序章:父の死
父が死んだ。交通事故で、あっけなく。
その時、私は学校にいて美術の授業を受けていた。
絵を描くのは苦手。
でも、音を奏でるよりは好きだった。だから、選択授業では美術を取った。
教師も友人も、私の選択に驚いた。
私が、有名な音楽プロデューサーの娘だから。
私がたまにピアノ奏者として参加していることを、知っているから。
選択の理由は、私しか知らない。誰にも知られてはいけない。
父の葬儀には、沢山の有名人が来て、沢山のカメラが来て、沢山のファンが来た。
その中に、サヤがいた。
父に育てられた歌姫。
若干21才で日本に存在する、ありとあらゆる賞を獲得した、生きながらにして伝説となった歌姫。
サヤは父の遺影の前に長い時間たち止まり、じっと父を見ていた。
時々口元が動く。
何かを口ずさんでいるのか、何かを語りかけているのか、判断はできない。
どちらにしても、サヤは父の死にそれほど動揺はしていないようだった。
どこかのテレビの人が『パートナーがいなくなった歌姫は引退するのでは』と言っていた。
でもサヤの様子からして、そんな事はないと思う。
父の歌しか歌えないという呪いがかかっているならまだしも、サヤは歌唱力があるから誰の歌でも完璧にうたえる。
サヤはマネージャーにうながされ、遺影の前から離れた。
父の葬儀が終ると、周りの喧騒が少し落ち着いた。
母は突然の父の死にショックを受けていて、毎日ボーッとしている。
葬儀だけは気力で乗りきり、それが終った今、ツケがまわってきているようだ。
私は、いつもと変わらぬ日々を過ごしている。
もちろん悲しい。
だけど、それ以上に私は安堵を感じていた。
やっと、永遠に続くと思っていた鎖を絶つことが出来たから。
私をつないでいた、罪悪感という名の鎖を。
読んでくださり、ありがとうございます。
初作品のため、至らないところが多々あると思います。
とにもかくにも、カナと共に最後まで突っ走り続けたいと思っております。
どうぞ、よろしくお願いいたします。