第100話 海斗、考える
更新が遅れて申し訳ありませんでした。
ついに本編100話到達!
僕ってばクリスマスに何書いてるんでしょうね……。死にたい。
暴君加奈女王様から命令を受けたただの平民である俺はなぜか女王様とポッキーゲームをすることになってしまった。しかも用意周到な加奈様はわざわざポッキーを持ってきていた。
ぱくっと加奈はポッキーの先端をくわえる。思わずその唇に視線が向いてしまいそうになるのをぐっとこらえる。
「ん……」
目を閉じてくわえたポッキーをついっと差し出してくる加奈に少しドキッとしてしまう。とはいえ、女王様の命令には従わなければならない。俺はしぶしぶともう片方の先をくわえる。
『………………』
なぜか周囲の女子たちの視線がこわい。いや、そりゃこういうことをみんなの目の前でやっているこうなることは分かっていたけど。
とりあえずゲームということでぱくぱくとポッキーを食べ進めていく。どんどん加奈との距離が近くなっていき、ポッキーも短くなっていく。
……あれ。これやばいんじゃないですかね。あれ? あれ?
ていうか止まらないんだけど。これ、折っちゃってもいいのか?
こういうゲームをやったのははじめてだからわからん!
どんどん加奈との距離が近くなってきて、加奈の柔らかそうな唇に俺の唇があわや衝突しそうになったという段階で――――ポキッ。と棒が折れた。
あ、危なかった……。
「んぅ……ちょっと残念です」
人の気もしらないで加奈はなぜか残念そうにもぐもぐとポッキーを食べていた。こいつ、ぜんぜん反省していない。
『………………(ほっ)』
周りの女子たちはどこかほっとした様子だ。俺もほっとしている。こんな形で……その、加奈にき、キスさせるのもかわいそうだし。ていうか不用意にこういうことを男としないようにあとで加奈に注意しておかないと。
その後もゲームは続き、なんやかんやで俺は一度も王様にはなれず、逆に周囲のやつらは最低一回ずつ王様になった。恵にはお姫様だっこをご所望されたし、美羽にはデザートをあーんで食べさせたり、美紗には一緒のベッドに入って寝るとかやらされた。
これが終わることには俺もフラフラになっていて夕方になっていた。幸いにも夕食はみんなが作ってくれたので俺としては楽だったが……どうしてこいつらはこんなにも意味の分からないことをしていくのか、俺にはまったく分からなかった。
「ていうか、そもそもどうして修学旅行前にお泊り会?」
疑問に思わず首をひねる。まあ、これはメイの歓迎会も兼ねているらしいのだが……しかしわざわざお泊りする必要があるのだろうか。俺の家で。ていうかこいつら、どうしてこうも不用心なのか。もし俺が悪いやつだったりしたら、きっと無事では済んでないぞ。
信用されているのだろうか。
でも、仮にそうだとしてどうしてそこまで俺を信用できるんだろう。
友達だと思っているから? いや、いくら友達でも信用され過ぎだ。俺だって一応、男子なのだ。俺がロリコン紳士だったからよかったもののこれが普通の男だったらこんなかわいい女の子たちに囲まれた状況で理性がもつといったらそうじゃないだろう。
そんなことはあいつらも分かっているはず。……分かってるよな?
なのにどうしてこんなにも無防備でいられるんだろう。
「はふー。さっぱりしたー」
「……あったかぽかぽか」
………………恵よ。いくらなんでも、パジャマのボタンが三つも四つも開いていて胸の谷間が見えているんだけど。無防備ってレベルじゃないぞコラ。ていうかかなりキツそうなんですけど……。むぎゅってしてるし。
「ねーねー、かいくんかいくん」
俺がリビングで一人座っていると、恵と南帆がとことことやってきた。俺はリビングに人数分の布団を敷き終わったところで(もちろん俺は自分の部屋で一人で寝ることになっている)やってきたので逃げれない。恵はぽすっと俺から少し離れたところに座る。その際にパジャマにキツそうに押し込められている柔らかそうな胸がたゆんと揺れたのは気にしない。
「ど、どうしたんだよ」
「なんでもなーい。ちょっとかいくんの名前を呼んでみたかったけっ」
ニコニコとした顔でそんなことを言ってくる恵。しかもいきなり四つん這いになってちょこちょこと俺の方に近寄ってきた。だ、だから、胸がっ……! ボタンを閉めろボタンを!
「かいくん、髪に何かついてるよ?」
「ち、ちょっと待て! 自分でとれる!」
「まぁまぁ。そう遠慮しなさんな」
どうやら恵は完全に無自覚らしい。そのままの姿勢で俺に近寄ってきた。間近で見ると、お風呂上がりの恵の髪は濡れていて、ほんのりとシャンプーの香りが漂ってくる。開いた胸元には雫がつつっと垂れており、なんとも艶めかしい。
「ほいっ、とれた! どうやらプラモデルのバリみたいだねー」
「あ、ああ。サンキュー」
思わず赤くなってしまっていた顔を隠す。本当に、無自覚すぎるだろ……。
「……海斗、顔赤い」
「そ、そんなことねーよ!?」
まずい。ロリコン紳士たるもの、BBAの胸に視線がいってしまうことがバレるのはまずい。
ここはなんとかごまかさなければ。
「あれれ~。もしかして、わたしに照れちゃったりとか?」
「んなわけあるか。あー、もういい! 俺は、その、あれだ、ふ、風呂に入るぞ!」
着替えをひっつかんで俺はドスドスとお風呂場に直行した。背後では恵が「ちょっ、まだ……」と何か言っていたような気がするが、これ以上からかわれる前に逃げるに限る。
俺はやや照れくさくなりながらも扉を開ける。
「あっ」
「ほえ?」
「か、海斗くんっ!?」
「あら。大胆ね」
「んにゃっ!?」
加奈、美紗、メイ、美羽がお着換え中だった。そういえば、ここの風呂って割と広かったような気が……ああ、だから今から四人で入ろうとしているのか。納得。だが問題はこいつらが着替え中だったということで。四人とも個人差はあるもののスタイルが良い。特に加奈と美紗なんかブラに収まっている胸がキツそうだ。
端的に言えば、俺は失敗した。
その後、俺は黙ってドアを閉めて、そのあとに八人全員から膝づめで説教された。
☆
就寝時間になるとようやく俺は解放された。男一人この心細さを紛らわそうと、俺の幼女の次の心のオアシスである正人と葉山にメールを送ってみた。返信はすぐに帰ってきた。葉山は「とっても楽しそうだね。がんばれ、海斗くん」と返ってきた。うん。がんばる。ちなみに正人からは、
死ね。爆ぜろリア充。そこかわれバカ。
と返ってきた。
俺は今こんなにも苦しんでいるというのに……。
就寝時間になって電気を消す。きっと今頃、向こうではガールズトークが繰り広げられている頃だろう。ロリコン紳士はクールに寝るぜ。
…………。
……………………。
………………………………。
…………………………………………もぞもぞ。
ふと、何かが動いたような気がした。またメイか誰かがベッドにもぐりこんできたのだろうか。それにしても数が多いような……。不審に思った俺はこっそり目を開けて様子をうかがうことにした。
人の布団に勝手に潜り込んでいたのは、あろうことか美紗と美羽だった。なぜ渚姉妹が。ふと美羽と目が合う。美羽は俺と目が合ったかと思ったら急に顔を真っ赤にしだした。ちなみに美紗も俺に気づかれたとわかったぼんっと顔を真っ赤にする
「こ、これは、ちがいます!」と、美羽。
「おいコラ。何が違うんだなにが」
「え、ええっと……そのぅ……なんとなく?」
美紗が困った末にひねり出した答えはえらくテキトーだった。こちらとしてはふざけんなである。ただでさえ、今日の俺はおかしいのだ。なんかこいつらのすることにいちいちドキドキさせられるし、それにこんな布団の中に潜り込むなんてことをされたら二人分の胸がさっきからむぎゅむぎゅと柔らかい感触がして……なんだか、緊張する。
「わ、わたしたちに気にしてないであなたは寝ていればいいんですっ!」と美羽。
「待て、それはおかしい!」
「お、おかしくないよ?」と美紗。
さっきからドキドキする。女の子二人の柔らかい体が密着しているから? それとも……なんだろう。
なんなんだろうこの気持ち。誰でもいいわけじゃなくて。こう、こいつらだから緊張している、みたいな? いやまて。そもそもこの姉妹はどうしてこんな暴挙に出ているんだ……。
「まって落ち着け! いいか、冷静になって考えろ。オトコのベッドにいきなり潜り込んでくるもんじゃ……」
と、俺が上半身を起こして渚姉妹に言おうとしたその時だった。
「あ、あの、海斗先輩……ね、寝れないので一緒に寝てもいいですか……?」
「わ、わたしもお願いします……って」
ばったり遭遇。
南央と小春の一年生コンビ☆
なんて頭の中でぼけっとしているわけにもいかなくなったみたいで。
一年生コンビの視線は渚姉妹と俺を交互に見ていた。
『先輩。これ、どういうことですか?』
俺はこの時はじめて、一年生の二人が怖いと思った。
☆
あの後もひと悶着あり、俺は最終的にリビングでみんなと寝ることになった。
どうしてこうなった。
南央と小春はのんきにそれぞれ俺の両側で寝ている。すやすやとかわいい寝顔を見せながら。
どうやらリビングで寝ているのは俺だけになったようで、俺は真っ暗な天井を見つめながら考えた。
こいつらはとにかく無防備すぎる。色々と。
どうしてこんなにも無防備でいられるんだろう。
友達とは言っても、俺は男なのに。
俺がロリコンじゃなかったらどうする気だ。
とっくの昔にもっと、こう……おそっていたかもしれない。がおー。
ロリコンじゃなければ危なかった。
「んにゅ……せんぱい……」
もぞもぞと隣の小春が俺の腕に抱きついてくる。小春もスタイルがそこそこおよろしいようで……パジャマ越しの胸の感触がなんともこそばゆい。ていうかこれじゃ寝るに寝れねぇ……。
「せんぱい……せんぱい……しゅき……」
かと思ったら、今度は隣の南央が片方の腕に抱きついてきた。耳元でかわいい声でせんぱいせんぱい言われるとなんていうか、こう、変な気分になる。しゅき? 手記ってことか? いったい何の夢を見ているんだ……。
ていうかおかしい。こいつら絶対におかしい。
いくらなんでも本当に無防備すぎる。
俺がロリコンじゃなかったらほんとうに危なかったぞ。
いや、そもそもどうして俺はこんなにも焦っているんだ?
ロリコン紳士という人類の最終進化系であるはずの俺が、どうしてこんなBBAたちにドキドキしなきゃいけないんだろう。
見た目がかわいいから?
まあ、それもあるかもしれないけど……でも、そんな程度のことでこんなにもドキドキするわけがない。自分の胸に手を当ててみる。
とくん、とくん……。
不思議な鼓動がする。
なんだろうこれ。
頭の中のモヤモヤも、どことなく温かい。
どうしてだろう。なぜか、こいつらのことを考えるとドキドキしてしまう。今日はいろいろとトンデモハプニングが多かったから? 違う。なんというか……これはそういうのじゃ、ない。
ドキドキドキドキドキドキドキドキと頭の中で考えるたびに、確信に近づいていくたびに心臓の鼓動が大きくなっていく。同時に、温かくて、緊張感のようなものが溢れてくる。
これって。
これって。
これって。
これって……そう。
ぞ、俗にいう――――好き、だとか。恋愛感情だとか。
そういう感情なのではなかろうか。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
ちがう。きっとちがう。たぶん。……ほんとうに?
「…………寝るか」
考えても分からない。
俺がいま、考えたことはきっと魔が差しただけだ。深夜テンションだ。今日はいろいろありすぎたからおかしな考えをしてしまっただけだ。
俺はそう自分に言い聞かせて眠りについた。
朝になって修羅場を迎えたのはまた別の話。