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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第9章 修学旅行とこれからのこと
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第103話 正人の態度

 その後、なんやかんやあり(主に加奈のお説教)自由行動がはじまった。

 俺は体力がかなり削られていた。なのにメイはというと、心なしかお肌がつやつやしている気がする。まあ、あいつは別のクラスだからすぐにどっか行ったけど。

 自由行動開始地点までは教師に引率されて向かうが、その場所につとすぐに自由行動がはじまる。

 そこからは電車に乗ってどこにいこうがいいらしいのだが、まあ俺たちの班はアニメグッズの専門店だのに行ったり聖地巡礼したりなりとやりたい放題だった。

 はぁ……ていうか、恵にしろメイにしろさっきから何なんだあいつら。そんなにも俺の心臓を止めたいのだろうか。今日は心臓が大忙しだよ本当に。

 それはそうと……。


「正人」

「ん? どした」

「いや、なんか悪いな。いくら自由行動とはいえ班行動には違いないだろ? 俺らの趣味のところばかりでさ」

「いやいや。俺はこんな美少女ちゃんたちと一緒に行動出来ているだけでそりゃもう幸せよ。はぁ~……ホント、みんなかわいいよなぁ……」

「葉山も悪いな」

「ううん。僕は海斗くんと正人くんと一緒に行動出来るだけで大満足だよ」


 うーん。でも本当になんか悪いよなぁ。こいつらにはいつもいつも迷惑かけっぱなしで。

 そうやって唸っていると、正人が何気ないような表情をしながらさもついでのように、


「つーか、お前は今そんなこと気にしている場合じゃないだろ」

「? 気にしている場合じゃないって……どういう意味だ?」

「ほら……お前、なんかここ最近おかしいだろ。いや、いつも頭がおかしいのは分かってるんだけど最近は特にというか」

「お前ケンカうってんのか」


 俺の頭は至って正常だ。だって幼女大好きだもんね!


「だからそうじゃなくてさぁ……」


 正人がチラッと加奈たちの方に視線を向ける。加奈たちは俺たちから少し離れたところで楽しそうにパシャパシャとあたりの写真を撮っている。現在いる場所にある橋は加奈たちの好きなアニメのモデルになったところなのだそうだ。


「例えばさ……ほら、あれ。最近、なんか加奈さんたちを見て何か思うところはないか?」

「思うところって……」


 正人のその言葉にドキッとする。加奈たちを見ていていると、加奈たちのことを思うと……ドキドキするのだ。さっきの恵にしろメイのにしろ。あんなに近づかれても密着されても今まで何も思わなかったのに。ここ最近はどうしてかドキドキする。緊張する。顔が熱くなる。


「……別に、何もないけど」

「本当にか? でも俺が見た感じじゃあ、ここ最近のお前は絶対にどこかおかしいね。たとえばうらやまけしからんことに加奈さんたちから腕に抱きつかれても、ちょっと前までのお前は死んだ魚のような眼をしてた」


 そこまで言うか……。そりゃ真顔にはなってたけど。


「けどところがどうだ。最近のお前は腕に抱きつかれると顔を赤くしてそっぽを向いたり慌てて離そうとしたり……端的に言えば照れてる」

「照れてねーよ!?」


 と、言ってみるが正人は呆れたようにため息をつくばかり。


「なぁ、お前だってもう分かってるんだろ?」

「何が……いや、分からないって。分かってないんだって」

「…………そうか」


 正人のその声はどこか冷ややかだった。責められているような。そんな感じがする。

 声のトーンがいつもとは違う。責められているような、というより完全に責められている。冷ややかなその声が、明らかに怒っているということが分かる。

 その後、俺は正人のその謎の態度が分からずに戸惑いながらも自由行動を過ごした。

 自由行動が終わるとクラスでの行動が始まり、それが終わるとまた旅館に戻ってくる。結局、正人はどこか冷たい態度のままだった。


「なぁ、葉山……正人、なんで怒ってるんだろ」

「んー。まあ、正人くんなりに海斗くんのことをよく考えてるんじゃないのかな」

「そうなのか? いや、そうだな……」


 何だかんだ正人はいつも俺のことをよく気にかけてくれるし、何かと協力してもらっている。

 どちらかというとお世話になりっぱなしだ。


「あと、正人くんは海斗くんのことをよく考えてあげているけど、同時に海斗くんの周りにいる子たちのこともほっとけないんじゃないのかな」

「周りにいる子たちって……加奈たちのことか?」

「そこはあんまり強く言えないけど……でも、正直言って正人くんの気持ちもわかるかな。だって僕ですら、海斗くんたちのことを見ててちょっと悲しくなるもん」


 俺は葉山の言葉に衝撃を受けた。正人や葉山たちから見て、加奈たちは悲しく見えるような状態になっているのか?


「それってどういう……」

「それこそ僕からは言えないよ。僕はそれを言う役には相応しくないと思うし」


 葉山はそれだけを言い残すとスタスタと歩いて行ってしまった。葉山のその言葉も、どこか俺のことをつき放しているような気もする。俺はしばらくその場に立ち呆けていて、気を取り直すと部屋へと戻る。部屋に戻っても正人も葉山もいなくなっていて、夕食までの自由時間の間どこかに行っているようだった。

 俺はポツンと一人残された部屋で寝転ぶ。天井を見ていると今日一日の正人の冷たい態度や葉山の言葉が頭にどうしても引っかかる。

 正人と葉山の二人は俺に何を伝えたかったんだろう。

 それが加奈たちのことに関わっているという事も分かる。

 だけど……加奈たちのことを見ていて悲しいって、どういうことだ?

 俺は首をひねりながら気分転換を兼ねて部屋の外に出ることにした。が、部屋を出たところで加奈たちと出くわした。


「あ、海斗くん」

「加奈? ていうかみんなも……どうしたんだよ」

「……これから部屋に遊びに行こうとしてた」

「まあ、せっかくの修学旅行ですからね。あなたたちと一緒にトランプでもと」

「ふふっ。お姉ちゃん、みんなでトランプするの楽しみにしていたもんね」

「み、美紗っ」

「あら。私も楽しみよ? こんなにも大勢で一緒に遊ぶことなんてしたことないもの」


 わいわいと賑やかにする加奈たちをじっと見る。

 ……悲しそうにしている様子はない。どちらかというと楽しそうだ。


「ん? どしたのかいくん」

「え、あ、いや……なんでもない」

「? ヘンなの」

「そういえば……正人くんたちと葉山さんたちはどうしたんですか?」


 加奈に言われて、俺は思わず黙ってしまった。正人とは理由も分からず冷たくされて、怒ったままどこかに行ってしまった。葉山はどこかに行ってしまったし。


「さあ。来たらもう部屋にいなかった」

「そうですか。それなら、戻ってくるまで海斗くんたちの部屋で遊びましょう」

「……賛成」


 そのまま成り行きで俺たち男子部屋でトランプ大会が始まってしまった。俺は正人と葉山の事を気にしながらも、今のこの心地良い空間に身を任せることにした。くよくよ考えていても仕方がない。いずれ部屋に戻ってくるだろう。荷物も置いてあるし。


「……………………」


 ふと気がつくと、メイが部屋の外に視線を移してじっと黙っているのが見えた。


「メイ? どうしたんだ?」

「ごめんなさい。わたしはちょっと自分の部屋に戻るわ。忘れ物をしてしまったから」

「そうか。わかった」

「ええ。ごめんなさいね」


 そう言って、メイはふらっと部屋の外へと出て行った。


 ☆


 メイは海斗たちのいる男子部屋から出ていくと、旅館の外に出る。そして迷いのない足取りで庭の中に入ると、そこに目的の人物がいた。

 篠原正人である。


「見つけた」


 メイが声をかけると、正人はメイの方を振り向いた。


「おっ、占米野さんじゃん。どしたのこんなところで。海斗たちと一緒にいなくていいのか?」

「本当はみんなと一緒にトランプ大会としゃれ込みたかったけれど、あなたとお話がしたくて」


 正人はメイの全てを見透かしたような眼をじっと見ると黙り込んだ。


「……お話、ねぇ。こんなちゃらんぽらんな生徒会役員様に、美しいお嬢様がいったい何のご用なんだか」

「単刀直入に言うわ。あなたがあの人に伝えようとしていることは、ちゃんとした言葉にしないと伝わらないわよ」


 メイの言葉を、正人はじっと黙って聞いた。


「全てお見通しってわけか。おかしいな。あの場に占米野さんはいなかったはずだけど」

「ごめんなさい。私、たいていの事はその気になれば解っちゃうのよ」


 しれっというその言葉に嘘を言っている気配はない。正人はくくっと楽しそうに笑った。


「そんなことが出来ちゃうんじゃ、俺みたいな情報屋はいらないな」

「そうでもないわ。私はあなたみたいに人に情報を売るようなことは、もうあんまりしたくないもの。それよりも、本題に入らない?」


 まいった。正人の目の前にいる少女はのらりくらりとかわさせてくれそうにない。


「……まあ、ちゃんとした言葉にしなきゃ伝わらないってことは分かってるんだよ。でも、これを言ったとしても実際にその問題に立ち向かうことになるのは海斗アイツだ。場合によってはあいつは苦しむことになる」

「でも、見ていてイライラするんでしょう?」

「それが問題だ。どっちかっていうと、加奈さんたちがかわいそうだとも思っている」

「そうね。私も、傍から見たらそういうように見えると思うわ。だって、結局私たちのやっていることはただの馴れ合いだもの」


 それはメイにも分かっている。そして加奈たちも、そのことを分かっている。


「私たちはみんなあの人のことが好き。理由はそれぞれであったとしても、あの人が好きという気持ちは一緒。でも、あの人は一人しかいないし、私たちは今の私たちの関係が心地良い。出来るだけ崩したくない。出来ることなら今のぬるま湯にずっと浸かっていたい。端的に言って、今の状態を壊すのが怖いのよ」


 誰かが動けばそれが決定的な引き金となる。


「それが分かっているからこそ、決定的な『言葉』は言えない」


 正人の言うとおり、これまで海斗に対して様々なアプローチをしても、「あなたのことが異性として好き」だとか「愛している」だとか。そういった、決定的な『言葉』は誰も口にはしなかった。


「私はあの輪の中に入ったのは一番遅い。それでも、今の状態が心地良いと思える。思えてしまう。みんなあの人の事が好きなのに、今のぬるま湯につかって自分の気持ちを無意識のうちに押し殺してしまっている状態は、傍から見たらさぞ滑稽でしょうね」

「滑稽っていうか……悲しいよ。好きな人に好きって気持ちを伝えられないなんて。そんなの、辛いに決まっている」

「だからあの人に……海斗くんに自分の気持ちを気づかせようとしたの?」

「あいつがこれまでのままなら何も干渉はしないと思っていたんだけどな。でも、あいつはもう変わりはじめている。っつーか、もう変わってる。自分に対して好意を持っている女の子に対して普通にドキドキしたり、意識したり……恋愛感情を抱いてる。そういう状況になったんだ。なってしまったんだ。でもあいつは自分の気持ちを自分で蓋をして、違うって思い込んで。気のせいだって思い込んでる。海斗にしても加奈さんたちにしても、どっちも自分たちの気持ちを押し殺して何も言わないで。気付かないフリをして。そんなの悲しいだろ?」


 海斗が正人の言う『自分に対して好意を持っている女の子に対して普通にドキドキしたり、意識したり』という状態になっていることはさきほど、倉庫で確かめたことだ。


「…………そうね。そうかもしれないわね」

 

 メイはふと空を見上げる。もうかなり外は暗くなっている。


「ていうか、あの人って基本的に……」

「ああ。あいつは基本的に……」


 正人とメイは二人して、


『ヘタレ(なのよね)なんだよな』


 と、言った。


「あいつはさ、きっともう無意識とはいえ気づいてると思うんだ。周りの子たちの気持ちに。でもそれから逃げてる。それと向き合う事から逃げてる。違うって思い込んで。気のせいだって決めつけて。逃げ続けてるんだ」

「私たちは今の関係を壊すのが怖い。だからこそ決定的なことは何も言えなかった。でもそれは、あの人にとっても同じことだったってわけよね」


 だからみんな、自分の心に蓋をする。


「…………俺はさ。あいつのこと友達だって思ってる。なんつーか、見ていて楽しいんだよな。俺は、加奈さんたちと一緒にて、楽しく笑っているアイツの顔が好きなんだよ。だから今の状況はなんつーか……嫌だし。それに、無理やり自分と加奈さんたちの気持ちから逃げてるアイツにイライラしてるっつーのもある。あー、もう。色々と御託を並べたけどやっぱあれだ」


 正人はすぅっと息を大きく吸って、その言葉を吐き出した。




「あんな美少女たちに好かれまくって羨ましいんだよこのやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! さっさと向き合えや! 見ていてイライラするんだよこのヘタレ――――――――!」




 大声を出すだけ出して満足したのか、正人は心なしかスッキリした表情になっていた。


「うし! 決めた! 俺はもうさっさと海斗に自分の気持ちを気づかせるぞ! このまんまじゃ高校卒業するまでずっと自分の気持ちにケリつけられないままウダウダしてそうだからなアイツ!」


 それで、占米野さんはどうする? という言葉にメイは、


「そうねぇ。ほら、私ってあのハーレムに加わったのが最後の方じゃない? だから、新人な分、あの状況を崩しやすいと思うし、こういうのはあのハーレムに入って日が浅い私にしか出来ないと思うの。だから、」


 ニコッ、とメイは思わず見とれてしまうような笑みを見せて。


「私も、自分の気持ちを伝えてくるわ。そして私もみんなと向き合う。あの人と向き合ってみる」


 現状を破壊する、決意を覚悟をした。




最初は修学旅行ではデート編みたいなのを書こうと思ったんですけど、それはもう文化祭編でやりましたし下手するとモチベーションがアレになりそうなので予定変更。

物語を大きく動かすなら修学旅行という場所しかねぇ! ということで、この辺りで物語が大きく動く予感です。



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