番外編① 新・日本文化研究部
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「そろそろ代替わりした方がいいんじゃねぇか?」
わたし、楠木南央が部長をやることになったのは、そんな海斗先輩の一言がきっかけだった。
当時、先輩たちは三年生に進学して夏休みを控えたばかりのころ。
受験勉強をしながら部室で遊んでいて、終わりが近づいてくる寂しさに浸っていたわたしには爆弾のようなものを放り込まれた気分だった。
「海斗くん、どこでそんな知恵をつけてきたんですか?」
「言い方は妙に引っかかるが、生徒会も代替わりしなきゃなーって話を正人から聞いてたからさ。ふと思って」
「ああ、そういえば篠原先輩は地味に生徒会長してましたもんね」
「ああ、地味にな」
去年は海斗先輩と付き合うかどうかという方に気持ちが持っていかれていたから忘れられていたけれど。
篠原先輩は二年生の十二月、生徒会長に就任にしている。あの頃は海斗先輩に告白したりして色々とあったから忘れられがちだったけれど。学園祭が終わり、二年生の修学旅行が終わって十二月に入れば生徒会選挙が始まる。
学園祭ぐらいの時期になると既に二年生辺りが中心になって動いているはずだ。
篠原先輩も、なんだかんだ寂しいのだろうか。
「生徒会に比べると随分と早いけど、うちも代替わりを考えなきゃなってこと。俺たち、来年には卒業だし」
卒業。
分かってはいたことだけど、やっぱり寂しい。
先輩たちがいない部室なんて考えられない。
「かいくんの言葉にも一理あり、だねっ」
「……部長を決めるとすると、南央か小春から?」
「そうなりますね」
今この場にはいないけれど、うちにも一年生が二人入ってきた。
けれど、さすがに一年生に放り投げるわけにはいかない。
分かってはいたことだけど、わたしか小春ちゃんのどちらかになる。
「それでは、あとで三年生のみんなで考えましょう。二年生には後日、次の部長をお知らせします」
それで、その日は解散した。
わたしはてっきり、部長は小春ちゃんだと思っていた。
だけど、
「では次の部長は南央さんに任せることにします」
後日。一人部室に呼び出されたわたしに待っていたのは、加奈先輩たちからの部長任命だった。
「えっ!? わ、わたしですか!?」
「はい。何か問題がありましたか?」
「いや、問題っていうか……どうして小春ちゃんじゃないんですか?」
「南央ならみんなをまとめてくれるって思ったからだ。まあ、別に小春が向いていないってわけじゃないけどな。イメージ的には、二人で支え合ってもらえばいいと思ってる」
先輩から言われて、ちょっと胸がきゅんとする。
好きな人……というか、こ、恋人、にそう言われると嬉しくなる。
「というか、これだけゆるゆるした部活なのですから、そこまで気負わなくても大丈夫ですよ」
美羽先輩がフォローを入れてくれる。
「そうだぞー。加奈を見ろ、加奈を」
「海斗くん、それどういう意味ですか」
じろっと海斗先輩に視線を向ける加奈先輩。
「それに、これは小春からの後押しもあるんだぞ?」
「小春ちゃんが?」
「ああ。あいつ、言ってたぞ。自分が部活に入った頃、南央の存在には助けられたって。南央と一緒に遊んでいる時間はとても楽しいからって」
「小春ちゃんが……」
「任せたぞ、南央」
「は、はいっ」
☆
そんなわけで、わたしはこうして三年生になった今、部長として部室にいる。
うちの部活は割とゆるゆるだから部長といっても大した仕事はない。まあ、ほとんど遊んでいるだけの部活だし。
だけど、今年は違う。
「はぁ……先輩たちが卒業して、寂しいッスねぇ」
二年生になった小暮恭太くんがため息をつく。
「せっかくの取材対象がいなくなっちゃうと寂しいッスよ」
「同感だわ……ゴッドと師匠がいないのは超寂しい……」
続いて、ため息をついたのは同じく二年生の大久保森子ちゃん。
ちなみにゴッドというのは美羽先輩のことで、師匠というのは恵先輩のことだ。
どちらもとても絵が上手い。美羽先輩はネットに上げているイラストが高評価を受けているし、話によるとイラストのお仕事もきているんだとか。で、森子ちゃんはそのファンだそうな。
恵先輩はその天才っぷりをイラスト方面でも発揮していて、その才能を目の当たりにした森子ちゃんは師匠師匠と慕っていた。若干変態がかっているのはこの部特有のアレということで。
ともかく、この二人は創作者だ。
対するわたしは消費者側のオタク。
作る、という面に関してはあまり力になれそうにないので、部長として二人をちゃんと面倒見ていけるのかという不安もあり、才能ある二人をこのゆるゆるな部(言い方はアレだけど)に置いていてもいいのかという悩みもある。
まあ、それはこれから少しずつ考えていこう。
「チーッス」
心の中で二人に続いてため息をついていると、部室に入ってきたのは、一人の女子生徒。
着崩した制服。鋭い目つき。
傍から見れば完全に不良な少女。
彼女は椅子にドカッと座ると、パラパラと手持ち無沙汰に漫画を読んでいる。
亜狼カエデ。それが、目の前にいる一年生の名前である。
彼女はれっきとしたうちの部員なのだが、オタクではない。
海斗先輩と戦いたくてこの学園に入学したきたというどこのバトル漫画だというような設定……もとい、経緯の持ち主である。
だが入ってみれば海斗先輩は入れ違いで卒業してしまったあと。
成績トップで入学してきたのにも関わらず、アホというかなんというか……。
それはともかくとして、彼女は海斗先輩がうちの部に顔を出していることに目をつけてうちに入部してきたというわけだ。
たまに顔を出す海斗先輩に勝負を挑んでは返り討ちにあっており、海斗先輩を倒すまでうちの部に留まるとかなんだとか。
「部長」
「あ、はいっ。なんでしょーか」
「この漫画、続きはどこにあんの? そこの棚に入っていないんだけど」
「えっと……スペースがないから、こっちの棚に続きがあるよ」
「ああ、そうなんスね。ありがとッス」
見た目も中身も不良であることには間違いない。が、むやみやたらに暴れるというわけでもない。
今みたいにちゃんと先輩であるわたしや小春ちゃん、二年生の二人にはきちんと後輩としての態度をとる。
意外にマジメな子なのだ。
それでもちょっと怖いけど……。
「うーっす」
次に部室にやってきたのは、一年生の高杉邦夫くん。
こっちは逆に普通のオタクだ。ちょっと安心する。
入学式の朝、偶然にも海斗先輩と出会ってうちの部を勧められたという。
まあ、その入学式には遅刻して悪目立ちしちゃったみたいだけど。
「あ、みんな揃ってたんだ」
最後に入ってきたのは、小春ちゃんだ。
はあ、安心する。わたしの心のオアシスだ。
ともかくこれが今の日本文化研究部。
わたしと小春ちゃんが先輩たちから受け継いだ、大切な居場所だ。