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星屑の街  作者: fuki
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案内人との関係について3

わくわくどきどき。ハンカチとティッシュもきちんと持ったし鞄の中に着替えもいれた。よし!


「忘れ物はない?」

「だいじょうぶ!」


元気よく返事をしながら、よいしょとリュックサックを背負ってくるりとノアールをふりかえるとノアールは片手を壁についてブーツに足を通していた所だった。先に廊下に飛び出したいくらいイチルは頬を赤らめてわくわくしていた。


実際ぴょんぴょんと届かないのは分かっているけどノブに手を伸ばしてしまうくらいに心は、はやっていた。とたんにぽすっと音がして。

頭になにかが被せられてきょとんと手にとって見ると、まるで花弁みたいに鍔が大きい帽子だった。ここにガンドックがいたらきっとピクニックにでも行く気なのかと突っ込んでいただろう。


「よし、いこっか」


笑顔と一緒に差し伸べられた手をとって、私たちは部屋をあとにした。


とことことノアールの指先二本をぎゅ、と握り締めつつ歩くと女の案内人やトラベラーがそのちまっこい姿に母性本能がくすぐられるのかチョコやら飴やらを手に持たせてくれた。


「あら、初仕事なの?頑張ってね」とにこにこ笑って頭を撫でて去って行く。色んな人に激励とお菓子をもらいつつノアールと仕事部屋の一つの扉をくぐってイチルは部屋の惨状に思わずぽかんと口を開いて眼を見開いた。



黒い眼に映るのはただただ散乱した紙の束だ。


部屋の脇に並べられた書棚にはこれでもかと本や紙が無造作に詰め込まれて、彼方此方に書棚に入り切らなかっただろう本がジェンガみたいに積み上げられていた。いつか倒壊すると思う。


ちろ、と近い足元を見ても広げられたままの本や紙が散らばっていて足の踏み場もない。



まるで書物の海だ。どこを踏んで進めばよいか分からぬと二の足を踏んでノアールを見上げると、ノアールはこの惨状を歯牙にもかけず踏み進めた。手が繋がれてるためイチルも必然的に引っ張られてぐしゃりと靴底が本を踏み付けて超えた。



途端に鼻をつく古めかしい紙のにおい。図書館の、奥の奥にぽつんとある古めかしい不思議なにおい。


本とか紙とか踏んで良いのかという良心が渦巻いたためちょっぴり抵抗してみた。ほんのちょっぴりだけど。そんな小さな抵抗にノアールはもちろん気がつかずそのまま進み奥の机の影を覗き込み、盛大に溜息をついた。私の身長では全く見えない。



一体なにがあるのだ。むむっとしてると、ノアールの視線の先のなにかが動いたからイチルにも見えた。もぞもぞと動いたその物体が、腰掛けていた椅子から立ち上がる。さらりと短い白髪が揺れた。


おじいさんかと思っていたら吃驚するくらい若かった。多分、ノアールと同じくらいかな、どうだろうな。神官シャロンっていってたけど、なるほど確かに神に仕えるのが相応しいくらいに綺麗な顔だった。


瞬きが無かったら美術館に石膏として置いてあっても不思議じゃないそんな顔。世の中の女性が騒ぎ立てそうな感じだなあととぼんやり思ったけど付き合いたいとか愛を囁いて欲しいとかまでイチルは思わなかった。私は面食いじゃないのだ。


しかも、五歳まで年齢が退行してしまっている。五歳に愛を囁く云々とかただのロリコンだろ。うわあ、こんな綺麗な人がロリコンとか想像したくないのだぞ。



じろじろと青年を観察あと本に視線を向けた。青年の片手に収まっている本は小さな本だ。こんな人はどんなお話読むのかなと、首を傾けたイチルに白髪の青年は、さきほどのイチルを真似たようにじぃいぃと赤い瞳でイチルを見下ろす。うひっ。


「ちょっとシャロンそんなガン見しないでよ怖がってるじゃん」

「・・・・・・小さいな」

「ぴぎゃっ」


予備動作なく急に伸びた手に心底驚いて思わず変な声をあげてしまった。


ぽす、と乗せられた手はすぐさま離れていき、ふむ、と白髪青年シャロンは考え込んで掌をぼうっと見てはこくんと頷いた。全く持ってイチルには意味が理解できない。


訳が分からなかったきゅ、と握り締めていたノアールの指がまるで大丈夫だよといっているようで。私も握りかえした。

ありがとう、だいじょーぶ。ちょっとびっくりしただけだから。


「初仕事だったな。・・・これでどうだ」


ぱっと渡された紙をノアールが受け取ってすぐさま眼を通す。私も背伸びして見ようとしたけど見えなかった。残念。がっくりと肩を落としたイチルをシャロンがじっと見つめる。ぴぎゃ。


「流れ星が見れるといいな」


なんでこっちを見るときに瞬きしないのだシャロンとやら。怖いのだ。

イチルにとって綺麗な顔で瞬きされず観察されるのは一種のホラー感覚であったから、そう言って興味がなさそうにシャロンの視線が手元の本へ向かったことにほっと胸を撫で下ろした。




「イチル、俺がいいっていうまで決して瞳を開いちゃダメだからね」


大きな古い扉の前でノアールの掌がイチルの両瞳を覆って。

従うように閉じられた目蓋の裏で、捻れた朱い月がどうしてか浮かんでは消えた。






で、どうして目を開けた瞬間にこんなに大きな、



「うみが見えるのぉおおおーーー!!」



あああああ!と私は膝をついて晴れ渡る綺麗な空を反射する海へと叫んだ。



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