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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第8章 一年生と二度目の文化祭
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第91話 二度目の文化祭②

 次に交代でやってきたのは南帆だった。スマホで時間を確認してみると、きっかり三十分が経っていた。

 南帆の目は爛々と輝いており、明らかに楽しみそうにそわそわしていた。

 まあ、見た目は完全に無表情なのだけれども俺には分かる。


 一年もこいつと一緒にいれば僅かな表情の変化で喜怒哀楽を読み取ることなど造作もない。


「…………」


「…………」


 まあ、さすがに無言でいられるとどうすればいいのか分からないのだけれども。

 とりあえず恵の時と同じようにぎゅっと手を繋ぐ。

 南帆はただでさえ他の奴より小柄な体なのだからこういった人混みだとすぐにはぐれてしまいかねない。


「南帆、行くぞ」


「…………うん」


 頷くときに何か言ってくれるようになっただけこいつも成長したもんだ。

 とりあえず南帆の手をひきながら人混みの中を歩いていく。

 心なしか、南帆の手のひらから伝わってくる体温がいつもより高い気がする。


「大丈夫か?」


「……何が?」


「いや、お前の手の体温がいつもより高い気がしてさ。熱があるなら言えよ?」


「……ない」


 こいつがないというならないのだろう。ほっとした。よかった。

 だけど問題はこの人混みだな。案の定と言うべきか、こうして混雑している中を歩いていると小柄な南帆は流されがちになっている。


「ちょっと人混みから出るか」


「……わかった」


 人混みを避ける為に混雑の中から出てきた俺たちは、ふぅとため息をつく。 

 本当にうちの文化祭は毎年盛況だよなぁ。

 俺たちは出来るだけ人混みを避けながら今度は校舎の中へと進む。


「ちょっとそこのお二人さん、ぜひ、ぜひともうちに寄って行かない!?」


 俺たち二人が歩いていると、やたらと必死な様子の声に引き留められた。

 振り返ってみると、そこには何人かの生徒がいて、それを代表するかのように一人の生徒がずいっと俺と南帆に近づいてくる。


「何だ。何か用か」


「ええ、そりゃあもう。最高の素材であるあなたたち二人に是非ともうちでコスプレしていってほしいんですよ!」


 見てみると、どうやらこいつらは『コスプレ研究会』という集団らしい。

 お客はコスプレをすることが出来るし、コスプレしたのを写真に撮って貰えたりとかも出来るとかなんとか。


「コスプレって言っても、アニメキャラ以外にも僕たちで作ったオリジナルの衣装も取り揃えているんです」


「だから一般の方も楽しめると思うんですけど……」


「でもお客の入りはさっぱりで……」


 コスプレ研究会の面々は困ったように頭を悩ませていた。

 俺たちの部は割と盛況だったのでこういったことにはあまり縁のない悩みだ。

 

「そこで! 学内でもとびきりの美少女である南帆さんにコスプレしてもらったら宣伝効果が抜群でないかと!」


「…………」


 コスプレ研究会の面々は期待に胸を膨らませていますと言わんばかりの表情で南帆の事を見つめているが、当の南帆本人はと言うと完全に無表情。

 まあ、こいつはこういうことに積極的じゃないからなぁ。


「お願いします! 南帆さんみたいなとびきりの美少女に是非ともうちの衣装を着て欲しいんです!」


「そう! 南帆さんみたいな超絶美少女に!」


「…………」


 こいつら南帆をほめる作戦に出たようだけどこいつは褒められたぐらいじゃこういうことは引き受けないぞ?


「ほら、彼氏さんの方も何か言ってくださいよ!」


「…………(ぴくっ)」


「はぁ? あのな、俺は別にこいつの彼氏じゃ……」


「またまたぁ。手を繋いで文化祭デートしてたんでしょう?」


「彼女さんのかわいいコスプレ姿、見たくないですか?」


「…………かのじょ……」


「だから、俺は別にこいつの彼氏じゃないって。南帆に失礼だろ。まあ、そりゃ南帆がコスプレしたらかわいいんだろうけど、関係ないやつに客寄せパンダになれっていうのもいきなりすぎるだろ」


「…………か、かわいい……海斗が、かわいいって……もにょもにょ……」


「そこをなんとか! 今なら文化祭で使える金券をつけますので!」


「よければ彼氏さんも! カップル揃って写真なんてどうですか!」


「…………かっぷる……」


 ああ、もう。これをどうやって振り切ろうか……なんて考えていると、顔を少し赤くした南帆がいきなり、


「……やる」


「は?」


「……やる」


 キリッとした表情でそんなことを言う南帆。

 その目は明らかにやる気に満ちている。

 さっきまで興味なさそうにぼーっとしていたくせに。


「……だから、海斗もやろ?」


「はぁ⁉」


 ちょこん、と首を傾けながらそんなことをいう南帆。

 突然の変化に俺は戸惑いを隠せないでいた。


 ……まさか、金券で釣られたわけじゃあるまいな。



 ☆



 着替えそのものはすぐに終わった。着替えている途中で何故か女子生徒(一年だった)にべたべたと触られたのは気にしないことにした。


「ふわぁ。先輩、良い体してますねぇ」


「すごーい」


「やっぱり普段から鍛えてるんですか?」


「喧嘩強いって聞きました」


「この逞しい体で正人さんと……ぽっ」


 とかなんとか。

 着替えているといきなり背後からペタペタと触られたから何事かと思ったぜ。

 最後の奴は知らん。


 ちなみに俺が着替えたのは執事服っていうか燕尾服である。アニメキャラクターの服装らしい。

 さすがに俺も全部のアニメを網羅しているというわけでもなかったが、アニメのタイトルを聴いてみると俺でも名前は知っているぐらいの作品だった。


 でもまあ、これならそんなに恥ずかしくないかな……。

 俺が着替え終わると、すぐに南帆も出てきた。

 南帆の衣装は……なんというか、やたらとフリルが多用された白と黒の……えーっと、ゴスロリドレスだった。しかしこれがまた意外と南帆に似合う。


 まるでお人形さんみたいな感じで、執事服を着ている俺が隣に並ぶと令嬢とその人に仕える執事みたいな感じになってしまった。

 俺がいつもとは全く違う南帆に思わず見惚れていると、南帆は上目づかいになっていた。

 その状態で頬を赤く染めつつ、


「…………どう、かな」


 と、俺にたずねてくる。

 その様子があまりにもかわいくて、俺はちょっと口ごもった。


「……ん。まあ、似合ってるぞ」


「……ありがと」


 そのまま南帆は俯いてしまった。

 どうやら引き受けたはいいが、こんなものを着せられるとは思っていなかったばかりにかなり恥ずかしい思いをしていたらしい。


「おおっ! バッチリ!」


「南帆さんによると時間が無いとのことなので、さっそく写真を撮りましょう!」


「ささ、寄って寄って!」

 

 半ば強引に俺と南帆は撮影室に突っ込まれ、そのままぐいぐいと互いの体を密着させられた。

 南帆は衣装に照れているのか下をうつむきがちになっている。

 こんなんじゃせっかく写真を撮ってもらうっていうのにちょっと勿体ないな。


 でもどうして俯いているんだろう。恥ずかしいからかなやっぱり。

 本当にかわいいと思うんだけどなぁ。もうちょっと自信を持てばいいのに。

 どうにかしてこいつに自信を持たせられないものか。


「南帆」


「……な、なに?」


「もうちょい顔上げろよ」


「……やだ」


「なんで」


「……恥ずかしいから」


「自分からやるって言っておいて……」


「こんなの、着せられるとは思っていなかった」


 ちなみに南帆の衣装はコスプレ研究会のオリジナルらしい。

 オリジナルの衣装を作っているのは、元々ここはデザイン研究部(服を作ったりする部活だったとか)だった時の名残だそうだ。


「そっか。でも、俺はかわいいと思うけどな」


「……⁉」


 南帆の顔がぼんっと更に赤くなった。

 相変わらず表情の変化に乏しいので分かりにくいけど。

 そういえば恵が前に何か言ってた気がするな……。なんだっけ。こう、かわいいよって言ってあげればいいんだっけ?


 あれは、とある日に恵が俺の家に遊びに来ていた時の事。

 あの時の恵は何やら自分で買って来たらしい恋愛漫画を読んでいた。珍しいことに。


 ――――はううう。やっぱり、こう、好きな人から耳元で「かわいいよ」って囁かれるのって一度体験してみたいよねぇ。


 ――――そうか?


 ――――そりゃかいくんは男の子だから分からないだろうけどさぁ。でもでも、かいくんならこれぐらいやってそう。


 ――――やってねぇよ……。


 と言う感じだった。

 恵がああいうからには女の子にとっては良いことなのだろうか。

 まあ、俺がやっても南帆の好きな人じゃないのが難点だけど。


 しかしこのままだとせっかくの記念写真がちょっともったいないことになる。

 物は試しとばかりに俺はこっそりと南帆の耳元に口を近づけ、囁いてみた。


「かわいいよ、南帆」


「…………!?!??!????!?」


 うわっ。あからさまに動揺している……。

 表情こそ無表情……というか、目だけを見るならばぐるぐるしている。

 なにこれ面白い。


「とってもかわいい」


「……や、やめっ。おかしく、なりそう……」


「似合ってる。かわいいよ」


「~~~~~~~~!!」


 明らかに動揺している。面白い。

 これはちょっといじめたくなってくる。

 俺そういう趣味は無いんだけどなぁ……。


 その後、写真を撮って貰ったあと俺と南帆はそのあたりをぶらぶらとすることになった。

 俺たちの役目は客寄せパンダである。だから衣装もそのまま着ている。


「……ばかばか」


 南帆からはぽかぽかと打撃攻撃を受けたがそれこそかわいい威力だ。

 何しろ効果音がぽかぽかなのだから。ぽか波さんではない。

 

「まあ、からかったのは悪かったけど。でも、かわいいと思ったのは本当だから許してくれって」


「…………ばかっ」


 小さなゴスロリお嬢様にぽかぽかと殴られながら俺たちは再び文化祭の喧騒の中へと舞い戻った。

 しかし今度は尋常じゃなく注目されている。……そりゃコスプレなんかしてたらそうなるか。

 恥ずかしいという南帆の気持ちもよーく分かる。




「なにあの子、かわいいっ」


「お人形さんみたい……」




 当然のことながら南帆はみんなの視線を集めまくっている。

 普段から一緒にいる俺でさえかわいいと思ってしまったのだから当然と言えるだろう。

 確かにお人形さんみたいだ。うん。やっぱりかわいい。



「あ、でも隣の男の子かっこよくない?」


「わたしタイプかもっ」




 生憎とBBAに興味はない。年齢を十二、三は減らしてから出直してくれ。

 と、俺が心の中でノーサンキューなことを呟いていると、不意に隣から南帆の視線を感じた。

 南帆は相変わらず無表情だったんだけれども、俺からすればむすっとした顔をしているように見えた。


「何怒ってるんだよ」


「……海斗、今ニヤニヤしてた」


「してねぇよ」


「……モテモテ。嬉しそう」


「幼女からモテたら嬉しいよ。幼女からモテたらな」


 幼女からモテたらもう死んでもいい。いや、死ぬのはだめか。

 その幼女をもれなく全員養いたい。

 しかし現実は非情なのである。


「……だっこして」


「は?」


「……だっこ」


 なにを仰っているのか分からないがこの小さなお嬢様はむすっとした顔のままだっこを所望してきた。

 ぷくーっと不機嫌そうに頬を膨らませている南帆は珍しい。


「……執事はおじょうさまの命令に従う」


「あー、はいはい。かしこまりましたお嬢様っと」


「……ふぇっ」


 ワガママな南帆お嬢様のご命令をかなえる為にがふわっと南帆をだっこする。

 こういうのはやっぱりお姫様抱っこが正解なのだろうかと思ってお姫様抱っこをやってみた。

 南帆はやっぱり軽いな。こんなところでするのはちょっと恥ずかしいけれど、こんなところでだっこをせがむからには南帆には何か考えがあるに違いない。


「………………………………」


 南帆はだっこされたままぎゅーっと何故か俺にしがみついてくる。

 ぼそぼそと「……わたさないもん」と周囲の人達に向かって小さな声で何かを呟いている。


「……で? 南帆、ここから俺はどうすればいいんだ」


「…………(ぎゅーっ)」


 南帆は恥ずかしいのか真っ赤な顔を俺の胸にうずめている。

 なにこれ。

 俺はここからどうすればいいんだ?


 南帆の意図がまったく読めない。いや考えろ。南帆がこんなところでだっこをせがんだからには何か意味があるはず……しかもわざわざコスプレして……コスプレ?


 ま、まさか! そうか南帆……お前、お前ここまでしてコスプレ研究会の為に頑張ろうとしているのか⁉

 なんてやつだ。さっき出会ったばかりのコスプレ研究会のやつらのために恥ずかしい思いをしながらも頑張ろうとしているなんて……。


 よし、俺も南帆に負けていられないな!


「……海斗」


「ん? どうした南帆。俺もお前を見習って頑張ってコスプレ研究会を宣伝す」


「……おろして」


「はい?」



 その後、南帆を降ろした俺は南帆と一緒に適当に辺りをぶらついた。

 コスプレ研究会の面々からは「良い宣伝になった! おかげで興味を持ってくれた人たちが来てくれて繁盛してるよ! いつかこの御礼は改めてする。本当にありがとう!」と言われた。


 三十分が経って南帆もパタパタと恥ずかしそうに部室に戻って行った。


 ……さて、次はいったい誰が来るんだろう。




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