第13話 隣の席はイケメン転校生
親睦会の班分けは既に行われている。だが、ある日の放課後。あれから時間も経ったということで班分けをやり直しすることになった。これは俺にとっては朗報だった。
上手く加奈や正人と当ればぼっちを免れることが出来るからだ。
次の日の朝。
朝のHRになると担任の教師が教卓の前に立って、
「静かにしろー。今日は転校生を紹介するぞー」
静かにしたいのにこんなことを言えば逆効果だろうが、と心の中でツッコミを入れつつも、俺は俺で転校生に興味があった。こんな中途半端な時期の転校生とは珍しい。
「よーし、じゃあ入ってこい」
教師に促されて入ってきたのは、スラリとした体格の細身のイケメンだった。美青年とでも言おうか。爽やかオーラを振りまきながらそれでいて嫌味がいっさいない。好青年とはまさにこいつのようなことをいうのだろう。
にこやかな笑顔はむしろ清々しさすら感じられる。
「葉山爽太。よろしくおねがいします」
ぺこりと丁寧なお辞儀をみせる葉山とやら。うーん。今のところ欠点がまったくないぞ。
「えーっとじゃあ葉山の席は……」
視線が教室の片隅。俺の姿を捉え、俺の隣の空いた席を捉えた。
「葉山の……席は………………………………………………………………」
恐らく教師ビジョンでは俺の隣の席はゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴと音を立てながらさぞかし御大層な地獄のような光景が繰り広げられていることだろう。
うん。もし俺が逆の立場だったらたぶん俺だって迷うだろう。「転校早々、転校生を死地に送り出しても良いのか?」と。
まあでもさっさと決めてやってほしいな。どうせ俺は何も手を出す気はないんだから。
正人は正人で教師の反応を随分と楽しんでいるようだし。ここは助け舟を出してやれよ生徒会。
「………………………………………………………………そこ、空いている席に座ってください」
ざわつく教室。
当然か。どうせあれだろうな。可哀そうにだとか思ってるんだろうな。だが今の俺は安定の寝た振りである。
悲しいかな。こんな高校生活を送っていると寝た振りだけはかなり上達したんだ。
クラスの皆の楽しい休み時間の為なら俺は寝た振りだってしちゃうんだぜ。
「はい」
クラスメイトたちには葉山は凶暴な獣の待つ檻へと向かうか弱い兎のように見えただろう。
うえるかむてんこーせー。
歓迎するぜ。こんな寝た振りしかしない転校生だけどな。
「よろしく」
なんともにこやかなイケメソスマイルをこんな俺にも向けてくる転校生。なんて優しいやつなんだ。
「……おう」
正人や加奈いがいの生徒と会話したのって、何ヶ月ぶりだろうな(しみじみ)
と、そんなことを考えていると正人がこっそりと、
「お前が俺や天美さん以外のクラスメイトと喋るのって何か月ぶりだ?」
「うっせえ」
余計なお世話だ。
☆
驚くべきことに、葉山は顔だけではなかった。
勉強もかなり出来るし、運動神経もよかった。今の体育の時間はサッカーだったのだが(俺は自らの意思で見学である。グラウンドの隅っこでな!)、サッカー部相手に見事にハットトリックを決めていた。
「完璧なイケメンくんですね」
「ん? なんでお前がここにいるんだ」
いつの間にか俺の隣にいたのは加奈である。今は体育の時間で当然のことながら体操着姿だ。こうして見てみると、やはり加奈はスタイルが良いとは思う。
体操着になっているので無駄に体のラインがはっきりするというか、出ているところはちゃんとでて引き締まるところはちゃんとひきしまっている。
まあ、幼女じゃないので何とも思わんが。……あの時の事は、お泊り会の事は忘れよう。うん。
そうだ。幼女でもないBBAの体操着姿なんて何の価値もないんだ。頭の中で思い浮べろ、幼女の体操着姿を!
「……なんか、凄い気持ち悪い顔をしてるんですけど」
「気にするな。それで、なんでお前がここに?」
「私も見学ですからね。ちょっと様子を見に来ました」
「なんだ、お前も葉山が気になるのか?」
「違いますよ。確かに顔は良いし頭も良いようですが、私の好みではありませんね」
「ふーん。ま、お前なら『私、GNド○イヴの付いてない人には興味ありませんから』とか言いそうだけどな」
「失敬な」
む。さすがにこれは冗談が過ぎたか。
「別にGNドラ○ヴだけじゃなく核融合炉の人にだって興味あります」
「そういう意味かよ!」
「いやですねぇ。ちゃんとツインド○イヴ搭載機の人だって余裕でいけますよ」
「この変態」
「その言葉、赤く塗って三倍にして返します」
「赤く塗る必要はなくね⁉」
「冗談ですよ」
こいつの冗談は冗談に聞こえないのだが。そのへん理解しているのか?
「でもまあ、葉山くんに興味ないのは事実ですよ」
「なんで。アイツけっこう良いヤツだぞ? 顔もイケメンなら男子にも女子にも分け隔てなく優しいし、勉強だって出来るし、見ての通り運動神経も抜群だ」
「そうですけど、でもなんか他人の顔色を窺ってるっていうか、他人に媚を売っているっていうか……なんだか、妙な違和感を感じるんですよ。この中途半端な時期に転校してきたことも気になりますし」
「他人の顔色を窺ってる、ねぇ……」
まるで中学時代の俺だな。いじめっ子たちの顔色を窺ってへこへこして。殴られて。いいように使われて。
「……あーやだやだ。思い出すだけでも腹が立ってきた」
もしあの頃の俺に今みたいな力があれば(中二ではない)確実に相手をサンドバックにしてただろう。
「にしてもお前さ、葉山みたいな完璧イケメンがダメならいったいどんなやつが好みなんだよ」
「えっ……」
「贅沢過ぎねえか? あんな良いイケメンくん、そうはいないぞ。アレを弾くなら逆にお前のタイプの男に興味がわいてきたね」
「そ、それは……その……」
「?」
さっきまでペラペラと喋っていた加奈が何故か、もじもじと言いにくそうに悩んでいた。
そんなにも喋りにくいことなのだろうか。こっちはもう普段のロボトークに付き合わされているおかげで大抵の衝撃にはかなり耐性のついているのだけれど。
「おい、どーしたんだよ」
「ふぇ? い、いやっ! そのっ、……………………これは逆にチャンスかも……………………」
「おーい。何がチャンスなんだよー」
「な、何もありません! そうですね。私の好みの男性は――――」
加奈はちらっと様子を伺うように俺を見た後、
「――――わ、わいるど系?(チラッ)」
「ス○ちゃん?」
「いや、そういう意味のワイルドじゃなくて」
じゃあどういう意味なんだよ。スギ○ゃんってワイルドだろぅ?(もう古いな)
「……んーと。喧嘩が強い?(チラチラッ)」
「へー。じゃあお前ってDQNが好きなんだな」
「あ、ある意味そうかもしれませんね!(チラチラチラッ)」
「にしてもお前、この前あんなめにあったのにDQNが好きになるって……ドMか?」
「違いますよ!」
えーっと、とまた考え込むようにして、
「わ、私のロボトークにつきあってくれる人です!(チラチラチラチラッ)」
「ご愁傷様です」
「ど、どうしてですかぁ!」
「お前のロボトークについてこれる人間はただの変態だ」
「…………………………………………ある意味、そうかもしれませんね」
ある意味ももなにもただの変態だろう。
俺は違うけどな! だって変態じゃなくて紳士だから!
「うう~。これでも駄目ですかぁ……」
加奈はチラチラとこっちを見てからぱっと何かを思いついたかのようにして、
「なら、そ、そう! 紳士! 紳士な方がいいです!(チラチラチラチラチラァァァッ!)」
「え? DQNで喧嘩が強くてお前のロボトークにつきあってくれる波紋戦士?」
「ちっがあ――――――――――――――――――――――――う!」
キレた。最近のゆとりはキレやすいなぁ。
「あーもう! これだけ言ってなんで気づかないんですか! そもそも紳士ってそっちの紳士じゃありませんよ!」
「え? スタンド使いの方なのか? でもあっちって紳士かと言われればイメージ的に違うような気も……」
「いい加減ジ○ジョから離れてくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「うっせえなあ。お前が言ってるんじゃねえか」
「脳内変換されてますけどね!」
「つーか、さっきからチラチラこっちばっか見てるけど、俺の顔に何かついてんのか? ついてるんなら楽しんでないで教えてくれよ。小学生じゃないんだからさ」
「っ! べ、別に見てませんよ!」
「それにしても、お前の許容範囲狭すぎだろ。条件付け過ぎる女は婚期逃すぞー」
「いやいやいやいやいや。DQNで喧嘩が強くて私のロボトークにつきあってくれる波紋戦士が好きって私どんだけ痛い子なんですか⁉」
「惜しいよなぁ。DQNと喧嘩が強いと波紋戦士ならジ○セフがちょっと当てはまるんだけどな。俺も主人公の中ならジョ○フが一番好きだぜ」
「奇遇ですね。私もです。何気にジ○ースター家のジンクスを全て破ってるのってジョ○フだけなんですよね。愛人作ったりして……じゃなくて! 当てはまったとしても漫画の中のキャラだと彼氏になんかできないじゃないですか! 私どれだけ男の人に飢えてるんですか!」
「は? 愛は次元を超えるから。俺のこの幼女に対する愛はゲーム画面すらも超えるから」
「その部分だけマジにならないでくださいよこの変態!」
「おいあんた! ふざけたこといってんじゃ……」
「やめろ海斗っちゃん!」
後半の方は意味不明なやり取りになってしまったけどまあいいか。
特に最後のやり取りは刹那で忘れちゃったDeathぅー。
うーむ俺は好きだったんだけどな右翼。何で打ち切られてしまったのか。サジさん覚醒回はすげえ燃えたんだけどな。
「……もういいです」
「あ、そう」
気になるといえば気になるんだけど……まあいいや。
と、俺と加奈がトークしている間にもまた葉山がシュートを決めていた。サッカー部連合は涙目である。
サッカー部終了のお知らせ! ギャハハハ!
「うーむ。それにしても本当に完璧イケメンですね。化けの皮じゃないのでしょうか」
「さあな。人間の本性なんざなかなかわからないもんだろ。加奈とかがそうだし」
「海斗くんもですけどね」
「ち、ちげーよ! 俺は決死の高校デビューの結果だ! 元々の俺はもっとひょろいキモオタだったんだよ! だから言うなれば逆輸入だ逆輸入!」
「そんなとこに必死になられても……」
確かに。
「ふむ。でもこのタイミングであんな完璧爽やかイケメン転校生はちょうど良いですね。部活の経験が活かせそうです」
「……お前、まさか……」
やるというのか。この前やってあの意味不明のトークゲームを。
どこぞの軍曹みたく肯定だとでも言わんばかりに加奈はニヤリと笑みを浮かべた。
「そのまさかです。あの転校生に<同類を見破れ! オタク探しトーク>を仕掛けてみようじゃありませんか」
本当にまさか、あの部活ともいえない部活が役に立つ日がくるとはな……。
そんな俺たちの決意を知ってか知らずか。
葉山の放ったシュートが再びネットに刺さる音が響き渡った。