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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第8章 一年生と二度目の文化祭
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第82話 試作品

 今年の文化祭は屋台。クレープ屋さん。そのためには屋台が必要になってくるわけで、そのためには生徒会に申請しなくちゃならないわけで。

 急いで正人に使用申請を出してみたら一枠余っていたそうなのでなんとかなった。なんでも、直前でキャンセルが出ていたらしい。本来はバレー部が使用するはずだったらしいが、文化祭当日に試合が入って参加できなくなったためのようだ。


「助かったぁ……」


 生徒会室になんとか提出を済ませることに成功した俺は、家に帰るとさっそくパソコンを起動させて検索をかける。調べたのはクレープの作り方。クレープは好きで去年の文化祭でも作ったけど、前のやつは今思えばまだまだ未熟な部分が多かったからもう一度、一から勉強しなおす。


 今回はメインになるわけだから、もっとちゃんとしたものを作りたい。


 料理サイトやレシピを見つけて情報を拾っていき、動画サイトで実際にクレープを作っている料理紹介動画を何度も見る。一回や二回程度じゃだめだ。何度も何度でも動画を見る。

 そのすべてを真似するのではなく、コツのようなものを少しずつ掴んでいく。


 それらの作業が終了したころにはもう外は暗くなっていたが、どうせ今は夏休み。課題も既に全部終わらせているし問題はない。さっそく調理開始。


 メニューはとりあえず作ってみてからバリエーションを増やしていく予定だ。

 ネットのサイトや動画から得た知識やコツを活かして試しに作ってみる。

 意外とクレープ生地を焼くのが難しかったり、中のいちごとかを崩さずに巻くのが難しかったが、なんとか完成。…………意外とすぐに出来ちゃったな。まあ、去年は一応、作ってたので元から多少のノウハウはあったわけだし。


 とりあえず試食。食べてみた感想はまあ、悪くはない。こんなもんだろう。何らかのアレンジをしようかと思ったけど、素人が下手に手を出すとラノベとかに出てくる料理下手キャラみたいなことになりかねないのでやめておく。


 でも、今後の参考に他の人の意見は是非とも聞いておきたいし。この場合、一番近い場所にいるのは……加奈か。姉ちゃんは大学のサークル仲間と活動しに行っているからいないし。

 じゃあ、さっそく今から持っていくか。……いやまて今は何時だ。夜の十時過ぎ。


 こんな時間に女の子に対してクレープを試食してもらうのは……まずいんじゃなかろうか。なんか夜に甘いもの食べたら太るみたいなのはお約束だし。

 じゃあ明日持っていくとして。


「これでいいのか?」


 俺は、ついさっき作ったばかりのクレープの味を思い出す。

 普通の、簡単に作っただけの、それ相応の味。

 果たして俺はあれで満足してしまってもいいのだろうか?


 去年の文化祭は大成功だった。ある意味あの日は、俺の人生のターニングポイントといっても過言ではない日だった。あの日から俺は本当の意味で友達が出来て、あいつらのことがもっと好きになった。……うん? 好き? そうだ、友達として? 好きだな。


 友達。うん。あいつらは、俺にとって大切で、掛け替えのない友達。俺はあいつらが大好きで大好きでたまらなくて。だから今年の文化祭も絶対に成功させたい。そんな文化祭で、この程度の味で俺は満足してしまってもいいのだろうか。


 否。断じて否だ。この程度の味で満足していてはならない。最低でも去年ぐらいの味はキープしなければなるまい。これは俺の信念と意地の戦いだ。

 ましてや、俺の大好きで大切な友達に対する差し入れ。完成度を高めて更なる高みへと昇るのは当然のこと。


「さあ……ここからは俺のステージだ!」


 俺は新たに気合を入れて、徹夜は承知の上で更なる研究にまい進した。




 ☆




「ふぅ……」



 私、天美加奈は徹夜明けの体をゆっくりを伸ばす。作業台はいつものプラ版やジャンクパーツではなく、製作途中である、文化祭の屋台の装飾が占領していた。本来ならば生徒会への屋台の申請も私が行こうとしていたのに海斗くんが引き受けてくれた。


 これぐらいは部長としてはやっておかなくちゃならない。

 でも、ちょっとぐらい休憩するのもいいだろう。


「さて、と。息抜きにプラ板でも削りましょうかね」


 製作途中のガ〇プラがあった。コンペ用に追加装甲を施した機体を製作しようとしていた途中で、装飾を作ってからにしようかと思ったけれどやっぱり続きが気になる。


「ちょっとだけちょっとだけ……」


 プラ板を削って追加装甲部分を製作していく。色はグレー系の色にしよう。あとでまた家電量販店に塗料を買いに行かなくちゃ。あ、そうだ。ちょっとした作業用BGMにEP7でもつけようかな。

 よし、眠気覚ましにお風呂に入ってからやろう。そうしよう。

 

 そんな感じで徹夜明けの息抜きは続き……、



「……あれ?」



 いつの間にかお昼になっていました。



 おかしい。息抜きをはじめた時はまだ早朝の三時だったのに。

 ちょっと息抜きして、装飾も作ってから寝ようとパジャマ姿にもなったのに。

 それがいつの間にかお昼の十二時過ぎてる……。


 ま、まさか、これが噂のキ〇グ・クリムゾン? ぜんぶ紘汰さんのせいだとでもいうのでしょうか?

 はっ! 私が削っていたプラ版は実はぜんぶサ〇コフレームで、それがなんやかんやあって不思議な力を発揮して時間をキンクリした!?


 キング・ク〇ムゾンの能力では、この世の時間は消し飛び・・・・・・そして私は、この時間の中で動いたプラ板を削る音を覚えていないッ! プラ板は、削られた事に気づかず! 削られたプラ板は、消えた瞬間をプラ板自身さえも認識しない! わたしは息抜きをし過ぎて時間を過ごしすぎたという結果だけ! この世には結果だけ残る!




 …………うん。どうやら私は相当、疲れているようだ。




 もう頭が完全におかしくなっているとしか思えない。

 更なる眠気覚ましにコーヒーでも……いや、カフェインハイテンションになりかねない。

 ああ、もうそろそろ本格的に眠たくなってきた……。


 私がベッドにむかおうとした瞬間、家のインターホンが鳴った。誰だろう。兄さん……はサークル活動とやらで遅くなるらしいからまだ帰ってはこないはず。

 宅配便? そういえば尼で新しいキットとパーツを何個か注文してたはず。

 

「ふぁい……」


 私は眠気を振り切りつつ、フラフラしながらもドアを開ける。

 そこには、私の予想外の人物が立っていた。


「よ、よう」


「ふぇっ!? か、海斗くん!?」


 そう。ドアを開けてそこにいたのは、タッパーを片手にした海斗くんだった。


 普段海斗くんから私の部屋に尋ねてくるなんてことは滅多にない(私の方からはあっても)。それなのにわざわざ私の部屋に尋ねてくるなんて本当に珍しい。


「ど、どうしたんですか? いきなり」


「悪い。いま取り込み中だったか?」


「いえ。そんなことないですっ」


 と、ここでわたしは重大な事実に気が付いた。



 ……わたし、パジャマ姿だった――――――――!



 ああ、もう、わたしってばどうしてこんな時によりにもよってパジャマ姿!? どうせならもうちょっとかわいい服着ていればよかったと今更後悔。


「と、ところで、珍しいですね。海斗君の方からわたしの部屋に尋ねてくるなんて」


 言いつつ、わたしはパジャマを両手で隠す(ぜんぜん隠しきれてないけど)。頬が熱いのは恥ずかしいのと、ドキドキするから。


「あー……実は、さ。とりあえずクレープ作ってみたんだ。食べてみてくれないか?」


 海斗くんはとりあえず自分で試作品を作ってみると言っていた。わたしたちの中で一番料理が出来るのはぶっちゃけ海斗くんだからそこは任せていたけれども、まさかもう試作品を完成させてきてたなんてまったく思わなかった。



「まずは、入ってください」



 わたしは海斗くんを家の中に招き入れる。普段からちゃんと片づけているから問題はない……自室以外は。


「お邪魔します」


「えと……パジャマでごめんなさい」


「謝る必要なんてないって。似合っててかわいいから気にする必要ないぞ」


「……そ、そうですか……えへへ」


 どうして海斗くんはいつもサラッとこんなことを言えるのか。本当に謎だ。そ、そりゃあ海斗くんからかわいいって言ってもらえてうれしいですけど。


「じゃ、食べてみてくれ」


 海斗くんが手に持っていたタッパーを開けて、中にある試作品のクレープをお披露目した。

 これが試作品、それもクレープを作ってみたばかりの初心者とは思えないぐらいの完成度を誇るそのクレープは生地も柔らかそうで美味しそうだし、中にあるフルーツも星型に切ったりして見ているだけでも楽しい。


 生クリームとカスタードクリームを使っているようで、もしかすると海斗くんの自家製クリームなのかもしれない、とわたしは直感した。


「これ、海斗くんが作ったんですよね?」


「当たり前だろ」


 思わず確認を取ってしまったが、疑ってしまうぐらいの完成度。いや、こんなものは店でもなかなか売ってはいないだろう。


「じゃあ、いただきます」


 さっそく一口試食。

 食べた瞬間に海斗くんの自家製であろう生クリームとカスタードクリームと、バラエティ豊かなフルーツ、そしてクレープ生地が絡み合ってわたしの口の中を程よい甘さで満たしてくれる。


「どう、だ?」


 ちょっと緊張気味の海斗くんの視線にこっちもちょっとドキドキしながらも、わたしは正直な感想を口にした。


「とっても美味しいです! これなら絶対にみんなも買ってくれますよ! ああ、むしろ定期的に作ってほしいぐらいです……」


 わたしはあっという間にクレープを食べてしまった。昨日から作業に夢中で殆ど何も食べてないというのも響いたのだろう。仮に何かを食べていても、このクレープはすぐに食べきれただろうけど。


「そっか。よかった……文化祭に出すもので半端なものは作れないから昨日から研究と改良をずっと重ねてたんだ」

 

 海斗くんの表情からは一年前を懐かしむような、それでいて大切な宝物を見ているかのような、そんなことが感じられた。

 そっか。海斗くんも、一年前の文化祭のことを、大切に思ってくれているんだ。


 そう思うとなんだか嬉しくなってきて、自然と笑顔になってくる。



「ふふっ」


「? どうしたんだよ」


「んー。なんでもないですよーっ」


「そんなこと言われたら気になるだろ」


 唇を尖らせて拗ねたように言う海斗くん。かわいい。


「そんなに知りたいですか?」


「む……まあ、なんか焦らされたらな」


「じゃあ、わたしの注文を叶えてくれたら教えてあげます」


「いいぞ。俺に出来ることならなんでも言ってみろ」


「じゃあ、枕になってください」


 わたしのそんな眠気満載の頭から出てきた突拍子のない言葉に、海斗くんはきょとんとしたような顔になって。


「は?」


 と、至極当然・・・・の反応をした。



 ☆



 フラフラとした足取りでわたしは海斗くんを自分の部屋に招き入れた。

 眠気が限界に達していたわたしはぼふん、とベッドに倒れ込む。


「天国ですぅ……」


「おい、枕ってなんだ枕って」


「こっちに来てくださいよ~」


 半ば眠っている状態でわたしは海斗くんを誘ってみる。海斗くんはしばらくの沈黙のあと、躊躇うようなそぶりを見せてから、ゆっくりと布団の中に入ってきた。

 うにゅ……いままでの海斗くんなら……平気なカオして入ってきそうなのに……。ああ、眠い。


「お、おい。は、はやく教えろよ……っていうか、冷静に考えてここまでしなくてもいいよな……よし、出よう!」


「逃がしませんよ?」


 ぎゅっ、と海斗くんの背中を抱きしめる。まだ実家にいた時も、ちょうどこんな感じで抱き枕で寝てたっけ……。


「待て待て待て! こういうのはまずいだろ! ほら、む、胸とか当たってるし!」


「あれぇ? BBAの駄肉なんて興味ないんじゃなかったんですかぁ?」


「そ、そりゃそうだよ」


「だったら大丈夫じゃないですか」


「いや、それはそれでだな……あー、もう。俺もわかんねー!」


「ていうか、海斗くんは何も思わないんですか?」


「何もってなにが」


「わたしが、こうやって海斗くんと一緒の布団に入って、海斗くんの背中をぎゅっと抱きしめて……胸だって、押し付けてるのに。何も、思わないんですか?」


「お、思わねーけど?」


「むぅ……わたしいま、パジャマけっこうはだけてますよ?」


「だからなんだんですかね!? ていうか、お前はホントに大丈夫なのかそれで!?」


「だいじょーぶ……わたしはもう、寝ますから……」


「寝るなぁああああああああああああああああああああああああ! 頼むから起きてさっさと離してください!」


「ぽかぽかです……」



 海斗くんって、こうしてぎゅっとしていればぽかぽかして気持ちいい。

 おやすみなさい。海斗くん。



 ☆




「はぁー……どうすりゃいいんだよ、これ」



 俺は、加奈に試作品の試食を頼みに来ただけなのに、予想外の状態に陥ってしまったことに対してため息をついていた。

 さっきから背中に柔らかい胸が当たってどうにも落ち着かない……けど、眠気の方が勝って意識が沈んでいきかけてる。


「ていうか俺も眠たくなってきた……」


 加奈の体の柔らかい感触とか、華やかな香りとか、そういうのが染みついたベッドや布団にくるまれているとか。本来ならばもうちょっと緊張するようなシチュエーションなんだろうけども、でも俺も俺で徹夜明けで。


 意識を完全に眠気に持っていかれた。



 二人そろって徹夜明けだって俺と加奈は二人で一緒に夢の世界へと旅立っていった。



 その寸前まで、心の中にある謎のドキドキを感じながら。




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