよぉ」
世の中ピンチになることなんていくらでもある。
例えば敵の怪人に自分のア○ダーワールドを壊されて魔法が使えなくなったりとか、相棒のパワーについていけなくなって変身を拒否られたりとか。
まあ、これらのピンチは世間一般に日常的に起こっていることであり、この後には華々しい最終フォームへの変身という見せ場が待っているものの、私の場合はそんなことになりそうもない。
例えるなら政治に敗れて正式採用されなかった空中分解しちゃうモ○ルスーツみたいな感じだ。
本気で推理したら分かりそうなんだけど、それをするのも面白くないしねぇ。
「つまり、辛いものが苦手な美羽のカレーに……例えばタバスコを入れたりした人がいる、と?」
「そんな嫌がらせみたいなことをするような人間が、この中にいるとは思えないけどなァ」
と、まさやんが言ったところで私たちの視線は一斉にまさやんに向いた。
「え? ちょっ! なんだその疑いの眼差しは!」
「だって……ねぇ?」
まさやん、もとい奴隷にはつい昨日犯した前科がある。これで信用しろと言うほうが無理な話だ。
よし、もしものときはまさやんを犯人に仕立て上げよう。無実の人間に罪をなすりつけることぐらい、私にとっては余裕だしね。具体的に言うと、最終フォーム初登場時にかませと化した敵を必殺技で撃破してしまうことぐらい簡単だ。
「まさやんには前科があるからねぇ」
「いやいやいや。ちょっと待ってくれ! 確かに俺は美少女の夜の女子会を覗こうとしたが、さすがにダイレクトアタックはしないぜ! 俺は誓って、女性に暴力は振るわない!」
「またまたぁ。デュエルにダイレクトアタックはデフォでしょ?」
「そうだけどね!? でもこの場合は違うからね!?」
必死に否定するまさやん。まあ、確かに。昨日はついムラッときて暴走してしまったみたいだけどまさやんは基本的に常識人で、昨日の行動もある意味、男の子としては当然の行動といえる、かもしれない。
たぶん、このメンバーの中でもっともまともなんじゃないかな。
ちょっと確認してみよっと。
・かいくん←ロリコン。変態。犯罪者。ロリ紳士。なんちゃってDQN。ぼっち。
・かなみん←ロボオタ。
・なほっち←地雷狩りゲーマー。
・私←ライダーオタ。
・みさみさ←腐女子。
・みうみう←百合。
・はやまん←ホモ。
・まさやん←奴隷。
…………。
だめだこの班。はやくなんとかしないと。というより改めてみると凄いメンツだねこれ。
思えば本当に常識人がまさやんしかいない。いや、まさやんも奴隷という称号がついちゃってるけど普段の言動とか立ち回りとか見てて総合的に判断してまさやんしか常識人がいない。
特にかいくんが危なすぎて幼女がやばい。
にしてもみさみさとはやまんが手を組むとかなりやばいことになるよね。主にかいくんが。
「……それにしても誰がなぜ、こんなことを」
「さあ。それは分かりませんが……美羽は誰かから恨まれるような子ではありませんよね?」
「僕は転校してきたばかりだけど、確かにそうには見えないよね。むしろみんなほほえましく見守っている感じだよねぇ」
はやまんは転校生だから事前情報抜きで、この場において最も公正な判断を下せる人だから間違いなくみうみうは誰かに恨まれるような子じゃないとは思う。
「んー。でもこの場であのカレーに細工ができるのは私たち以外にいないよねぇ」
『…………』
疑いの目がふたたびまさやんに。
「だから俺じゃねぇ――――――――!」
「ホントにぃ~?」
自分でこの状況を作り出しておいてこんなことをする私。
うん。完全に悪女だよね。
「っつーか! 牧原、お前犯人わかってんじゃねーのかよ!」
「そんなわけないじゃん。ただ言ってみたかったからいってみただけ」
がっくり、と場が拍子抜けしたかのような空気に包まれる。
まあ、このあたりで切っておかないとね。ギスギスするのは嫌だし、まさやんで適当に遊べたからいいや。ノープラン迷探偵恵ちゃんの『迷』は『他人に迷惑をかける』の『迷』なのだ。
「で、でも。どうしてお姉ちゃんのカレーだけ辛くなってたんだろう?」
「そこなんだよなぁ……」
ノープラン迷探偵が無理やり幕を下ろしてこれで終わりだと思いきや、どうしてもその謎が気になるらしい。
「なぜなんでしょう?」
「……ちょっとしたミステリー」
うーんと唸るみんな。
かいくんたちももうそろそろ帰ってくるころかな。でも帰ってきてもこんなふうにみんなで考え事してたらお昼御飯が食べられなくなっちゃうよ。
「じゃあ本気だして考えよっかなー」
「? 本気?」
みさみさがきょとんとした顔をするので私は適当に、事実だけを言う。
「うん。さっきは適当に犯人はこの中にいるーなんて言っちゃったけど、ぶっちゃけた話、私が本気出して考えればたぶん分かっちゃうかも。このちょっとした謎」
「え? マジで?」
「うん。だって私、やればできる子だし」
やればできる子。
この言葉は嫌いなんだけど、でもこれほど私を的確に表した言葉はない。
だけどこれはやらない子に贈られる言葉であって、だからこそ私は普段はやらない。だって私はやればできるけどやらない子なのだから。
「じゃーちょっと考えるね」
……。
…………。
………………。
「わかった。犯人はみうみう本人だね」
『な、なんだってぇ――――――――!』
みんな、リアクションがオーバーだなぁ。
「だって、あの状況じゃみうみう以外に細工できないでしょ? それにかいくんを何故か嫌ってたみたいだし、まあ、どうせかいくんの噂(ほぼ大半が真実)に流されてかいくんを懲らしめようとしたんだけどお皿の配置のちょっとした手違いで自分で自分が細工したカレーを食べちゃったんじゃない? たぶん、勝利に酔いしれてて気がつかなかったんじゃないかな。普段のみうみうのかいくんへの態度を考慮すると説明がつくんだよね。自分で自分の嫌いな辛口カレーを食べる必要はないんだし」
「ちょっとまて牧原! 俺は今、お前が猛烈に怖い!」
「……どうして?」
なほっちがまさやんの言葉に首を傾ける。
「なんか知らぬ間に俺の秘密を握られてそうで超怖い!」
「あははは。やだなぁ。まさやんが秘密裏に集めた流川学園美少年図鑑、美少女図鑑の保管場所とそれらをデータ保存してるセキュリティパスワードのことなんて言いふらさないから安心してね☆」
「嫌ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!」
「え? 篠原くん、美少年図鑑なんて作ってたんですか?」
引くわーとでも言いたそうな眼をしてかなみんがまさやんを見る。
うん。ぶっちゃけ私も引いてる。
「ぎゃああああ! そんな目で見られるほうがよっぽどダメージデカイ! ち、違うんだ天美さん、俺は無実だ!」
「……それにしても、まさかそのような手段に出るとは思いませんでしたよ」
一人絶叫するまさやんをほっといて話は進む。
「かいくんも、そんなに悪い人じゃないんだけどねぇ」
「……悪い人じゃないけど変態」
変態と悪人は紙一重なのだ。たぶん。
「そ、そうだよね。海斗くんは悪い人じゃないよね」
ほっとしたようにみさみさも私たちの意見に同意する。意外だなー。お姉ちゃんのみうみうがあんな調子だからてっきりみさみさも同じようにかいくんに好い印象を抱いていないのかと思った。
「本当は優しい人なんだけど、お姉ちゃん、勘違いしたままだから……」
むぅ。これはまた後日、かいくんを問いたださないといけないかも。
まーたフラグを建築してるかもしれないし。
「それにしても、海斗くん遅いね?」
☆
ムスッとした表情の美羽と歩くことしばらく。俺は両手にペットボトルの入った段ボール箱を抱えて移動していた。さっきから班ごとに水を配っているが、行く先々では決まってクラスメイト達が引きつった笑みを浮かべている。
中には今にも逃げ出したくなるあまり涙目になっているものもいた。
「やはりあなたは悪人ですね」
「さいですか」
と、隣の美羽にもこう言われる始末である。
ああ、早く昼飯にありつきたい。
「いったい、どんな悪行を重ねればあんな風にクラスメイト達から見られるんですか」
「いや、そんなこと言われても」
むしろ悪行を重ねているのはDQNなんだけどな。
「つーか、何でお前はそう俺に悪態をついてくるんだよ。俺に何か恨みでもあるのか?」
「!」
ギクッ! と核心を突かれたかのように硬直する美羽。
「……え? 何か俺、お前に恨みを買うようなまねした? 全然、全く関わってなかったのに?」
「うう……! む、無自覚な辺り余計に腹が立ちます……!」
「?」
やがて美羽は色々と葛藤を重ねた結果、絞り出したような声で、
「……………………てすと」
「は?」
「てすとでずっと、三位だから……」
えっと、要するにつまり。
俺がずっとテストで二位をとり続けているせいで順位が上がらず、更に言うならば俺が二位でなんかむかつくから?
「ってふざけんなやコラ! そんな理由で恨みもたれてたまるか!」
「ううっ! どうしてこんなDQNが二位で私が三位なんですか! 納得がいきません!」
「それが本音かてめぇ! 未元物質ぶつけんぞおい!」
因みに打ち止めちゃんが一番好きです。
というより俺、めちゃくちゃ理不尽な理由で嫌われてんじゃねーか!
「う、うるしゃいですよ!」
「……うるしゃい?」
「………………」
「………………」
「う、うるさいですよ!」
「ああ、そこからやり直すんだな」
「~~~~! 本ッッッ当にあなたにはガッカリしました! ようやくガ○ダムXがフルブに参戦すると思って期待してたのにディバイダーから通常のXになれないと分かった時ぐらいにガッカリしました!」
「分かりづらっ!」
しかもそれって個人の感想じゃねーか。
「ようやくドラゴン化してこれから土属性の時代だと思ったら次の変身ではやくもフェ○ックスさんにボコボコにされてるラ○ドドラゴンさんを見た時ぐらいガッカリしました!」
「馬鹿野郎! ランドさんはまだまだこれからなんだよ!」
さっそく最終フォームが登場して用済みになりつつあるが。
どうしていつの時代も土属性は不遇なのか。
「オールドラゴンがようやく登場したかと思ったら早くも最終フォームが登場してしまってオールドラゴンの影が薄くなるなーと何となくわかった時ぐらいガッカリしました!」
「それは俺も思ったわ!」
もうこいつの中のガッカリの基準がいまいちわからん。
「はぁ。美紗から話を聞いたときは期待したのに……蓋を開けてみればただのロリコンにして変態にして紳士にして犯罪者だとは思いませんでした」
「酷い言いようだな……ん? 待て。美羽は俺のことを知っていたのか?」
「なっ……! な、名前を呼び捨てですか!?」
「だってフルネームだとややこしいんだよ。めんどくさいし。そんなことよりも、」
「そ、そんなことって……」
「美紗も美羽も俺のことを前から知っていたのか?」
「逆に聞きますが、覚えてないんですか?」
何を言ってるんだこいつは。わけがわからないよ。
☆
「んー。気になってたんだけど、みさみさってかいくんのことを前から知ってたの?」
「ふぇ?」
私のひと言で、みさみさへと皆の視線が集まる。
その雰囲気におされてか、みさみさは恥ずかしがりながら、
「えっと……あれは、その入学直後の話で……」
と、入学直後という私にも思い入れ深い時期の話を始めた。




