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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第9章 修学旅行とこれからのこと
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第99話 王様ゲーム

 二年生は、修学旅行のムードで一色になった。みんな来るべき二年生最大イベントについて楽しそうに話している。かくいう我が二年四組の教室でもそれは変わらなかった。みんな楽しそうに近いうちにやってくる修学旅行について話し込んでいた。俺はそんな楽しげな雰囲気に背を向けて今日は過ごし、部室では円卓に突っ伏していた。


「はぁ……」


 思わずため息が漏れる。


「あれ、どしたのかいくん」


「……ため息なんてついて」


 俺は起き上がり、恵と南帆をチラリとみる。そういえば、こいつらには話したことなかったっけ……俺は他の部員たちからの視線を感じながらも、俺の頭を悩ませる一つの懸念を話した。


「…………近々、俺の家に親が来る」


『ええっ!?!!?』


 なぜかめちゃくちゃ驚かれた。


「いや、そんなに驚く事か?」


「お、驚きますよそんなの!」


「先輩、どうしてもう少し早く言ってくれなかったんですか!?」


「遅いわね。もう少し早く言ってくれれば準備も出来たのに……」


「待て待て待て! なんでお前らそんなに慌てふためいてるんだ!?」


『女の子には準備が色々とあるの!』


 怒られた。理不尽だ。


「ううううう……新しい服とか買った方がいいよね」


「今度の休みに買いにいかないといけないよね……」


「み、みんなで買いに行って、互いにチェックしあった方がいいかもっ」


「……そうする」


 なんだ。なんなんだこいつら。どうして俺の両親が来るのにこんなにも焦ってるんだ。


「ていうか、どうしてあなたはご両親が来るのにそんなため息をついているのですか?」


 美羽の言葉に俺はげんなりとした気持ちで今のこの憂鬱とした気持ちの理由を説明することにした。


「いや、なんというか……うちの両親、未だにラブラブなんだよな……」


「?」


 美羽が分からないとでもいうかのように首を捻る。俺は両親の事を説明するのもちょっとうんざりとしそうになるが、そこは気力を振り絞る。そもそも気力を振り絞らないと説明できない両親も両親であるのだが。


「両親が、息子の目の前でイチャイチャイチャイチャしてるの見せられるんだぜ……たまったもんじゃねぇよ……。例えば、『うーくん、はい、お弁当。お仕事がんばってね』『ああ、行ってくるよ』『今日は遅くなる?』『死ぬ気で片づけてくるよ』『ほんとう? うれしいっ』『そろそろ時間だ』『まってうーくん。いってらっしゃいのちゅー』…………死にてぇ……」


 思い出しただけで死にたくなる。ていうかあれのせいで俺は遅刻しそうになったんだぞ。それにいくら見た目が若々しいからって(母はよく二十代に間違われる)そんなもん目の前で見せられる小学生の気持ちも考えてみろよ。しかもそれが毎朝毎朝……。


「そういえば、あなたの両親は普段何をしているのかしら?」


「母さんは至って普通の主婦だよ。父さんは知らん」


「知らんって……先輩、それでいいんですか」


「いやだってさぁ。父さんにきいても『父さんはなぁ、色んなことをやってるんだぞう』だし、母さんに聞いても『え、お父さんのお仕事? いろんなことをやってるわねぇ。うーくんはね(以下ただの惚気なので略)』だし。ハッキリ言っていまだによく解らない」


 とにかく色んなことをしているらしいし。


「あと、日本だけじゃなくて世界中飛び回ってるみたいだからなぁ。そもそも一週間で家にとどまっている日が一日~三日ぐらいかな」


「海斗くんのお父さん、大変そうだね」


「その間に息子がこんなロリコンに育っていることは、さぞや残念でしょうね」


 渚姉妹は姉妹で反応が反対すぎる。また、俺の親の話題から俺の家に遊びに行くという流れになり、さらにそこから派生して俺の家のお泊り会にへと発展した。そこにメイの歓迎会もやるらしい。


「どうしてこうなった……」


 ていうか俺の家がかなり便利なたまり場になっているような気がする。そうでないことを願いたいのだが。あっという間に休日がやってきて、朝から部員が八人も押しかけてきた。鬼かこいつら。


「前にも入ったけど、やっぱり綺麗ね」


「……『前にも』?」


 メイの何気ない言葉に南帆がジトッとした目で俺のことを見る。なんか俺が招き入れたような感じで言われているけど実際は無断で侵入されてただけだからな?

 午前中の間にがやがやとやってきたBBA共。みんなでお菓子だのを持ち寄ってメイの歓迎会をはじめる。みんなで乾杯とジュースの入った紙コップを掲げあう。


「はいはいはーい! じゃあ、乾杯も済ませたところでさっそくいっちゃおー!」


 やたらとテンションの高い恵。手にはカップに入った割り箸が九つ。


「王様げぇぇぇえええむ! いってみよー!」


 なん……だと……?


「いや待て! いきなりすぎるだろ! なんか、こう……色々と!」


「えぇー? いいじゃんたまにはこういうの」


 俺の周りを見てみると、どいつもこいつも恵の案に驚くどころか真剣な目をしていた。え、ちょっと待って何このガチな空気。どうやら拒否できる空気じゃなさそうだ。俺はため息をついて、了承した。まあ、これでメイやみんなが楽しんでくれるなら別にいいけどさ……。


「と、ゆーわけで、じゃあいっきまーす!」


『王様だーれだ!』


 俺はほのぼのとした空気で、王様ゲームがはじまるのだと思っていた。


 だがそれは、俺の思い違いだった。


「――――!?」


 しゅばっ! と、俺の目にも止まらぬスピードで、恵の手から箸が消えた。

 まさに刹那。圧倒的な速さ。神速ともいっていいほどのスピード。

 銃弾が獲物を捕らえるかのごとく……ソレは、俺の視界から姿を消した。


 俺はやや唖然としながらも、残った一本を取る。箸の先端には番号が書かれており、それには『7』と書かれていた。


「王様は私ね」


 メイは王冠マークの書かれてあった箸を勝ち誇った顔で持っていた。

 他のやつらはぐぬぬぬぬと悔しがっている。ていうか何この空気。こんなの王様ゲームじゃねぇ! ただの戦争だ!


「では七番は王様を抱きしめなさい」


『!?』


 メイがにっこりとした表情で命令を告げた。

 あれ。おかしいな。王様ゲームって確か『○番が○番』みたいな感じで王様いがいに命令するんじゃなかったっけ……そうじゃなかったのか。やったことないから解らないけど。でも王様の命令って罰ゲームって聞いたことがあるような気がする。あれ? でもこれ罰ゲームなのか? あれ? ていうかメイはなんで七番といいつつ俺の顔をじっと見てるんだ?


「はやくしなさい。七番」


「なんでお前俺の番号を知ってるの!?」


「そんなことはどうでもいいわ。はやく」


 メイは可愛らしく両手を広げてきた。このままだとゲームが進行しそうにないから俺は内心、メイに謝りながらもぎゅっとメイを抱きしめる。胸の感触にちょっとドキッとしながらも、心なしかメイが自分から胸を押し付けてきている気がする。気のせいだろう。


「ふふっ。緊張してる?」


「いや、別に」


「あら。ちょっと手がすべってもいいのよ?」


 メイは心なしか足を上げて、スカートの隙間から覗く太ももを強調しているような気がした。


「むぅぅぅぅぅ……」


「………………」


 加奈や南帆をはじめとした他の奴らがなぜかとても悔しそうな顔で俺のことを見てくる。


「で、王様」


「なにかしら」


「俺はいつまでこうしてればいいんだ?」


「私の気が済むまで」


「どうやら、とんでもない暴君に捕まっちゃったみたいだな」


「ええ。だから私の命令に従いなさい」


 五分ほどして周りのやつらに無理やり引きはがされたので、改めて次に移る。

 今度は当たりを逃すまいと、周りのやつらが闘志的な何かを上げた気がした。


『王様だーれだ!』


 またもや一瞬で俺の目の前からくじが消えた。

 ていうかなんなのこいつら。時が止まった世界への入門でも果たしてるの?


「……今度はわたし」


 王様になったのは南帆だった。ていうか、俺さっきからあまりものしかひいてないんだけど……。


「……五番は王様を膝に座らせること」


 五番です。はい。

 そんなわけで、俺は南帆を膝に座らせることになった。南帆の髪はサラサラしてて、なんだかいい香りが漂ってくる。


「……追加。ぎゅってして」


「はいはい」


 後ろから軽く抱きしめてやると、南帆は気持ちよさそうに目を細めた。なんなんですかねこれ。


「うー! うー! 次こそはわたしもやるもんっ!」


 恵は羨ましそうにしていたが、俺の事は助けてくれないようだ。

 次の王様は加奈になった。加奈はしばらくの間、どんなことを命令するか悩んでいたものの、どこぞの社長みたいに何かティンと来たようで、ごそごそとお菓子から何かを取り出した。


「王様と二番でポッキーゲームですっ!」


 二番ってまた俺だよ!

 





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