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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
SS⑤ なんちゃってDQNとBL少女
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ifストーリー 美紗ルート③

更新が大幅に遅れて本当に申し訳ありませんでした。

 渚美紗と友達になってから、委員長、副委員長の仕事はかなりスムーズになった。この学園において委員長、副委員長は一年間務めることになっている。

 最初はどうなることかと思ったが、無駄に怯えられることもなくなったのでこちらとしてはかなりありがたい。


 何もしていないのに怯えられるというだけでこっちはテンションが下がる下がる。だがもうそんなこともなくなったので、俺は晴れて本当の意味で副委員長になれたのかもしれない。

 しかし、まるでそのタイミングを見計らったかのように委員長と副委員長の仕事は増え始めたし、文化祭準備の手伝いもある。


 忙しくはなった日々だが、そんな日々に対して俺は毎日が充実しているような感覚だった。そういった日々を送っていると俺と美紗が二人っきりで過ごす時間も必然的に増えて、そうなってくると話題も色々なことに触れる。


 その中で俺がオタク趣味を持っていることをポロっと言ってしまい、一瞬焦ってしまったが意外と美紗もそういうのが好きらしい。特に乙女ゲーだの、BLネタだのが大好きだったのは意外にもほどがあった。


 まあ、だからといってどうということでもない。むしろ似たような趣味を持っていたことで更に親近感がわいて、休みの日には一緒にアニメグッズを買いに行くようにもなった。

 趣味の合う友達がいるっていうのはやはり、かなり楽しい。


 今日も、教室の中で持ち帰ってきた文化祭の準備の手伝いをしながら二人でお喋りに興じていた。夏休みが明ければもう文化祭で、それに向けて俺たちはパンフレット作りに勤しんでいた。

 ページを一枚ずつ確認して印刷ミスがないかどうかを確かめて、枚数も確かめてからホッチキスで止めていく。


 そんな作業を延々と繰り返している。でもこういった単純作業は俺は嫌いではないし、それに話し相手がいるなら問題はない。


「そういえば、美羽さんの方はどうなんだ」


「うん。文化祭の前日に退院だって」


「そりゃまた良いタイミングで退院したもんだ」


「そうだね」


 クスッと美紗が笑う。彼女のその笑みに、心臓の鼓動がドキンと跳ねる。見慣れた笑みのはずなのに、どこかドキドキとするような、そんな笑顔だった。

 俺はそんな自分をごまかすかのように別の話題を振る。


「美紗は当日、誰と一緒に回るんだ? 文化祭」


「うーん。まだ決めてない。お姉ちゃんは来ないって言ってるし」


 渚美羽という少女と俺はまだ数回程度の付き合いしかない。だけど真面目な彼女のことだから、準備もしていない自分が当日だけ参加するというのはしたくないのだろう。


「海斗くんは?」


「俺は……」


 まだ決めていない。当日ともなると正人たちは忙しくなるだろうし。

 そんな俺の心中を知ってか知らずか、美紗はぐいっと前かがみになる。やや興奮気味だ。


「も、もちろん正人くんと一緒だよね? 文化祭という特別なイベントで二人の仲が一気に……」


「おいばかやめろ。ていうか、生徒会の正人は当日は忙しいはずだ」


「あ、そっか……残念」


 しゅんと残念がる美紗。美紗の中で俺と正人の組み合わせは鉄板ネタとのこと。誰かー。助けてくださーい。

 しかし、文化祭か。どうしよう。一人でまわるのも悪くはないと思うけれど、でもやっぱり誰かと一緒にまわった方が楽しいよな。


 そんなことを検討しつつ、日は過ぎて行った。最初はボランティアであったはずの俺と美紗は、実行委員の人たちに重宝されているのか、いろんな仕事を頼まれるようになった。

 だがその見返りとして休憩のときにはケーキをご馳走してもらったりした。実行委員会はなぜか男子生徒はみんなガタイが良く(葉山は除くとして)、女子の実行委員たちはちょっと興奮気味だった。ちなみにその中には美紗も含まれている。


 嫌な予感がするのは俺だけだろうか。

 そしてある日、俺と美紗に実行委員会の方々からとある仕事を持ちかけられた。


「え……俺たちで展示を?」


 そんな俺の言葉に対して、実行委員会の男子生徒の先輩が頷く。ちなみに俺はこの人を筋肉先輩と心の中では呼んでいる。


「うむ。実は、実行委員会でも展示物を出すように急きょ言われてな。なんでも、今年のバレー部が奇跡の大連勝を見せて全国大会に出場することになってな。大会当日に文化祭があるとあってバレー部が展示物を出せなくなってしまったらしい。だからスペースを埋めるため、急きょ俺たち実行委員会が展示をすることになったのだ」


 かといって、今の実行委員会にその展示物を用意する余裕がない。時間も人員も確保が難しい。ということで、俺たちに白羽の矢が立ったということだ。

 頼めるか、と言ってくる筋肉先輩。この筋肉先輩にはいろいろとお世話になったので無下にはできない。俺は二つ返事で引き受けた。


 美紗も引きうけたようで、こうして俺たちは一緒に展示の作成を引き受けることになった。しかし、いくら筋肉先輩の役に立ちたいと思っていても二人ではまず何をしたらいいのか分からない。


「何かヒントがあればいいんだけどなぁ……」


 放課後の空き教室で、俺と美紗は二人で会議のようなことをしていた。展示をどうするかという話だ。文化祭まであと約一ヶ月。それまでにたった二人でなんとか展示を一つ作ってしまわなければならない。

 だけど今からそれを練って準備をして、というのもなかなか難しい。ていうか時間が足りない。


 俺が頭を捻って考えていると、不意に美紗が呟いた。


「写真……」


「写真?」


「うん。ほら、実行委員の人たちの作業の様子を撮影していたでしょ?」


 確か、アルバム制作用に生徒会の人たちが作業中の風景を撮影していた。


「文化祭の日までの出来事や作業中の様子を写真を使って纏めて、それを展示してみたらどうかな」


「おお、いいなそれ」


 確かに時間も予算もない今の状況だと妥当な案だと俺は思う。

 さすがは美紗だ。


「じゃあ、さっそく正人に写真を分けてもらえないか聞いてくるよ」


「二人っきりで?」


「いや、メールで」


 ワクワクした美紗はあからさまにしょんぼりとした。



「うう……こうなったら頭の中で考えるしか…………夕暮れ時の教室で二人っきりになった海斗くんと篠原くん。篠原くんが写真が欲しかったら俺のモノになれと海斗くんに迫って……」


「おいばかやめろ! それ以上言うんじゃない!」


 そんなわけで、俺たちだけの文化祭準備が始まった。

 

 正人から何事もなく無事に写真のデータを入手した俺たちは、さっそく細かい計画を練った。写真は文化祭開催前日まで、これからは俺たちの手で撮影していくことにした。

 実行委員の部屋に何度もお邪魔させてもらって、いろんな写真を撮った。実行委員の人たちは、事情を話してくれると全面的に協力してくれた。



「まあ、もともと俺たちが頼んだことだからな。協力は惜しまないさ」


「むしろ手伝えることがあったら遠慮なくどんどん言って。何でもするよ」


 筋肉先輩と葉山からもそうした声をかけてもらいながら、写真撮影そのものは順調に進んでいった。

 だけど問題はその写真をどうやって纏めるかで、展示物の作成作業だけはどうしても時間がかかった。

 毎日遅くまで二人で空き教室の中で準備をした。


 今日も、窓の外を覗くともう日が沈みかけていた。俺と美紗はパネルに説明書きや、絵などを黙々と書き加えていく。美紗は絵がとても上手く、俺は主にパネルの作成や文字の部分を担当していた。



「美紗って、絵が上手いよなぁ」


「そ、そうかな?」


「いや、マジで上手いって。凄いよ。ホント」


「えへへ……ありがと」


 照れくさそうに笑う美紗。その笑顔にとくん、と心臓が跳ねる。俺は自分の頬が少し熱を帯び始めたのを感じて、それをごまかすために慌てて作業に没頭する不利をした。だが、ちょうどいま使っているペンのインクが切れてしまって別のペンをとろうと、床に落ちていたペンへと手を伸ばす。



 その時、俺はペンとは違う別の感触が手から伝わってきた。



 温かくて柔らかい。そんな、感触。



 女の子の、感触。



 美紗の手の感触、だった。



『――――っ』



 ぱっ、と俺たちは二人同時にその手を離した。

 温もりはまだ指先に残っている。その温もりを感じて、頬がどんどん熱を帯びていくのが分かる。心臓がどうしようもなく早まって、鼓動の音が教室中に響いているのではないかと錯覚する。



「……ご、ごめん」


「……う、ううん。わたし、こそ……えと、ごめんなさい」



 恥ずかしくて美紗の顔が見れない。ただ指先が触れただけなのに。

 それなのに、心臓の鼓動がドキドキと頭の中に響いてくる。

 いま俺たちはこの教室の中で二人っきりであることとか、美紗から女の子特有の甘い香りが漂ってくることとか、そんなことをどうしても考えてしまう。


 

 どうしようもなく、ドキドキしてしまう。



 この時、俺はハッキリと自覚してしまったのだ。



 俺は彼女が……渚美紗という女の子のことが、好きなのだと。



 そう自覚してしまうと、俺は自分でも不思議なことに、自然と言葉を紡いでいた。



「な、なぁ、美紗」


「な、なに?」



 心臓の鼓動はまだドキドキと震えている。窓の外を見ればもう夕日が沈みかけていて、窓から差し込んでくる夕焼け色の光が教室の中を濡らす。

 俺の顔はいまきっと赤くなっているだろう。それが熱のせいなのか、それとも夕焼けのせいなのかは分からないけど。


 でもきっと前者だろう。彼女への好意を自覚してしまったいま、もう確信が持てていた。



「文化祭、さ」


「うん……」



 緊張する。


 ドキドキがさらに加速したような気がした。



「もし、まだ一緒にまわる人が決まっていないなら……」



 こんなにも緊張したのは人生で初めて、だと思う。



「…………俺と一緒に、二人で、文化祭を見てまわらないか」



 言った。言ってしまった。

 ここで更にどくん、と心臓が跳ね上がった。

 気分はまるで告白しているようで、相手の返事がかえってくるまでの時間がやけに遅く感じた。


 体感では一、二時間ほど待ったあと。


 美紗の柔らかそうな、いまは夕焼け色に塗れている唇が開いた。



「うん……一緒に、まわろ……?」






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