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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第7章 先輩と後輩
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番外編 一年生と三年生の夏休みのとある一日

本来は生徒会のお話の続きでしたが、とりあえず今回は恋歌と一年生二人のお話。

一応、時系列的には二年生の夏休み終了前というところです。

 私、楠木南央はスマホで時間を確認しながら集合場所に向かって小走りで駆けていた。

 家で何を着ていくかを考えていたら少し遅れちゃったからだ。

 集合場所は駅前の近くにある公園。


 休日ともなると人通りも多くなるこの場所に、私は急いでいた。


「あ、南央ちゃん」


「ごめん、小春ちゃん。遅れちゃって」


「ううん。だいじょうぶだよ」


 小春ちゃんはにこっ、とかわいらしい笑顔を向けてくれる。

 ぶっちゃけ小春ちゃんは活動を減らしているいまでも人気アイドルであることは変わりない。さすがにこんな人の多いところだといつもみたいに素顔を晒すわけにはいかない。


 帽子をやや深く被ってできるだけ素顔を見られないようにしている。

 そんなわけだから、私たちは集合場所にたどり着くとさっそく移動を開始した。

 今は貴重な夏休み。


 合宿も終わって、僅かに残された夏休みという時間を楽しんでいる。

 今日、私は小春ちゃんと一緒にショッピングすることにしているのだ。

 その前に、まず私たちはウィンドウショッピングをしながら学校の近くにある喫茶店に入った。


 話を聞いたところ、この喫茶店は海斗先輩と加奈先輩が出会ったすぐ後にはじめて訪れた喫茶店らしい。興味が湧いた私たちは、一度そこに行ってみたというわけだ。


 入ってみると、休日だというのに人が少ない。話には聞いていたけれど、本当に大丈夫なのだろうか。このお店は。

 でも小春ちゃんにとっては都合が良いお店だろうし、落ち着いた雰囲気のある内装が私も気に入った。


 とりあえず案内された席に座ると……私たちは、思いもよらない人物を発見した。


「おや、偶然だね」


『れ、恋歌先輩!?』


 私と小春ちゃんは思わず二人して声をあげてしまった。

 この喫茶店にいたのはまさかまさかの華城恋歌先輩だった。

 今日も綺麗な黒髪が眩しい。こんな落ち着いた、恋愛小説の中に出てきそうな喫茶店の中の片隅で文庫本片手に紅茶を楽しんでいる姿はなんというか……様になっている。


「せっかくだからご一緒してもいいですか?」


 と、私が誘ってみる。


「ん。私は構わないが、君たちはいいのかな?」


「いいえ。せっかくですから、恋歌先輩とお茶してみたいですし」


 と、小春ちゃん。

 そんなわけで、私たち三人は同じテーブルでお茶をすることになった。


「君たちは今日は二人でお買い物かな?」


「はい。そんな感じです」


「ふふ、そうか」


 にっこりと微笑む恋歌先輩。……やっぱり、綺麗だなぁ。

 はぁ。この人もやっぱりあれなのかな。海斗先輩のことが好きなのかな。

 ……ああ、もう。二年生の先輩たちだけじゃなくて小春ちゃんだっているのに、まさか恋歌先輩まで……倍率が高すぎてもう絶望するしかないよ。


「恋歌先輩は何をしているんですか?」


「私かい?」


「音楽を聞いているのですか?」


 小春ちゃんがそういったのにはわけがある。恋歌先輩の耳にはイヤホンがあり、そのイヤホンはポケットの中にある何かと繋がっているようだった。


「ああ、音楽といえば音楽かな」


「へぇ。どんな曲を聞いているんですか?」


「盗聴」


『…………………………………………はい?』


 おかしいな。

 盗聴って音楽だったかな。

 ていうかそれ犯罪……。


「え、えーっと、と、盗聴っていう曲なんですか? すみません、わたし音楽には疎くって……」


「いやいや。違うよ。ちょっと海斗くんの自宅を盗聴させてもらってるんだ」


『えぇええええええええええええええええええ!?』


「それにしても盗聴って曲はさすがにわたしも聞いたことがないな」


『ですよねぇ!』


 あれれー? おかしいな……恋歌先輩って可憐で、美しい、わたしたち一年生の憧れの先輩だったはず……。


 その人が盗聴? これはきっと夢か何かだろう。はっ、まさか敵のスタ〇ド攻撃!?


「まあ、これが私の任務だからね。だから海斗くんの家出の様子をBGMにラノベを読んで休日を過ごしているというわけさ」


 にっこり笑顔でとんでもないことを言われたわたしたち。

 どう反応したらいいのか分からない。


「に、任務って……」


 おお、さすがは小春ちゃん。

 人気アイドルというだけあって多少のことでは動揺しないらしい。


「ん? ああ、私の所属している組織……いや、サークルの任務だよ。これ以上は言えないけどね」


「そ、そうなんですかー」


 ここで、わたしと小春ちゃんは一つの結論に達した。


 もしかして……もしかして恋歌先輩って……、




((ち、中二病患者……!?))



 それがわたしたちの出した結論だった。

 ていうか、もう目の前の恋歌先輩のイメージを『憧れの先輩』から『犯罪者』へと変えたくないが故の現実逃避なのかもしれない。


 ていうかここ最近のわたし、なんだか現実逃避することが多くなっている気がする。

 いやでも今回はなかなか的を射ているのではないだろうか。


 組織、任務という単語を平然と出してくる上にあの盗聴発言……いや、あれもおそらく雰囲気を出すためにイヤホンだけさして中身は音楽なのだろう。


「ち、ちなみに恋歌先輩って、暗炎龍とかって信じてますか?」


「んー。そうだね。まあ、サークルの技術力をもってすれば可能かもしれないから……うん。信じてることになるのかな」


 ……ああ、確定だ。

 この人、確実に中二病をこじらせている。



 ☆



 恋歌は思わず笑みを浮かべていた。

 なにしろ、自身の『監視』の任務として海斗の部屋の盗聴を行っているとまさかの一年生コンビと遭遇したのである。

 かわいい後輩たちと会えて嬉しくないわけがない。


 耳のイヤホンからは確かに海斗の部屋の音が流れてきており、それをBGMに後輩たちとの会話を楽しむ。


 しかし、なんだかその後輩二人から中二病患者として記憶されてしまったが……まあ、それも仕方がない。ついおしゃべりをしてしまったが、最低限のラインは守っているし、勘違いしてくれることは計算通りだ。


 恋歌が所属する『愛する弟・妹を見守る会』、今や裏世界では『シスコン・ブラコン連合』、『SBU』とも呼ばれており、人種・国家を問わず世界各国からシスコンとブラコンが集まる裏世界を束ねる大組織なのだ。

 その技術力はまさに世界一。資金もそこらの国の国家予算の数倍を超える。


 すべてのシスコンやブラコンの味方であり、組織のメンバーの妹・弟・姉・兄を見守ることを主な活動内容としている。

 もしも組織のメンバーの妹・弟・姉・兄に危険が訪れれば組織の全勢力を挙げて守るのも任務の一つだ。


 仮に盗聴がバレて警察に連れていかれても速攻で圧力をかけて釈放するだけではなく、事件そのものをもみ消すことすら可能。


 そんなトンデモ組織のボスこそが海斗の姉である。

 恋歌はそんな黒野海音の右腕として、こうして日夜働いているというわけだ。

 まあ、恋歌は特にこれといって姉弟はいないのだが、海音に恩がある彼女は組織で働いている。


 そんなトンデモ組織が、ひとりの少年の平穏な学生生活を維持するために裏であれやこれや手を回されていたというのはなんともコメディチックなお話ではあるが。


(我が組織は知られてはならない……裏から妹・弟・姉・兄、はたまたその友人たちも守る。あくまでも影の存在、ってね)


 恋歌は一人微笑むと、紅茶を一啜りした。


(中二病先輩としてのポジションを確立……偶然によるイレギュラー時に備え組織の隠ぺい率向上を図る。これもまた、仕事だね)


 中二病を隠れ蓑にして、不意に恋歌の口から組織のことが出た時に「ああ、また中二病か」と勘違いしてくれることを目的としていま後輩たちに多少のことをバラしたのだ。


 今のバラした内容はあくまでも仕事で言ったこと。

 でもなんだか後輩たちとの距離が縮まったような気がして、ちょっと嬉しかった。


 ☆


 まさか憧れの先輩が中二病患者だったことが発覚したが、まあ海斗先輩のようなド変態と日夜付き合っている今となっては「まあ、中二病程度なら……」と思うぐらいだ。


 私と小春ちゃんならばこのていどは許容範囲内なのだ。


「そういえば恋歌先輩は何を読んでいるんですか?」


 さっきラノベって言ってたし。ラノベが好きな私としては聞き捨てならない単語だった。

 恋歌先輩はにっこりと微笑みながらタイトルを言ってくれた。それはわたしや小春ちゃんでも知っているぐらいの有名なタイトルで、アニメ化も果たし、二期も決定しているラノベだ。


 ちなみに、海斗先輩のお気に入りの幼女キャラが出てくるアニメである。


「勿論、ブルーレイも買ったよ」


「意外です。まさか恋歌先輩がアニメとか見るなんて……」


「そうかな? まあ、確かに最初はあんまり興味なかったけど、でもある人の影響で見始めてね」


 へぇ……誰なんだろう。ちょっと興味あるかも。


 ☆




「へっくちっ。ん……風邪、じゃないよな。」


「んん? どしたのかいちゃん。もしかして、風邪? だったらおねーちゃんが看病してあげるっ!」


「いやいや。それは別にいいから。ていうか風邪じゃないって」


「むぅ……だとするともしかしたら、誰かがかいちゃんのことを噂してるのかもね」


「そんなことがあるのかなぁ……」



 ☆



「あ、そうだ。これから小春ちゃんと一緒にアニメグッズ専門店に行こうと思ってるんですけど、恋歌先輩もどうですか?」 


 ラノベ、マンガ、アニメ談義に花が咲き、しばらくお喋りしたところで思い切ってわたしは恋歌先輩のことを誘ってみた。


「恋歌先輩が迷惑じゃなければ、ですけど」


 と、小春ちゃん。


「ん……それは逆にこちらから聞きたいのだが、構わないのかな? 今日は本来なら君たち二人で遊ぶ予定だったのだろう?」


「良いんですよ。そんなこと気にしないでください」と、わたし。


「そうです。むしろ恋歌先輩とも遊んでみたいですし」と、小春ちゃん。


 わたしたち二人からのお誘いに恋歌先輩はかわいらしい、それこそ女の子らしい笑みを浮かべて。


「ん。それじゃあ、お邪魔させてもらおうかな」


 と、わたしたち二人の手をとってくれた。



 ☆


 わたしたち三人は、喫茶店を出てアニメグッズの専門店へと出かけた。駅前の場所は人が多いので、少し遠めの……海斗先輩の家のある方向のところへと向かう。

 ちなみに喫茶店では恋歌先輩がわたしたちの分のお代も出してくれた。


「ここは先輩として、後輩に良いところを見せてあげさせてくれないかな」


 と華麗にウィンクを決められては仕方がない。

 思わず見とれてしまったわたしたちはそのまま恋歌先輩に払ってもらうことになってしまった。


 徒歩なので目的の場所までたどり着くのに時間がかかったものの、移動中も楽しくおしゃべりすることが出来たわたしたちは特に気にならなかった。

 お店の中に入って、まずは本の置いてあるコーナーへと向かった。


 読んでいる本の最新刊が入っていたのですかさず購入。恋歌先輩が知らなかったマンガやラノベをわたしたちが教えたり、逆に恋歌先輩からわたしたちの知らない作品を教えてもらったりした。


「あっ。この作品、いつものところにないと思ったら特設コーナーに置いてあったんですね」


「ふむ。アニメが始まっているからね。こうして専用のコーナーを作ってプッシュしているのだろう」


「これわたしもアニメ見たんだけど、面白かったなぁ。原作買おうかな」


 小春ちゃんがうーむと特設コーナーに並べられているラノベを見て悩んでいる。

 アニメ効果なのか、もう一巻の残りが少ないから悩んでいるようだ。

 わたしはこの作品の原作は見た。でも中学の時のの友達から借りて読んだものなので原作は持っていない。


「ん。それなら雨宮くん、わたしが貸そうか? ちょうどこの作品は全巻集めていてね」


「いいんですか?」


「勿論だよ。その代わりといってはなんだが、読んだら感想を聞かせてくれないかな」


「はいっ。喜んで」


 そのあと、今度はわたしが恋歌先輩に別な作品のラノベを貸す約束をしたり、恋歌先輩からわたしも別の作品を借りる約束をしたりして、次はグッズのコーナーへと足を運んだり。

 おすすめのアニソンを互いに勧めあったり、ライブのBDを買ってまた今度一緒に見ようという約束もした。



 そうしていると、あっという間に時間が過ぎていった。



「今日は楽しかったよ。ありがとう」


 帰り道の別れ際。

 恋歌先輩がそういってきた。


「いえ。それはこっちのセリフですよ」と、わたし。


「また一緒に遊んでくださいね。あ、そうだ。今度、部室にも遊びに来てください」と、小春ちゃん。


「ん。ありがとう。そういってくれると嬉しいよ」


 そんな約束をして、わたしたちは分かれた。


 今日はまさか恋歌先輩と会うとは思わなかったけど、でも結果的にとても楽しかった。


 またこの三人で……ううん。二年生の先輩たちを含めたみんなで遊びに行きたいな。




 ☆



「また一緒に、か……」


 南央たちと別れたあと、恋歌は一人帰路についた。

 彼女たちとの接触は予想外のものだったが、だけど任務も果たせたしなにより今日は純粋に楽しかった。


 昔の自分では考えられない。


 恋歌の実家はとある歴史のある名家だ。幼いころから英才教育を施されてきた恋歌は、友達と呼べるようなものがおらず、更に友達を作ることすらままならなかった。

 まるで檻の中にいるような生活。


 立派な跡取りとなるためだけの教育を受けるだけの日々。

 学校にすら行かせてもらえなかった。

 食事も必要最低限でそれ以外はひたすら様々なことを教え込まれた。


 そんな生活から自分を助けだしてくれたのが、海音だった。


「そんなつまんない顔しちゃだめだよ。せっかくのかわいい顔が台無し。あ、そーだ! わたしのサークルに入らない? 今ね今ね、弟を見守ってくれる子がいるといいなーって思ってたの。だから、学園生活を楽しむついでにかいちゃんのこと、よろしくね?」


 その時は知る由もなかったが、海音の作る『サークル』とやらの力で恋歌は自由になった。

 恋歌の実家ですら逆らえず、足元にも及ばないほどの組織にその『サークル』とやらは既に成長を遂げていたのだ。

 

「ほら見て恋歌ちゃん。この世界にはね、たっくさんの楽しいことがあるの。だから恋歌ちゃんにはその楽しいことを知ってほしいし、恋歌ちゃんが楽しいと思うことを一緒に楽しめるお友達ができるとわたしはとっても嬉しいな」


「はぁ……」


「あ、そーだ! じゃあこれも任務にしちゃおう! 『恋歌ちゃんが楽しいと思えることを一緒に楽しんでくれるお友達を作ること』。うん。任務追加だねっ」


 恋歌は最初は戸惑った。

 なにしろ実家での生活で『楽しいこと』なんて皆無だった。

 しいて言うならばこうして自由になったことが楽しいこと。


 そのことを海音に言ってみると、


「んー。じゃあじゃあ、試しに身近な人の趣味に手を出してみたらどうかな。それが恋歌ちゃんに合わなかったら止めちゃえばいいだけだし」


 恋歌の身近な人……それは海音と、監視対象である黒野海斗。

 二人の共通の趣味といえばアニメなどのいわゆるオタク趣味。

 あまりにも監視対象である黒野海斗が楽しそうに、キラキラした目でアニメを見るのでものは試しと恋歌もアニメを見始めてみた。


 結果、ドハマリしてしまったわけなのだが。


 でもそのおかげでこうして同じ趣味を……恋歌が楽しいと思ったことを一緒に楽しめる友達ができた。




「任務完了ですよ。海音さん」




 恋歌は一人でそう呟くと、袋を片手に歩いていく。


 袋の中には、恋歌が楽しいと思えるものが詰まっていた。




第三回人気投票はまだまだ開催中です!




なんか凄い組織的な設定が出ましたが、シリアスな展開にはなりませんので。


活動内容はあれです。妹・弟・姉・兄の平和を影から支えることです。


そのうち『愛する弟・妹を見守る会』のお話も書ければなと思います……機会があれば、ですが。





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