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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第7章 先輩と後輩
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とある生徒目線の黒野海斗 後編

 某日某所。

 黒野海斗対策員会、第三十三回会議が行われた。

 僕はとある教室の入り口の前に立つと、三回ノックをした。


 すると、ドアの向こう側から地獄の底から聞こえてきそうな怨念のような声が。


「……爆ぜろ黒野」


「弾けろ海斗」


「うむ。入れ」


 バニッシュメントでディスワールドみたいな秘密の合言葉を承認され、僕は教室の中に踏み込んだ。

 嫉妬と憎悪の感情を滾らせた同胞たちがそこに勢ぞろいしていた。

 教室の中には負のオーラがもわもわと充満している。


 どうやら僕で最後だったようで、教室の中にいた三年生の先輩がみんなを見渡して、口を開いた。


「どうやら揃ったようだな。これより、第三十三回黒野海斗対策会議を行う」


 部屋の中にいる生徒たちの殺気が割り増しされた。普段はグラウンドの使用権を巡って不仲だといわれているサッカー部と野球部の部長同士が手を取り合って、「へっ。まさかお前とこうして肩を並べる日が来るなんて思わなかったぜ」「ああ。俺もだ」と仲睦まじそうにしている。


 ちなみに、ここ最近のサッカー部野球部間の仲が良くグラウンドも平等に平和的に使用されているという。黒野海斗というみんなの共通の敵が出来たことでこんな副産物が出来上がっているのはなんとも皮肉な話である。


「ここで一つお知らせがある。我が同士の一人である一年二組の田中由人たなかよしとくんがこれから天美加奈さんに告白するらしい」


 ざわ……

     ざわ……


 教室中からざわめきが起こる。我が同胞から……また一人、兵士が戦場へと赴いたのだ。

 三年生の先輩が目くばせすると、教室の設備であるテレビが映像を映し出した。

 アングルからしてこれは完全に盗撮である。声も聞こえてくる。音質はかなりクリアだ。


 画面の左上の隅の方に『LIVE』という文字がテカテカと光っている。

 告白生中継というやつだ。これはもう僕たちにとっての日常茶飯事的な光景で、告白していく勇気ある者たち曰く、「LIVE中継してもらっているとみんなと一緒に戦っている気分になれて勇気が貰える」らしい。


 画面には緊張した顔の田中くんと、天美加奈さんが映っていた。

 天美さんの美しさに、教室の中にいる同胞たちがはぅぅ……というため息が漏れる。

 ちなみに、我が同胞たちの中には女子生徒もいるということをここに記しておこう。


「ああ、やっぱり天美さんは美しい……」


「加奈お姉さまぁ……」


「あの白くてむっちりとした太もも……ごくり……」


 最後に不穏な発言をした輩は粛清された。主に女子生徒たちから。

 まあ、アングル的にどうしてもローアングルになりがちになっているので、あの柔らかそうでむちむちしている太ももが気になっても仕方がないといえば仕方がない。


 さて、映像に戻ろう。

 田中くんが告白に選んだのはどうやら体育館の裏らしい。

 ベタだ。しかしベタだからこそ雰囲気が出るというものだ。


「あの……突然呼び出しちゃってごめんなさい。天美さん」


「別にかまいませんよ。それで、話っていうのは……?」


「はい……」


 ごくり、と僕は生唾を飲んだ。

 教室の中も静まり返っている。

 数秒という僕たちにとっての長い長い時間の後……。ついに田中くんは、その言葉を言った。


「入学式の時に初めて見た時から、ずっと好きでした。僕と付き合ってくださいっ!」


「ごめんなさい。私、他に好きな人がいるんです」


 秒殺だった。

 ていうか天美さんの方は微塵も迷いがなかった。

 でも相手の告白をちゃんと全部聞いてから、ちょっと申し訳なさそうな表情をしてくれている分、天美さんは優しいと言えるだろう。


 よく頑張った田中くん。

 君のことは忘れない。

 散っていた同胞に、敬礼。


「す、好きな人っていうのは、く、黒野海斗くんですか?」


 おいばかやめろ。それは地雷だ田中くん。


「ふぇっ……あ、あにょっ……し、しょんなことは……。ええと……うん。わ、私は……海斗くんのことが……えっと、大好き、です」


『ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』


 デカい! 分かっていたことだけどやっぱりダメージがデカい!

 天美さんの口から直接そういうことを言われるのはダメージがデカすぎる!

 しかも「好き」じゃなくて「大好き」ときたもんだ。


 教室の中を見渡してみると、同胞たちが発狂する阿鼻叫喚の地獄絵図が完成していた。


「ぐっ……田中め、早まったな……」


「会長、どうしましょう……」


「田中由人には後で黒野海斗対策員会幹部全員からのマキシマムドライブをくらわせておけ。ライダーツインマキシマムだ」


「了解しました」


 さよなら田中くん。君の歌は好きだったがね。


「ちくしょう田中め……頬を赤らめた天美さんもかわいいが、なんてものを聞かせてくれやがった……」


「黒野海斗め……絶対に許さん……あの天美さんのおっぱいも太もももぜんぶ好きにできるなんて……うらやまけしからん!」


 今日も僕たちは、一人の生徒の犠牲と引き換えに、天美さんのレアな表情を拝んで――――黒野海斗への憎しみを募らせたのでした。


 ☆


 バレンタインデー。

 それは、勝者と敗者を分かる絶対的かつ残酷なイベント。

 勝利者たちは互いの戦果を掲げ合い、敗者たちは勝利者たちを呪い、同胞との絆を深める。


 そんなイベントが訪れたわけだけど、僕はもちろん敗者である。

 当然だね。

 仕方がないね。


 今日という日だけはやはり学校の中がどこか騒がしいというか、浮足立つというか、どこか甘ったるい感じがする。死ねばいいのに。

 あーあ、世界が滅びないかなぁ!


「来るぞ……」


 僕たち敗者な野郎たちは、とある人物の通学路に張り込んでいた。

 その人物とは、勝利者こと黒野海斗である。

 僕たち黒野海斗対策員会としては是非とも今日という日に黒野海斗がどれだけリア充パワーを発揮しているのかを確認して、更なる憎しみの力を得ようというわけだ。


 ちなみに僕たちはこの黒野海斗の登校場所に張り込みに来る前に学校にダッシュして下駄箱や机の中を確認して奥にまで手を突っ込んで徹底的に念入りに、バレンタインデー前日にどこかの誰かが勝者の証もといチョコを入れてくれているのかどうかを確認したのは言うまでもない。


 チョコなんて無かったんや! どこの誰だ僕の幻想をぶち殺したのは!

 僕がチョコをもらわないことで誰かがチョコを貰える。僕はそのことに幸せを……感じねーよばかやろおおおおおおおおおお!

 爆ぜろリア充ばーかばーか!


 と、僕が爆ぜろと呪った代表格である黒野海斗がてくてくと歩いてきた。ぼけーっとして携帯音楽プレーヤーで何か音楽を聴いている。

 どうせ黒野海斗は、今日で天美さん、楠木さん、牧原さん、渚さんたちから全部で五つぐらい貰うんだろうなぁ。あ、そうだ確かお姉さんからも貰うんだっけ。

 なら全部で六個か。ちっ。あのリア充……。


 僕たちが負のオーラを滾らせていると、黒野海斗に見知らぬ女子生徒が駆け寄っているのが見えた。

 なんだろう。あの制服は僕たちの学園の制服じゃなくて、僕たちの学校の近くにあるお嬢様学校の制服だけど。


「あの、すみません。これ貰ってくださいっ!」


 …………………………………………ゑ?


「ん。俺にか?」


「はいっ。あの、この前は危ないところを助けていただいて……ずっと、お礼がしたかったんですっ」


「ああ、別にそんなこと気にしなくてもいいのに」


「いえっ。そんなわけにはまいりません」


 あ、なんかチョコ貰ってる。……どうやら手作り、かな。

 あのラッピングの中に見えているチョコを見る限りは。

 …………………………はぁ?


 え? は? ちょっとついていけないんですけど?

 あれ。学園の外にも女の子が?

 この前? いつの間にフラグを?


 僕たちの知らない間に?


 …………はああああああああああああああああああああああああああああああああ!?


 僕たちが絶望に打ちのめされている間に、黒野海斗は見知らぬ女の子からチョコをもらっている。

 それこそ、僕たちは見ていることしかできないわけで。




「……帰ろう」


『……異議なし』




 僕たちは絶望的なまでの格差社会という物を知った。


 ちなみに黒野海斗の鞄は、学校に着くまでの間に少し膨らんでいた。


 その後、更にいくつかのチョコが加わったという。




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