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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第8章 一年生と二度目の文化祭
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第84話 侵入者

 目の前には完全に無防備な女の子がいて、俺はその子を押し倒している状態になっている。


 …………あれ? これって何かやばくね?


 誰かに見つかろうものなら即アウト。

 そ、それに……なんだか良い香りがしたりするし、今日の加奈はどこか色っぽいというかなんというか……。


 やばい。直感で分かる。これはやばい。

 そしてここで、俺は自分の手が加奈の頬に触れていることに気が付いた。


 心臓の鼓動がドキドキとうるさくて、体が熱い。

 体がまるでいつもの自分の物じゃないような気がして、そのまま加奈に向かって倒れ伏そうとしたその時。


 チクリ、と。


 胸のどこかが痛んだような気がした。脳裏に蘇るのは――――中学の頃の記憶。

 あの、地獄ともいえる中学の頃。周りから虐められて、罵詈雑言を浴びせられていたあの頃。


 ――――良いのか。俺なんかが。俺如きが。


 思い出したのはもう一つ……加奈や南帆、恵に美紗と美羽、小春に南央、恋歌先輩のみんなの顔。


 ――――これを、壊してもいいのか?


 その記憶が、俺を最後の一歩でギリギリ留まってくれた。








「……バカ。俺になら何されてもいいとかそんな冗談言うなよ。お前、本当に危なっかしいな」


 俺は表面的には冷静に、しかし心の中では物凄く慌てながらベッドから飛び降りた。 

 やばいやばい。心頭幼女で満たせばBBAもまた涼し……。

 ロリコン紳士として危うく道を踏み外してしまうところだったぜ。


 ふぅ、と息を吐いていると、未だベッドに寝転んでいる状態の加奈が顔だけこっちに向けていることに気が付いた。

 仰向けに寝転んでいるにも関わらず、更にいえば服の上からでも分かるぐらいのボリュームのある胸にはあえて視線を逸らしておく。


「…………」


「な、なんだよ」


 俺がドキドキしながら加奈の方を見ていると、その加奈当人はぷくっ、と不機嫌そうに頬を膨らませた。




「……海斗くんのヘタレ」

 

「はぁ!? そ、そんなことねーし!? て、ててててていうか、何がヘタレなのかまったく分かりませんな!」


 なんてやつだ。感謝されてもいいぐらいなのにまさかヘタレ扱いしてくるとは思わなかった。


「……でも、ちょっと安心しました」


「……何が」


「……わたしも、迷ってたんです。今の居場所を壊してもいいのかな、って。さっきもずっと迷ってました。これでいいのかなって。わたしだけが……って」


 加奈だけがって……なんのことだかさっぱりなんですけど。


「直前までずっと迷ってて、海斗くんがやめてくれるまでずっと迷ってて……だから、海斗くんがヘタレで助かりました」


「お前何気に酷くね?」


 その後、俺はヘタレ扱いされたことにややモヤモヤとしつつ、自分の部屋に戻って寝た。



 ☆


 夏休みが終わるまでの時間はあと少ししか残されていなかった。そんな残された僅かな時間の間に俺たちは準備を進めていくしかなかったのだけれども、それでもまあ、去年と同じように充実した夏休みを送っていた。


 だけど、いくら充実しているとはいっても、楽しいとはいっても、さすがに毎日頑張っていると疲れてしまう。そこで、文研部のみんなで夏祭りに行こうということになった。

 その日は一日中息抜きすることにして、夏祭りが終わると(何故か)俺の家でアニメの鑑賞会をすることになった。


 もうすぐ夏休みが終わるというのに大丈夫かという気もしないでもないが、冷静に考えると夏休み明けになってすぐに文化祭、というわけでもなく一ヶ月ぐらいの猶予はあるのだ(その猶予はクラスの出し物の準備に追われてしまうだけで)。


 一日ぐらい遊んだってまあなんとかなるだろう。

 そんな夏祭り当日の朝。

 今日は一日息抜きの日ということになっているので、朝食を食べたり顔を洗ったりしてからまたベッドに直行した。


 顔を洗ったから目が覚めたかと思ったけどそんなことはなかった。ここ数日、頑張りすぎた為に疲れが思った以上に溜まってしまっていたらしい。何しろ昨日は疲れがたまってぼーっとしていたせいか、あろうことかどこか(おそらく部室)に鍵を落としてしまった。


 そんな俺のピンチにまるで狙い澄ましたかのように姉ちゃんが来て鍵を渡してくれなかったら危なかった。はやいうちに学校に鍵を探しにいかないと。


 携帯を見て時間を確認しようとしたが、充電を忘れてしまっていたせいか電源がつかない。そういえば昨日、帰る途中でバッテリーが切れて充電器にさしておくのを忘れてた。

 まあいいや。充電は後にして、今日は眠いのでここは素直に眠るに限る。

 眠気に身を任せて瞼を閉じる。


 しばらくそのまま眠っていたら、不意にインターホンが鳴り響いたような気がした。隣の加奈の部屋からだろうか。あいつ、しょっちゅう尼で注文してるしな。俺もよく使うけど。

 そんなわけだから気にせずに眠っているとまたインターホンが鳴る。……もしかしてうちか。


 体を起こすのもだるいから、宅配業者さんには悪いけどここは居留守を使わせてもらおう。眠い。夢の世界に花道オンステージ。


 あ^~チノちゃんとぽっぴんじゃんぷしたいんじゃぁ^~。え、犯罪? ああ、そうですか……。

 なら、あ^~チノちゃんと心ぴょんぴょんしたいんじゃ^~……これも犯罪? あ、はい……。








「……そろそろ起きる」 


 ずし、と体に微かな重みがかかり、更にぺちぺちと頬を叩かれ……いや、触れられた。

 まだ眠りが浅かったせいか、それとも外からいろいろと刺激が加えられたせいか、はたまたそのどちらもか分からないが、とにかく俺は夢の世界から帰還してきた。


「……寝言がかなり危ない人のそれだった」


 え、マジで。今の夢、寝言になってたの?


「……それよりもお前がどうしてここにいるのか説明してくれませんかね」


 俺は確かに鍵を閉めたはず。それなのにどうしてベッドで寝ていた俺の上に南帆がのっかっていらっしゃるのだろうか。

 その相変わらずクールで感情表現の乏しい顔はじっと俺を見て……いや、この場合は見下ろしている。


 今日はワンピースに身を包んでいる南帆。こいつ(正確には文研部のやつら全員だけど)らの私服はもう何度も見ているけど、この服は見たことがないな。少なくとも、記憶の中にはない。新しく買ったやつか? かわいいじゃん……のしかかっていなければ、素直にかわいと思えるんだけど。ていうか足。なんか下着とか見えそうでこわいんだけど。大丈夫かこれ。


「……鍵」


「お前それうちの鍵じゃねーか!」


 南帆が差し出したのはなんということでしょう。我が家の鍵ではありませんか。


「……昨日、部室に忘れ物を取りにいった時に落ちていたのを見つけた」


「なんでそれを教えてくれなかったんだよ……」


「……海斗の携帯、繋がらなかった」


 あ、そういえばバッテリーが切れてたんだった……。


「……悪い。つーかありがとう」


「……別にかまわない。ここに来る口実ができたから」


 そう言うと、南帆は頬をやや赤くしてぷいっと俺から視線をそらした。

 南帆のこういうところはホント、素直にかわいいと思えるよ。


「口実も何も、そんなもんなくなっていつだって来てくれても構わないけどな」


 ていうか現状でもなんか大学の近くに部屋を借りて溜まり場にされている大学生みたいな状況になっているし。


「……ホント?」


「ホントホント。だからさっさと降りてくれ」


 俺は忘れてないぞ。南帆はさっきからずっと俺の上に跨っている状態なんだから。

 

「……やだ」


「そうかそうか。分かってくれてなによ」


「……やだ」


 なん……だと……?


「……いったいいつから、わたしが海斗の上から降りることを了承したと錯覚していた?」


「さっきからだよ!」


 俺を起こすためならまだ分かる。でもなんで俺が起きたのにもかかわらずさっきから乗りっぱなしなんだ? 鍵も一応、ちゃんと返してもらって……なかったわそういえば。


「じゃあとりあえず鍵返せ」


「……やだ」


「お前マジで何しに来たの? さっさと返さないと無理やりにでも起き上がるからな」


「……あまり強い言葉を遣わない方がいい。弱く見えるぞって天に立った人が言ってた」


「知ってるよ!」


 このままダラダラと話し合いを続けていても平行線なのは俺も南帆も分かっていた。そのためか、南帆はぷくっと不機嫌そうに頬を膨らませている。


「……それだけ?」


「新しい服のことなら普通にかわいいから安心しろ。つーか上から退いてくれたら素直に褒めてたわ!」


 本当に、二次元はともかく三次元の女の子はめんどくさい。やっぱり三次元は幼女に限るぜ。


「……じゃあ、退く」


 南帆はさきほどまでの抵抗が嘘のように素直に退いてくれた。

 なんだこいつ。本当に三次元の女の子はわけがわからない。

 すっかり眠気も飛ばされてしまった俺はむくりと上半身を起き上がらせる。


 すると、今度は南帆がじーっと俺の方を見つめてくるのでなんだろう……と思っていると、ついさきほど俺が言った「素直に褒めてた」発言を思い出した。


「……………………………………(ほめてほめて)」


 最近、どうにも無言でも(もともと南帆は口数が少なかったけど)南帆の言いたいことがわかってしまうようになってきた。


 そわそわと待つ南帆がなんか犬みたいだ。もしも南帆に尻尾があったら振ってそう。



「……そのワンピース、かわいいよ。南帆によく似合ってる」


 ついでにわしゃわしゃと南帆の頭を撫でる。そわそわとしながら待つ南帆が犬に見えたからつい撫でてしまった。俯き加減になった南帆がちょっと照れくさそうにしているのもまた新鮮だ。


 ここでようやく起きることに成功した俺だが、ふとリビングにあった南帆のものであろう荷物に視線が向かってしまう。


「あれ、なにこの荷物」


「……わたしの」


「それは分かってるけど……鍵を届けに来たにしては大荷物じゃないか?」


「……今日の夏祭りに着ていく浴衣が入ってる」


「なんで?」


「……ここで着替えていくから」




 …………え?




 俺が呆然としながら南帆の方を見ると、南帆は涼しい顔をして勝手に俺のゲームを起動させている。


「あの、浴衣、一人で着れるもんなの? 俺あんまり浴衣のこととか知らないからわかんないけど」


「……海斗が手伝って」


「助けて姉ちゃん!」



 

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