第92話 二度目の文化祭③
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さきほどのコスプレ研究会との一件でもらった金券を持て余していると、俺が南帆と別れた場所に文研部の部員がやってきた。
誰かと思って振り向いてみれば、そこにいたのは小春だった。
今日も綺麗なツインテールをなびかせて、ちょっと顔を赤くして息を弾ませている。
「せ、先輩。お待たせしました」
「俺は別に待ってないけどお前、走ってきたのか?」
「はいっ。楽しみでつい……えへへ」
にこっと笑うその顔は本当に心からこの文化祭を楽しみにしているんだなとなんとなくだけど分かった。
笑顔に魅力を感じるのはさすがはアイドルというところだろうか。
とりあえずこいつがこんな笑顔を浮かべられるようになったことにほっとする。
何しろ入部当初は同級生のオタク友達が欲しくて俺たちに相談したりとかしたりしていた時もあって、それが無事に済んで、心の底から笑えるような、楽しめるような友達が出来た。
少なくとも、こうやって文化祭の場で笑える程度には余裕が出来たことは素直に先輩として喜ばしい。
「そっか」
「はいっ。それじゃ、はやく行きましょう先輩っ」
小春に手を引かれて、再び文化祭の喧騒の中へと舞い戻る。小春は物珍しそうに周りをきょろきょろとしている。去年はアイドルという違う立場としてこの学園に来たわけだけど、その時はあまり周りの様子に気を配る余裕がなかったのかもしれない。
まるで小さな子供のように目をキラキラと輝かせて周囲を見る小春の様子は見ていて微笑ましい。まあ、これが本当に幼女だったら文句が無かったのだが。何が言いたいのかというと小夏さんと会いたい。
……小夏さんといえば、相変わらず胸の中にあるもやもやについては分からずじまいだ。
でもそのもやもやは不思議と、いま小春と歩いているように、そしてさきほど恵や南帆と色々と文化祭を回った時の様に、あいつらといるともやもやが晴れていくような気がするのだ。
本当に何だろう。楽しい……とはちょっと違う気がする。楽しいという感情もあるのだけれども、それ以外にも……うーん。まだちょっとわかんないなぁ。
わからないことはとりあえず後回しにしておいて、今はとにかく文化祭を楽しもうと思った。
「とりあえず、何か食べるか」
「そうですねっ。ていうか、わたし食べたいですっ!」
文化祭そのものに参加した経験が少ない小春はこういう模擬店の食べ物もあまり食べたこともなさそうだ。しかし何を食べさせてやるのが正解か。周囲を見渡してみると焼きそばだのフランクフルトだのあるが……女の子に焼きそばは控えた方がいいかもしれん。
歯に青のりとかついちゃうし。食べたあとわざわざ確認しに行くのも手間だろう。ただでさえ三十分という謎制限時間があるわけだし。
こういう時にア〇サートーカーさえあればすぐに答えが出せるのだろうが生憎と俺にそんな能力は無い。もしかしたら変な夢を見て無くしちゃったのかもしれない。
と、俺が何かないかと思案していると模擬店の中にチュロスを売っている店を見つけた。
「小春、チュロスとかはどうだ?」
「いいですねっ。じゃあ早く行きましょう先輩っ!」
まるでオモチャを買ってもらう子どもみたいだなぁ。なんてことを思ったりしながらその模擬店に直行。
さきほど南帆とのコスプレの一件でもらった金券を使って二人分のチュロスを購入した。
「ありがとうございます先輩。いただきます」
二人でチュロスを食べながら、再び文化祭の喧騒の中を歩いていく。
ちなみにチュロスの方はサクッとした触感がしてなかなか美味しい。
小春の方も、もきゅもきゅと美味しそうに食べてくれているのでなんとか安堵する。
ここで買う物をミスったらせっかくの楽しい気分に水を差すところだった。
せっかくこいつが普段は参加できない文化祭に参加出来たのだから、今日は楽しんでほしい。
「んじゃあ、ステージでも見に行くか?」
「はいっ!」
俺たちは二人で一緒にチュロスを食べながら、今度はステージの方へと向かう。文化祭期間中は運動場の方にステージが設けられており、軽音楽部や生徒会のステージなどが催されている。
今はちょうど、軽音楽部が演奏しているようだ。
「そういえば小春は去年、ここで歌ったんだよな」
「はい。そうですよ?」
「俺、部活の喫茶店が忙しかったから見に行けなかったんだよなぁ」
「ええっ! ちょっ、先輩それは初耳なんですけど!」
小春がやけにショックを受けたようにしている。
いや、俺だって見に行きたかったんですよ?
でもあの時はマジで忙しかったわけでして。
「いや、本当にごめん。ていうか、あの頃は別に先輩後輩の仲でもなかったのにどうしてそこまでショック受けてんだよ」
「うぅ……そうじゃなくて、ステージ衣装のわたしを見てほしかったっていうか……」
「お前ならほぼ毎日見てるだろう」
「だ、だってそれって制服じゃないですか」
「そりゃそうだな」
夏休み期間中とはいえ、学校には制服を着ていかなければならないのがきまりだからな。
「ステージ衣装はもう今は見れないんですよ!?」
「その気になればネットで見れるだろ」
インターネットって本当に偉大。
グー〇ル先生にはいつもお世話になってます。主に幼女の画像を検索するのに。
「そ、そうじゃなくて。生で見てほしかったというか……」
「ステージ衣装を生で見るのと画像で見るのとどう違うんだ」
「い、衣装じゃなくて衣装を着たわたしを見てほしかったんですっ。今の制服じゃなくて、あの時しか見られなかったステージ衣装をっ!」
ぷんすかと頬を膨らませながらそう抗議してくる小春。
だが俺としてはますます訳が分からない。
ていうか困った。どうしよう。
「衣装を着ているかと制服を着ているかなんて、着ているものが違うだけの差だろう?」
「ぜんぜん違いますよっ! だって、だって……その、制服姿よりステージ衣装の方がかわいいじゃないですか。わたしもここの制服はとても気に入っていますけど、でも先輩はいつもこの姿の私を見ているわけですし……」
乙女心とやらはどうにも複雑のようで、着ている物が違うという事がかなり重要らしい。
「そうか? 俺はどっちの小春も可愛いと思うけど……」
「……ほんとうですか?」
「まあ、去年のステージ衣装は知らないから何とも言えないけど、少なくとも何着てもかわいいと思うぞ。見れなかったのは謝るけどさ……」
俺はちょっと言葉に詰まってくしゃっと小春の頭を撫でる。
「んにゃっ」
「……だから……アレだ。機嫌直してくれ」
こいつには出来るだけ不機嫌なまま文化祭を過ごしてほしくない。
俺もあのステージ、実はちょっと見たかったし。
「むむぅ……許してあげます」
「そりゃよかった」
「ていうか、無茶な事を言ってるのはわたしも分かってますけどね」
そういってぺろっとかわいく小さく舌を出す小春。
「でも衣装を見てほしかったのっていうのは本当ですよ? だって先輩にはちょっとでもかわいく見られたいじゃないですか」
「ああ、そこは本気だったんだ」
「ええ、それは勿論。……ふふっ」
「どうした?」
「いえ。困ったような顔をしていた先輩も、十分にかわいかったですよ?」
そう言ってクスッと笑う小春。
なんか騙された気分だ。
こっちは本気でどうしようかと内心オロオロしていたというのに。
「せんぱいせんぱい」
「なんだよ」
「もういちど、なでなでしてくれますか?」
「はいはい。ご命令とあらばいくらでも」
ため息をつきつつ、再び小春の頭を撫でる。髪はサラサラで、どことなく良い香りがする。
小春は気持ちよさそうに目を細めているのでこれはこれで……いいのか?
「ふみゅう……先輩のなでなでは本当に気持ちいいですね。加奈先輩たちが気に入るのも分かります」
「別に特別な事をしているつもりはないんだけど……」
そういえば前に姉ちゃんも似たようなことを言っていたなぁ。
あの時は確か……
――――うー……かいちゃんただいまー。
――――おかえり……ってどうしたんだよ姉ちゃん。しんどそうな顔してるけど。
――――うん。実はね、私の部下の弟さんが旅行中にテロリストの人質にされてね、救出作戦と殲滅作戦が忙しかったの。オーバーキルしないように配慮するのが大変で地元の警察も裏からコントロールしなくちゃならなかったし。
――――ああ、うん。姉ちゃん。そろそろ中二病は卒業した方がいいと思うぞ?
――――はぁ。テロリストさんたちなんて魔〇科高校の人たちしか狙わないかと思ってたけどそんなことなかったよ。
――――ダメだこりゃ。
――――とにかく今日は疲れたからなでなでしてー
――――なんでなでなでしなくちゃならないんだよ……べつにいいけど。
――――だってかいちゃんのなでなでは元気でるんだもーん。ふみゃぁ……。
みたいな感じだ。うちの姉ちゃんはいつになったら中二病を卒業するのだろうか。
とにかく、姉ちゃん曰く、加奈たち曰く、そして小春曰く、俺の『なでなで』とやらは良いらしい。
なんだこの無駄に評判の良い俺のなでなでェ……。
まあ、こんなもんで姉ちゃんの疲れが吹っ飛んだり、小春が喜んでくれるならいくらでもやるけどさ。
気が付けば、ステージの曲はもう最後の曲となっていた。
小春もステージの軽音楽部の人たちに魅入っている。
観客たちも更なる盛り上がりを見せていて、俺たちはその中で自然と手を繋いでいた。
きゅっと小春がちょっとだけ強く手を握る。
「あの人たち、凄く楽しそうですよね」
小春はステージから目を背けず、ただじっと見ている。
「そうだな。なんか、青春してるって感じだな。あれこそがリア充ってやつだろ……………………爆発しろ」
「爆発しろっていうのはたぶん、海斗先輩が一番言われなきゃいけないセリフだと思いますよ……」
小春が呆れたようにそんなことをいうが、俺がリア充?
バカいうな。俺はあんな年がら年中、彼氏だ彼女だそんなことしか考えていないような連中と一緒にするな。俺は幼女を愛し、護る聖なる騎士だ。ふぬけたリア充連中とは違うのだ。
「爆発は置いといて、あの人たちの音楽、わたしはとっても好きです。わたしよりも上手で嫉妬しちゃうぐらい……」
「そうなのか?」
俺は音楽に関しては素人(せいぜい、カラオケで歌うぐらい)だけど、アイドル……つまりプロとして活動している小春の歌の方がよっぽどすごいと思うけどなぁ。
「そうですよ。だってあの人たち、本当に楽しそうに音楽をしています。わたしは……自分の夢を叶えてアイドルになったけど、ずっと一人でしたから。仲のいい友達は芸能界にもいましたけど、でも根本的なところではライバルだったんですよね。だから……ああやって、友達と心の底から楽しんで音楽をするなんて余裕、わたしにはありませんでした」
おそらく小春が活動を休止するようになったのも、そのあたりが関係しているのかもしれない。
アイドルとして日々を過ごしていくうちに、心のどこかで余裕を無くしてしまったのかもしれない。
小春の横顔はどこか寂しそうで。本当に羨ましそうにしていて。
「……なら、また今度みんなでやるか」
「え?」
「音楽。俺、頑張って練習するよ」
「えと……わたしのために、ですか?」
きょとんとした顔で言われるとそれはそれで恥ずかしい。
「ばっ、ち、ちげーよ! アレだ。け〇おん! を見てギター買ったから使ってみたいだけだ。俺ってば影響されやすいからな!」
小春はしばらくの間ぽかんとして俺の方を見ていたが、やがて堪え切れなくなったようにくすっと笑った。
「ふふっ。影響されたなら仕方がないですね。なら、今度またみんなで一緒にやりましょう」
「……おう」
くそぅ。なんかちょっと悔しい。なぜだ。
「あ、先輩、ちょっといいですか」
とかいいつつ、小春は半ば無理やり俺の手を引いていく。
そして一時的な物置として使われているであろう、人けのないスペースへと誘導される。
「さっきのみんなで音楽をするって話、本気ですか?」
「おう。ああ、でも俺は素人だから一から練習しなきゃならないけどな」
「大丈夫ですよ先輩。だって……」
小春はクスッ、と小悪魔的な笑みを浮かべると、不意を突かれた俺の耳元でそっと囁く。
「……わたしが、個人レッスンしてあげますから」
完全に不意を突かれた俺の頬に、そのまま小春は――――キスをした。
頬に暖かな唇の感触が広がって、気が付いたときには小春はもういつもの笑顔を浮かべていた。
でも心なしか、その頬は赤い。照れくささを笑顔で隠しているようだ。
「えへへ。そろそろ戻りましょうか、先輩」
「…………おう」
なんとなく、そこからお互い無言になってしまった。
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