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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS⑦ なんちゃってDQNと委員長
157/165

ifストーリー 美羽ルート①

ネット小説大賞様のページで、書籍版オタク友達の発売日と担当イラストレーター様が発表されました。


発売日は2月17日。


イラストを担当してくださるのは「ひづきみや」さんです。


twitterでも呟いてるのでよろしくお願いします。


 窓の外から見える、今にも振り出しそうな雨雲を見ながら、クラス委員長という生き物はかわいそうだと俺は思った。

 何しろ、言ってしまえば中間管理職のようなものだ。

 先生と生徒の板挟みになりながらもクラスをまとめ上げていかねばならない。


 だから、俺は委員長という生き物に心底同情してしまう。

 してしまうのだが、


「また喧嘩ですか、黒野海斗」

「うるせぇな。別にカンケーないだろ、委員長さんには」

「関係あります。わたしはこのクラスの委員長ですから。まったく、あなたという人は。喧嘩ばかりしていて恥ずかしくないのですか。そんなことをするより、もっと別のことに時間を割いた方が有意義というものでしょうに」

「俺だって好きで喧嘩してるわけじゃねーよ。向こうからふっかけてくるんだから仕方がないだろ。黙って殴られろってか」

「流石にそこまでは言いませんけど。逃げるなりなんなりすればいいじゃないですか」

「そんなかっこ悪いこと出来るかよ」

「かっこいいかっこわるいの問題ではありません。そもそも――――」


 こうしてくどくどと説教をかましてくるところは本当に勘弁してほしいと思う。

 しかも放課後だ。学生が授業という束縛から解放された放課後というタイミングで説教をかましてくるのはやめてくれ。

 しかも台風が近いらしいんだぞ。おかげで風も吹きまくっている。


「あー、あー、分かりました分かりました。ハンセーしましたよ委員長」


 形だけの謝罪をしてさっさと抜け出そうと思ったのだが、そうもいかないようで。


「まだ話は終わっていませんよ!」

「俺はもう終わったんだよ」


 無理やり席を立ち、俺は教室から出ていくことにした。

 わざわざ大人しく聞いてやる義理はない。


「つーか、今日は夕方から雨が降るっていうし、さっさと帰っておきたいんだよ」

「それまでに終わりますから」

「嘘つけ」


 俺は半ば強引に廊下を歩き、学校の外へと出たのだった。


 ☆


 渚美羽。


 それが俺のクラス……二年八組のクラス委員長の名前だ。


 黒い髪。

 クールな表情にツリ目。

 はっきり言って美少女だ。それは認めよう。


 だが、俺にとっては小うるさい女子生徒でしかない。


 思い返せば、あれは四月のこと。

 地域の不良共をボコボコにしてしまったおかげで不本意ながらも悪名を広げつつも、進級した俺を待っていたのは小うるさいクラス委員長だった。


 俺が喧嘩した翌日にはどこから情報を掴んできたのかさっきのように説教を行ってくる。

 そんな生活がもう二ヶ月だ。

 うんざりする。


 放課後に説教までされるとかたまったものじゃない。


「…………」

「…………」

「……おい」

「なんですか」

「ついてくんな」

「まだお話は終わっていませんから」

「終わった終わった。超終わった」

「いえ終わっていません」


 融通きかねぇなオイ。

 とはいえ、渚美羽に俺を無理やり引っ張っていく力はない。

 このまま歩いていけば帰ることが出来るだろう。


「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

「………………………………」

「………………………………」


 というか、


「いつまでついてくるの!?」

「話を聞いてくれるまでです」


 気がつけばもう俺の家の近くにまで来ているというのに、渚美羽はお構いなしだ。


「あー、もう……」


 バカだ。思っていた以上にバカだ、こいつは。

 いや、二ヶ月もつきまとってくるのだからバカなのか。


「ようやく聞いてくれる気になったんですね。分かりました。ではさっそく続きを……」

「待て待て待て! こんな道のど真ん中でする気かお前は!」

「いけませんか?」

「そりゃあね!」


 道のど真ん中でクラスメイトから説教されてる俺とか何の罰ゲームだ。


「ああ、くそっ。仕方がない、この際だからどっかの店に……」

「わざわざお店に入るのは勿体ないですよ」

「それお前が言う!?」

「あなたが素直にわたしの話を聞いてくれればこんなことにならなかったのに」

「ぐっ……それはそうだけど……って知るかそんなもん!」


 危ない。あやうく騙されるところだった。


「ちくしょう。この辺りで金もかからない場所っていったらもう俺の家ぐらいしか……」

「いいですよ、それで」

「は?」

「早く案内してください」

「はぁ!?」


 ☆


 何だかんだと言いながら、ずるずると住んでいるマンションの中に入れ、部屋に案内してしまった……。

 断ろうと思ったのだが委員長の有無を言わさぬ迫力に圧倒されてしまった。


「意外と片付いていますね」

「ほっとけ」


 片付けててよかった……。


「では、座ってください」

「お、おう」


 ここまで来てしまったからには大人しく説教をくらって帰ってもらおう。

 というか、どうして説教一つのためにここまで苦労しているのか。


「いいですか、いくら喧嘩をふっかけられたとはいっても――――」


 お説教スタート。


 ☆


「以上です。理解してくれましたか」

「お、おう。ハンセーしました、委員長」

「よろしい」


 やっと終わった。

 もう途中から時間の感覚がなくなってきた。

 校長先生のお話が優しく思えるほどだ。


「って外真っ暗じゃねぇか!」


 時計を見てみれば既に八時を回っていた。

 どれだけ長い時間説教してたんだよ。


「大丈夫です。遅くなると連絡はしていますから」

「そこは素直に帰っとけよ!」

「今から帰りますよ」

「ああ、そうしろそうしろ」


 追い出すように扉からぺいっと渚美羽を出すと、外は土砂降りの雨に覆われていた。


「………………雨ですね」

「………………雨だな」

「お前、傘は」

「持ってきてません。元々、すぐに帰る予定でしたので」

「じゃあ何で説教に時間かけるかね……」

「あなたがお説教させるようなことをしているからでしょう」

「俺のせいなのかよ!?」


 なかなかに理不尽だと思う。


「まあ、いい。じゃあ俺の傘を貸してやる」

「ありがとうございます」


 素直に傘を受け取ると、渚美羽はてくてくと雨の中を歩いて行った。

 が、直後に凄まじい風が吹き荒れ、暗闇の中でぼきっという何かがへし折れた音がして。


「折れました」

「マジかお前!」


 全身ずぶ濡れになって帰ってきた渚美羽の持っていた傘は、それはもう完膚なきまでに折れていた。

 まあ、そりゃコンビニで買ったような安物の傘だから仕方がないけれど。


「折っておいてなんですが、他に傘は」

「ない」

「困りました」


 そりゃこっちのセリフだよ。


「仕方がありません。申し訳ないのですが、今日のところはここで泊まらせてもらってもいいでしょうか」

「はぁ!?」


 何を言ってるんだこの堅物委員長は。


「お前、もしかしてバカなのか?」

「わたしだって本当は嫌ですけど、本当なら愛する妹のベッドにもぐりこみたいところではありますけれども」

「変態か」


 もしかしなくても渚美羽ってバカなのでは?


「ったく……ああ、もう。分かったよ。今日のところは泊まってけ」


 このままここに放置しておくのも躊躇われる。何しろ今、渚美羽は台風の中に突っ込んだだけあって全身が雨で濡れている。こいつがバカだからとはいえ、わざわざ俺に説教したせいで(誰も頼んでないけど)風邪をひいてしまっては俺も気分が悪い。


「とりあえず上がれ。そんで風呂入れ、風呂。体温めろ」

「ありがとうございます」


 律儀にぺこりと頭を下げる渚美羽。

 こういうところはきっちりしているというか……。


「では再びお邪魔します」


 靴も揃えて家に上がった渚美羽を、俺はとりあえず風呂場に放り込む。


「悪いけど、着替えは俺の服で我慢してくれ」

「わかりました。ありがたいです」


 俺に対して返事をしつつ、服を脱いでいるのかドア越しから衣擦れの音が聞こえてくる。

 その音に胸の中がどきん、と跳ねる。

 忘れかけていたが渚美羽も女子だ。委員長は委員長としか思っていなかったのだが……もしかして俺は今、とんでもないことをしているのではないか。


 委員長とはいえ美少女を家に泊めるなんて。


「ええい、気にするな。気にしたら負けだ、負け」


 頭をぶんぶんと左右に振り、廊下から離れて着替えを引っ張り出し、再び廊下へ。

 一応ノックしてから風呂場へと入る。どうやら渚美羽はシャワーを浴びているようだ。


「着替え、置いておくぞ」

「ありがとうございます」


 ほのかにただよう女の子特有の良い香りに頭が一瞬くらっとしたが、抑えて適当な場所に着替えを置いておく。


「げっ」


 思わずうめき声を漏らしたのは、女子の制服と……下着という名の危険物が視界に入ってきたからだ。

 渚美羽のもので間違いないそれに思わず反射的に首を危険物とは反対の方向へと曲げる。ぐきっという嫌な音がしたけど気にしない。


「どうかしましたか?」

「な、なんでもないっ!」


 見るな見るなと自分に言い聞かせ、ささっとリビングまで駆け抜ける。

 ソファーに倒れ込むと、どっと疲れが押し寄せてきた。


「つ、疲れた……」


 どうして自分の家でここまで疲れなければならないのか、なかなかに謎だ。


 ☆


 しばらくして、渚美羽が風呂からあがってきた。


 お礼を言い、これまた律儀に頭を下げる渚美羽。着替えは俺の着ているシャツとジャージのズボンを使っているだけあってぶかぶかだ。


「着替え、ありがとうございます」

「あー、いいよ別に。姉ちゃんのだし」

「それでもです」


 ぺこりと頭を下げようとする渚美羽だが、その拍子にぶかぶかのシャツの胸元が見えそうになって――――


「おいバカやめろやめろ! 頭下げんな!」

「? どうしてですか。わたしはただ、お礼を……」

「だっ、だから、そのっ……み、見えそうっていうか……! 俺に言わせんなよ!」

「あっ」


 流石にそこまで言われると分かったらしい。

 頬をほのかに赤く染め、きゅっと胸元を隠した。


「それは……すみませんでした」

「わ、分かればいいんだよ」

「男の人の服を着たのは初めてでしたので、そこまで考えが至りませんでした」


 それにしても、と。

 渚美羽はきょろきょろと自分の着ている服を眺めると、


「大きいですね。あなたの服」

「そりゃな。体格も違うし」

「体格……そうですね。でも、それだけじゃなくて…………どこか、頼もしい感じがします」

「な、なんだよそれ」

「分かりません」


 それだけの言葉を交わすと、がたがたと台風の音が響くだけの室内になった。

 特に話すこともなく、沈黙が流れる。

 気まずい。


 更に気まずいことに、同じシャンプーを使っているはずなのになぜか渚美羽からはとても良い香りがする。

 緊張して、ドキドキして。


 嫌でも隣にいる委員長が、女の子だということを意識させられる。


「台風、いつになったら過ぎるんでしょうか」

「さあな。明日になったら終わってるだろ」


 沈黙と共に時が過ぎていく。

 しかしそれは、俺の体感ではゆっくりと、亀の歩みのような速度で。


 台風よりも今の緊張する状況が一刻も早く終わってくれることを願った。




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