第92話 二度目の文化祭④
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小春が部室に戻り、俺は次の誰かが来るのを待っていた。この非効率極まりない交代劇にも徐々に慣れてきた俺はぼけーっと文化祭の様子を眺めていた。
「お、お待たせしました……」
次にやってきたのは美羽だった。どことなくそわそわしていて、この文化祭を楽しみにしていたことがありありと伝わってくる。普段は割としっかりしていて真面目な美羽のそんな姿にちょっと笑ってしまう。
「な、なに笑ってるんですか」
「いや別に? ほら、行くぞ」
もう四回目ともなるとこの変わりばんこの形式も手慣れたもので、美羽の手をとってサクサクと歩き出す。
「なんか女の人の扱いに手慣れた感じがあるんですけど」
「気のせいだ」
まあ、そりゃお前とこうして歩くまでに三人と一緒に文化祭を回ったし。と言おうと思ったがなんとなくやめた。
「……でも、今さらでしたね」
「どういう意味だそれは」
「いえいえ何も言っていませんよ女たらしさん」
「たらしてねぇわ!」
俺は幼女を守護するロリコンというなの騎士なのさ!
そこらのBBAをたらしている暇があるなら幼女を保護……じゃなくて守護することに時間を使うわ。
「それはそうと、どこに行きたい?」
「ん……それは、あなたに任せます」
「了解」
まあ、せっかくの文化祭だしいろんなところを回ってみるのも面白いだろう。でも任せられてもそれはそれで困るというか……何しろこっちはもう三人の女の子と一緒にいろんなところを回っているわけで。さすがに同じところに行くわけにもいかないし。
……あれ? こういう思考ってなんかそれはそれで女たらしっぽいような。いや気のせいだろうきっと。
うん。きっと気のせいだ。第一、俺は別にあいつらと付き合っているわけでもないし、別に彼女にしようとか……そういうのは……思って、ないし……。
「どうかしましたか?」
「え、あ、いや。なんでもない。どこに行こうか考えていただけだ」
「そうですか……」
美羽は心配そうな視線を俺に向けてくれる。
まずいな。せっかくの文化祭なのに心配させて楽しんでもらえないという事態は避けたい。
「……あの」
美羽はふと立ち止まって、身長差のせいかやや上目遣いになる。
その瞳からは明らかに俺のことを心配してくれるような色が出ていて。
「無理は、しないでくださいね?」
と言った。
「その……わたしたちの都合でこういう形になって無理やりつき合わせているので……休みたかったら、わたしはそれでも構いませんから」
「っ……」
美羽はきっと今日を楽しみにしていたはずで。それは集合場所に来た時から伝わってきた。
それなのにこんな俺のことを心配させるような表情をさせてしまったことに後悔する。
俺がふと勝手に変なことを考えてしまっていただけで(こいつらと付き合うとかなんとか)本当に心配されるようなことは何もしていないのに、それなのに心配させてしまうような表情をさせてしまった。
これじゃあ、姉ちゃんに怒られちゃうな。
俺は苦笑しつつ、ぽん、と美羽の頭に手をのせる。
「悪い。でも本当に大丈夫だから。ちょっと考え事していただけで、なんでもないから。だから、行こうぜ」
「……はい」
手を繋いで二人で歩き出す。任せられた側としてはやはりちょっと緊張するよなぁ。
いや、待てよ。そういえば良いところがあったじゃないか。
美羽にピッタリで、こういう文化祭っていう場所ならよくありそうな場所が。
ポケットに入れていたパンフレットを確認する。探してみると、確かにそれは存在していた。
「あの、なんかすごく嫌な予感がするのですが」
「いやいやそんなことありませんのことよ?」
「……や、やっぱりわたしが決めます!」
「おおっと、逃がさないぜ?」
ダッシュで急ごうとする美羽の手をしっかりと握りしめる。俺はそのまま半ば強引にとある場所へと美羽を連れて行った。
☆
「さ、到着だ」
「あの、ここって……」
俺が美羽を連れてきた場所は校舎の中にある、三年生の教室。そこではお化け屋敷をやっていた。
そう。お化け屋敷である。
確か美羽はこういうお化けとかが苦手だったはず。
いやぁ、楽しみだなぁ。
「あの、どうしてそんなにも楽しそうな顔をしているのですか」
「気のせい気のせい」
「っていうか、絶対に楽しんでいるでしょう!? わ、わわわわわたしがこういうところにがてだってわかってるくせに!」
「そんなことないって」
「と、いいつつニヤニヤしているぞ? 海斗君。まさか君にSっ気があるとは思わなかったよ」
「いやいや別にSとかそんなんじゃ……って……」
俺と美羽の背後にいきなり現れたのは、恋歌先輩だった。
手には『三年二組 お化け屋敷』と書いてあるプラカードを持っている。
そして驚くべきはその衣装。
「……あの、恋歌先輩」
「ん?」
「どうして、その、巫女なんですか?」
恋歌先輩は確か三年生で、お化け屋敷のプラカードを持っているということはきっとここが恋歌先輩のクラスなのだろう。恋歌先輩は綺麗だし、宣伝のために外を出歩かされるのもまあわかる。
お化け屋敷の中は暗そうだし、そこだとせっかくの恋歌先輩の美しさもあまり見えない。
でもなんで巫女?
「普通、雪女とかそういうのじゃ……」
「いや、私も最初はそう思ったんだけどね。なんでも妖怪を祓う巫女という設定で半ば無理やり着せられた。クラスメイトたちから強く勧められてしまった」
おい三年生。アンタら受験生なのに何をやっているんだ。
ていうか受験も近いだろうに。
「この衣装もどうにも胸がキツくてね……はぁ。私もお化け役がやりたかったよ」
まあ、客を集めるという点では間違っていないのだろう。ていうか純粋にクラスメイトたちが見たかっただけだろうが。
「まあ、せっかくだから入って行ってくれないかな。みんなで一生懸命作ったんだ。一応、私が全面的に指揮をとって作ったから自信はあるよ?」
恋歌先輩にそんなことを笑顔で言われてしまったら俺たちとしては入らないわけにもいかない。
それは美羽にとっても同じだったようで、
「……は、はやく中に入りましょう」
ちょっと怖がりながらも美羽は自分から、お化け屋敷の中へと足を踏み入れた。
☆
お化け屋敷の中に一歩、足を踏み入れるとそこはもう暗闇の世界。うっすらと周りのセットが見えるのだが、これがまた中々凝っている。恋歌先輩が指揮を執って作っただけあってかなりクオリティが高い。
というかぶっちゃけ、全体的にクオリティの高いこの学校の文化祭の出し物の中でも群を抜いているのではなかろうか。
「ううううううぅぅぅ……………………!」
……まあ、今の場合は完全に美羽にとって不利に働いているのだけれども。
ぎゅっと俺の手を握りしめて、頑張って耐えようとしているその様子は……なんというか、かわいらしい。
普段は真面目でキリッとしている(美紗関連は除く)美羽のことを考えるとこれはついついいじわるしてあげたくなっちゃうのも無理はないと思う。
「お、おねがいだから……いじわる、しないで……」
まだ特に何も起こっていないのにもう涙目になりつつある美羽は上目づかいでそんなことを言ってくる。
それを見るとまたいじわるしたくなっちゃう気持ちが沸き起こってしまうのだが、それを懸命に押し殺す。
……なんだか生殺し感が強いなぁ。
入ってからしばらくは何もなく、ただただ不気味な静寂があっただけなのだが、少ししたら仕掛けであろう血塗られた人の手が壁一面から飛び出してきた。
ガコンッ! と無駄に大きな音を立てながら一斉に飛び出してくるもんだからその光景はけっこうドキドキとさせられる。
「ひゃうっ!」
もっと派手な叫び声をあげるかと思ったけど、そこはやっぱり女の子。
かわいらしい悲鳴をあげていた。まあ、あまりにもショッキングな光景過ぎてあまり声が出ないというのもあるのだろうが。
「ひぁぁあああぁぁぁああぁぁあぅぅぅうううううううううう……!」
ぷるぷると震えながら俺にぎゅっとしがみついてくる美羽。
繋いでいた手を離してしがみつく……というより俺に思いっきり抱き付いている。
あまりにも怖がっているので仕方がないとばかりに抱きしめてやる。
華奢な肩がすぐそこにあって、まるで小動物が俺の腕の中で震えているかのようだ。
「だめ。だめだめだめだめだめっ! も、もう出ましょう? はやくぅ……」
「まだ入ったばかりだろ。ほら、俺がついててやるから」
「うぅ……ほんとう?」
「ホントホント」
「で、でででででも、て、手、手がぁ……」
「とにかくさっさと行くぞー」
このままだと埒が明かないので俺はまたもや無理やりに美羽の手を繋いで奥へと進んでいく。
その時、
「チッ……(ぼそっ)」
「爆発しろクソが……(ぼそっ)」
「……死ね(ぼそっ)」
……何か聞こえたかもしれないけれど無視しておこう。
「い、いまっ! いま誰かの声が!」
「聞こえない聞こえない」
「ぜ、ぜぜぜぜぜ絶対に聞こえましたよ! ぞ、ゾンビのような、邪悪な声が!」
と、涙目でそんな事を言う美羽。
「ゾンビ……」
「俺、一応合唱部なのに……」
「……あーそっかー。俺って邪悪な声だからモテないのかー。どうりでモテないわけだぜHAHAHA!」
「いや、声は関係ないだろ」
「モテない理由を知りたかったら鏡見てこいよ」
「お前ら俺にだけ酷くない?」
おいお前ら仕事しろよ。もう駄々漏れじゃねぇか。
つーか、よくよく考えたらこの人たち受験生なんだよな。
本当に大丈夫なのか三年生。
いや、大丈夫だと信じよう。うん。まあ、ほら。息抜きも必要ですよね!
とりあえずこの場にいるのはお互いにとって不毛なので、俺は美羽を連れてその場を後にした。
その後も様々な仕掛けが美羽を襲い、悲鳴をあげながらぎゅううっと俺にしがみついてくる。
最後の方にはもう完全に涙目どころか泣いていて、俺の胸に顔をうずめていた。
しかしこういう美羽は普段はなかなか見ることが出来ないのでレアな光景にちょっと微笑ましい気持ちになってくる。
「ほら、もうちょっとで出口だぞ」
「ほ、ほんとう……? もう、こわくない?」
「ほんとうほんとう。もう怖くなくなるから」
教室の広さと俺たちの現在位置的にもうそろそろ出口でもおかしくないはず。
美羽は今のところ俺の腕に懸命にしがみついていて、おそるおそるといった様子で歩を進めている。
もう腕に押し付けられた胸の柔らかい感触がデフォルトになってしまっている。
最後は特に何もなく、俺たちはお化け屋敷を無事に出ることが出来た。
出口のところには当然、恋歌先輩がいて。
「ふふっ。どうやらとても楽しんでくれたみたいだね」
「ええ。結構面白かったです。中のセットもかなり凝ってましたし……まあ、美羽にとっては地獄だったみたいですけど」
美羽はもう涙を浮かべて安堵している。美羽って、お化け屋敷側からしたら最高の客だろう。
「うううう……どうしてあなたは平気なんですか?」
「そりゃまあ……俺、もともとそんなに怖がりじゃないし」
「ふこうへいです……」
むすっとしたように頬を膨らませる美羽。だが目に涙を浮かべていてはその不機嫌さも半減である。
俺は苦笑しながら、美羽の目に浮かんでいる涙の雫をそっと指で拭う。
「ふぇっ」
「そりゃ不公平かもしれないけど、俺としては美羽の結構レアなところが見れたから満足だな。美羽はどうだった?」
「どう、って?」
「その……お化け屋敷になっちゃったけど、楽しんでくれたかなって」
俺としては楽しかったけど、美羽にとっては楽しかったのかどうかは謎だ。
なのでちょっとハラハラしていたが美羽は静かに微笑んでいた。
「わたしは……怖かったですけど、楽しかったです。あなたと、一緒でしたから」
「……そっか。ま、それならいいんだけど」
楽しんでもらえていたようでなによりだ。
なんて思っていたら、
「あのねぇ、私もいるんだからいちゃつくのはもうちょっと別のところでしてほしかったかな」
「いや、別にいちゃついてはいないんですけど……」
珍しくやや不機嫌そうな恋歌先輩。
対する美羽は顔を真っ赤にして俺の方からぷいっと視線をそらしてしまう。
そうこうしている間に三十分が経ち、交代の時間が訪れた。
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