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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第1部「1年生編」:第1章 なんちゃってDQNと日本文化研究部
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第1話 創部!

 朝は五時に起床。そこから顔を洗って歯を磨いた後は朝食の支度を進める。白米に味噌汁、あとは秋刀魚の塩焼き。自家製の野菜ジュースも胃袋に流し込む。

 そして、一息ついた所で時計を確認する。

 現在時刻は六時。

 俺はフッと笑みを浮かべるとTVをつけて録画番組を再生する。

「ふふふ……」

 思わず笑みがこぼれてしまう。すると、俺の視線の先――TV画面の中に可愛い美少女キャラが現れてアニソンがリビングの中に響き渡る。

「キタああああああああああああああ! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 TVに映っているのは年齢は十八歳なのだが見た目が小学校低学年ぐらい。つまり幼女キャラの女の子が可愛い笑顔を振りまいていた。

「りんごちゃああああああああああん! 可愛いよおおおおおおおおおおおおおお!」

 俺のテンションは最初からクライマックスだぜ!

『おい! 朝っぱらからうっせえぞ!』

 隣の部屋から壁ドンしてくるのはつい先日引っ越してきたばかりの住居人さんである。

「あァ⁉ 文句あんのか⁉」

『すんませんっした!』

 まったく。人の幼女TIMEを邪魔するとは許せんやつだ。俺の朝の至福の時だというのに。

「ハァハァ。りんごちゃん可愛いよぉ……」

 今季人気アニメ『ふるーつがーるず!』という日常萌えアニメだが、唯一の欠点はこの作品には幼女キャラがこのりんごちゃんしかいない。

 だが、たった一人しかいない幼女キャラだからこそ、その価値はより深まる。

 そにりんごちゃんは赤髪というアニメ作品の中では可愛い子が多いカラーの髪色をしている(俺主観)。

 幼女。赤髪。

 この二つの要素があれば無敵だ。このアニメは今季一の人気をとることが出来るだろう。

 にしても『鬼の海斗』とも呼ばれている(不本意ながら)この俺が朝から萌え幼女アニメを見ているということを知られればどんな反応をされるか。

「本当に失敗だったなぁ……高校デビュー」

 アニメが終わると同時にため息をつく。

 なめられてはいけないと思って色々と春休みにイメチェンを施して「よーし、これでアニオタの友達を作るぞー!」と思っていたけれど、このビジュアルのせいで他人からは恐れられてアニオタからは敬遠され、そのせいで別のお友達に目をつけられて喧嘩の日々。

 姉ちゃん直伝の喧嘩テクのおかげで返り討ち。返り討ち。返り討ち。そしてまたリベンジと称して喧嘩。

 完全に、高校デビュー失敗である。


 ☆


 至福の幼女TIMEが終わると俺は家を出る。

 しばらく歩き、学園にたどり着くと周囲の生徒が俺を見て、

「でたぞ……鬼の海斗だ」

「近づくと殺されるぞ……」

「昨日は二百人が病院送りにされたらしいぜ……」

 桁が一つ違う。二百じゃなくて二十だ。

 少しげんなりとしながら門を潜ると同時に「うーっす」という気軽な声と共に肩を叩かれる。隣に駆け寄ってきたのは篠原(しのはら)正人(まさと)という学園に入ってから出来た俺の唯一の友人である。

 これがなかなかの事情通であり、よくある学園もののギャルゲーに出てくるような主人公の友人キャラのような立ち位置の奴だ。

「って誰がギャルゲに出てくる主人公の友人キャラだ! そこはせめて主人公にしろ!」

 ギャーギャーと一人で喚く正人をよそに俺はイヤホンを耳につけて携帯音楽プレーヤーで音楽(※アニソン)を再生する。

「にしても、昨日はかなり派手に暴れたらしいな」

「まあな。アニ○イトで予約してた『美幼女ようちえん』のイベントチケット付き初回限定盤BD第一巻を取りに行くのと一番くじをしに行こうとしたら絡まれてな。めんどくさいからぶっ潰した。一番くじのラストワン賞が何とか確保できてよかったぜ」

「ひゃー。怖い怖い」

「あのな、俺はただ絡まれただけだ。正当防衛だ。そこんとこを覚えとけよ」

「正当防衛で二十人以上を病院送りってのはやりすぎじゃね? 全治一カ月らしいぜ」

「いや、あそこまでギタギタのメタメタにぶちのめせば当分は襲ってこないかなと」

「本当に、相変わらずだな。つーか、こんなところでアニソンなんか聞いてて大丈夫なのか? お前が萌えアニメ&幼女大好きのロリコンだと知れたら色々とやばいんじゃないか。お前を恐れて喧嘩を控えている奴らが一気にに襲い掛かってきそうだぜ」

「その時はまた返り討ちにするまでだ」

 ぐっと拳を握りしめる俺の耳には以前として幼女キャラが歌うアニソンが流れていたのだが、それを引き裂くようにわっとさきほど潜った校門がやけに盛り上がっていた。

「おっ。お姫様のお出ましだ」

 正人が目をキラキラと輝かせながら解説する。

 その人物は学園のアイドルと称されている天美加奈(あまみかな)と呼ばれる美少女だ。

 正直いって、学園のアイドルなんて称号が漫画やアニメ、ギャルゲーの中いがいにも存在したことが驚きなのだが、まあ実際にそういわれても仕方がないと思う。

 金髪碧眼に整った顔立ち。豊満な胸。抜群のスタイル。

 その美貌は多くの者たちを魅了し、実際に俺でさえも素直に可愛いと思う。

 まあ、俺の琴線は二次元美少女or幼女なので微塵も興味はないが。

「おお~。相変わらずのナイスバディだな。しかも綺麗! 可愛い! 成績優秀! スポーツ万能! もう完璧だな!」

「本当に、ギャルゲーにいくらでも出てきそうな設定だな」

「設定いうなよ。つーか、お前は物事を二次元基準で考えるのを止めろ!」

「は? なにいってるんだお前は。理想の女性は二次元の中にのみ存在するんだぜ?」

 女なんて陰湿でチャラチャラしててすぐ人のことを馬鹿にして調子のいい時だけ男のくせにとか何とか言うんだ。三次元の女なんて最低の生物だね。ただし幼女は別。

「ていうかお前……本当に存在そのものがギャップの塊だな。喧嘩で無双してて鬼の海斗とまで称されているのにその実態が萌えアニメ、幼女、二次元美少女大好きの変態だなんてな」

「変態? 違うな。紳士といえ。紳士と」

紳士(へんたい)

「ぶん殴るぞ」

 そんなバカなやり取りをしていると件の天美がスタスタと近くを歩くのが見えた。それに伴ってギャラリーの視線も移動し、俺を捉えてビクッと震える。

 ……いったい何だ、この扱いの差は。

 いや、まあ、俺が高校デビュー失敗しちゃったのがそもそもの原因なんだけど。

 周囲に目をむけるのがそろそろ精神的にしんどくなってきたので何となく天美に視線を移すと、ふいに視線があった。


「……………」

「……………」


 あくまでも偶然なのだろう。天美は俺と視線が合うと周囲の人間に気付かれない程度にほんの僅か、一瞬だけ笑みを浮かべた。なるほど。確かにこの笑みにやられた男は数多いのだろう。

 まあ、相手が幼女じゃないので俺は別に何とも思わなかったが。やっぱり幼女がナンバーワン!

 天美が学園の校舎内に入っていくとすぐに外の生徒たちの熱い視線はいったんの収束を迎えた。

「うおー。やっぱり可愛いよなぁ。さすがリアル学園のアイドル!」

「まあ可愛いといえば可愛いな。確かに、この学園のやつらが夢中になるのも解るよ」

「おおっ! ついに海斗にも現実に目をむける時が来たか! うんうん。俺は友として嬉しいぞ!」

「でも二次元でもなければ幼女でもないからなぁ。あれで幼女だったらなぁ。金髪碧眼幼女なんて最高じゃねーか」

「こ、これが変態という名の紳士か……!」

 ほっとけ。


 ☆


 とりあえず。

 俺はこの学園の一年四組に所属している。夏休み前を迎えようとしている我がクラスだが、テストに向けて真面目に勉学に勤しんでいる。当然、その中にも俺はいるわけで、ちゃんと机の上に教科書ノートを開いて勉強していたりする。

 たった二ヶ月程度で高校デビューに大成功し過ぎたことから俺は周囲から恐れられているものの、あくまでもそれは俺の外見(と外での行動)の話だ。

 家ではちゃんと家事はこなすし、予習も復習もするし、萌えアニメも見るし、幼女の画像を見てハァハァもする。至って普通の健全な高校生である。

 今は高校入学後一ヶ月、嵐のように続いていた喧嘩も殆ど止んでいる(昨日は絡まれたが)。

 俺があまりにも勝ちすぎて無敵だのなんだのと噂に尾ひれがついてしまった為にここら一帯の不良たちから恐れられているからである。とはいえ、俺が実は萌えアニメ大好きで幼女を心の底から愛しているロリコン紳士だと知られれば間違いなく噂によって誇張されたイメージは崩壊。

 再び萌えアニメ視聴時間も削られる地獄の日々が始まることになる。

(それだけは絶対に阻止せねば……!)

 つまり、イメージさえ保てばいいのだ。

 こうして授業中に真面目に勉強していることでイメージが崩壊する恐れがあると一度、正人から指摘されたことがある。

 ……悲しい事に、な。


 授業中は先生も含めて、誰も俺に視線を合わせようとしないんだ……。


 ひたすら一心不乱に先生の授業を聞いている。この一年四組の成績が学年トップであることに少なくとも俺は一役買っていると思う。

 ま、まあ、おかげで俺は勉強に集中できるというわけだ。

 正人は同じクラスだがあいつも何気に真面目な所があるからな……。普通に勉強してるし。授業が一段落し、今度はクラスの誰かが指名されて教科書の音読が始まった。指定されたところを見ていると少し長かったので暇になった俺は(昨日の内にこのページは予習済み)ふと教室の中の視線を移す。

 天美加奈。

 俺の席は教室の一番後ろの窓際。対する天美はそこから離れた位置にある。だが、その存在感は圧倒的でこのクラスの中でもかなり目立っていた。

 まあ、確かに可愛いっちゃあ可愛いな。

 良い所のお嬢様で言葉遣いも丁寧だし、それを自慢する事もない。むしろ女子たちにも普通に人気があり、憧れの女の子、といったところだろうか。

 まあ、俺のような最底辺の人間には一生、縁の無いような子だな。

 ――と、再び教科書に視線を戻そうとしたときだった。


「…………」


 あの天美と再び視線があった。チラリと、わざわざ頭をこっそりと斜め後ろに向けて。視線が、あったのだ。

「……?」

 珍しい事もあるもんだな。というか、正人なら喜びそうな状況だ。

 天美はまた周囲に気付かれないように微笑むと、何事も無かったかのように授業に集中した。


 ――――今思うと、これは一種の前触れだったのかもしれない。


 これから起こるであろう出来事の。


 ☆


 放課後になると、生徒たちがいっせいに下校する。

 部活動のある者たちは部活動へ、という流れだがこんな俺がどこかの部活動に所属できるはずもなく、当然ながら帰宅部である。

 まあ、別に帰宅部でもいいと思ってる。帰りはアニソンを聞きながらアニメショップへと寄って幼女キャラのグッズを買ってラノベを買って家に帰ると朝に観きれなかった録画したアニメをじっくりと堪能してから家事やって夕食を作ってあとは予習復習やって、風呂入ってラノベ読んでから寝る。

 今の俺の生活を知れば姉ちゃんも泣いて喜んでくれるだろう。

 と、下校途中、近くに大型家電量販店の前を通り、今日は確か新作のガ○プラの発売日だと思い出した俺は足を踏み入れた。模型コーナーはこの時間帯は空いており、殆ど人のいない模型コーナーの中をアニソンを聞きながら進んでいくと、さっそく今日入荷された新作ガン○ラを発見。

「あったあった」

 さっそく手に取ってみると、ふいに誰かの手と触れあった。

「あ、すみません」

「いえ、こちらこそ……」

 相手は女子だった。声からして同年代だと思う。この時はガ○プラに視線が集中していたから顔を知らずにふいに触れてしまった手にげんなりとして、おいおいどこのラブコメだよと思った。

 うん、ていうかこういうイベントは普通、図書館とかで発生するもんだよね?

 何が悲しくて大型家電量販店の、それも模型コーナーで、それもそれもガトリングガンやらミサイルやら積んでるロマン溢れるガン○ラの箱をとろうとして手が触れなきゃならないんだ。

 いったい誰がこんな古き良きラブコメのテンプレを台無しにしたのはと顔を確かめる。これで幼女じゃなかったら更にダメージはデカい。

 ――――美少女だった。

 紛れもない、美少女だった。

 強いて言えば幼女じゃないのが欠点だろうか。

 だがこの殆ど欠点のない美少女に、俺は見覚えがあった。


「……天美加奈?」

「か、海斗くん?」


 そう。

 そこにいたのは我が学園のアイドル、天美加奈だったのだ。


 ☆


 さて。

 これはいったいどういうことだろうか。

 わからん。さっぱりわからん。

 近所の大型家電量販店で学園のアイドルと格闘武器を一切搭載していないグゥレイトなロマンガ○ダムのガンプラ前でばったりと遭遇。

 ……うん。まあ、あるあ……ねーよ!

 だがこれは一大事である。

 正人いがいの人間にこの俺がオタク(ガチの人に比べればまだまだニワカかもしれんが)であることがバレれば俺のイメージダウンに繋がる。それはつまり他の不良たちへの牽制効果が消滅してあの地獄の日々に戻ることになる。

 そう、萌えロリ幼女アニメも満足に視聴できず、ひたすらTVのHDDに未視聴アニメが溜まり、積みゲー、積みプラが溜まっていくというあの地獄の日々が……!

 いやおちつけ黒野海斗。お前はやれば出来る子だ。

 ここからの選択肢を慎重に選べばこの場をどうにかしてやり過ごせるはずだ!

 こんな年増の女子相手を捌くぐらいわけないぜ!

 俺はギロリと殺気を含めた鋭い視線を目の前のか弱き美少女へと向けて、地獄の底から聞こえてきそうなドスのきいた声を出す。

「あ? なんだテメェ。気安く触れてんじゃねェよ」

 決まった。

 この一言でどんな不良も退けてきた姉ちゃん直伝の威嚇攻撃。これでさっきのやり取りをなかったことに……。

「何を言っているのですか? このガン○ラに先に触れていたのは私です。触れてきたのはそっちですよ?」

 なん……だと……?

 バカな。俺のドスをきかせた必殺ボイスが効いていないだと?

 くそっ。この年増め。

「ていうか海斗くんもガ○プラに興味があったんですね? てっきり萌えアニメしか興味がないと思っていましたよ」

「ッ!」

 ば、バカな……! この俺が萌えロリ幼女アニメ好きだということを知っているだと⁉ こ、これなら確かに先程の威嚇が効いていないのもわかる。だってそれはつまり中身のないハリボテのようなものだからだ。

 内面が解ってしまえばギャップという恐ろしい現象で俺の怖さ(?)も激減してしまう。

「あら、そんなに驚かなくてもいいじゃないですか」

「て、てめぇ……何故、それを……」

「いや、昨日普通にアニ○イトに入ってくるのを見かけたのでこっそり観察してました」

 …………………………………………はぁ⁉

 見られていた⁉ 俺がア○メイトに入る瞬間を⁉ バカな。俺はわざわざ学園の連中がこないような自宅からも遠いところのアニメショップに通ってるんだぞ⁉ なのに、目撃されていた、だとぉ⁉

「にしても本当に意外でした。まさか『鬼の海斗』ともあろう方が萌えロリ幼女アニメ好きだったとは夢にも思いませんでした」

 そういって、天美はにっこりと微笑んだ。

 さようなら天国の生活。

 こんにちは地獄の生活。

「へ、へへ……こっちも意外だったぜ。まさか学園のアイドル天美加奈ともあろうお方がロボオタだったとはな」

 もはやノックアウト寸前のボクサーと化した俺はやけくそとばかりにテキトーな事を言ってみる。すると天美はうぐっという反応を見せ、

「な、なぜそれを⁉ なぜ私がこういったロマン機体にハァハァしたり自宅では趣味でプラモ製作&改造してネットではカリスマモデラーと言われ、更に朝夕晩と毎日かかさずロボアニメ三昧で合体シーンや換装シーンや発進シーンに萌えたり燃えたりするということを、なぜ知っているんですか⁉」


「……………………え?」

「……………………え?」

「…………」

「…………」


 あれ。今こいつなんていった?

「え? なにお前、こういうロマン機体にハァハァ出来たり自宅では趣味でプラモ製作&改造してネットではカリスマモデラーと言われ、更に朝夕晩と毎日かかさずロボアニメ三昧で合体シーンや換装シーンや発進シーンに萌えたり燃えたりしてるの?」

「なんのことですか?」

「おいコラとぼけんなこのBBA(ババア)

 ダラダラと天美の顔には大量の汗が流れ落ちている。冷や汗ってレベルじゃねーぞ。

 あくまでもシラをきるきかコイツ。

 それにしても仮にロボオタだったとして、雰囲気からして宇宙世紀信者っぽいなぁ。

「あなた今、私の事を宇宙世紀信者だと思ったでしょう」

「何故バレた⁉」

 エスパーか! いや、こいつガチモンのニュータ○プじゃね?

「バカにしないでください。私は宇宙世紀信者ではありません強いて言えばガン○ム信者です。ガノタです。宇宙世紀以外はガ○ダムじゃねぇとか言い出して可能性を否定するような連中と一緒にしないでください。そもそも私は全てのガン○ム作品を視聴し、全ての作品を愛しています」

「あ、そーっすか」

 自分で自分のことをガノタという辺りかなり痛い子だぞこいつ。

 オタクという生き物はこうやって他人に知識を披露するのが大好きな生き物だからな。この辺りで中断しておかないとどれだけの時間ここに拘束されるかわからん。

「え?」

「いや、やっぱりお前はただのロボオタだったんだなーって。いや、ガ○ダムオタ?」

「…………あ」

 こいつ今更、自分の失言に気が付いたようだ。

「いや、その……ねぇ?」

「ねぇ? じゃねえよ」

 俺が言うと天美は床に頭を抱えながら座り込んだ。

「ううう……まさかこんなところでクラスメイトと会うなんて……」

「あのなぁ……」

 それはこっちのセリフだ。俺の萌えロリ幼女アニメライフが今まさに音をたてて崩れ去ろうとしているというのに。

「ふ、ふふっ。まあ、予定は狂ってしまいましたがいいでしょう」

 いいでしょうじゃねーよ。全然よくねーよ。

「バレたのが海斗くんだったのは不幸中の幸いといえるでしょう。どうせ近いうちにこちらからコンタクトを取る予定でしたので」

「?」

 わけがわからない。

 あの学園のアイドルである天美加奈が俺みたいなやつに?

「とりあえず立ち話もなんですので、話は別の場所でしましょうか」

 そういうと、天美はしっかりと目的のガ○プラを購入し、別にもってきた鞄の中に大切にしまい込み、そのまま俺たちはしばらく歩いた所にあるこじんまりとした喫茶店へと足を踏み入れた。

「ここなら他の誰かに話を聞かれる心配はないですよ」

 言われてみれば確かに、店内の客は俺たちだけだった。しかも天美の口ぶりからして普段からこんな状態らしい。大丈夫なのかこの店。

 俺たちは紅茶を一つずつ注文して、天美が一口つけたところで、

「さて、さっきの話ですが」

「お前がガ○ダムオタって話?」

「違います。私はガン○ム以外のロボット作品も好きですよ」

「さいですか」

 すごくどうでもいい訂正だった。

「海斗くん。私はこのロボオタであるという私を学園内では隠してます。何故だかわかりますか?」

「そりゃまあ、人には言いにくい趣味だからな」

「そうです。それは萌えロリ幼女アニメを愛している海斗くんもですよね?」

「いちいち言い方に悪意があるな」

「さきほど私を陥れた罰です」

 いや、あれは勝手に自爆しただけだろう。

「あなたも理解できるとは思いますが、やはり自分の好きなジャンルの話題を誰かと共有したい、という気持ちは私にもあるんですよ。それはきっと、幼女アニメ大好きな変態犯罪者予備軍の海斗くんもわかるでしょう?」

「おい、なんかさっきよりも暴言がパワーアップしてるぞ。ハイパーキャストオフしてるぞ」

「あなたに天の道を往き総てを司るのは無理ですよ」

 おっ。話が通じた。嬉しい。何しろ普段はこういう会話がなかなか出来ないからなぁ。正人相手だと限界があるし。

「今、『おっ。話が通じた。嬉しい』とか思ったでしょう?」

 こいつマジでニュー○イプなんじゃね?

「つまりはそこです」

「どういう意味だ?」

「確かに私たちの趣味は普通の人にはいいにくい。特に私とあなたのような立場なら」

 まあ、俺の場合こんな趣味が他の人間にバレたら生活そのものに支障をきたす。天美の場合はまあ、なんというか……イメージダウン、というよりまあ、学園での生活は多少窮屈になるかもしれない。

「ですが、だからこそ私たちは分かり合えると思うんです。似たようなジャンルの知識を互いに持ち、そのジャンルについて話題を共有して話ができる上に秘密を共有できる間柄。これって、私たちにとってはとても素敵な関係じゃありませんか?」

「なるほどな。確かにそれは素晴らしい関係だ」

 相手が幼女だとしたらなおさら。

 いや、実際は素晴らしいどころじゃない。俺が待ち望んでいた関係じゃないか。

 正人は三次元BBAのことで頭がいっぱいで、なんだかんだで生徒会にも入っちゃったりしているので基本的に忙しいのでなかなかそういう話は出来なかった。

「いやまて。だからといって学園内で堂々とそんな話は出来ないだろう?」

 俺の事情からして正人とそういう話をおおっぴらに学園内で出来なかった。だから困っていたのだ。話がしたくても出来ないと。

「なら場所を作ればいいんですよ。場所を」

「どうやって作るんだ?」

「決まってます。部活を作るんです。海斗くんも大好きな萌え系学園ライトノベルにもよくあるでしょう? 主人公たちが現実にはありえないような部活を作るなんてテンプレ中のテンプレじゃないですか」

「おおっ。その手があったか!」

 俺たちの通う学園に部活動を作るにあたって人数だとか顧問の先生だとかそんな規定は存在しない。生徒会に申請して通れば例え顧問の先生がいなくても、人数がたった一人でも部を作ることが出来る。超ゆるゆるなのである。

「あー。でも生徒会側に説明する時はどうするんだ? さすがに『オタク話がしたいから』なんて書けないだろ」

「それに関しては心配ありません。まず部活動名は『日本文化研究部』とします」

「『日本文化研究部』ぅ?」

 俺がうさんくさそうな視線を向けると、余裕の表情で天美が説明を続ける。


「ええ。その名の通り、日本の文化について研究する部活です」

「それと俺たちのオタク趣味がいったい何の関係があるっていうんだよ」

「アニメや漫画をはじめとしたオタク文化は世界に羽ばたいている立派な日本文化の一つです。それについて議論を重ねるのは活動内容に何も反していません」

「うわ。すげえ屁理屈」

「屁理屈だろうとなんだろうと、私は何も間違ったことは一つも言っていません」

 まあ確かにそうなんだけどな。

「それに、私としてはどうしても一緒にアニメについてお話が出来る友達が欲しいんです。屁理屈だろうと必ず通してみせます」

 そういう天美の目はメラメラと燃え上っていた。俺という同じ趣味を持つ仲間を見つけてよほど嬉しいのだろう。もしかすると昨日、アニメショップで俺を見つけて、俺の正体を知ってからずっと考えていたのかもしれない。

 まあ、ワクワクする気持ちは解る。正直に言えば俺も嬉しい。

「と、いうわけで海斗くん。明日はさっそく部活動設立の申請に行きますよ」

「大丈夫なのか?」

「ええ。私に考えがあります。任せてください」

 それは頼もしい。学園のアイドルがここまで自信たっぷりに言うからにはさぞかし凄い策に違いない。


 翌日の生徒会室。

 俺はこの場にいた生徒会のメンバーをたっぷりと殺気の籠った目で睨みつけた後に机の上にバンッ! と盛大に音をたてながら建て前的活動内容の書いてある部活動申請用紙を叩きつけた。

 そして中学時代の俺を髣髴とさせる気弱そうな黒髪の男子生徒をギロリと睨みながら、

「……よぉ。ちょっと部活動を作りたいんだけど、ハンコ、押してくれるよな?」

「ひっ! は、はははははははははいぃぃぃぃっ!」

 ぶるぶると震える手で「承認」の印を押す男子生徒。

 ……何これ。いや、ほんとマジで何これ。

 俺は昔の自分を虐めているような罪悪感にかられながら生徒会室を後にした。廊下ではブックカバーのかかったロボ物のラノベを読みながら俺を待っていた天美がにっこりとした笑顔で微笑みかけてきた。

 俺にはそれが、悪魔の笑みにしか見えなかった。

「名付けて、『鬼のゴリ押し作戦』。上手くいってよかったです」

「鬼はお前だぁ――――――――!」

 こうして、我が『日本文化研究会』は無事(?)設立されたのだった。



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