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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS⑦ なんちゃってDQNと委員長
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ifストーリー 美羽ルート②

 針が時を刻んでいく。

 時間というのは不思議なもので、早く過ぎてくれと願うほど遅く感じる。

 今がまさにそうだ。

 仕方がなかったとはいえ渚美羽を家に泊める形になってしまっている。


「もう夜の七時ですか」

「……飯にするか」


 さすがにお腹が減ってきた。

 それに、ごはんを作っていれば少しは沈黙の気まずさも和らぐかもしれない。


「それならわたしが作ります」

「は?」


 いきなりの提案に目が点になった。

 俺が戸惑っていると、渚美羽はテキパキと言葉を滑り込ませていく。


「元々、わたしが勝手に上がり込ませてもらったので、これぐらいの恩は返させてください」

「別に恩ってほどじゃないんだけどな」

「あなたにとってはそうでも、わたしにとっては違います」


 特に断る理由もない。

 ここで言い争いをして無駄に時間を使うのも嫌だし。……ああ、いや。無駄に時間を使う方が好都合ではあるのかな? でも腹が減ってきたしな。ごはんを早く食べたい。


「わかった。でも、何もしないのもアレだから俺も手伝う」


 そんなわけで、渚美羽との夕食作りがはじまった。

 意外……というほどでもなかったが、渚美羽は料理が上手かった。

 普段から親の手伝いをしているのかテキパキと手伝ってくれている。


 しばらくしてから夕食が完成した。

 余り物の野菜や肉を炒めたものに味噌汁と白米といったシンプルな献立だ。


『いただきます』


 テーブルに向かい合わせで座り、手を合わせる。

 美味しく仕上がった夕食を終えると、自然と二人で食器を洗う。

 普段から料理だけでなく家事を手伝っているのだろう。渚美羽はこれまたテキパキとした動きを見せた。


 おかげで、


(やることがなくなった…………!)


 予想以上に手際が良くて時間が短縮されてしまい、またもや気まずい沈黙の時間が訪れてしまった。

 ここで俺だけが部屋に閉じこもるとそれはそれでやりづらい。渚美羽を一人ぼっちにさせてしまうわけだし。いや、渚美羽的にはそっちの方がいいのかな? くそっ、分からん。


 ええい、こういう時は話題だ、話題。

 何か話題を探さなければ……。


「…………そういえばさ」

「何でしょう」


 話題を探しているうちに、頭の中に一つの疑問がぽんっと思い浮かんだ。


「前々から思ってたんだけど、お前はなんでここまで俺にかまうんだよ」

「……質問の意味がよく分からないのですが」

「いや、だってさ。普通、ここまでしないだろ。説教だかなんだか知らないけどさ。わざわざ家までついてきて、こうして泊りまでして……委員長っていっても、たかだか委員長ってことでもあるだろ? ここまでする必要、あるのかよ」


 それに、と俺は付け加える。


「お前、周りからどんな目で見られてるのか分かってるのか。俺みたいなのに付きまとってさ……呆れられてるぜ」

「そんなこと関係ありません」


 きっぱりと、渚美羽は言い切った。


「周りからどんな目で見られようと、呆れられようと。そんなこと、どうでもいいです」

「どうでもいいって……」

「それに、どうしてここまでかまうのだと聞きましたね。簡単なことです」


 渚美羽はじっと俺の目を見て、桜色の、柔らかそうな唇を動かした。


「あなたを一人にしたくないからです」

「一人にって……」

「一年生の頃、あなたはずっと一人でした。わたしはそれを見てきました。とても寂しそうな目を、今でも覚えています」


 確かに、俺に友達はいない。

 学校に入ってからこんなだったから、俺に近づこうとするやつはいなかった。

 寂しくなかったといえば、嘘になる。

 それを渚美羽は、見ていたのか。


「それに、あなたが本当に悪い人なら、わたしだってここまでしません。でも、あなたは良い人です。自分から相手を傷つけたり、無意味に喧嘩をふっかけるような人でないのも分かっています。だからといって放っておけば周りの先生もどう判断するか分かりませんし……だから、わたしが普段から注意をしていたら、少しは先生方も大目に見てくれると思って。わたし、これでも先生方に信頼はされてますし」


 ……そうか。

 俺は自分でも知らないうちに、こいつに助けられていたのか。

 

「…………ありがとな」

「お礼を言われるようなことではありません」

「でも、どうしてここまで……仮に俺が、その、良い人だったとしても。寂しそうな目をしていたとしても。それだけで、ここまでする理由がないだろ?」


 俺がいうと、渚美羽は呆れたようにため息をもらす。


「…………はぁ。やっぱり、覚えてないんですね」

「は?」

「一年生の時、わたし、あなたに助けられてるんですけど」

「……そんなことあったっけ」

「ありました」


 覚えていない、というのが顔に出たのか、渚美羽は少しむすっとしながら語りだした。


「一年前、わたし、帰りに寄り道をしたんです。それでちょっと遅くなってしまい、近道をしようとして普段は通らない道を入っていたら、男の人に腕を掴まれて、無理やり囲まれて。そこを助けてくれたのがあなたでした」

「……すまん。覚えてない」

「やっぱり」


 気のせいか、渚美羽がどんどん不機嫌になっていく。

 一年前、そんなことがあったようななかったような……何よりあの頃は毎日喧嘩をふっかけられてたからなぁ。


「でも、いいです。あなたらしいといえば、らしいので」


 彼女の零したクスッとした笑みに、思わず見とれてしまう。

 不意を突かれたような感じがして、顔が赤くなる。


「そ、そーかよ」


 言葉を濁し、顔をそらす。

 このまま見つめられ続けるのは耐えられない。


 …………ちくしょう。かわいいじゃねぇかよ。


「どうしました?」

「いや、別に」


 ぷいっと顔をそらす。

 見られたくない。こんな、鏡で見るまでもなく分かるぐらい、赤くなった顔。


「まあ、とにかく。そういうわけですから、わたしはあなたに借りがあるんです」


 ☆


 顔の火照りも落ち着いてきたころ。

 とりあえず居間のところに布団を敷く。渚美羽が寝る場所を確保するためだ。

 当初は俺が床で寝て渚美羽にはベッドを使ってもらおうかと思ったのだが、向こうが断ってきたのだ。


 延々と言い合っては無駄に時間が過ぎるだけなので了承し、心苦しいけど居間に布団を敷いて寝てもらうことになった。


 夜になり、俺は自分の部屋のベッドに潜り込む。

 今日はなんだか疲れたので、こうして一人きりの空間にいるとリラックスできる。

 ふぅ、と息を吐きだしたところで、ふと思う。


「そーいえば、近くで渚美羽が寝てるんだよな……」


 …………。


 やばい。なんか緊張して眠れなくなってきた……。




 翌日の朝。

 眠れなかった俺は窓の外がもう白んでいるのでスマホの時計を確認したら五時と表示されていた。

 早朝五時か。

 正直眠いけど、眠れそうにないしとりあえず起きるか。


 フラフラもそもそと起き上がり、部屋を出る。

 頭がよく回らない。何か忘れているような、見逃しているような気がしつつ、居間に入る。


「あっ」

 

 しまった、と思った。

 床の上の布団の中に、渚美羽が寝ていた。

 無防備な寝顔を見てしまったことに「しまった」と思う一方で……かわいい、とも思ってしまう。


 いつもは口うるさいところ無防備なところとのギャップというやつか。

 ……いや。いやいやいや。落ち着けよ俺。

 確かに昨日、色々と話して多少、打ち解けはしたが……。


「ふぁ……」


 あーだこーだとしていたら、渚美羽が目を覚ました。


「ん……どーして…………?」


 渚美羽はここにいる俺を見ると、最初は眠そうにしていたがすぐにハッと意識をはっきりさせると、


「なっ、あっ、いや、えっと」


 なんであなたがここに、と言おうとしたみたいだが、ここが俺の家であることを思い出してどうしたらいいのか分からなくなっている顔だ。


 今にもオーバーヒートしてしまいそうになる渚美羽を見て、俺は素早く自分の部屋に退散したのだった。






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