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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第8章 一年生と二度目の文化祭
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第85話 夏祭りへ

 小春は浴衣姿のまま、集合場所で南央を待っていた。顔は特に隠してはいない。せいぜいが髪型を変えた程度だ。しかし、堂々としているとこれがまた意外と気づかれない。

 髪型を変えているというのもプラスに働いているのだろう。それと、そもそもこの集合場所に人けが少ないというのもある。


 集合場所についてから一分もしないうちに、南央がやってきた。

 少し小走りで、急いでいたことが伺える。

 あらかじめ二人で決めていた集合時間までまだ十分ぐらいはある。


 おそらく、先に集合場所にたどり着いていた小春を見て慌てて駆け出してきたのだろう。

 そんな親友に思わずかわいいなぁ、と笑みを浮かべてしまう。


「ご、ごめん小春ちゃんっ。遅れちゃって……」


「ううん。まだ時間までは余裕があったし、それにわたしもついたばかりだったから、そんなに待ってないよ」


 小春がそう返すと、南央はほっと安堵の息を漏らした。

 家が近い二人は文研部で決めた集合場所まで一緒に行こうということで、二人の家から近いところに集合場所を決めて、あらためて部で決めた集合場所まで一緒に行こうとしていた、のだが……。


「南央ちゃん、南帆先輩は?」


「うーん。それがお姉ちゃん、昼間からどこかに行ってるみたいで……浴衣を持って行ってたみたいだし、連絡も来たから大丈夫だとは思うんだけど……でもたぶん、気遣ってくれたんだと思う」


「なにを?」


「えっと、たぶん、なんだけど。わたしたち一年生同士、気兼ねなく楽しめるように、かな?」


 実際、南央の予想は当たっていた。

 先輩がいては素直に楽しめない部分は出てくると考えた南帆は海斗の家に用事を済ませると同時に、一年生二人……いや、親友同士二人だけの時間を作ってくれたのだ。


「あ、小春ちゃんその浴衣、かわいいっ!」


 南央は惚れ惚れとした様子で小春の浴衣姿を見つめている。


「さすがはアイドルさんだなぁ……かわいいし、きれい」


「う……な、南央ちゃんの浴衣もとってもかわいいよっ」


 見られたり、かわいいと言われたりするのは元々の仕事柄慣れてはいる。

 でも、親友の子にキラキラとした目で言われるとちょっと照れる。


「あ、ありがとっ」


 南央は照れながらもにっこりとした笑顔を返してくれる。

 小春は、南央のこういう、純粋な笑顔を無邪気に見せてくれるところがかわいいなと常々思っている。

 残念ながら本人はそこに気が付いていないが。

 

 二人は互いに笑顔を見せあうと、手をつないで歩き出した。


 ☆


 突如として現れた姉ちゃんは、見事南帆に浴衣を着せてあげると、用事があるからといって慌ただしく出て行った。

 ぼそっと「まーた暴れてるよ……前は見逃してあげたけど、やっぱりあの組織、潰しちゃおっかな」なんて物騒なことを呟いていたけど気にしない。


 いや、でも確かあともう一つ。

 姉ちゃんは俺に向かって、こういった。


「かいちゃん。いま、楽しい?」


「? どうしたんだよ急に」


「答えて」


 その時の姉ちゃんの目はとても真剣で……何かを確かめるかのような感じだった。

 だから俺も俺なりに真剣に考えた答えを、姉ちゃんに返した。


「楽しいよ。とっても」


「……そっか。それなら、良いんだ」


 姉ちゃんはふっ、と儚げに微笑んだ。

 その時の笑みが、俺にはなぜか印象に残った。

 ……とりあえず、明日は姉ちゃんの好きなご飯でも作ってあげよう。


 ☆


 南帆と一緒に部屋を出ると、同じタイミングで出てきたであろう加奈とばったり出くわした。

 加奈はジトッとした目で俺のことを見てきたけどそこは気にしない。

 ていうか、これは勝手に南帆が入ってきたことなのであって俺には関係ないのだ。


「むぅ……海斗くん、昨日の今日でもう浮気ですか」


「……海斗、浮気ってどういうこと?」


「まて落ち着け。そもそも浮気もクソもないだろうが勝手に事実を捻じ曲げてんじゃねぇぞBBA共。……まったく、二人ともかわいい浴衣着ているなと思ってたらこれだよ」


 そんな何気ない事実をため息交じりに言うと、


『……………………』


 二人はなぜか無言で「まぁ許す」みたいな雰囲気を出していた。

 頬が若干赤いのは気にしないでおこう。

 集合場所につくと、もう俺たち以外は全員集合完了していた。


「あ、遅いよかいくんっ」


「ふむ。集合した時点で両手に花とはなかなかやるじゃないか」


「おー、悪い悪い……って、なんで恋歌先輩がいるんですか!?」


 ごくごく自然に恋歌先輩が混じっていたのでびっくりした。


「これは失礼した。わたしがいては不満だというのなら、喜んでこの身を引かせてもらうが……」


「違いますよ。ただびっくりしただけです。ごく自然にいたもんですから」


「ふふっ。自然に周囲に溶け込むのは得意だからね」


 そういう問題なのだろうか。

 しかし、別に恋歌先輩が増えたところで問題はない。 

 既に俺の周囲はBBAに囲まれている状態なのだから。


 はぁ。せめて一人ぐらい幼女が欲しいよなぁ。

 このままじゃ俺は幼分が足りなくて干からびてしまう。


「海斗くん。犯罪じみた考えをしながら浴衣姿の幼女を盗撮するのは止めてくれませんか」


「違う。これはつい体が勝手に動いただけなんだ」


「ご丁寧にスマホのシャッター音を消すアプリまでインストールしてるよ……かいくん、こんなものどこからインストールしてきたの?」


「は? 自作にきまってるだろ。俺は幼女のベストショットのためならばどのような労力も惜しまない」


「……その労力をもう少し別のところに向けるべき」


「どうしてわたしはこの盗撮男にいつも定期テストで負けているのでしょうか……」


 美羽が頭を痛そうにして、ため息と一緒にそんなことを言ってくる。


「あのなぁ、俺だってこれでも必死に勉強してるんだぜ。それでも美紗には勝てないんだからな」


「うぅ……」


 美紗は照れたように縮こまっている。

 こういう時にどうした反応をしたらいいのか困っているのだろう。


「それにしても、海斗先輩って本当に勉強頑張ってますよね」と、小春。


「勉強、そんなに好きなんですか? なんかわたしのイメージだと勉強よりも幼女幼女だと思うんですけど……」と、南央。


 失敬な。


「俺だってなぁ、ちゃんと勉強が大事ってことはわかってるんだぞ。そりゃあ、勉強するには幼女の写真で定期的に幼分を摂取しないと集中力がもたないけど」


「…………なんか、海斗先輩がどうしてテストで毎回高得点を叩き出せたのか分かった気がしました」


「え? みんなも勉強のときに好きなものの写真を見て集中力を持続させるぐらいのことはするだろ?」


『……………………』


 むしろみんなやっていることだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 やはり幼女は偉大。


「おっとあの子は要チェックだな。犯罪者に狙われないように今すぐにでも守護しなければ!」


「待ちなさいこの犯罪者」


 加奈に襟首を掴まれてぐえっと変な声が出た。ていうか首が変な方向に曲がった気がしたような……いやきっと気のせいだ。気のせいに決まっている。




 花火大会が始まるまでまだ時間がある。それまでは、夏祭りの屋台を楽しむことにした。

 やはりお祭りともなると人が多い。はぐれないように気をつけなくちゃな。

 いろんな屋台があって目移りするなぁ。まずはどれからやろうか……なんて考えていると、くいくいっと南帆が俺の服の袖を引っ張った。


「……あれ、やりたい」


 南帆が指示したのは『射的ゲーム』である。

 とりあえずみんなで南帆のやりたいという射的ゲームの場所へと移動する。

 店主からピストルを手渡され、南帆は的に向かって構える。……が、身長的にどうにも狙いにくいご様子。


 恵にでも抱えてもらわなければどうにも狙いが定まりそうにないな。


「……海斗、だっこして」


 なん……だと……?

 だがまあ、抱っこぐらいはいいだろう。


「……お姫様だっこ」


 注文が多いな。

 南帆のじーっと見つめてくる視線に根負けした俺はしぶしぶ南帆を抱きかかえる。

 いわゆるお姫様だっこの体制。南帆はこんな風に抱きかかえられてて狙いにくくないのだろうかと思っていたが、いつも通りのクールな表情を崩さずに南帆は正確無比な射撃を見せた。


 ……ああ、そういえば射的『ゲーム』だもんなこの屋台。

 ゲームなら何やらせても負け知らずの南帆なら問題なかったか。

 南帆はどんどん的を的確に撃ち抜いていく。


 俺はいったい、いつまでこの体勢でいればいいのだろうか……なんて考えていたら、ふと視界に何かやばいものが入ってきた。それが、南帆の浴衣の隙間から除く白い肌だと気が付いて慌てて視線をそらす。

 あまりに慌ててしまったので首がぐきっと変な音をたてたが大丈夫。さきほど脳内フォルダに収めた浴衣幼女のことを思い出せば一瞬で再生できる傷だ。たぶん。


「……? どうしたの」


「い、いや、なんでもな、い!?」


 南帆がこちらを見上げてくるもんだから、角度的に更にその、浴衣の中に眠る白い肌というか、胸というか、そういうのが更に際どく……ッ!


「ていうか、ま、まだか!?」


「……あと少し」


 南帆は淡々と的確に獲物を撃ちぬいていく。屋台のオヤジの顔が青ざめていくのが分かる。

 お気の毒に……。南帆に目をつけられたのが運の尽きだと思って諦めてくれ。


 体感的にはかなり長い時間がようやく終わって、俺は南帆のお姫様抱っこから解放された。

 ため息をついて何事もなかったことに安堵する。


「かいくんかいくん、じゃあ次こっちにもいこっ!」


 一難去ってまた一難。今度は恵に腕を引っ張られて別の屋台に連れて行かれることになった。

 連日行われた文化祭の準備の休憩と夏の思い出づくりとしてこの夏祭りにやってきたのだが、どうやらまったくいつもと変わらないらしい。

 俺はこの後、恵だけでなくBBA共に順番ずついろんなところに引きずり回された。


 そして、そのあとは花火大会が。



「あ、そろそろ花火がはじまるみたい」


 と、美紗がパンフレットを見ながら言った。


「わたし、花火大会に参加するのははじめてなので……楽しみですっ」


「小春ちゃん、花火大会に来たことなかったの?」


「うん。今までは仕事があったから……」


「じゃあ、みんなで見るこの花火がはじめての花火大会、ですね」


 美羽が自愛のこもった眼差しで二人の後輩を見ている。


「んー。はやくはじまらないかなぁ」


「……もうはじまるはず」


「ふふっ。楽しみです」


「そういえば、加奈くんもここの花火大会は初めてだったかな?」


「はいっ。去年は行かなかったですから」


「まあ、去年の夏休みはいろいろあったからなぁ……コミケ行ったり、文化祭の準備をしたり。生徒会の手伝いもあったから忙しくて花火を見に行く暇もなかったもんな」



 みんなで夜空を見上げていると、不意に花火があがった。

 夜空に満開の光の華が咲く。それが何発も、何発も。

 次々と満開の花を咲かせていく夜の空に、俺たちは見惚れていた。




 俺はこのいつもと変わらない、みんなと過ごす日常がとても楽しかった。

 それは中学のころにはなかったものだから。

 今の俺は中学のころとは明らかに違っていて、自分がまったく違う世界にいるのかとさえ思っていた。







 だから。











 まさか。










「――――ふぅん。どうやら楽しくやってるみたいじゃない? 中学の時のアンタとは大違い」







 まさか。








「――――――――!」










 アイツがこんなところにいるなんて、想像もしなかったんだ。











「――――――――愛我錠あいがじょう……貴実花きみか……」









 それは、もう二度と呼ぶことはないだろうと思っていた名前。













 中学のころ、俺を地獄の底に叩き落とした……悪魔の、名前。











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