ifストーリー 美羽ルート④
書籍版「俺は/私は オタク友達がほしいっ!」は2月17日発売です!
各種通販サイト様の方でも予約がはじまっております。
書籍版は1からプロットを練り直し、設定を一部変更しつつも第一章の内容を整理して加筆。
ウェブ版よりもパワーアップしたものとなっております。
よろしくお願いします!
渚美羽と付き合うようになってから、俺の生活はガラッと変わった。
学校生活は前よりも楽しくなったし、楽しみにもなった。
それと、呼び方も『美羽』と呼ぶようになって、ついでに学校に持っていく弁当の数が増えた。
これまでは自分用の弁当を一つだけだったのだが、美羽と付き合うようになってからは彼女の分の弁当を作ることも俺の日課になった。
最初はやはり彼女の手作り弁当を食べてみたいと思っていたのだが、ふとしたことから美羽が俺の弁当のおかずを一つ食べて、
「…………これ、わたしが作るのよりも美味しいんですけど」
ぽつりと漏らした一言によって、夢の『彼女の手作り弁当』という道はなくなったのであった。
まあ、それはそれでいい。
折を見てまた食べられるかもしれないし。
重要なのは、前よりも学園生活が楽しくなったということだ。
ぼーっとしていたら、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。
俺は席を立ち、二人分の弁当を持って一足先に教室を抜ける。
立ち入り禁止の張り紙を無視して屋上にたどり着き、床に座って空を眺めつつ時間を潰す。
すると、扉の開く音が聞こえてくる。
「いつも早いですね」
美羽だ。
「一緒に出ていったら誤解されるだろ」
「むっ。わたしが恋人だと誤解されたら困ることがあるのですか。さっそく浮気ですか」
「ちげーよ。一緒に屋上に行くと俺がお前を脅したりしているって誤解されるだろうが」
「そ、そーいうことですか……すみません」
早とちりだったことが分かってくれたのか、恥ずかしそうに視線を逸らす美羽。
それにしても、むっとした表情もかわいかったな。
「それよりもほら、今日の分の弁当」
「…………ありがとうございます」
「どうした」
「いえ、こういうのは普通、わたしがするべきことなのではと思いまして」
「お前が言ってきたんだろう」
「そうですけど。でもわたし、彼女らしいことあまり出来ていないなと」
むぅ、と今度は唇を尖らせる美羽。
「そんなこと言ったら、俺だって彼氏らしいことあんまり出来ていないだろ」
「そんなことありませんよ」
「じゃあそのセリフ、俺もそのままそっくりお前に返すよ」
美羽は不意を突かれたような顔をして。
ぷいっと視線を逸らす。けれど、頬が少しばかり赤くなっていたのを俺は見逃さなかった。
二人で弁当を食べつつ、ぽつぽつと言葉を交わす。
俺はこの時間が大好きだ。美羽はどうなのか分からないけれど……でも、同じように思ってくれていたら、嬉しい。
「つーか、美羽も屋上に来ることに躊躇いがなくなってきたな」
食べ終わったあと、空いた時間はまたお喋りの時間だ。
「今だって多少の抵抗はありますよ。でも、待たせるわけにはいきませんから」
本来ならば屋上は入ることはできない。
鍵が壊れているので鍵を閉めることは出来ないから張り紙で禁止にはされているが。
無視すれば入ることはできる。今みたいに。
「お前、俺のせいで悪い子になっちゃったな」
「そうですね」
言ったあと、美羽は俺の方を見ながら、
「だから、責任とってくださいね?」
と、微笑んだ。
「せ、責任って」
「わたしを悪い子にした責任です」
ああ、くそ。
今のは不意打ちだった。
思わず胸の鼓動が高鳴る。
「…………お前、今の反則」
「お返しです」
しれっと言ってくるのだからたちが悪い。
「あ……そ、そういえば、その…………明日の、デートのことなのですが」
「お、おー……」
渚美羽が恥ずかしがりながらデートという言葉を口にする。
そうだ。明日は休日。
二人でデートに行く約束をしていた。
「し、集合場所はあなたの家で良かったのですよね」
「お、おう」
ちなみにこのやり取りは今日だけで三回目だ。
朝の通学路やスマホのメッセージアプリでも同じやり取りをした。
これが恋人同士になってから初めてのデートなので、緊張するのも分かるのだが。
というか俺もかなり緊張している。まだ明日にもなっていないのに。
それから同じようなやり取りを放課後も行い、一日が終わった。
休日の朝。
デート当日。
「…………」
「…………」
俺たちは二人で、外の光景を眺めていた。
というか、雨。雨である。美羽が家にやってきた時というまさにピンポイントなタイミングで雨が降った。
それはもう、どしゃ降りで。
恨むぜ神様。よりにもよって今日という日に雨か。
「これでは、外に出かけるのは無理ですね」
「……だな」
お互いに苦笑する。
ああ、それにしても本当についていない。
これはもうデートどころじゃないな。
「では、今日のところは家デート、というものをしましょう」
美羽の提案に、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。
家デート。そんな裏技があったなんて。
「……えっと、どうしたのですか」
「まさかそんな裏技……いや、力技を美羽が知ってるなんて思わなくて」
「こ、これでも今日に備えて勉強してきましたから。色々と」
顔を赤くしながら、ぷいっと視線をそらす美羽。
どうやらデートについて色々と調べていたらしい。
「そ、そっか……」
色々、と言われると内容が気になるところだが……そこはまあおいておこう。
しかし、家デートとは何をすればいいのだろう。
美羽の反応を待ったが、どうやら彼女も何をすればいいのかまでは分からないらしい。顔を真っ赤にしたままじっと座っていた。
何をすればいいのか分からないが、俺はとりあえず美羽の隣に座る。
二人で一緒に、窓の外の景色を……雨を眺める。
「そういえば、あの日も雨だったよな」
あの日、というのは美羽が俺の家に泊った日だ。
俺が美羽を意識するようになったきっかけでもある。
「そうですね。……ふふっ。それを思えば、雨も悪くないのかもしれません」
「それは……まあ、俺もなんとなくわかる」
今思えば、あの日は俺にとって特別な日だ。
美羽を意識するようになって、こうして付き合うきっかけになった日でもあるのだから。
俺たちはしばらくの間、無言で雨を眺めていた。
雨がきっかけで付き合うようになった俺たちのはじめてのデート。
こうして二人で雨を眺める形になったのは、これはこれで悪くないんじゃないかと思う。
さすがに毎回雨が降られるのは困るけど。
「美羽」
「なんですか?」
「何というか……これからも、よろしく」
俺がポツリと零した言葉に、美羽は一瞬だけ不意を突かれたような表情をするが――――すぐに、くすっと笑って。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
手は自然と繋がった。
指を絡めて、お互いの温もりを感じあって。
雨に見守られる中、唇が重なった。
最初はずっと付きまとって煩わしいと思っていた人は、いつの間にか俺の日常の一部になっていて。
意識するようになって。
恋人になっていた。
とはいえ美羽はこれからも色々うるさそうだけど……まあ、それもいいかと思える自分がいる。
恋人になる前と後では全然違う。
今では色々と言ってくるのも、美羽なりの愛情だということが分かるから。
惚れた弱みというやつだろうか。
まあ、何にしても……俺はこれからも、隣にいる女の子と一緒に、毎日をうるさく楽しく歩んでいくのだろうと思った。
美羽ルートこれにて終了です。
次回から本編に戻ります。
繰り返しになりますが、書籍版の方もよろしくお願いします!