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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS⑥ なんちゃってDQNと占い少女
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番外編 占米野メイの冬休み①

文化祭編にも登場した占米野メイちゃん。


今回は彼女のお話であると同時に一年生の時の海斗が冬休みに何してたかもチラッと描いていければなと思います。


「メイちゃん、さきに行ってるね」


 クラスメイトにして同じ部の部員から声をかけられて占米野しめのメイは現実に戻ってきた。

 窓際の席に座って外の景色を眺めていると、ふとかつての光景を思い出してしまったのだ。


「ええ。私も後で行くわ」


 くすっと軽く微笑んでからメイはクラスメイトにして同じ部の部員にして友達に小さく手を振った。

 以前の自分なら考えられなかったことだ。友達を持つなんて。


(これもすべて、あの人のおかげかしら)


 文化祭も終わったある日の放課後。

 窓の外の景色を眺めながら思うこと。


(そういえば、あの人もこの席だったわね)


 そっと机を撫でる。そこに何かがあるというわけではないけれど、彼と同じ何かを共有できるような気がした。


 教室の一番後ろの窓際のこの席。

 この席は偶然にも……黒野海斗と同じ席。

 思い出すのは去年の冬休み。


 あの時があったからこそ、『クラスメイトとそこそこの交流を持って、友達もいて、誰かに笑顔を向けられれる自分』がいる。


 あの時がなかったら、『クラスメイトと交流を絶って、友達もいなくて、誰にも笑顔を向けられない自分』だっただろう。


 遡るのは約一年前。


 占米野メイがこの高校に入ってはじめての冬休みを過ごしていた頃。


 その頃に、彼女と黒野海斗は出会った。



 ☆



 ぶっちゃけた話、占米野メイには特別な力がある。

 とはいってもそれは手から火を出せるとか、瞬間移動が出来るとか、ゲル化が出来るとか、タイヤがコウカン出来るとか、そういった類のものではない。

 

 せいぜいが、『知りたいことが何でも解る』程度の能力。


 それが過去であろうと現在であろうと未来であろうと知りたいと望めば大抵の事は知ることが出来る。

 それは気づいたら使えるようになっていて、それはメイが物心ついた時には既に周囲の大人はメイのその力に気づいていた。


 メイの家は古くから続くとある名家であり、メイのその力を利用してその世界で力を伸ばし続けた。

 そんなことはメイにとってはどうでもよくて、メイの周囲にはもはや自身の力を利用することしか考えていない大人ばかりになっていた。


 どうして自分の事を見てくれないのだろう。どうして自分にあるこの能力しか見てくれないのだろう。


 何度もそう思った。


 唯一、兄だけはメイのことをメイ自身の事を見てくれていたけれど、親から勘当されてもう家にはいない。もう自分は一人ぼっち。大人たちの道具にされて終わるだけ。

 そうなることを覚悟して過ごしているうちにメイはもう高校生になっていた。


 体面的に悪いからと義務教育が終わった後も高校には通わせてくれて、大学にもいかせてくれるらしい。そんなことはもはやどうでもよかったが、あの息苦しい家にいなくていい時間があるというのはメイにとっても楽だった。


 とはいえ学校では特にやることもなく、クラスメイトとは交流を絶っていたし、育った環境のせいもあってか人に笑顔を向ける、ということもなかった。

 友達なんてあっても意味ないと思っていたし、それゆえに作る必要もないと思っていた。


 学校とはメイの中ではあくまでも避難所であり、それ以上でもそれ以下でもない。


 故に。


「占米野さん。一緒にお昼ご飯たべない?」


 このようにして彼女に笑いかけながらの誘いも彼女にとってなんの意味もない。


「……ごめんなさい。私、用事があるから」


 用事があるからというのはとても使い勝手のいい断り文句だということをメイは既に理解していて、その使用頻度はかなり高い。

 そんなテキトーに誘いを断っているというのに、わざわざ話しかけてくれたクラスメイトの女子生徒は「そっかー」とのんきな声を出してトコトコと自分の席に戻っていく。


 彼女は日水奈弥生ひみなやよい。どこか不思議で独特な空気を持つ子で、クラスでもどこか浮いていた(悪い意味ではなく、どこか高嶺の花という感じだろう)。そもそも占い研究会というよく分からないものにも入っているらしい。


 なぜ自分に話しかけてくるのか分からないけれど、それをわざわざ能力を使って調べようとも思わない。というか、メイは極力、自分の能力を使いたくはなかった。


 望めばなんでもわかる。それは聞けばかなり便利な能力のように思えるだろう。しかしメイはこんな能力を望んで手に入れたわけではないし、『家の都合』で使用させられているし、そもそもこれがあるせいで今の自分が出来てしまっているのだから自分の能力に対してあまり良い感情は抱いていない。


 彼女はそうしていつも通り過ごしていると、ついに冬休みに突入した。文化祭も体育祭も高校生にとっての大きなイベントも彼女にとってはとてもつまらないもので、これも無関心に過ごしていた。


 教室の一番後ろの窓際の席で。

 

 冬休みになると家に縛られるのはいつもの事で、自由な時間というものは、ほぼ無くなったといってもいい。それこそ道具のように奴隷のように能力を使って家の理になることを知り続けるだけの日々がはじまった。


 これにはもう慣れた。何も考えず心を閉ざす。これがコツだ。

 一番楽で何も考えなくていい。

 メイにとってはこれが最善の選択だ。


 そんなある日の事。


 冬休みに入って三日目の事。


 その女性はある日突然メイの前に現れた。


 長い髪の綺麗な女性。モデル顔負けのスタイルに整った顔立ち。メイの事を見ているその女性は、自室に『幽閉』されているメイの姿を瞳に捉えると、にこっと笑った。


「あなたが占米野メイちゃん?」


「…………そうだけど。あなたは誰かしら。そもそもどうして私の部屋にいるのかしら?」


 メイが自室に入ってきた瞬間、その女性はメイの部屋のベッドに腰掛けていたのだ。


「メイちゃんと会うにはここで待ってるのがてっとり早いかな~って思って! あ、わたしは黒野海音っていうの、よろしくね!」


 快活に笑うその海音なる女性に眉をひそめるメイ。


「ていうか普通に住居侵入罪なんだけれども」


「え~。ちがうよ? だってわたし、ちゃーんとこの家で住んでた人に許可をもらったもん」


 目の前の女性は確かに綺麗で美しく、人を惹きこめる魅力があることはたったいまであったばかりのメイでも解る。だが、だからといって父や母がこの女性をわざわざ大切な道具であるメイの部屋に入れるかというと……答えは否である。


「あはは。だいじょーぶだいじょーぶ。メイちゃんのお父さんとお母さんのことなら心配しないで。ここ一週間は家に帰ってこないはずだから」


 くすくすと笑う海音。

 確かにメイがこうして自室でゆっくり出来る時間があるのは珍しい。そういえばさきほど両親は何やら用事があるとかなんとかで家を出て行った。


「悲しいことだけど、たいていの人って単純なんだよね。お金を握らせて軽く脅せばすぐにいう事をきいちゃう。でもまあ、いくらなんでもメイちゃんの『予知』の外の出来事だからって慌てすぎだよねぇ。をするまでもなかったっていうか。拍子抜けだもん」


 メイの持つ力は身内では『予知』と呼ばれることがある。正確ではないにしろたいていは『未来の事を知る』ためにメイの力を使うことが多いので予知でも正しいと言えば正しいが。


(そういえば、こんな人との出会いは私は知らない……知ることが出来ていない)


 こんなことは予知できていない。

 目の前の女性との出会いをメイは予知したことがないし、そもそも両親が脅されたということはそれは敵たりうるという事。

 両親から自分たちの『敵』になりえる存在の事は予知するようによく言われていたので敵を探る予知の頻度は高かった。


 だがこの女性との出会いは予知できていない。両親を脅して金を握らせるなんて未来は知らない。

 この女性は、はじめてメイの力の外の存在としてあらわれた。

 そのことを認識するとちょっと興味がわいてきた。


「あなた、何者?」


「わたし? ふふっ。わたしはただのおねーちゃんだよっ♪」


 ……意味が解らない。

 とはいえ、別に不快でもなんでもなかった。

 不思議なことに、この女性との会話は嫌いじゃない。


「それで、いったい私になんの用なのかしら?」


「えっとね、実はわたしのお友達に頼まれたんだぁ。メイちゃんをこの家から助けてほしいって」


「お友達? 私の事を知る人が、あなたのお友達だというの?」


「それはあとで知ればいいことだよ。こっからが本題なんだけど、メイちゃんを助けるにあたってまずはメイちゃんにはあるプレゼントをさせていただきます」


 海音という女性はニコニコとした笑顔を崩さずに、メイのことを見ている。

 

「プレゼント?」


「そっ。プレゼント」


「あら、それは楽しみね」


 実際、楽しみだ。自分の力すら及ばない目の前の存在が自分に何をプレゼントしてくれるのだろうか。


「それはそれは~! 冬休みですっ!」


「……冬休み?」


 それならプレゼントも何も既に冬休みに突入している。

 もらうまでもないものだ。


「それなら既に、私の通っている学校的に言うなら冬休みに入っているのだけれど?」


「のんのんのん。メイちゃんの冬休みはまだはじまっていないよん」


 人差し指を振りながらメイの言葉を否定する海音。


「だってさ、こんな家に閉じ込められて道具扱いされるだけの日々が冬休みなわけないじゃん」


「…………」


「だから、一週間だけメイちゃんに冬休みをプレゼントしてあげる。本当の意味での冬休みを」


「……本当の意味での冬休み?」


「そう。両親も家も関係なく。『占米野メイ』ちゃんっていう一人の女子高生としての冬休み。家でのんびりごろごろしてもよし、外の世界に探検に出かけてもよし。どう過ごすかはメイちゃんの自由。そのあと、わたしはお友達の言うとおりメイちゃんをこの家から助け出してあげる」


 でも、と海音はメイの眼をまっすぐに見る。


「そのお友達にも言ったんだけどね? メイちゃんが本当に助けを必要としているならこの家から助ける。でも心の底からこのままでもいいっていうなら、わたしはメイちゃんを助けない。せいぜい、居心地がいい家にしてあげる程度にとどめておく。わかった?」


「何がなんだかわからないけれど、あの人たちがいない休みをくれるというのなら、ありがたくいただいておこうかしら」


 自分の両親の事を『あの人たち』と自然に呼べる程度には、メイの心は傷ついていた。

 この時も「なんだかよく分からないけれど運がいい」程度にしか思っていなかった。

 とはいえそのあと。


 自分の人生を文字通り変えてしまうような出会いがあることは、メイもまだこの時は知らなかった。


 たとえ予知という不可思議な力を持っていたとしても、黒野海音という存在と接触してしまった以上、その予知によって知りえた『未来』は不確定なモノとなったのだから。


 こうして、占米野メイの人生最大の冬休みがはじまった。





人気投票の時に『見守る会』がやけに人気だったのでここでぶちこんでみました。


まあ実質お姉ちゃんなんですけどね!



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