観察
私の仕事は飲み込むことである。そう、飲み込むのだ。ほら、近づいてきたぞ。なにが来たのか、うまく見ることが出来ないな、そら、私の口のなかに飛び込んできた、なんだろうか。もぐもぐもぐ。うむうむ。足が四本か。ねっとりとした私の唾液の中でうごめいているのがわかる。その口腔感覚だけで推測する。なぜなら私には目がないのだ。だれも私のことなんてわからないだろう。そういった意味合いでも私には目もくれずに何かが、私のことなんて気にかけずに私の唾液に包まれようとする。私にはそれらを受け止めることしかできないのだから。さてさて、今回飛び込んだものは四足だということが分かった。しかし、たいていのものは私に食われようとする瞬間、叫ぶものだが、こいつは一言もしゃべりはしないのである。もぐもぐすればするほど言葉、叫び、怒号のかわりにでる泡という泡がふつうはでてくるのだが。こいつは出さなかった。静かにただ静かに、ひたひたと、死に向かう静寂しか私に語りかけない。私はこいつに非情な興味をそそられた。あくまで非情かつ冷酷な興味であった。さらにこいつを私のできる限りの、もちうる限りの感覚器官を総動員してこやつを観察してみた。頭は楕円の卵型。体に対してそこまで大きくはなかった。頭にはわかめのようなゆらゆらゆれる何かがついている。ちょうど蜘蛛の糸の一本一本が意思をもって、ゆらめいている。しかし、これはおかしな話だ。私は淡水である故、わかめというものを知らない。しかしながらこのものへの比喩はこれが一番しっくりきたのである。わかめわかめわかめ。その他にも気づいたことがあった。外見上、そいつは柔らかそうな肌色の塊であるのだが、中には固い芯のようなものが存在した。これはそいつのどこかしこにもあるものらしく、なかなかいい歯ごたえであった。よく噛んでみる。が、かみ砕くことが出来ないとわかった私は、それをしゃぶるだけにして、あとは
助けられたその時、固い芯だけが残った。だけど、私は動くことができた。芯以外はどうにかして残した。残したのだ。なんだかけだるい感じ。これは重みからなのだろうか。何の重みであるのだろう。私は思案してみたが思い当たるものが、くもか、煙のように。つかめる寸前で消えてしまうのであった。これからのことについて考えてみたが、私に残された道はこの空腹と虚無感を埋める何かしらを探すことにあることに思えた。折られたものが、折られた瞬間がもう、二百年、三百年の前のことには気づかずに私達は今もこの近辺を歩いている。だれに許可を得てるのか、だれの立場を思って(もしくはだれを無視して)そこに存在するかを考えもせずに。