第96話 二度目の文化祭の終わり
二年目の文化祭は、またあっという間に過ぎていった。
とにかく忙しいのは去年通りで、去年と違う点といえば二日目の事だろう。
あれは色々と楽しめたものの、どうせならみんなで一緒に楽しみたかったなというのも本音である。
文化祭最終日。
既に文化祭終了の時間は過ぎ去っており、後夜祭に突入していた。校庭ではキャンプファイアをしており、多くの生徒たちはそこに集まっているが俺たち文研部は屋上に集合していた。
手にはそれぞれ飲み物を持っており、今回の文化祭の成功を祝っていた。
『かんぱーい!』
ジュースが入った紙コップを掲げてこつんっと軽く合わせる。後片付けもした後なので今日は一段と疲れた。
「いやぁ、今年の文化祭もちょー疲れたよねぇ」
「……ぐったり」
恵の言葉に対して同意するとでも言うかのようにちょっとぐったりしたような顔をする南帆。
「でも、わたしはとっても楽しかったですよ?」
という加奈の言葉に俺たちは頷いた。
確かに忙しかった。忙しかったけど、それと同時にとても楽しかった。
「はぅぅ……やっぱり、お客さんの前に立つのは緊張するよぅ……」
「ふふっ。美紗はとっても頑張りましたよ?」
「小春ちゃんはこういう人前に立つのって慣れてそうだよね」
「そうだけど、接客したことなんて無かったからとっても新鮮だったよ?」
そういえば今回は小春の事もあって写真撮影とかの要望が凄かったな。俺が睨んで黙らしたけど。
俺は夜空を見上げながら紙コップに入ったジュースに口をつけつつ。
「来年も、こんな感じで楽しくやれたらいいよな」
と、ポツリとそんなことを呟いた。
俺の言葉を受けて他の部員たちがどこか考え込むような顔をして。
「そういえば、来年はわたしたちも三年生ですよね」
加奈がそんなことを言って。
「うー。来年もついに受験生かぁー」
恵がつまらなさそうな顔をして。
「……進路の事も考えなきゃ」
南帆は相変わらず無表情で。
「進路かぁ。わたし、まだぜんぜんピンとこないな」
美紗はまだ見えぬ将来に目を向けていて。
「今からピンときている人は、将来やりたいことがハッキリしている人なのかもしれませんね」
美羽はそんな妹の事を見ていて。
「高校受験が終わっても、大学に行く人はまた大学受験があるんですよね。あーあ、高校生になってもまた受験生になるんだ」
南央はうんざりとしたような表情になって。
「ふふっ。でもわたしの場合、今度はもう少し受験勉強が楽になるかな」
小春は苦笑して。
「将来、か……」
俺は、遠いどこかを見ようとしていて。
それでもまだ何も見えなくて。
今はこうして一緒にいるけれど、いつかは離れ離れになってしまうかもしれない。
それがどうにも現実味がない。
俺はこいつらといつまでも一緒にいるのが当たり前なんだと思っている。
そんなの、普通に考えて難しい事なのに。
「かいくんは、将来どうしたい?」
恵が何気なしにそんな質問をして、つい言葉に詰まってしまった。
「海斗くんは割と何でもできるから選択肢が多そうですよね」
「……料理が上手だから……レストランのシェフ?」
「その場合は店名はア〇トだよね!」
「ロリコンの変態に務まるのでしょうか……」
「あはは……」
「んと、わたし的には学校の先生とかもよさそうです」
「小春ちゃん、それって小学校の先生じゃないよね……」
あーだこーだ話し合うこいつらに俺はため息をつく。
人が割と真剣に悩んでいるというのにこいつらときたら。
「あのな、勝手に人の進路を話し合ってんじゃねーよ」
「ぶー。それならかいくんは将来どうしたいの?」
それが今の段階から決まっている高校生の方が珍しいんじゃないか?
などと思いつつ。
「そうだな。俺は……」
俺は考えていたこと、思っていたことを……ふと口に出す。
「――――俺は、まだ将来の事はよくわからないけど。お前らと一緒にいられれば、今はそれでいいや」
比喩でも何でもなく、俺の人生を変えてくれた大切な人たち。
今はこいつらと、少しでも一緒に入れればいいなと思った。
ちょっと自分でも照れくさいと思っていると、なぜか加奈たちはぽかんとした顔で俺の事を見ている。
「……なんだよ」
「いや、海斗くんがまさかそんなことを言うとは思ってもみなかったので」
加奈の失礼な物言いにむっとする。
「失敬な。俺だってたまにはこういうこと言うぞ」
「ふふっ。そうですね」
加奈が笑い、なぜか他のやつらも笑っている。
なんなんだ畜生。なんか顔が熱いぞ。
「ふっふーん。どーせかいくんのことだから、『幼女と一緒にいたい~』なんて思ってるんでしょ」
「お、おう! そうだ!」
くそぅ。恵のニヤニヤ笑いがなんかむかつく!
「……海斗。かお、赤くなってる」
「は、はぁ!? な、なってねーし!」
「わぁ。先輩、かわいい」
「かわいいとか言うな!」
無表情であるはずの南帆でさえちょっと笑っている気がする。
小春に至ってはかわいい呼ばわりである。
しかし俺はこいつらと一緒にいたいという気持ちがあるのは確かだ。
こいつらがいなかったら今頃俺はこんなところでからかわれていないし、こんなにも楽しい気持ちを抱いていなかっただろうから。
「……ありがとな」
聞こえているか聞こえていないかはこの際どうでもいい。ただ俺は俺なりに、感謝の気持ちだけは言葉にしておきたくて、ありがとうと口にした。一緒にいてくれてありがとうと。感謝の気持ちを込めて。
こうして後夜祭の夜はふけていき。
――――季節は変わり、修学旅行という高校生活一大イベントが訪れようとしていた。
次は番外編を挟んで修学旅行編に突入予定。