第111話 熱
ネット小説大賞の二次選考通過しました!
それと、更新が毎回毎回遅くなってしまい申し訳ないです。
なんとか今年こそは完結出来るように、ちびちびと、遅くなりつつも頑張ります……!
言うだけのことを言って、南帆はさっさと帰ってしまった。返事はいつでもいいという言葉を残して。
顔を赤くてぱたぱたと去ってしまったことを考えると、どうやら恥ずかしくなって逃げたらしい。残された俺の身にもなれというものだ。
最近、通り魔的に告白されている気がする。うん。
いや、それはともかくとして俺が今しなくちゃいけないことは……ちゃんと、気持ちに向き合うことなわけで。
自分の気持ちはハッキリしている。
みんなのことが好きなんだ。それはもうさんざん考えた。でも、これからのことは……どうすればいいのか分からない。
タイムリミットを設けて返事を先延ばしにさせていただいている身なのだからしっかりと考えなきゃいけないというのは分かってるんだけど……もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。みんなの気持ちを受け止めて、もうキャパオーバーだ。
寝る時もずっと考えていた。
色んな子から告白されて。嬉しいというのが正直な気持ちだ。
そこに嘘はない。
でも、思うのだ。
仮に誰か一人と付き合うとして……俺はその子を幸せに出来るのだろうか。
「いや、そもそも一人に選ぶっていうのがなぁ……」
誰か一人を選ぶということは、他の子の思いを断るということ。それが心苦しい。何より、今まで通りみんなで……ということは出来なくなる。
俺にとって大切な居場所を……ああ、くそっ。何度同じことを考えればいいんだ。
結局、俺は朝になるまでずっと考え事をしていて――――、
☆
「…………しんどいと思ったら……熱か」
三十八度を表示している体温計を放り投げ、俺はベッドの中で横になる。
頭が本当にオーバーヒートしてしまったらしい。
「あー、畜生。なっさけねぇ」
よくよく考えてみればなんとバカみたいな状態になってるんだ。告白の返事に悩んで熱を出したなんて。
でもまあ、いい機会だ。今日はゆっくり休もう……。
俺は目を閉じて布団の中でじっと寝ていることにした。
時計の針がいくらか時を刻んだ頃……部屋のインターホンが鳴った。
覚えがあるパターンだ。俺はふらつく体をおして、ドアを開けた。
「あ、あのぅ……」
「こんどは美紗か……」
「ご、ごめんね。あの、海斗くんが今日学校に来なかったから、心配で」
「ああ、いや。ここ最近ちょっと同じパターンが続いていたから……ちょっと熱出しちゃってさ」
「そ、そうだったんだ。そうだよね、海斗くんって学校サボるような人じゃないもんね」
そう言われると俺が真面目ちゃんみたいだ。いや、あくまでも不良っぽくしているのは武装なんだけども。
「う…………」
体のバランスが崩れてフラついてしまった。崩れたところを、美紗が受け止めてくれる。
柔らかい感触に熱が更に高くなりそうになるがぐっと堪える。
「わ、悪い」
「う、ううんっ。えっと、その、は、運ぶねっ」
美紗に助けられて、何とかベッドまでたどり着いた。
「ご、ごめん……なんか、手伝ってもらって」
「体調が悪いんだから仕方がないよ。何か作るね」
そこからはあっという間だった。おかゆをちゃちゃっと作って、冷却シートを額に貼ってくれた。
「悪い……」
「だいじょうぶ。それより、今日はゆっくり休んでね」
美紗はにっこりと微笑みを浮かべてトテトテと台所に戻っていく。
そういえば、最初会った時はもっとびくびくしていて、自分にも自信が無いような感じだったなぁ。みうの背中に隠れていて。
懐かしさがこみ上げてくると同時に、色々と変わってしまったことも感じ取る。
あれから色んなものが変わった。変わってないものもあるけれど……。
「あ、あの、ね。海斗くん」
気がつけば、ベッドのそばに美紗がいた。
ぼーっとしていたから気がつかなかった。
「こういう時に言うことじゃないと思うんだけど……でも、わたしは、弱虫だから……もう、いましかないと思うから」
美紗は、じっと俺の方を見て。
俺も、美紗の目を見ていて。
「わたし、わたし……海斗くんのことが好きです。高校に入る前の、春休みの頃から……わたしは、あなたのことが好きでした」
「…………そんなに前から?」
「う、うん。でもわたし、ぜんぜん勇気でなくて……色々あって、海斗くんやみんなと今の部に入って……楽しかった。とっても。居心地がよかったの」
俺と同じだ。
でも美紗に宿った目の光は、俺にはない物だ。
「でも、このままじゃだめだって思ったの。メイちゃんのおかげ。だから……だから、わたしの想いを伝えました」
今の俺には、美紗の姿がとても眩しい。
俺にはない、覚悟を持っているから。
「あはは。熱で弱ってる時に告白したから、説得力ないよね」
「そんなことないよ。そんなことない。少なくとも俺なんかより、ずっと強いよ。美紗は」
正直な気持ちを告げると、美紗は熱でも出ているんじゃないかっていうぐらいに顔を真っ赤にした。
「あ、あの。ここ、お水置いておくから……も、もう帰るねっ」
「お、おう!」
美紗は水の入ったコップを近くのテーブルに置くと、そのまま飛び出していってしまった。
やっぱりこういう告白の後は恥ずかしいよなぁとか思ってしまっている辺り、俺も慣れちゃったんだなぁという感想を抱きつつ。
俺にはない、たとえ大切な居場所が無くなるかもしれないとしても前に進もうとしている勇気を持った少女の告白を、しっかりと受け止めた。