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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第7章 先輩と後輩
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第79話 変われた

「ねえ、お姉ちゃん……これ、ホントに着るの?」


 私、楠木南央は南帆お姉ちゃんに最後の確認をした。

 南帆お姉ちゃんはこくりと無言でうなずいているのを見て、ため息が出る。

 いま私と南帆お姉ちゃんが見ているのは、家から引っ張り出してきた南帆お姉ちゃん曰く『対海斗用の秘密兵器』らしい。


 これが秘密兵器……私にはただの布きれにしか見えない。


「……私たちの武器を活かすにはこれしかない」


「私『たち』ってところがちょっと悲しいけど……」


 でもまあ、普通のやつも持ってきているし恥ずかしくなったらそっちにしよう……。


「……これで海斗は落ちる」


「ホントに?」


 私は疑わしげな目でお姉ちゃんを見る。

 あの難攻不落のロリコン先輩が落ちるとは到底思えないんですけど。


「……落ちる。たぶん。そうすれば海斗は私にめろめろ」


「むぅ。そこは私『たち』じゃないんだ……」


 ちょっと不満げに唇を尖らせる私。

 お姉ちゃんには負けないもん。という思いを心に秘めながら、私たちは準備を終わらせて部屋の外に出た。


 ☆


 この合宿、二度目の海である。

 夏休みシーズンということでかなり人が多い。

 とまあそんなわけで、俺たちの一行はその多い人たちからの視線を集めまくりだ。


 何しろこの御一行様は美少女に美少年が揃い踏みしているのだから。

 上着を羽織っているのでその女子陣の水着姿は見えないものの、その美貌や服の上からでもわかるスタイルが人目を惹きつけてやまない状態だ。


 ……姉ちゃんをじろじろ見ているやつがいるな。誰だこら表に出ろ。

 とりあえず俺たち男子陣はビーチに休憩場所を確保して、そこにパラソルを立てる。

 預かっていた荷物をそこにすべて置き、ひと段落ついたという状況の完成だ。


 さて泳ごうということになったので、女子陣は上着を脱いでその水着姿を露わにする。

 なぜだかその仕草が妙に色っぽくて思わず視線が釘づけになってしまう。

 みんな昨日とはまた違う、かわいらしい水着を…………、


 いやまて。なにかおかしい。

 南帆と南央。この楠木姉妹、なんで……なんで……!




「なんでスク水着てんの!?」




 スク水。スクール水着。

 頭の中でスク水とはなんだったのかということを再確認してみても、やはり楠木姉妹が着ているのはスクール水着だった。

 二人の貧相な胸にある白い布には『なほ』『なお』と書いてある。


「……これでめろめろ」


「ごめんちょっと意味わかんない」


「うう……お姉ちゃん、ぜんぜんだめじゃん」


 南央はもじもじと内また気味になって頬を赤らめている。

 明らかに恥ずかしがっている。

 BBA無理すんな。


「……私たち、ぺったんこだからスク水なら逆にいけるかなって」


「私『たち』って言わないでお姉ちゃん! なんかすごく惨めになるから!」


 ま、まあ、確かにいま現在この場にいる女子たちと比べると楠木姉妹はやや胸の発育が貧相だ。

 スク水も似合っているといえば似合っている。他の女子たちにはない不思議な魅力を持っているといえる。

 しかしなぜ……なぜいま、着た!?


「な、南央ちゃん……部屋を出る前に南帆先輩と何かしてたみたいだけど……このこと、だったの?」


「うう……だって、私って先輩たちに比べるとやっぱり、その、胸が小さ…………」


 ふと、南央の視線が小春の胸に向く。

 さすがはグラビアもこなしているアイドルというか、小春の発育は平均よりも少し上ぐらい、といったところだ。

 対する南央は……なんというか、南帆譲りの発育というか。


 持つ者と持たざる者。

 彼女はいま、その現実を目の当たりにしているのだろう。

 明らかに小春の胸をガン見している。


「……………………ああ、これが極限の絶望なんだね」


「南央ちゃん!?」


 南央、お前が絶望だと信じているもの。俺はそれが、希望なのだと知っているぜ……。

 幼女的な意味で。


 そんなこんなで、また海に向かう俺たち。


「いざ出陣! えい、えい、おー!」


 恵が元気いっぱいにはしゃぎながら海へ飛び込んでいき、俺たちもそれに続く。

 やはりこういった場所ではスク水姿の二人はやけに浮いていた。

 そのせいか視線がチラチラと自分でも無意識にそっちに向いてしまう。


「海斗先輩……なにじろじろ見てるんですか」


 いかん。南央に気付かれてしまった。

 くっ。やはり幼女ではないといっても、そのまた板のようなぺったんことスク水の組み合わせは強烈だな。


「先輩、今ものすごく失礼なこと考えてませんでしたか?」


「いやなにも」


 ジトッとした目で見られた。こいつ完全に信じていないな……失礼なやつだ。

 俺はただ、南央の洗濯板のようなぺったんこの胸とスク水の組み合わせは強烈だなと思っているだけだというのに。


「…………先輩のえっち」


「まて違う誤解だ! ていうか予測でぜんぶ進めんな!」


 南央は頬を赤らめたまま胸を隠すようにして水の中に体を沈めて隠れてしまった。

 しかしブツブツと「ん……お姉ちゃんの言う通りやっぱ効果あるんだ……」だのなんだの言っているが、いったい何に効果的だというのか。


「いやいやかいくん。女の子の勘ってやつはアテになるもんなんだよ?」


「特にこういう時の勘は、ね?」


 おかしいな。さっきまでいなかったはずなのに、いつの間にか恵と加奈がいるぞ。

 しかもやたら怖いんですけど……なんだこの冷たい雰囲気。

 笑顔なのに目が笑っていないんですけど。


「へぇ……あなたはやっぱり、そういうのが好きなんですかねぇ」


「………………………………海斗くんって、そうなんだ……」


「……後輩に欲情する変態」


「先輩、そこまでの変態とは思いませんでした」


「してないからな!?」


 見下すような渚姉妹と南帆と小夏の視線に思わず理不尽だと感じてしまうのは俺だけなのだろうか。

 いや、きっと俺だけではないだろう。


「おや、どうやら海斗くんは先輩や同級生ではご不満のようだね」


「なんで恋歌先輩まで!?」


 まあ、どうせ恋歌先輩はいつもの調子でちょっとからかっているだけ……、


「……………………ふふ」


「恋歌先輩、目が笑ってません……」


 なぜだ? なぜ不機嫌なんだ恋歌先輩は?

 いや、恋歌先輩だけじゃなくてどうしてみんな不機嫌なんだ……。

 海で一通り遊んだあとは、いったん休憩。


 その頃になるともう俺もバテバテだった。

 なんというか……女子たちから執拗に追いかけまわされたりビーチボールをぶつけられたりしたけど。

 目が笑ってないんだよあいつら。なんなんだ本当に。わけがわからないよ。


 夕方には海から帰ってきて、みんなでまた夕食を作ったりした。

 その後、もともと予定してあった肝試しを行うことになった。

 組み合わせはクジ引きで決めることになったのだが……。


『……………………』


 なぜか、俺には女子たちの間でバチバチという青白い火花が散っているような気がした。

 クジ引きは公平に決められて、その結果……、






「美紗か。よろしくな」


「う、うん。よ、よろしくお願いします……」






 ちなみにこの肝試し、脅かし役はいない。ただ決められたコースを歩いていくだけの肝試しだ。

 まあでも、この人数で下手に脅かし役に分けると逆に怖くなくなりそうだし。

 ちなみに残りのメンバーは、加奈と美羽、南帆と姉ちゃん、恋歌先輩と恵、南央と小夏、徹さんと国沼、正人と葉山といった感じで分かれた。


 肝試しは、別荘のすぐそこに森があるのでその中にある整備された道を通るだけである。

 一番手である俺たちが最初に森の中に入っていく。手には懐中電灯のみ。

 夜の道を頼りない光が照らしていく。


 歩いている間、しばらくは無言の状態が続いていた。

 聞こえてくるのは夏の夜の音。蝉をはじめとする虫たちの泣き声と、風の音。

 どうして無言になっているのか。


 うーん、気まずい。別に美紗と普段話していないわけじゃないのに、こういう雰囲気だと自然と黙ってしまう。これが国沼とかだったら上手いことやるんだろうけど。

 美紗はさっきから俯いて表情がよく見えないし。


「あー、なんか悪いな。美紗」


「ふぇっ。ど、どうして?」


「いや……面白い話の一つも言えないからさ。息苦しいだろ。こう、黙ったままだと」


「ち、違うよ。ぜんぜんそんなことない」


 ぶんぶんと首を振り慌てて否定する美紗。

 そんな美紗の様子に、ちょっと安心してみたり。


「私、楽しいよ。いまこうしているだけでも……こっちこそごめんね。海斗くん、私と歩いてても楽しくないでしょ?」


「それこそぜんぜんそんなことないけどなぁ。こうやって普段から一緒にいるやつと歩いているだけでも安心するし、楽しいけど」


「そ、そっか……」


 たったそれだけの会話が終わると、また無言になってしまう。

 でも今度の無言はさっきみたいな感じじゃなくて……なんていうか、ちょっとこそばゆい感じ。


「ん。ここらはちょっと道が荒れてるな……あんまり人が通らないからか? 美紗、気を付けろよ」


 万が一があってはまずい(ていうか美羽に殺される)ので、俺は警戒を促す意味でも、エスコートする意味でも美紗の手をとり、その手を繋いだ。


「ひゃっ!?」


「悪い。でもちょっと歩きにくそうだからさ。我慢してくれ。お前に何かあったらやばいだろ」


 主に俺の命が。


「う、うん……えっと、我慢なんて、そんなこと……」


 幸いにも美紗は手を繋ぐことを了承してくれた。

 美紗のことを気遣いながら、その繋いだ手を離さずにコースを歩いていく。

 基本的には道に沿ってまっすぐに進むだけで迷うようなことはない。


 途中で分かれ道もないのでただひたすら歩いていく。

 美紗に負担がかからない程度に引っ張りつつ、歩いていく。歩いている感じだと上の方に登っているみたいだ。

 しばらくしてようやく……開けた場所に出た。


 そこは、昨日と昼間に行った海が眺められる場所だった。夜の海が眼前に広がっている。

 この後はここで花火をする予定で、肝試しがはじまる少し前に徹さんがここに水の入ったバケツを持ってきており、そのバケツが邪魔のならないようなところに置いてあった。

 夜の海は静かで、波の音と一緒に潮の香りが風に乗って運ばれてくる。


 俺たちが一番手なので当然のことながら他は誰もいない。ここに来るまで少し時間がかかったし、他の奴らが来るまで時間が空くだろう。

 ていうか、大丈夫かなあいつら。正人たち男子はともかく、女子だけだとここの道を歩くのはしんどそうだけど。


「海斗くん……私って、変われたかな」


 唐突に、美紗がそんなことを言ってきた。

 だけど視線は俺と同じで夜の海の方へと向いている。


「変われたってなにが」


「私ね、昔からお姉ちゃんの後ろに隠れてた。クラスの男の子にいじわるされたりして、そんな時に助けてくれたのがお姉ちゃんだったの。それからお姉ちゃんはいつも私の前にいてくれた。いつでも私を守ってくれた。私はそんなお姉ちゃんに依存してた」


「いや、依存しているのはむしろ美羽の方だと思うんだけど……」


 美羽から美紗を取り上げたらあいつは悲しみのあまり発狂してしまうのではなかろうか。


「ふふ。そんなことないよ。私なんかがいなくても、お姉ちゃんは大丈夫。でも、私はだめ。あの時……一年前の春休みのときに海斗くんが私を助けてくれた時にそうだったから。あの時、私は何もできなかった。お姉ちゃんみたいに強くなれなかった。お姉ちゃんがいなかったら、私は何もできなかった」


「あれは仕方がないだろ。実際、男子に囲まれたらいくら美羽でも何もできねーよ」


「確かにそうかもしれないけど、でもお姉ちゃんは私みたいに怯えるだけだなんてことはないよ。それに、お姉ちゃんって怖がりでしょ? こういう暗いところなんか特に」


「そういえばそうだな……ていうか大丈夫かあいつ」


「ふふ。加奈ちゃんがいるから大丈夫だよ。……お姉ちゃんは本当は怖がりなのに、それでもいつも私を守ってくれてた。だから……私はそんなお姉ちゃんに憧れてた。ずっとずっと変わらなきゃって思ってたけど、でもぜんぜん変われなくて。一年間みんなと一緒にいて変われたかなって思ってるんだけど……自信ないんだ」


 海を見ている美紗の目は、いったい何を見ているのだろう。瞳に映し出されている夜の海を美紗は見ていない。見ているのはきっと別の何か。

 ……自信がない、か。


「じゃあ、自信持てよ」


「……持てるかな」


「持てる。つーか持て。自分でも自信がないっていうなら言っといてやる。お前はちゃんと変われてるよ。強くなってる。ほら、昨日、葉山と何か話し合いしてただろ?」


「み、見てたの?」


「ああ。……ちょっと見たく、いや、聞きたくなかったともいえるが……まあ、それは置いといてさ。前までの美紗なら、あんな風に普段からそんなに頻繁に会わない相手と二人だけで話し合いなんて出来なかっただろ。しかも、俺たちが知らない間に。恥ずかしがり屋で俺たち以外の相手とあんまり話が出来なかった美紗からすれば大進歩じゃん」


 美紗はしばらく海を眺めていて、そっと静かに目を閉じた。


「……そっか。私、変われてたんだ」


「そーだよ。だからさっさと自信持て」


「うん。そうする」


 海に向けていた顔を、今度は俺の方に向けてくる。それにつられて俺もなんとなく美紗の方に目を向ける。

 美紗は笑顔、だった。

 そして俺はそんな笑顔につい見惚れてしまって。


「……あ」


「ど、どうした」


「手、繋いだままだったね」


「そうだな」


 ずっと繋いでいたままだった。忘れてた。

 つい自然と握ったままにしてしまってた。


「……私、変われたんだよね。でもね、海斗くん」


「ん?」


 もう何度目だろうか。

 普段ならば絶対にありえないのに、そのありえないことが何度も続いている。

 女子から不意を突かれるなんてこと。




「私が変われたのはね、海斗くんのおかげなんだよ?」




 頬に、美紗のぬくもりが触れた。

 それが唇だとはっきりと自覚するのに数秒ほど時間がかかっていて。

 その間に美紗は離れて、また海を眺めていた。


 美紗の顔は夜でも分かるぐらいには、赤かった。



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