表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS⑧ それぞれの話とそれぞれの道
164/165

番外編② 三年生、雨宮小春

本日、書籍版「俺は/私はオタク友達がほしいっ!」が発売となります!


よろしくお願いします!

 三年生になって、部員も増えて、少し学園生活が落ち着いてきた頃。


 わたし、雨宮小春は一年生の時の自分を思い返していた。


 あの頃はまさかここまで自分が大きく変わることになるなんて思ってもみなかった。


 海斗先輩と付き合うようになって、わたしはアイドルから歌手へと転向した。


 海斗先輩に告白すると決めた時、わたしはもう覚悟の上だった。わたしなりのケジメをつけるためにアイドルを辞める覚悟だった。


 だけど、結果的に歌手に転向することになった。


 本当なら海斗先輩たちとのことはもっと雑誌とかでも騒がれてもおかしくないはずだったのだけれども、不思議なことに情報が完璧に統制されていた。あとで聞いた話だと、恋歌先輩が、知り合いというか、上司的な人があれやこれやしたとか、意味深なことを言っていたけど、深くは踏み込まないようにした。


 あれはきっと触れてはいけない部分だよね。うん。


 ともあれ最初は引退宣言したのだけれども、ありがたいことにまた歌を聴きたいという人たちの声がたくさん事務所に届き、話し合った結果、歌手として活動していくことになったのだ。


 海斗先輩も「よかった」と言ってくれた。


 わたしは、小さいころからアイドルになるのが夢だった。だからその夢を自分が取り上げてしまったのでは、と海斗先輩は悩んでいた。わたしとしては、確かに心残りはあったけれど、好きな人と一緒に過ごすことも夢と同じぐらい素敵なことだと思っているし、自分で選んだ答えに後悔はしていなかった。


 それでも海斗先輩は気にしてくれていて。


「歌手か……アイドルじゃなくてもいいのか?」


「はい。わたし、アイドルとして活動しているうちに気づいたんです。確かにアイドルというものに憧れてはいましたけれど、一番好きだったのは歌うこと。わたしの歌で誰かに元気をあげられることが、わたしの夢だったんだって。だから、今度は歌手としてその夢を追いかけていきます」


「そうか。がんばれよ」


 海斗先輩はそう言って、わたしの頭をなでてくれた。


 それから、わたしは学業と両立できる程度のスケジュールで活動している。活動している、とはいってもまだ新曲を出すための準備段階。充電期間だ。ゆっくりしている。


 もともとこの学園に来たのも学生生活を楽しむためだし、なにより今年は受験が控えている。


 あまり勉強はおろそかにできない。何しろ、海斗先輩たちと同じ大学に行くと決めているからだ。


 受験と言えば、わたしが今の学園に入学するための受験勉強の密着取材をやったことを思い出す。


 さすがに今年はやらないけれど。


 まあ、なにはともあれ。


 わたしは海斗先輩の恋人としての時間も過ごしつつ、こうして学生生活も楽しんでいる。


 今日はレッスンも夜からなので、部室に行く。


「こんにちは」


「あ、こんにちはです。小春先輩っ」


 ぱあっと明るい笑顔で出迎えてくれたのは二年生、つまり一つ下の後輩である森子ちゃん。


 液タブに向かっているということは作業していたらしい。


「ごめんね。作業の邪魔しちゃった?」


「いえいえ。そんなことは全然。むしろわたし、本当に集中してたら失礼ながら小春先輩が入ってきても気がつきませんでしたよ」


 たははと笑う森子ちゃん。


 確かに、森子ちゃんの集中力はすごい。去年も、本気で集中している時は周りのことに一切気づかないぐらいだったから、毎回みんなで感心していた。


「ゴッドと師匠がいなくなってから、どうにもイマジネーションがわかなくて……レイ〇ボーラインにつこうかと真剣に悩んでます」


 うーんと悩む森子ちゃん。ぜひ勝利のイマジネーションを掴んでほしいけれど、逆にいえば今はシャ〇ーライン側なんだろうか。


「他のみんなは? 南央ちゃんは日直だから少し遅れるって言ってたけど」


「小暮は取材だかなんだかでどこかに出かけて、一年生はコンビはお菓子の買い出しです。購買のやつを切らしてたので」


 部室には購買部というところがある。大げさなものではなく、単にお菓子とジュースを置いているだけの、棚の一角にある小さなスペースだ。一つ百円で好きなお菓子とジュースをとって食べたり飲んだりすることができる。ちなみに、払ったお金は部で自由に使うお金、プール金として貯めておくようになっている。


 というのも、部室の備品を買い足していくための貯金をしようという話になったからだ。


 今ある部室の備品……机や椅子、パソコンにテレビ、ゲーム機といったものはすべて加奈先輩がこの部を作るときに自分で買ったものらしく(さすがはお金持ちのお嬢様……)、部費は特に必要としていなかった。だけど加奈先輩が卒業したことでこれまでのように自由に何でもお金が使えるというわけにはいかなくなった。


 二年生組はバリバリに創作活動をしていくタイプだし、これから二人みたいな創作タイプの人がこの部に入らないとは限らない。今後、いろいろと物入りになる。かといって部費を頼りにしていくには機材や消耗品にはお金がかかりすぎる。


 今は先輩たちが三年間、手つかずにしていた部費があるからなんとかなる(小森ちゃんが使っている液タブも残されていた部費で購入した)。だけど今後のことを見越して今から貯金しよう、と南央ちゃんと話し合った結果、導入されたのが購買部というわけだ。


 ちなみに部費をはじめとしたお金の管理はわたしが行っている。書類上、わたしは部の会計係として登録されているから。


 ぶっちゃけた話、このプール金は校則からするとかなりグレーゾーンである。


 実はわたしたちの部だけじゃなくて、他のいろんな部もやっていることだ。というのも、どの部も部費が無限にあるわけじゃない。特にこの学園は色んな部があり、部費も完璧に配分されているわけじゃない。かといって、お金がなければ活動することも厳しいという部もある。そんな事情もあり、生徒会側も黙認しているような状況だが、ひとたびトラブルが起きれば話は別。トラブルを起こした部のプール金制度は禁止となり、厳しい監視がつく。


 形式上、プール金は「自前で買った部活動に必要な私物(野球部でいうところのバットやグローブ)」扱いとなっている。


 まあ、生徒会側……というか、先生たちの、「トラブルなくお金を運用できるように学生のうちから勉強させておく」といった考えもあることにはあるけれど。


「あ、そういえば先輩、もうすぐ夏休みですね!」


「そ、そうだね」


「去年は楽しかったですよねー。加奈先輩の家の別荘まで行って」


 去年の夏休みは当時、新入部員だった森子ちゃんと小暮くん、そして海斗先輩たちみんなで加奈先輩の家の別荘にいって合宿を行った。合宿というか、ただの旅行だったけど。


「今年は行かないんですか?」


「どうだろう。今年は加奈先輩がいないから難しいかも……」


 わたしたち現役部員の中に別荘を持っている人なんていない。というか、去年までは色々と規格外過ぎたのだ。加奈先輩もそうだけど、メイ先輩とか、恵先輩も何気にそうだし、お嬢様率が高かった。


 かといって、行かないという選択肢はできるだけなしにしたい。


 せっかくの夏休みだし、今年の一年生にも楽しい思い出を作ってほしい。


 わたしたちがそうだったように。


「南央ちゃんと相談して、加奈先輩に頼めるか聞いてみるね」


「わかりましたっ。楽しみだなぁー」


 どうやら森子ちゃんはもういける気でいるらしい。




 その後、南央ちゃんにも相談して承諾を取り、二人で一緒に加奈先輩に都合がつくか相談した。


 結果的にOKがでた。使っていない別荘を用意してくれることが決まった。


 せっかくだから先輩たちもどうですか、と誘ってみたけれど「OBがあまりしゃしゃり出ないようにしておく」と言って断られた。


「せっかくだからさ。現役部員みんなで思い出作ってこい」


 海斗先輩の言葉に送られ、わたしたち日本文化研究部は夏休み、合宿に出かけることになった。






番外編に入ってからの方がこれまでで一番部活ものっぽくしている感じがする不思議。




書籍版の方は本日発売なので、なにとぞ……!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ