第80話 おまけな話
なろうコン二次選考突破しました。
読者の方々のおかげです。ありがとうございます。
しかし残った作品のポイントの高さやクオリティに心を叩き潰されそうです……。
人生とは分かれ道の連続だ。
その時、その時でどの道を選ぶかで、その後の人生に多かれ少なかれ影響を与える。
俺、篠原正人はまさにいまその分かれ道の前に立っていた。
「じゃ、よろしくね。正人くん」
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおう」
正直に声を大にして叫びたい。
誰か助けてください。
今回、俺が参加しているこの肝試し。
脅かし役はいないのだろうが、俺としてはこの肝試しのパートナーになっているこの葉山という男がお化けよりも怖い。
この肝試しが終わったとき、果たして俺はノンケでいられるのか……。
いやまて落ち着け篠原正人。
確かに葉山はホモだ。それは揺るぎのない事実。
だけどこいつと今まで一緒にいて、俺はいったい何を見てきた?
確かにこいつはホモなイケメソだが、だからといって俺を襲ったりはしてこなかった。
この前一緒に同じベッドで寝た時は…………荒い息遣いが聞こえてきたぐらいでなんともなかったじゃないか。
こいつは友達だ。確かにホモホモしいやつだが、俺たちの友達だ(ホモ達じゃない)。
なに、こいつも俺をホモにしようってわけじゃない。
俺が神経質過ぎたんだ。むしろ葉山に謝らなければなるまい。
くそっ。俺はどうしてこうなんだ。
いくらホモの友達がいるからといって、夜道に二人っきりで歩く程度のことでうだうだと変なことを考えて。
これでは葉山に失礼じゃないか。
「正人くん、怖くない? よかったら手、繋ごうか? ……むしろ僕は、手を繋いでくれた方が、嬉しいんだけどね。ふふ」
「……………………………………………………おう!」
深い意味はない。深い意味はない。深い意味はない……あってたまるか!
とりあえず葉山と手をつなぐ。……あ、なんか逞しいな意外と。
こういうのが頼りになる手っていうんだろうな。
握っていると安心するっていうか…………
…………うわあああああああああああああああああああああああああああ!
やばい。今のはマジでやばい……。なんだったんだ今のは。
一瞬にして心が緩んだぞ……。
危うく「あ、ちょっとこういうのもいいな」って思っちまうところだったじゃねーか!
「正人くんの手って思ったよりも大きいんだねぇ。僕、ちょっとドキッとしちゃったよ」
「そ、そうか」
タラリ、と俺の頬を冷や汗が伝った。
……これは、気を引き締めてかからないとな。
さもないと俺はこの肝試しを終えた時、完全なるホモ達(ホモなお友達)になってしまう。
「あ、ここ段差あるみたいだから気を付けてね。ゆっくりでいいから」
「お、さんきゅ」
「ううん。大丈夫だよ。疲れてない? 少し休憩しよっか」
「いや、大丈夫だ。ありがとな」
「そうだ。ジュースがあるんだけど飲む? ちょっと蒸し暑いから水分補給もしておいた方がいいよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。ありがとな。何から何まで」
「ははっ。そんなこと言わないでよ。僕たち友達でしょ。友達のことを気にかけるのは普通だよ」
「そっかぁー。じゃあ俺も頑張らないとなー」
『あははははは』
葉山って本当に気が利くし優しいしイケメンだし、完璧だよなぁ。
俺が女子だったらとっくの昔に告白して……いや、そうでなくとも俺は………………
………………ってちょっと待てぇえええええええええええええええええええええええええ!
え? なにいまの? いくら心の中だとはいえ、俺ってばいま何を考えようとしてた?
だめだ……か、体の震えが止まらない……!「だいじょうぶ? 正人くん。なにか羽織るものがあればいいんだけど……」「ああ、いや気にしないでくれ。ありがとな」……まったく、葉山って本当に気が利……うわあああああああああああああああ!
なんだ……何が起こっているんだ? 幻術か?
気が付けば俺の心がホモホモしく……否、葉山に惹かれていく!?
こ、これがホモの扇動師、葉山爽太の力だとでもいうのか!
まずい……このままでは非常にまずい。
このままでは俺はこの肝試しを終えた頃、確実にノンケとしてではなく篠原正人・深へと生まれ変わってしまう。
耐えろ……耐えるんだ、俺……。
なに、ちょっとの辛抱だ。
葉山は所詮は気の利いて優しいイケメンホモだ。
場を盛り上げるトーク力などという物は皆無のはず。だから俺の方からだんまりを決め込めば、これ以上こいつのペースに持っていかれずに済むはずだ。
見つけたぜ、必勝法をな!
「でね、そしたら部長がさ――――」
「おいおいマジかよ。ははは、面白いなその部長」
あー、笑った笑った。
葉山ってすげぇよなぁ。まさかこんなにも面白いネタをぽんぽん出してくるなんて。
肝試しだっていうのに、もう何度笑ったことか。
ホント、海斗やこいつと一緒にいるといつも楽し……………………、
「俺の……俺のバカ野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「いきなりどうしたの正人くん!? 木に頭をぶつけるのやめなよ、怪我するよ!?」
ちくしょう! 何がだんまりだ!
普通に会話を楽しんじゃってるじゃねーかぁあああああああああああああああ!
いやまて落ち着け篠原正人。
そうだよ。これは普通の会話だ会話。
何もホモホモしいことなんて何も無かったじゃにゃいか……。
「ふふ、正人くんは面白いなぁ。あ、そういえばさ、部長たちってみんな仲が良いんだよねぇ。それでね、いつも僕たち一年生の後輩に面白い話とかしてくれるんだ」
「へぇ。そうなんだ」
「うん。特に部長と副部長の二人は幼馴染でね。昔から仲良かったんだって」
そういえば文化祭実行委員の部長と副部長はどっちも男子だったな……。
葉山にしては眼福だろう。
「僕たち二年生の間では部長と副部長のカップリングがいま流行っててね。どちらを攻めにするかもう部活終わりになると毎回、議論してるよ。一年生総出でね」
なん……だと……!?
ば、バカな……確か文化祭実行委員の二年生は男子が六割、女子残りの四割だったはず……もしかしてこいつ、文化祭実行委員の二年生を男女問わずホモや腐女子に変えてしまったというのか!?
お、俺はこの葉山爽太という男の力をはき違えていた……こいつはまだ本気を出してはいなかった。
その気になればこいつは……二年生すべてをホモと腐女子に変えてしまうことも、可能だとでもいうのか!?
転校当初はそんなこと微塵もあらわさなかった……あ、もしかして文化祭実行委員にいる情報源が最近やたら艶めかしい目で俺を見てくるのは、こういうことだったのか!?
俺の予測をはるかに超えて……こいつは成長しているとでもいうのか!
ダメだ俺。飲まれるな!
せめて自我を保ってこの肝試しを乗り切れば!
「ま、俺は断然、部長が攻めだな。先に幼馴染としての関係を打ち破ろうとするのは間違いなくあの人ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!」
なにを言ってるんだ俺は!?
くっ。なるほど。これはもはや洗脳に限りなく近いレベルだ。
気が付けば俺の頭の中に『部長×副部長』のカップリングが自然に出来てしまっていた。
コネクティブしてアクセプションしそうになってたぜ。
お、落ち着け俺。とにかく平常心を保て……クリアマインドの境地にたどり着くんだ。
もう簡単に流されはしない。警戒態勢はバッチリだ。さあ、どこからでもかかってきな、葉山!
「正人くん……腕、組んでみてもいいかな」
「ああ。別にいいぜ。こんなんでよければいつでも」
拝啓。
北宮沙織先輩。
大学生活、楽しんでいますか。
俺はもう、ダメかもしれません。
☆
一番最初にここにたどり着いた俺が美紗とみんなを待っていると、次第に他のペアが集まってきた。
「お、正人か。お前らで最後だぜ……っていうか、どうして腕組みをしているんだ?」
「えへへ。僕、ちょっと途中で怖くなっちゃって。だから正人くんに頼んだんだ。ごめんね」
「いや……いいんだ……俺は……」
なぜか正人はもういろいろとダメかもしれない、と俺は思った。
「正人くんって、けっこう逞しい体してるんだねぇ」
「ああ……うん……鍛えてますから」
鬼にでもなる気だろうか。頑張れよ、少年。
戻ってきた女子たちは、俺を見るとなぜかちょっと不機嫌な顔をするやつらが多かった。
そんなにも最初に肝試ししたかったのだろうか。
変な奴らだな……ていうかこっちは……もう昨日のことと、ついさっきのアレのせいで頭の中がぐるぐるしているというのに。
あーもーわからん。
最初はこのわけのわからない出来事の連続や、いまだに燻り続けるこのもやもやについて寝れば何か晴れるだろうと、この合宿が終われば晴れるだろうと思っていたけど……でもけっきょく、もやもやが晴れることはなかったし、ここ最近、連続して起こっている女子たちの意味不明な行動(頬にされたアレ)についてもさっぱりだった。
何も解決しないまま、疑問だけを残して高校二年の夏休みが幕を閉じた。
せっかく二次選考突破したのに突破して最初に更新した話がこれって……。
次は例の如く『SS』を挟んで次の章に続きます。
地味に今回の『先輩と後輩』が今までの章の中で最長になりました。
本当はサクッと終わらせる予定だったんですが、夏休みが終わるまで続けるか……みたいな感じにしてたらこんなにも長くなっちゃいました。
次の章はこんなにもダラダラと長くならないように気をつけます。
それと、第三回人気投票もまだまだ開催中です。