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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第9章 修学旅行とこれからのこと
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第98話 お土産について

 修学旅行の班決めに関しては滞りなく進んだ。

 班は俺、正人、葉山、加奈、南帆、恵、美紗、美羽の八人だ。

 五限が終わると加奈たち文研部の五人は緊張の糸が切れたようにしていた。そういえば今日は朝からずっと集中してる感じで話しかけづらかったけど……そこまで修学旅行が楽しみなんだな。俺も楽しみだけど。


「はぁ~。ちょー緊張したよぅ」


 恵が心の底から安堵したように息をついた。他のやつらも似たようなもんで、体から力を抜いている。

 とはいっても、俺も似たようなもんだけど。もし友達の一人もいない班になったと思うと……。


「うん。俺も、もし友達の一人もいない班になったらとソワソワしてたからな」


「……ぜんぜん分かってない」


「相変わらずですね」


「まあ、海斗くんですからね」


 南帆、美羽、加奈が揃って俺の事をジトッとした目で見ながらため息をついている。

 なぜ俺だけこんなことを言われなくちゃならないんだ……。

 部室に着くと、既に一年生コンビとメイはやってきていた。三人して仲良く今日発売された漫画雑誌について語っている。


 メイはさっそく一年生とも仲良くなっているらしい。昨日の今日で早いな……。くそぅ。一年生の時の冬休みに過ごした時はぼっちだとか言ってたくせに。なんでこんなにもスラスラと友達を作る事が出来るんだ。少々手狭になった円卓をみんなで囲む。このモードになると本格的にみんなでおしゃべりモードという感じになる。


「修学旅行ですか。いいですね~」


 修学旅行の班決めで部室に来るのがちょっと遅くなったことを話すと、一年生コンビの二人が真っ先に盛り上がった。小春はキラキラとした目で見てくる。話を聞くとアイドル業で中学の頃は修学旅行に行けなかったので修学旅行そのものに憧れがあるようだ。


「行き先は京都でしたっけ」


 南央の質問に俺は胸を張って答える。


「みたいだな。俺はちゃんとラノベのご当地バージョンを買うつもりだぜ!」


 俺の好きなライトノベルにはご当地バージョンなる、地域ごとに表紙が別バージョンになっているものがあるのだ。ファンとしてしっかりコンプせねば!


「……京都ア〇メーションにも行きたい」


「自由行動の時に行けばいいんじゃないか」


「わたし、京アニショップにも寄りたいな」


 南帆や美紗が修学旅行に思いを馳せる。

 京都と言えば京○アニメーションというのはやはりこの部の部員の中では共通認識なのだろうか。

 俺も行きたいなぁ。でも正人たちはどう思うかな。ちゃんと聞いておかなきゃならないよな。


「あなた、さっきから何を見ているの?」


「ん? これか?」


「ええ。とっても真剣な様子だったから。気になったのよ」


 メイがたずねてきてはじめて俺は自分で思ったよりも真剣に考えていた事に気づく。

 というのも、


「正人に弁当を作る事になってさ。だから何がいいかなって」


『…………』


「悩むよなぁ。でも、腕によりをかけて作るつもりだぜ」


『……………………』


「あいつ、喜んでくれたらいいんだけどな」


『………………………………』


「? どうしたんだよ、お前ら」


『…………………………………………』


「気にしないで。続けて、どうぞ」


 美紗が嬉しそうな顔をしながら続けてというが何を続ければいいんだ……。

 そんなことをしつつ、今日は部室を早めに切り上げて俺たちは学校を出た。帰り道は金曜日から泊りがけでメイの歓迎会をやろうという話で盛り上がり(当然の如く俺の家で)、最後は同じマンションに住んでいる俺と加奈だけで歩く。

 加奈は夕焼けに染まった空を見上げながら、ポツリと呟く。


「修学旅行ですか。もうそんな季節なんですね」


「ああ。なんか、あっという間だよな」


「はい。海斗くんと一緒にこの部を立ち上げたのが、まるでつい昨日のことのようです」


「あの頃は俺とお前だけで……すぐに南帆が入ってきて」


「その後に恵も入ってきたんですよね。その後に美羽と美紗が入って」


「んで、今度は後輩二人に今日でまた一人増えたんだよな」


「人数だけ見たら、もう四倍ぐらい増えてますね」


 クスッと加奈は楽しそうに微笑む。ぽんぽんと一気に人数が増えて、最初は二人だけで妙に広かった部室がちょっと手狭になっている。


「修学旅行に行ったら、ちゃんと小春と南央にお土産を買って帰ってやらなきゃな」


「そうですね」


 何しろ後輩にお土産を買って帰って来るなんてことは俺の人生ではじめての経験だ。お土産も真剣に選ばなきゃな。


「でも何を買ったら喜んでくれるんだろうか……」


「海斗くんが買ってきたものなら、なんでも喜んでくれると思いますけど」


「そりゃ社交辞令で何でも喜んでくれると思うけど、どうせなら心の底から喜ばせたいからな。悩むぜ」


 俺が修学旅行のお土産について悩んでいると、いつの間にか家であるマンションの下まで辿り着いた。

 そのままエレベーターに乗り込んで、部屋の前まで来ると、唐突に加奈が「あのっ」と切り出してきた。それまでずっとお土産について悩んでいた俺は加奈の言葉に反応して我に返り、加奈の顔を見る。


「ん。どうした?」


「えと……その、お土産についてわたしも一緒に考えたいので……ちょっと、一緒にお茶しませんか?」


 ☆


 加奈の部屋に招かれた俺は特に断る理由もないのでお言葉に甘え、中に入る。加奈の部屋は相変わらず整っていたものの、扉の隙間から見えた別の部屋は割とごちゃごちゃしていた。主にプラモデルのジャンクパーツなどのせいだろうが。


「てきとうにくつろいでいてください。お茶を用意するので」


 そういって加奈はティーセットを取り出してきて、お茶(紅茶のようだ)を淹れはじめた。


「午〇の紅茶じゃない……だと……」


「わたしを何だと思ってるんですか」


 ムッと拗ねたように頬を膨らませた加奈はテキパキと準備をして紅茶を淹れていく。

 しばらくしてから紅茶をテーブルに運んできた加奈は、俺の向かい側の席に着く。

 紅茶に優雅に口をつける加奈の姿はまさに絵に描いたようなお嬢様、といった感じで普段の俺の知る加奈の姿とはややギャップがあって新鮮に思える。


 サラサラの髪に綺麗な瞳。女の子らしい華奢な体。だけど胸や太ももなどほどよく肉付きがあって、出るとこは出て絞るところは絞っている。近くにいるとなんだか甘い香りもするし。

 あんまりじーっと見つめすぎたせいか、加奈がこちらの視線に気づき、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「な、なんですか……じっと見つめて」


「いや。なんかそうしているとやっぱお前ってお嬢様なんだなって」


「お、お嬢様って……」


「でも、割と良いトコのお嬢様ってのは事実だろ?」


「まあ……そうですけど」


 加奈は恥ずかしそうに頬を赤らめたまま、ちびちびと紅茶を飲んでいく。

 照れ隠しだろうか。そんな姿も可愛いな、なんて思いながら紅茶で喉を潤していく。


「家、っていえば加奈の両親ってどんな人なんだ?」


「わ、わたしのお父さんとお母さんですか? …………それは、その……つまり……」


 加奈が(なぜか)頬をさらに真っ赤にして、そわそわとしだした。

 俺はそんな加奈の反応の意味が分からなくて内心、首を捻る。


「えと……わ、私の両親に……あいさつ、とか……」


 あいさつ……って挨拶のことだよな?


「挨拶か……まあ、言われてみればちゃんとしておいた方がいいよな」


 加奈と出会えたからこそ、今の俺があるといっても過言ではないわけだし。いや、加奈だけじゃない。あいつらがいたからこそ、今の俺がある。俺の人生を変えてくれたといってもいい。

 それほど大切な人たちだからこそ、両親に一度お会いして挨拶ぐらいはしておいた方がいいのかもしれないな。


 なんて思っていたのだけれども、加奈はというと、


「え、ええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 ぼんっ、と顔を真っ赤にして信じられないとでも言うかのように驚いていた。

 

「あ、あああああああああああああの、い、いいいいいいいいいいいいきなり両親に挨拶は早いですよっ!」


「早い? むしろ遅いぐらいだろ」


「あうあうあうぅぅぅ……」


「ほら、俺とお前が会って友達になってから一年以上は経ってるんだぜ? 友達のご両親に挨拶に行くのはもうちょっとはやくすべきだよな!」


「………………………………………………………………そうですね」


 いきなり加奈のテンションが下がった。なぜだ。

 だが加奈は「でも……これでわたしも海斗くんのご両親に挨拶に行ってまずは外堀から……」ぼそぼそと何かを呟いている。何を呟いているのかは分からないけど。


 それにしても……両親。両親か……。

 父さんと母さんは今頃、何やってるかな。

 実家の方にはぜんぜん帰っていないし。どうせ二人はラブラブしてるんだろうけど。


 ☆


 同時刻。


 とある国にて。


「あー、もしもし。葵海あおい? うん。僕。そうそう。仕事が片付いた。うん。もうそろそろ帰ることが出来ると思う。え、今度の土日? バッチリバッチリ。ちゃーんと休みがとれたよ。また二人で旅行にでも……え、旅行にはいかない? そんなぁ! なら僕は何のために必死に仕事を片付けたんだ……うん? 海斗のトコ? あー、はいはいはい。確かにねぇ。一人暮らしをはじめてからぜんぜん見てないし……そうだね。たまには様子を見に行こうか。じゃ、すぐに戻るから。愛してるよ、葵海あおい


 そう言って、黒野海龍くろのうりゅうは通話を切った。

 スマホの待ち受けに映し出されてある家族の写真を見て微笑むと、彼の足は愛する家族の居る日本へと、歩み始めた。





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