表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捻れる音  作者: 砺波えみ
5/5

三章:真実は、甘い蜜【中】

気が付くと、瀧口さんの家の前にいた。

どうやってここまで来たんだっけ?覚えてない。

そもそも、どうして来たんだっけ?……ああ、西元さんの一言だ。

『瀧口さんには、ゴーストがいるって』

私も、口の中で呟いてみた。

それは…なんて、甘い響き。

確かに、本当にそうだったなら、私の世界はまだ終わらない。私の神様は、曲の創造主だから。

でも、そんな事あり得ない、と思う自分がいる。明らかな現実逃避だと、呆れる自分もいる。

だから、ここへ来たんだった。真実を確かめに。

 

瀧口家の敷地内には、家族で住む本宅と、レコーディングスタジオがある別宅がある。

スタジオには、私も何度か来たことがあった。

懐かしい道を通り、スタジオの玄関の前に立つ。

このスタジオの中に、きっと真実がある。

ゴーストライターの手がかりをつかんで、また曲を作ってもらう。

私の、新しい神様になってもらう。

ドアノブに手をかけ、少し開いたドアからは、音楽が聞こえてきた。

歪だけど、異物感なく耳にサラサラ流れてくる。ヴァイオリンの音。

 

この曲は……神様の曲だ!

 

瞬間、私はスタジオの中にズカズカと上がり込んでいた。

いくつかドアをあけ、やっとの想いで音の根源にたどり着いた。

ヴァイオリンを弾いていたのは、一人の青年。

その傍らには一人の少女。青年は演奏に集中していて、少女は私に背を向けていて、二人とも私には気づいていなかった。

私は少女の肩を叩いた。

「…わっ!サ、サヤ!?」

私は素早くスケッチブックに言葉を書き、少女が何か言う前にそれを見せた。

『この曲、誰の?』

私の言葉を見た瞬間、少女の――滝口さんの娘、カナちゃんの顔が歪んだ。

そして見る間に顔が青ざめていき、口元をおさえてしゃがみこんでしまった。

な、なに?急に、どうしたの?

声をかけることも出来ずうろたえていると、誰かがカナちゃんの肩を抱き、そっと立ち上がらせた。ヴァイオリンを弾いていた青年だ。

「大丈夫か、カナ。とりあえず、ソファで横になってろ」

カナちゃんを腕に抱えて、青年は近くにあったソファにそっと降ろした。

優しい手でカナちゃんの頭を撫でる。

と、カナちゃんの顔がうっすらと色付き、安堵の表情が浮かんだ。

間に流れる空気が自然に穏やかだった。

お互いに全てを分かり合っている関係なんだ、二人は。

「おい、アンタ…って、サ、サヤ!?うっわぁ……」

青年が口をパクパクさせ、まるで魚のようになった。

今までカナちゃんのことしか頭になかったくせに、なんだろうこの態度。

なんだか腹がたったので、乱暴にスケッチブックに言葉を書いた。

『アナタ、誰?』

それを見せると、青年は首を傾げ、私とスケッチブックに交互に眺めた。

気が進まないが説明しようとペンを持つと、ソファで横になっているカナちゃんが説明してくれた。

「イセさん。サヤさんは、話せないの。筆談しかできないのよ」

「え、そうなのか?」

青年が問掛けてきたから、首を縦に降った。

今も私の中に残る小さな棘が、久しぶりにチクリと刺さった。

私に歌があった頃は、そんな棘の存在なんて忘れていたから、いつの間にか自然に抜けたのだと思っていた。

だけど、棘は変わらず私の中に存在していて、今も胸を刺す。

「ふーん。そういや、テレビ出てないよな。ん、まぁ、それはいいや」

アッサリと片付けてくれた。十五年間の棘を、ものの数秒で。

しかし、不快ではなかった。

むしろ、神様の曲に似た清々しさで、棘の痛みを和らげてくれた。

なんなんだろう、この青年。

私はまた、さっきのスケッチブックを見せた。

「ん?あ、ああ。俺は瀬野田維世。見ての通り、ヴァイオリン弾きです」

瀬野田…?

まさか、

『もしかして、瀬野田維那さんと、お知り合い?』

スケッチブックを見せると、維世さんは妙な笑みを浮かべた。

「ヘェ〜。アナタも爺さんのこと、知ってるんだ」

『一度、生で聞いたことがあるの。私の命を、助けてくれた人』

言葉を話せなくなった頃、瀬野田さんのコンサートに両親が連れていってくれた。音楽が大好きな私のために。

そこで、圧倒的な力を感じた。

私は瀬野田さんの音に引き込まれ、戻ってこられなくなりそうだった。

声を失ったことにショックを受け、当時の私は何も考えられなかった。

でも瀬野田さんの生音にふれ、心に気力が戻り、歌うことを始められた。

瀬野田さんは私の命の恩人。何もできない私に、歌を教えてくれた。

私の、最初の神様。


感想くれた方々、ホントにホントにありがとうございます!

もーう、とっても嬉しいです。誰かから感想をいただけると、励みになります(の割には、更新が遅いですが…)。

謝礼が遅れてしまい、申し訳ありませんです…。


さて、【中】です。

ホントに四章で終るのか、とっても微妙なラインです。

サヤが過去を語りすぎ。他二人にだって、語る過去はあるのに!


さあ、次こそ歌姫の話は終わらせ、クライマックスへの入り口くらいは書きたいと思ってます。


読んでくださった皆様、ありがとうございます。

よかったら、また読んでやってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ