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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第8章 一年生と二度目の文化祭
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第81話 そういえば

 【文研部緊急集合】


 合宿から帰ってきて、夏休みももう終盤戦に突入しようというこの時期。

 突如として文研部LINEに部長である加奈からのお呼び出しがかかった。

 そのメッセージが送られてきたのは午前中で、俺は録画しておいた今期のアニメを消化している途中だった。


 テレビ画面ではロケットから打ち出されたロボットがリングを通りながら合体していて、そのシーンを一時停止して止めて俺は家を出る支度をした。メッセージを見る限り加奈は相当急いでいるらしく、詳しい内容を話さなかったからだ。


 支度を終えた俺は隣に住んでいる加奈の部屋のインターホンを押した。しばらくすると加奈が出てきて、俺がどうしていきなりみんなを呼び出したのかを問うと「それは全員そろってからまとめて説明します」と言ってきたので、一先ずそのまま二人で学園に向かって歩き出した。


 部室にたどり着いてからしばらく。

 いきなりの呼び出しにも関わらず、部員全員が揃った。


「ていうか小春、お前仕事とか大丈夫なのか」


「はい。今日は収録があるんですけど、夜からなので大丈夫です。まだ朝ですし、全然よゆーですよ」


「そうか。よかった」


「ふふ。先輩、私のこと心配してくれたんですか?」


 いたずらっぽく笑う小春に対して俺は思わず顔を逸らす。なぜだか分からないが、小春の事を直視できなかった。……いや、たぶん。恥ずかしかったから、だと思うけど。


「別に。ただ……ほら、仕事は大事だろ。遅れたら他の人に迷惑がかかるし。だから別にお前のことを心配しているわけじゃない」


「それなら、そーゆーことにしておきますね」

 

 そういってまた同じ笑みを浮かべる小春。

 くそぅ。なんだかバカにされているようで悔しい。

 これだから三次元BBAは……ていうか今更なんだけど本当にこの部室の男女比おかしいよね。だって1:7だもん。


「まずはいきなり呼び出してしまって、申し訳ありません。ですが、緊急の用件なんです」


「ふむふむ。かなみんが緊急というからには、ホントーにやばいっぽいよね」


「……それで、用件は?」


「はい。それがですね。私、思い出してしまったんです」


『思い出した?』


 俺を含めた、加奈以外全員の部員が首を捻る。

 はて。なにか気づくようなことがあったかな。

 この夏休みで何か変わったことがあったわけでもなし。


 疑問に首を傾げ続ける俺たちに対して加奈の表情は真剣だ。事態が深刻であることをその顔から察せられる。

 そして、ついに加奈がその決定的な言葉を口にした。


「文化祭……準備……ノープラン……うっ、頭が……!」


『思い出したぁあああああああああああああああああああああああ!』


 完全に思い出した。それはまるで、半分赤と半分青のロボットが鎧武者に背中のリブートボタンを押してもらって記憶を取り戻したぐらいの衝撃だった。まあ、思い出す前の記憶を失ったというわけじゃないけれど。


「そういえば……文化祭の準備、まだ何にもやってなかったな」


「あの合宿も、結局は遊んでただけだしねぇ」


 恵が苦笑しつつそんなことをいう。確かにあの合宿は文化祭で俺たちの出し物を何にするかというヒントを得るためにやったという建前もある。

 まあ、一年生たちに合宿で楽しく遊んでもらいたいという思いもあったのだが。


「と、いうわけで。これから文化祭の出し物を話し合うための緊急会議を行います。幸いみんなは今日、特に予定がないとのことなので今日は決まるまでちゃんと話し合いましょう」と、加奈。


「機械的にね」と、恵。


 そんなわけで、今年の文化祭は何をするかという会議が始まった。


「やっぱり今年も喫茶店かな?」


「まあ、一つの案としてはそれもアリですね」


 美紗の発言に対して美羽が頷く。やはりベターなところとしては喫茶店か。去年もやった分。新しいことをやるよりは喫茶店の方がノウハウがある。


「せっかくですので、今年は一年生の意見を参考にしてみましょうか」


 部長としての加奈の発言に、一年生二人が考え込む。

 確かに一年生は初めての文化祭だし意見に優先権を持たせるのもいいだろう。

 珍しく部長らしいことをするじゃないか。


「んー。そうですね。私も喫茶店がいいです」


 小春の発言に奈央も同意するように続く。


「私も喫茶店がいいです。だって私、去年は海斗先輩の手料理を食べることができなかったわけですし」


「おいまて料理とかそんな基準で決めるな」


 食いたいならいつでも作ってやるから勘弁してください。


「あ、そうだ。私、去年先輩たちが着ていた衣装も着てみたいです」


「そういえば、南美お姉ちゃんがそんなこと言ってた。私も着てみたいですっ」


 まずい。俺としては出来るだけ喫茶店は避けたかった。理由? 簡単だ。俺が死ぬから。マジで。

 去年の殺人的な忙しさは割と俺の中ではトラウマ気味なのではある。そりゃ楽しかったけど、でも途中で死にそうになったというのもマジなのだ。


「え、どうしてですか」


「あんなもんまたやったら今度こそ俺が過労死する」


 そもそもあの忙しさはそこにいる二年生のBBA共がコスプレだのなんだの衣装チェンジしていくから無駄に客が来てしまったのだ。


「では海斗くんの体力をいかにして維持するかについての話し合いを……」


「させねーよ!?」


 こいつ人の体を何だと思ってるんだ。


「まあ、冗談はさておいて、確かに今年は何とかする方法を考えないといけないよね」


 去年はBBA共もちゃんと料理の面に関しては手伝ってくれてはいた。でも去年の俺は大勢の前でこいつらと同じ部活をしているとは言わなかったから、ずっと厨房に籠っていた。だから調子に関しては俺がメインで、俺の負担が一番大きいのは当たり前のことで、俺もそれでよかった。こいつらにそこまで大きな負担はかけたくなかったし。でも流石にアレを繰り返すと死ぬ。俺が。

 

 ていうか冗談でよかった。……冗談だよな?


「んー。でも展示っていうのも地味でぱっとしない上に……この部活動の体たらくだと展示する内容なんてないですよね」


 部長である加奈がそんなことを言うが、確かにそうだ。

 この部室というのは言ってしまえばただの溜まり場みたいなもので、活動内容なにそれ美味しいの状態だしな。


 しかしこんな部活動ですら設立できてしまうのだからこの学園も色々と自由すぎると思う。まあ、正人が裏でちょこちょこ動いてくれているからこそ、部室も確保出来たんだろうけども。


 でも本格的に出し物はどうするか。俺としても一年生の意見は尊重してあげたい。

 しかしさすがに去年のアレをもう一度は死ぬ。

 でもなぁ……せっかくの文化祭だし、小春と南央のやりたいこともさせてやりたい。


「……屋台」


 ポツリ、と。

 俺はようやく、一つの言葉を絞り出した。


「先輩?」


 南央がきょとんと首を傾げながら俺の方を見た。この部室にいた他の女子たちも同じように俺の方を見てくる。


「……屋台はどうかなって。屋台なら、去年みたいなホール係がいない分調理の方に人を回せるだろ。それに出すものも手軽なものにすればそんなに大変じゃないし。これなら俺の負担が大きくても出来そうだし、宣伝とかで外出ればお前らも去年みたいないろんな衣装を着れるだろ」


 これで妥協してくれやください。


「おおっ、屋台かぁ」と、恵。


「それならなんとかなりそうですね」と、美羽


「……ぐっじょぶ」と、南帆。


「うん。今年は去年よりも頑張るね」と、美紗。

 

 一年生の二人の反応も悪くはなかった。了承してくれたということだろう。


「では、屋台で何を出しましょうか?」


 加奈の問いかけに対して真っ先に挙手したのは恵である。あんまり勢いよく立ち上がったもんだから恵の持つ豊満な胸がたゆんと揺れた。俺は思わず目を逸らしてしまったが、正人ならば凝視していた光景だろう。


「はいはいはーい! 私、クレープ屋さん出したいっ!」


「って、なんでお前が率先して意見だしてんだよ。一年優先だろうが」


「あ、そーだった☆」


 てへっとかわいこぶる恵。無駄に似合っているのだから困る。


「私もクレープ屋さんがいいですっ」


「小春ちゃん、クレープ好きだもんね。あ、ちなみに私もクレープ屋さんがいいです」


「やったぁ。けってーい!」


「なんだろな。一年生の方がしっかりしてるんじゃないか」


「うんうん。今年の一年生はしょーらいゆーぼーだねぇ」


「お前が子供っぽ過ぎるんだよ」


 その後も何度か議論を重ねて、具体的なプランを詰めていった。この部はなんだかんだで割と優秀なやつらが揃っていたので、具体的なプランを詰めるのも早かった。



「それでは、今年の日本文化研究部の出し物はクレープ屋さんの屋台にしたいと思います」



 最後は部長である加奈が締めた。

 こうして、俺たち日本文化研究部の二度目の文化祭の出し物が決定して。


 俺たちは、その目標に向かって動き出したのであった。





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