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俺は/私は オタク友達がほしいっ!  作者: 左リュウ
第7章 先輩と後輩
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とある生徒目線の黒野海斗 前編

今日でこの作品も1周年。


ここまで応援してくださった読者の方々、ありがとうございます。


これからもがんばります。




 黒野海斗という男子生徒が、僕と同じ教室にいる。

 僕たちの学校で黒野海斗という名前を知らない者はいない。

 彼は、入学時から周囲の注目を集めていた。


 一目見て染めたと分かる茶髪。たくましい体つき。一般人の僕ですら分かるほどの殺気。鋭い目つき。周囲を威嚇するような威圧感。

 周囲に殺気と威圧感をばらまき、誰も寄せ付けないその圧倒的な存在。

 道を歩けば誰もが顔をそむける、最強の不良。


 最強の不良と書くとやけに安っぽく聞こえるかもしれないけれど、実際に彼は最強だ。

 彼のその見た目と風貌から、彼はよく他校の不良生徒に絡まれることが多い。

 だが、彼はそのすべてを撃退してしまったと言われている。


 実際に、僕の友達にも黒野海斗が喧嘩をしているところを目撃したという人がいるのだけれども……なんというか、その友人は「とにかく圧倒的だった。気が付けば喧嘩を吹っかけていたやつの霊圧が消し飛んでた」と証言している。


 最初は僕も信じられなかったけど、実際に僕も黒野海斗が喧嘩をしている現場を目撃したことがありまして。……なんというか、もう、圧倒的だった。

 例えるならば、格闘ゲームで上級者プレイヤーが強キャラを使って、弱キャラを使っている初心者プレイヤーを全力で叩きのめしたみたいな、それぐらいの実力差があった。


 彼のその相手を徹底的に叩きのめすスタイルから、いつしか彼は『鬼の海斗』と呼ばれるようになった。

 相手を徹底的に痛めつけ、病院送りにするその所業からたまらず叫んだどこかの不良が「こ、この鬼!」と叫んだところが由来らしい。


 そんな生徒に対して関係を持とうとは僕は思わない。とりあえず、その日から僕は学内学外問わず、彼の姿を見かけようものなら全力で視線を逸らした。他の皆も同じような事をしていた。

 幸いにも彼は学園内で暴れたという噂はきいていない。


 風紀委員は彼を警戒していたようだけれども、『総帥』こと華城恋歌先輩が彼にかかわらないようにと言っていたそうなので、風紀委員は手出しできないのが現状だった。

 そんな黒野海斗だけれども、ある日をきっかけに彼を取り巻く人間関係がガラリと変わった。


 僕のクラスには天美加奈さんという、まあいってしまえば学園のアイドルのような子がいる。とても綺麗で可愛くて、みんな密かに憧れている正真正銘のお嬢様。

 金色の髪がとてもきれいで、グラビアアイドル顔負けの抜群のスタイルに男子もメロメロ、更にその真面目で優しくて礼儀正しい性格から女子からも人気が高い。


 そんな彼女を僕たちはいつも見ていて、だからこそ気が付いた。

 ある日から、彼女が黒野海斗にチラチラと視線を向けていたことに。

 授業中は恐ろしくて僕たちは黒野海斗に視線を向けることが出来なくて、一心不乱に勉強に取り組んでいるけれど、天美さんは違った。


 チラチラと興味ありげに黒野海斗の方へと視線を向けていて、僕たちクラスメイトたちは気になっていた。けれど、黒野海斗が怖いのでなにも言わなかった。

 もしかしたら心優しい天美さんは黒野海斗にすら手を差し伸べようとしているのかもしれないと、僕たちクラスメイトたちの中で彼女の株は天元突破して上昇していった。


 さて、ここで我がクラスで、クラスメイトたちから一目置かれている二人の男子生徒についてお話ししよう。篠原正人くんと、国沼良助くんだ。

 篠原くんは、あの黒野海斗に気さくに話しかける命知らずなバカとして有名だ。

 今のところ、彼に実害がないのが奇跡といっても過言ではない。


 でも篠原くんもみんなの人気者だ。気さくだし、なんだかおもしろいし、よく色んな人の相談に乗ってあげてるらしい。

 でもちょっと残念なところがあるからモテないけど。

 顔はそこそこイケメンなのに非常にもったいないなぁ。なんて僕は密かに考えている。


 次に、国沼くん。

 この人も、あの黒野海斗と話すことが出来る勇者の一人だ。たまに彼が黒野海斗に話しかけているのを見たことがある。

 しかもテニス部でも屈指の実力を誇り、成績優秀、スポーツ万能のスーパーマン。


 二人はどちらも生徒会に所属している。やはり生徒会では特殊な訓練でもやっているのだろうか。

 生徒会室からはたまに「僕をぶってぇえええええ!」という声が聞こえてくるというし、やはり何か特別な訓練をしているのかもしれない。


 そんな僕たちの学園だけれども、ある日、我が学園のアイドルが何者かに誘拐されたという事件が勃発した。当然ながら学内ではざわめきが起こった。なんでも、女子高生を狙った連続拉致・暴行事件に加奈さんが巻き込まれたとか。


 しかし、事件発生当日に、僕たちの学園の生徒たちが解決してしまったらしい。その中には正人くんも含まれていたようで、生徒会に対する信頼度と人気が高まった。ただ、何より驚いたのがあの黒野海斗が加奈さんを助け出したという噂があるということだ。


 まあでもそれは半信半疑というか、誰かが流したデマというか、みんなは信じていなかった。

 だけどしばらく経ったある日。

 天美さんが、黒野さんと一緒にいるところを目撃したという生徒が出てきた。


 しかも天美さんだけじゃなくて、楠木さんと牧原さんという二人の美少女を侍らせているという情報もある。なんということだ。学園の美少女が三人もあの黒野海斗の毒牙にかかってしまうとは。

 そんな時、我がクラスの委員長である渚美羽さんが立ちあがった。


 彼女は前々から黒野海斗の存在をよしとしなかった人だ。彼女なら……彼女ならきっとなんとかしてくれる。更に言えば、彼女には副委員長の渚美紗さんもついている。

 いくら『鬼の海斗』でもあんな可憐で可愛い二人を相手に暴力は振るわないだろう。


 そうやって、僕たちは楽観視していた。委員長たちならやってくれると。

 そんなこんなで親睦会と言う名の合宿の時が訪れた。

 天美さんは何故か黒野海斗の班に入った。それと、転校生の葉山くんも。


 気の毒に。でも、委員長たちがきっと君たちを鬼の魔の手から助け出してくれるからね。僕たちクラスメイト一同は、委員長と副委員長に心の中でエールを送った。

 親睦会終了後。

 なぜか委員長たちが黒野海斗と一緒に親しそうにお喋りしていたでござる。


 しかも心なしか顔が赤くなっているのはなんでだ。


 そもそも、親睦会中……というか、以前から渚姉妹に関しては黒野海斗に対する何らかの感情はあった。何しろたまに彼の事を見ていたわけだから。

 美羽さんは親睦会中に、徐々に徐々に黒野海斗に対する敵意を消失させていったように見える。


 特に、彼女と黒野海斗が一緒に各班に水を配っている姿を見た時にはなにが起こったんだと思った。

 あれだろうか。見たところ彼女(美羽さん)、男子とはあんまり関わりがなさそうだし、やっぱりいざ男子を前にすると緊張しちゃうのだろうか。わからん。


 とにかく、気が付けば黒野海斗の周りにまた一人……いや、二人ほど美少女が追加された。ふざけんな。だが、当の黒野海斗本人は興味なさそうな顔をしている。

 くっ。どうせ彼女たちとは遊びなんだろう? だったら一人ぐらい分けてくださいお願いします。


 文化祭の季節がやってきた。

 なんと、あの渚美紗さんがコスプレコンテストにエントリーすることになった。

 でもその過程。クラスの女子達からはなんだか嫌な雰囲気を感じた。


 最初、クラスの一部の女子から美紗さんをエントリーさせようとした雰囲気があった。でも、途中で黒野海斗が機嫌を悪くしてくれたおかげでその嫌な空気は一時的には断ち切られた。

 怖かったけど……でも、僕を初めとするほんの一部の生徒だけは、黒野海斗に心の中で感謝した。


 そんなこんなで文化祭当日。

 加奈さんたちの『日本文化研究部』という聞いたこともない部の喫茶店が、大繁盛していた。

 ちなみに僕も行ってみた。加奈さんたちのメイド服姿に僕たち男子はデレデレしていたし、女子もその可愛さに釘付けになっていた。


 肝心の料理の方はというと、これがめちゃくちゃ美味かった。

 これならば仮にぼったくり価格だったとしても悔いはない。また食べたいと思えるような、そんな味だった。


 そんな時、事件が起きた。


 いつの間にか入ってきていたガラの悪い、一目見て不良のグループに入れられそうな男たちが二人、やってきた。でもそれだけなら良い。しかしこいつらは、あろうことか美紗さんと加奈さんに手を出した。

 僕たちの学園のアイドルたちに手を出されて怒らなかったといえば嘘になる。


 でも、こういう場面で、あんな怖い人たち相手に立ち向かえるほど僕たちに勇気と力はなかった。

 僕たちにできるのは、ただただ可哀相だな、気の毒だな、と思う事だけ。

 何もできずに恐怖におびえていると、唐突に声が聞こえてきた。


「おい」

 

 顔を上げてみると、そこにいたのは……黒野海斗だった。

 入口から教室に入ってきた気配はない。ということは、裏口、というより、厨房の方から?

 というよりもなぜ、黒野海斗がここで出てくるのだろうと思った。


 僕たち生徒側からすれば、黒野海斗と天美さんたちの関係はただのお遊び。

 そう思っていたし、それに黒野海斗がわざわざ自分の同類みたいなやつらを相手に、わざわざ出向くなんて考えられなかった。


 むしろ、一緒になって天美さんたちに手を出すような。そんな人だと、僕たちは考えていた。


「ここは見た通りそういう店じゃねーだろ。さっさと失せろ」


 でも僕たちの眼前に広がっている光景は、「あの黒野海斗がわざわざ天美さんたちを助けようとしている」という構図そのもの。

 以前の天美さんの拉致事件の時にも黒野海斗は天美さんたちを助けたという噂があったが、あれはみんなデマで、誰かが遊び半分に考えた噂だと考えていた。


 でも、違った。違ったのだ。あの噂は真実だったのだ。

 以前の天美さんの拉致事件の時の噂があるだけに、「実は黒野海斗という人間は、僕たちが想像していた人間とは違うのではないか?」という考えがどこかからほんの僅かだけ沸いてくる。


 やがて黒野海斗は一瞬で二人の不良を鎮圧し、風紀委員の華城恋歌先輩が駆けつけて、事態は収束した。


 その日を境に、学園内では噂が飛び交った。


 あの黒野海斗が天美さんたちを助けた。

 みんなの黒野海斗を見る目が、恐怖から興味へと変わった。

 どうしてあの黒野海斗が、天美さんたちを助けるようなことをしたのか。みんな、そのことが気になりだした。


 なにしろ天美さんたちが彼と一緒に行動していたというのもあり、彼女たちの存在が割と彼に対する評価を薄めつつあった。

 文化祭が終わり、彼がはじめてこの教室に姿を現したその日。


 彼は、天美さんや渚姉妹の二人と一緒にやってきた。四人とも、親しそうに話している。

 これは今までに一度だって見られなかった光景だった。

 確かに彼女たちと黒野海斗が一緒にいるところを目撃している生徒たちがいたけれども、教室内ではそんなそぶりをまったく見せなかったからだ。


 みんなが唖然として黒野海斗を見ている中、彼と僕の目が合った。

 僕は今までの彼の評価から咄嗟に目をそむけようとしたけれど、彼……黒野海斗くんは、ただ一言。


「……おはよう」


 と、朝の挨拶を口にした。

 驚いた僕は、戸惑いつつも「お、おはよう……」と挨拶を返していた。

 こうして僕は、はじめて黒野海斗くんというクラスメイトとあいさつを交わした。


 彼の中で、何かが変わったのだろう。

 その日から彼は、本当の意味で僕たちのクラスメイトになった。

 彼はもう以前のように殺気や威圧感をばらまかなくなった。


 篠原くんや葉山くん、国沼くんたちが中心となって、僕たちと黒野海斗くんとのコミュニケーションは、ほんの僅かに、ちょっとずつ、でも確実にとれはじめていた。

 最初はみんな怖がっていたけれど、彼が割と優しかったりするところがあったりもして、徐々に溶け込んでいった。


 そのせいだろうか。

 僕たち一年四組の男子生徒たちでは、日常的にこんな言葉が使われるようになった。




「リア充爆発しろ」




 こうして、ちゃんとしたクラスメイトになってはじめて分かったけれど、黒野海斗くんという存在は僕たち男子にとって、希望を根こそぎ狩りつくすまさに鬼でしかなかった。

 なんなんだよ。天美さん、楠木さん、牧原さん、渚美紗さん、渚美羽さんという五人の美少女を独り占めだなんて。


 うらやましすぎるんだよばかやろー!

 しかも僕は見たぞ、天美さんのあのないすばでぃなお胸を押し付けられているのに微塵も興味なさそうな顔をしていたのを!


 確か、昼休みになると、屋上で五人から「あーん」してもらっていたよな。それも見ていたぞ! こっそりと!


 そんなわけで、『黒野海斗対策委員会』というものが密かに設置されました。




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