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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第9章 修学旅行とこれからのこと
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第106話 問いかけ

更新遅くなって申し訳ありません。



 メイの言葉に、その場にいた全員が凍りついた。

 まるで今まで積み上げてきた何かを無理やり叩き割られたかのような衝撃だった。


「まだ、返事はもらっていないけどね」


 にっこりとほほ笑むメイに、わたしたちは全員が固まっていて。

 でもそのフリーズからわたしの次に回復したのは――つまり、元から告白したことを知っていたわたしを除いて最初に回復したのは――南帆だった。


「……そう」


 ポツリと漏れたその一言で、みんなが次々とフリーズから回復していく。


「そ、そうなんだっ」


 さしもの恵もフリーズから解放されるのは少しばかりの時間がかかったようだった。

 その気持ちは分かる。

 わたしもあの告白を聞いてしまった時、自分の事を最低だと思うよりも先に、ショックを受けていた。そしてそのショックは、この場にいたメイ以外の人が全員受けているはずのもので。


 海斗くんが誰かのものになってしまうかもしれない。


 そう、考えてしまった。

 一瞬でも。

 考えて、しまったのだ。

 そしてわたしはそれが「嫌だ」と思った。それに関しては迷いがなかった。海斗くんが誰かひとりのものになるのが嫌だった。それだったらわたしが海斗くんの隣にいたいと思った。そしてわたしは、自分がどれだけ醜いかをその時にはじめて思い知った。

 どうして自分の中にこんな感情が無いと思っていられたのか。いや、知っていたんだ。わたしにもそんな感情があるって。でも、認めたくは無かったし、みんなと一緒にいる日々がとても大切で、楽しくて。だから、それを壊したくなかった。

 でもどれだけ取り繕うとも所詮はこんなものだ。

 綺麗ごとを並べたところでわたしは……海斗くんと一緒にいたいと。あの人の一番でありたいと願っていた。

 メイのその『告白』という行動はそれと対面させられることになった。

 自分の中にあった、押し込めてあった感情と無理やり向き合うことになった。


「いいの?」


 何を言おう、どういった反応をしたらいいのだろう。

 そんなことを考えているうちに、メイが次の言葉を発した。


「あなたたちはこれでいいの?」


 その言葉は、わたしたちの心に痛烈に刺さった。ぐさり、と。何か刃物で心を刺されたかのような。そんな痛みが走る。

 いいわけない。

 咄嗟に心の中に浮かんだその言葉。

 まだ返事がどうなるかも分からないのに、自分の中の醜い感情が浮かび上がり、そんな自分がわたしはいま、とても嫌いだった。

 また長い長い沈黙がわたしたちを包み込む。そんな空気すら許さないというかのように、メイが次の言葉で切り込んでくる。


「わたし、今のみんなとの関係はとても好きよ。友達なんてはじめてだったから。でも、今の状況は……みんなが自分の心を押し込めて、貫き通せないような今の状況が幸せなんて思えない。わたしには、現実逃避しているようにしか見えないわ」


 そう。今のわたしたちの関係は現実逃避だ。

 きっと将来、海斗くんは誰かと恋人…………に、なる。それがこの中にいる誰かなのか、はたまたまだ見ぬ誰かなのか。それはわからないけれど、もしも海斗くんが誰か一人とそういう関係になったら、きっと今のわたしたちの関係は、友達という関係は終わってしまう。

 だって、わたしは、わたしたちは彼のことが大好きだから。

 だからきっと、自分以外の人と恋人になる海斗くんの姿は、見ているだけで辛くなる。

 時間が解決してくれることもあるかもしれない。

 でも時間が解決してくれるまでにわたしたちは今の居場所に留まり続けられるかと言われれば……それも、わからない。平気かもしれないし、辛くて子の居場所に居続けられないかもしれない。おそらく後者の方が可能性が高い。

 だってこの想いは、そう簡単に吹っ切れるものじゃないから。


「今の関係は居心地はいいかもしれない。それでも、わたしは前に進みたい」


 わたしには今のメイがとても眩しく見えた。そして彼女の言葉は同時に今の状況が歪な物であることをハッキリと指摘していた。

 ハーレムだなんて呼べば聞こえはいいかもしれないけれど、ようは一人の男の子を複数の女の子が取り合っているような状態で。それはきっと、傍から見ればおかしいもので。とても、歪なもので。そして、ふとしたことがきっかけで壊れてしまうような、儚くて脆いものだ。


「何も言わずに後悔するより、仮にダメだったとしても、気持ちを伝えて後悔したいから」


 メイが今回行動を起こしたのはきっとそこに理由があるのだろう。

 今の歪な関係を続けていても、このわたしたちの関係はいつかきっと壊れる。その時、自分の想いを伝えられないまま終わってしまうのが彼女は嫌なのだろう。わたしだってそうだ。海斗くんに何も伝えずに終わってしまうなんて、嫌だ。

 それはきっと、この場にいる誰もが思っているはずだ。

 だからこそ、わたしたちは考えるんだ。

 考え、悩み、迷い、そして決断を下す。今の状態を、居心地の良い関係を壊すという決断を下す。

 そうしなければ前に勧めないし、きっと後悔することになる。

 メイはそのことをわたしたちに伝えたかったのだと思う。



 まだ整理はつかない。


 混乱もしてる。


 でもわたしたちは……少しずつ、少しずつ前に踏み出すための勇気を出そうとしていることは確かだった。


 決断を下す勇気を。


 後悔しないための決断を下す勇気を。






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